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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
忘却エネミー
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最重要区域(ボロ小屋)

「今日は一日、籠もってるから!」


 朝食を食べ終えたソラは食後のティータイムを楽しむベルに本日の予定を告げると、踊り出しそうな鼻歌とスキップでダイニングから出て行った。


「どうしたんですかね」

「昨日のアレでしょ」


 食器を片付ける手を止めた黄色メイドに、グリモワールに届いた皇女からの報告に目を通していたベルが素っ気なく答えた。

 ソラとベルは大きな一つのベッドに二人で並んで寝ているのだが、ベルから見て昨晩の寝る間際のソラは、終始ニヤニヤしていて気持ち悪かった。



 鎧としての機能を果たしていない、奇妙な鎧。

 現役の女騎士二人に着せ、様々なポーズを注文しては一々叫び、ただでさえ面積の小さな鎧をさらに壊そうとしたり、オークという猪顔の亜人を呼ぼうとしたり、ニートルダムのオークが紳士的な種族と聞いて微妙な顔をしたり、何処かのハンターをやってるエルフから教わったという魔法の植物で縛り上げようとしたり。


 その時のソラは、ベルが知るどの時よりもイキイキとしていた。


 最後にその鎧をプレゼントされた二人の女騎士は、終わってから改めて自分の格好とやらされたポーズを思い出したのか。

 一人は真っ赤にした泣きそうな顔で走って自室へと逃げ。

 一人は無表情でその場にへたり込んで動く気配が無くなり、メイド達に肩を貸されて運ばれていった。




 紅茶の香りで昨日のことを頭から追い出し、開いたままにしていたグリモワールに目を移す。


 皇女からベル個人宛てに送られてきたのは、黒龍を復活したと思われる人物を情報部が見つけ出したという事と、出来ればその人物を帝国に連れてきたいのでソラのゲートを使わせてくれないかという依頼。

 オマケに例の犯罪組織の壊滅が確定したと書かれてもいたが、そんな組織などベルはソラ以上に興味が無い。



「期日は書いてないから、出て来てから伝えましょう」


 ゆったりとした朝を過ごすベルは、今は紅茶の香りを楽しむことにした。






・・・






 館の裏に隠れた掘っ建て小屋。

 窓は一つ。外壁は木の板が張られただけで、屋根も何だかズレている。


 そんな外見のボロさからは想像がつかないほど快適な室内は、ソラのゲーム能力、地球の科学、ニートルダムの魔法を組み合わせたオリジナルアイテム作成の工房であり、それの実験を兼ねた魔改造小屋でもある。


 『Persona not Guilty』のアイテムは、耐久値が無いゲーム仕様の再現で破壊不可という不思議現象が起こっているが、同じゲームの生産技能の最上位<神の造り手>を所有しているソラには、壊れない鉄の剣も普通に折れるし溶かして加工し直すことも出来る。

 女子高校生が鉄の剣を折れるのが普通なのかという疑問は残るが、とにかく加工できて当たり前なのだ。


 ゲームアイテムの生産だけならウィンドウで全て済まされるので作業場などいらないが、ゲームでは不可能な作業を専門にした小屋なので、むしろ安全性を高めたこの小屋でやらなければどうなる事やら。



 そして、この小屋で産み出された物には計り知れない価値がある。


 例えば、ゲームでは只のデザインだった武器が纏う炎や風のエフェクト。物語のアクセントとして、アイテムの説明文に書かれた効果や言い伝え。

 エフェクトは現実でも変わらず、むしろ本物の炎や水や風となり、スイッチのオン・オフが出来ない代わりに永久的に稼働し続ける機械となる。


 奇跡としか思えない働きを手軽に起こす、取り扱い注意のアイテムたち。


 ソラ自身が思う最高傑作は、神の雷を宿した槍を二つほど並べて雷完全耐性の革防具で包み、真っ直ぐな槍か剣を発射する簡易レールガン。本物のレールガンがどういう物なのかソラは詳しく知らないが、レールと電気だからレールガン。

 威力も飛距離もなかなかの物で、飛ばされる武器自体の攻撃力なのかも知れないが、太陽龍くらいならやれる自信がソラにはある。

 皇帝に実験用としてタダで売り込んでもみたが、皇帝から真面目に怒られた。その話を愚痴ったベルからも怒られた。


 それに対して周囲が手放しに絶賛するのは、「地面に突き立てると水が溢れ出る杖」と「汚れた水が触れると飲めるほど綺麗な水に浄化する宝石」。何も手を加えておらず、宝石に至ってはゲームでは何の効果もない素材アイテム。

 水路を作って地面に刺して宝石を固定するだけで下水処理施設が完成するそれは、革命。

 ベルの薦めで辺境の小さな村なのに上下水道が設置され、皇帝も魔王も友達の令嬢たちも喉から手が出るほど欲しがり、恩恵を授かった村人のハートをソラはがっちりと掴み、棚ぼたで設置されたオーガ村からは大量の牛肉が。


 飲み水を無限に生み出す事も、汚染水を飲料水に変えてしまう事も、地球ですらどんな価値を付けられるか分かったものではなく、新たな世界大戦の火種になってもおかしくはない。

 ソラは学校での成績も悪くはなくスキルの恩恵もあって頭の回転は早いのだが、楽観的で浪漫を追い求める性格からか、本当に価値がある物でも浪漫が無ければ物事を軽視する傾向がある。



 そんな浪漫と危険と財宝が詰まった小屋で、ソラは途中まで組み立てていた試作ロボをインベントリに仕舞い、白紙の設計図を取り出して。

 ペン立てから鉛筆を抜き、そのまま定規などを使わずフリーハンドで止まることなくスラスラと書き出した。


「ヴァルキリー装備の性能控え目バージョンを二人の騎士さんに送って、皇女ちゃんに改良型専用装備作って、ネコ耳のあの子にクノイチ装備あげて」


 あっち方面のエネルギーが充電されたソラは、頭からポンポンと浮かぶがままに設計図を書き続ける。



 イラストを書き終え、それに必要なアイテムをメモしながら、溜息。


「ベルの装備もそろそろ完成させたいし、スキルも揃ったから特化装備用の素材集めないといけないし。スキルは簡単だったし魔法は最初から全部揃ってたけど、やっぱりネックは素材なんだよなぁ」


 ゲームとは違うアイテム周辺の仕組みが、異世界に来てから半年以上経った今でもしっくりとこない。


 敵によってドロップアイテムと取得確率が決められ、何も得られなかったり頭が三つも取れたりするゲームシステム。素材集めに何回も同じ敵を倒すことになり、レアドロップは運次第。

 それに対して今は、魔物の場合は解体されたように全部位の素材が取れた上でアイテムを確率で落とし、魔物以外からはゲームのイベント戦のように敵の生死に関係なく何かしらのアイテムが手に入る。


 一見するとゲームより楽になったように思えるが、魔物の種類がゲームの域を超えて地球の野生動物くらいの種類が存在する。それが全て固有の素材を落とすとなると、アイテムの数が途方も無いことがよく分かる。

 幸いなことに作れる物はゲームと変わらず、狼系ならどの狼の素材でもいいと緩く異世界に合わさった形だが。


「『天界の砂』とか、どこで拾えるんだろ……」


 この世界に天国とか地獄への門があったりすればいいのに。

 砂の体を持つ魔物から、だろうか。


 そんな入手不明な物が多数で、敵の位置やドロップアイテムが書かれた攻略サイトなど無く、他の人には無理でソラにしか調べられないアイテム達。


「まさか序盤で作れるはずの魔法少女装備も作れないなんて」


 スタートが簡単で進むに連れて難易度が高くなるRPGの基本、なんて物が存在せずに難易度ぐちゃぐちゃな現実は、ゲームバランスとしては最低だとソラは嘆く。




「『魔法少女★ベルベル』、無期限の制作延期」


 壁に貼られていた、フリフリ衣装のベルが描かれた設計図を剥がし。


「替わりにその時間は、次期皇帝である皇女ちゃんが奮闘する日常コメディ『ていこく!』を放送します。期待してね!」


 皇女をセンターにメイドナイトとビキニアーマーの女騎士を描いて『ていこく!』とポップな字面がデカデカと載った絵を貼り、じっくりと見る。

 もう一度剥がして、普通の女騎士とライバルの縦ロールお嬢様を追加して貼れば、納得の出来。




 ソラ様が楽しそうで何よりです。

 洗濯物を干すついでに小屋の外から窓を覗いていたソフィアは、独り言を喋りながら壁に自作の絵を貼る主人の姿に微笑んだ。

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