接触前
遅れて申し訳ございません。
せっかく家に居るのだから、お昼はみんなに日本食を。
ビキニアーマーの効力でソラの気分は上々。貴重になった日本円の貯蓄を散財する事も厭わない。
……しかし、作業が思ったよりも長引いてしまい、待たせるのも悪いのでお昼は簡単な、日本の自宅から運んできた乾麺になってしまう。
小屋から出て来た時に皇女からの伝言もしっかりと伝えられたが、期限を言われてないのでお昼の後に。
この世界は空間に漂う魔力が四季に大きな影響を与えているらしく、ソラ達が住まう地域は地球自転で考えれば亜熱帯に属する暑くジメジメとした土地のはずなのだが、先住民であるオーガの話だと、一年を通して気温と湿度の変化が少ない土地とのこと。
扇状に広がった標高一万越えの山脈によって海風に乗ってきた空間魔力が留まりやすくその魔力がこのような効果を発揮しているのだと思われる。が、残念ながら魔力という要素のせいで地球以上に難解故に稀少な気候学の専門家に調べて貰った訳ではないので、詳しい事は判らない。
今になって土地柄の説明をして、一体何を言いたいのかと言うと。
四季と食との関わりが強い日本生まれ日本育ちであるソラは今、自分で作っておきながら「暑くない日の笊蕎麦」に、物凄い違和感を覚えていた。
茹でるだけの麺類。特に蕎麦や素麺、冷やし中華は、暑すぎて料理をしたくない日の印象が強過ぎるからだ。
「どうしよう、食欲が全く湧かない……」
「大丈夫ですか?」
心配そうにするソフィアにその訳を話せば、此処よりは四季も日本食もあったラクール王国の出身であるベルも同じように食欲が湧かないと言い。
長い歴史の中で遷都を繰り返して気候が安定した場所に建てられた帝都での歴が長いメイド四人と騎士二人には、初めての料理だが違和感も無く美味しいとの事。
「帝都は真夏でも今より少し暑いくらいですから」
黄色メイドの言葉に驚いて目を向けた、が。
その言葉よりも、黄色メイドが蕎麦を箸ではなくフォークで、パスタをつけ麺にしたような食べ方をしている事に気付いて、椅子を鳴らすほど驚いた。
全員を見渡し、逆に箸で食べているのが自分とベルとソフィアだけという現状。
「採れる食材の関係で王国には和食が、帝国には洋食が根付いたそうね」
「元、城勤めの侍女ですから」
箸組の二人らしい回答。
騎士の二人は何か悪いことなのかと居心地を悪そうにしていて、それに悪くはないと説明するソラと、その間に睨みつけてきたメイド長からサッと目を逸らす三人。
「フォークって楽ですよね」
「食器という道具に慣れません」
「箸は使えますが、麺を啜るという行為が……」
赤、緑、黄色。
真ん中の緑だけおかしい気もするが、それはさて置き。
「啜るのは確かに帝国マナーとは反しますから、慣れも必要でしょうし、今回は良しとします」
安堵の溜め息を吐く黄色と、裏切り者を睨む二人。
「食後、赤豆を箸で摘まんで別の皿に移す練習を」
赤豆とは、帝都ではありふれた赤い大豆の事。
主人が箸を使うからと三人も何度か経験した訓練だが、百粒では済まされない量をやらされる地味にキツい訓練だ。
むしろ、それだけやっていれば使えそうなものだが。
「三人で」
いつものパターンで何となく分かってはいたが、落胆の溜め息を吐く黄色と、ニヤリとほくそ笑む二人。
だが。
「私は午後から用事があるので、黄色は二人の監督をお願いします」
ご機嫌な黒い笑顔で了承する黄色に、二人は抱きついて震えた。
「ベルさんや。ちょっと麺つゆ借りるね」
了承を得て麺つゆの入ったガラスの容器を回収して台所に運ぶと、『Persona not Guilty』の料理アイテムでライスやパンと合わせると効果が増える「カレー」──ソースポットに入った物──を取り出し、鍋に粉末出汁を溶かした水と一緒に入れて味を調節しながら和風に。
麺つゆと蕎麦を耐熱性の器に移して魔法でささっと温め、そこにカレースープを注げば、手抜きカレー蕎麦の完成。
ソラは自分とベルの分を作って食卓に戻ると、まずはベルよりも早く食べて毒味。
「お預けもあれだから手抜きで作ったけど、スープに合うカレーで良かった良かった」
アイテムの説明欄に添えられたイラストがソースポットに入った本場インド風だからか、小麦粉が少なくて出汁と合わせればスープカレーに近い。
これが日本のスーパーで定番のカレールーになると粉っぽくなったりするのだが、そちらのカレーはアイテムだと「カレーライス」の方。同じカレーだった筈なのにライスと合わせただけで日本の一般家庭風である具材ゴロゴロカレーになる辺りは、ゲームだから、で済ませるしかない。
因みにカレー南蛮というものがあるが、南蛮とはネギの事なので、長ネギも玉ねぎも入っていない今回は「カレー蕎麦」が正しい。
無駄な超神経を発揮したソラ、マナーが王族級であるベルは完璧だったが、匂いに釣られてカレー蕎麦を食べた赤と緑は、メイド服とテーブルクロスにカレー染みを作ったので本日の仕事に洗濯当番が追加され。
辛い物が苦手な黄色は、食事中、「カレー大好きイエロー」を期待するキラキラしたソラの瞳に耐えしのぐのであった。
・・・
跳んで、帝国城。
ソラからの貢ぎ物がどちらを向いても目に入る皇女の部屋で、作戦会議。
「黒龍を復活させたギフトは『英霊顕現』。ベルの『魔の目』並みにデタラメな能力だ」
強力な魔力を身体に宿した者が亡くなるとその土地の魔力、又は近くに居た精霊に“残留魔力”とでも呼べる物が残ることが稀にあるのだが。
その残留魔力に対して『英霊顕現』を使うと、「魔力の持ち主を一定時間召喚する」というもの。
同時召喚不可、時間制限付き、魔物不可、召喚体に意志が無い、そもそも残留魔力が珍しいので使い所が少ないといったデメリットもあるのだが、デメリットをかき消すだけのメリットもある。
召喚出来る者に「使用者のレベル以下」「一定以上の魔力」等の縛りが必要無いのだ。
例えば使用者が子供だろうと、レベル百超えの英雄を召喚してしまうなんて事も。
ギフトの説明を聞いたソラは首を傾げ、ベルは頷く。
「それって弱くね?」
「統治者なら国に入れたくはないわね」
対照的な言葉に二人は顔を見合わせ。
まず、ベルの見解を聞くことに。
「残留魔力は確かに知名度が低くて数も少ないけど、過去に大規模な戦場だった帝国、特に主戦場である東部には数多く残されているそうね。残留魔力は混ざり合うこともあるそうだから、英雄のキメラ、なんて化け物が帝国に現れるかもしれないわ」
最後の部分を微笑んで語る辺りはベルらしい。
ベルと同意見である皇女はキメラ発言に嫌そうな顔をしながら補足する。
「召喚体に意志は無いし、命令を聞くのか判らん。召喚者以外を無差別に殺してまわる可能性も無きにしも非ず。英雄よりも厄介なドラゴンの死に場所は大概が観光名所になっているからな。捜すのは簡単だ」
二人の意見にふむふむと頷いて、ソラのターン。
といっても、一言。
「一体しか呼べないなら何人かで一斉に攻撃すればよくね?」
皇女はソラの答えにガクっと気が抜けたようだが、ベルはしっかりと考え。
「黒龍の場合、森に囲まれた湖で使われたわ。つまり、召喚者は隠れながら能力を使えるのよ?」
「情報部は捜すのが専門でしょ。ベルのギフトは数で押し切れるけど、相手は一体で時間制限付きだよ? 弱くね?」
ふむ、と。
気を取り直した皇女も考え、考えに考え。
「あれ? 本当に弱く感じてきた……」
ソラという秘密兵器のせいで、油断もあるだろう。
危険因子なら帝国の国境で話を聞こうという流れだったのが、ゲートで帝都に連れてくることになった。
黒龍を召喚して背中に乗られたらどうするのだろうとベルは思ったが、ソラが居る分には多少の問題が起こった方が面白そうだからと口に出さないで微笑むのみ。
行ったことが無い場所なのでゲートでショートカットしてから飛び立ったソラとベルの二人はそこで、思いがけない人物と出逢うことになるのであった。
料理スレ part.3
33:大工ドワーフ
カツ丼はカツがおまけで、本体は卵かけご飯だった……?
34:仮面の人
この世界、勇者の影響受けすぎじゃない?
なにか異世界らしい料理はよ。
35:ダッセルさんちの娘
お米は初代勇者より前ですよ?
36:仮面の人
レシピの殆どが勇者の影響もろ受けじゃん!
伝統料理もピラフ擬きだし、異世界感ゼロ。
37:人妻の猫耳さん
薬草料理なら?
38:仮面の人
あれは『よもぎDX』だから。
餅にしたい。
39:鬼の長老
肉は?
40:仮面の人
最高級の牛肉だよ。
美味しいけど、料理じゃなくて食材だし。
41:皇女
川魚の煮凝り。
どこかの夜会で食べたが、とても不味い。
42:仮面の人
鰻のゼリー寄せ……うっ、頭が
43:魔族の王ちゃま
魔物料理はどうだ?
44:仮面の人
確かに魔物は変なのも多いし独特なのがありそう。
でも、肉は肉じゃない?
45:百合貴族
とある清流にだけ棲むという亜竜の仲間。
見てくれは悪いがその身はプルプルで、皮を焼けば香ばしくカリカリ、骨まで食べられ、卵も美味。
全身が珍味の塊だとか。
46:仮面の人
なにそれ興味ある。
47:百合貴族
(でも全身が毒)
48:仮面の人
私は平気でも、美味しい物はベルにも食べさせたいから却下。
てか、フグに近い何かだよそれ。
49:肉食系公爵令嬢
ソラさんの世界が豊かすぎるのでは?
(毒、食べられるんだ……)
50:魔族の王ちゃま
歴代勇者の話でも日本という国は豊かだと聞いたことがある。
人間は勇者への憧れもあるからな、真似るのも仕方がないが。
51:仮面の人
食用肉は牛豚鳥、魚は白身か赤身、そんな基本はこっちも同じだし。
違うのがあるとすれば、野菜かな?
52:アウラウネさん
植物型の魔族ですけど、葉っぱ一枚、試しに食べてみますか?
採るのはちょっと痛いですけど……
53:アラクネさん
ちょうちょ、おいしいよ?
54:仮面の人
生意気言ってごめんなさい。




