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百合な少女は異世界で笑う  作者: テト
忘却エネミー
100/133

target of change

 帝国国立博物館──の、隣の研究所。

 地質学分野の鉱物保管室。


「警備も頑張りなよ」


 人影無し。探知器無し。扉に鍵は無し。

 あまりのザル警備に、仮面を付けた侵入者ですら心配してしまう廃れ具合。



 希少金属が山積みにされているなら、盗みに入る価値もあったのかもしれない。あらゆる種類の鉱物が、残念ながら予算の都合で少量づつ、一つ一つ分けて施錠された棚に保管されている。


 隣接する博物館には簡単な資料と原石が展示されているが、来場客数に貢献しているのは宝石くらいか。博物館はしっかりと警備されているため、扱いの差が分かりやすい。



 博物館よりもこちらの方が種類はあるだろうと予定変更。



「盗むわけじゃないよ、レシピを確認するだけだよ」


 新しいアイテムが手に入ると、それを使ったレシピが解放される『Persona not Guilty』のゲームシステム。


 独り言を呟きながら、鍵を無視して物色。

 鉱物をインベントリに入れ、生産メニューから新しく追加されたレシピを確認し、インベントリから鉱物を取り出して元の位置に戻す作業。


 トラップ付き宝箱を無効化するスキルを複数所持するソラの前に、物理的な鍵などゴミ同然。


 帝国情報部秘伝の魔法鍵ですら解除してから「なんかスキルが発動した」で存在に気付く始末。情報部の情報ダダ漏れの危機は、女性部員の皆でソラの良心に訴えかけるという組織としては何とも情けないもので、そしてそれが効果覿面というのが、分かっていても気が抜ける。




 保管室にある全ての鉱物を調べ終わると、唸り、そのまま足下に広げた『ゲート』に落ちる。






 日傘を差し出したソフィアの隣、気だるげな様子のお嬢様はソラに尋ねる。


「……で?」


 釣竿を振りかぶったソラが元気よく答える。


「目的の鉱石、それの代用品が、少なくとも自然界には存在しないっぽいことが分かったよ!」


 館に帰ってきてすぐ。

 青空の中に面白いものを見つけたソラは、ベルとメイドを連れて近くの海岸までお散歩に。



「……ああ、またこのパターンな感じ?」

「悟らないで! 何かこっちまで悲しくなるから!」


 ロープで縛られた赤のメイドが無表情で悟りを開き、黄色のメイドが励ます横で緑のメイドが大笑い。



 とんでもなく長いロープの先は勿論、釣竿。



「それじゃ、行ってこーい」

「い゛やあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」


 ソラが竿を振れば、ドップラー効果を残しながら大空に飛んでいく赤色。

 とんでもないスピードの中で口を開けて悲鳴を上げられたことに感心したベルは、上空でドラゴンらしき影に激突した犠牲者からこの場で一人だけ目を離し、ソラに問い直す。


「それじゃなくて、現状の説明」


 果たしてこの状況で、他の質問が出るのだろうか。

 体勢を崩したドラゴンらしき大型生物が墜ちるが、縄で結ばれただけで飛行能力を持たない赤メイドもまた、ぶつかったことで勢いが死んで落ちる。


「ストレス発散を兼ねたレベリングの実験……あっ」


 撃ち落とされたかのように見えたドラゴンだが、錐揉み回転した後に何とか体勢を持ち直すと。

 自分に攻撃してきた小さな生き物を、パクリ。



「フィッシュ!」

「魚じゃない!」


 黄メイドのツッコミが冴え渡る中。針のない餌で大物釣りという圧倒的不利な状況下で、強く引けば獲物が餌(赤メイド)を吐き出してしまい、弱ければ餌(赤メイド)が食べられてしまうというジレンマ。


 ──いや、己の力量が試される勝負にこそ、釣りだけではなく人生の醍醐味が。


「飽きた」

「早っ!?」


 海釣りならぬ空釣りに飽き、釣竿を投げるという暴挙に出る雇い主に黄メイドは驚く。

 餌(赤メイド)を飛ばした時には餌(赤メイド)が耐えきれる程度には力をセーブしていたが、釣竿は生物ではなく、さらにゲームの武器で壊れる心配がない。



 遠慮なく、全力で。



 赤メイドが食べられないように急いだからか、普段は抑えている力を無意識に解放してしまい──。






・・・






 とぐろ状になって眠っていたツィーバは、巣の中に高密度の魔力が集まるのを感じ、片目だけを開けて部屋の一角を見る。

 人が二人潜れる大きさのそれだけで“魔力生命体”であるドラゴン一匹の総量を上回る魔力の渦は、精度なら他に並ぶ者がいないはずだったエルフの賢者ですら不可能なほどの安定性を保ったまま空間に固定され。


 これが爆発魔法なら、星が削れていただろうと予想される。



 黒い渦から飛び出してきた人型の化け物は、第一声。


「魔物じゃないドラゴンやっちゃった!」


 ……怒りや呆れより先に「ついにやったか」と納得したツィーバは、開けていた片目も瞑り、二度寝の体勢に。


「目的の鉱物じゃないけど面白いドロップアイテムが穫れたからドラゴン乱獲したいんだけど、殺してもいいドラゴン、知らない?」


 物騒な言葉にも慌てず、また片目だけ開き、小さな身体のどこにそれだけの魔力があるのか分からないチンチクリンを見つめ。



 ドラゴンの耐久性から、能力確認と称した虐めの日々。

 遠くに追いやったはずの記憶を呼び覚ましてしまい、その中から、そんな記憶の中からしか出てこないようなことを思い付いてしまい、つい口から出してしまった。



「……殺した個体を生き返らせ、また殺せばいいのでは?」


 ソラの蘇生魔法やら蘇生アイテムは、調べられた範囲で『新鮮な死体』『ソラが止めを刺した生物』『魔物不可』という条件が判明しており、生き返らせた時にアイテムとしての死体は消失するが、戦闘に勝利した証であるゲームマネーとドロップアイテムまでは消えない仕様。

 殺さなくても瀕死や気絶などの戦闘不能状態にしてもいいのだが、それだとアイテムを落とすことが少ないのだとか。


 ツィーバはぎりぎりだが、殺されたことは奇跡的に無い。


「その発想は無かった!」


 魔物以外の生物を殺したことはあれど、生き返らせてまた殺すなんていう発想。

 物騒で、残虐性に溢れ、生命を冒涜するような。

 ドラゴン故の考え方なのか。

 自分以外のドラゴンならどうでもいいのか。

 言わなくてもいつかはやりそうだと思ったのか。


「でも、次からはドロップ無しとかありそう」


 ゲームならば仕様で可能だったら即座に行動していただろう。

 データではない本物の命を弄ぶことに流石のソラも良心が痛むが、悪いドラゴンだったらモンスターと変わらないよねというファンタジー脳で、条件によっては軽減される。


「やってみなければ分からないのではないか?」

「うん。だけどこの子は止めてあげよう。釣りに引っかかった犠牲者だし」


 そして生き返らせるためにと取り出された死体に、適当な返事で答えていたツィーバが、固まる。



 白龍であるツィーバよりも上位種である、太陽龍。

 蛇型で東洋風なツィーバとは違い、宝石のような結晶化した鱗を持つ、西洋風の王道な骨格をしたドラゴン。

 ドラゴン界の最強争いに加わる個体であり、産まれてからすぐ成層圏付近を縄張りとして飛んでいる。地表近くまで降りてくることが百年単位で滅多に無いはずの、生きた幻。


 ソラには一撃でやられたようだが、ツィーバからすれば、勝てる未来が限りなく見えないような相手だ。



 何故だか知らないが雲の上辺りを飛んでいたという、百年単位の不運すぎるタイミング。



「他の龍の匂いを巣に撒き散らすのは止めてくれないか」

「うわ、ペットが喋ったら言いそうな台詞だ」


 すぐに仕舞われた亡骸に安堵。

 相手が死体であることをいいことに格好つけた言葉で拒否したが、今の一瞬でも巣から匂いが消えないようなら、安心して眠れない巣など即座に捨てる。


 太陽龍の身体にツィーバの匂いが移った可能性もあるが、そちらはもっと不味い。

 下手をすれば追い回され、襲われ──た時にソラを助けに呼び、太陽龍にはアイテムと化してもらうことになるからだ。生きたいからソラを呼ばないという選択肢は無い。

 格下ならまだしも、格上相手に「殺して生き返らせるループで稼げば?」なんて言う度胸も無い。


「それじゃあ、これはあとで生き返らせるとして」


 ……目的のアイテムとやらが太陽龍限定だった場合は非常に残念な結果になってしまうが、獲物として相応しいドラゴンを捧げ、運良くそいつが落としてくれれば。

 太陽龍に目を付けられるのは勘弁で、無いとは思いたいが「じゃあ千葉さんで試してみる」という最悪の事態だけは何としてでも避けたい。


「今、何処に居るかは知らないが。人の国を何度も滅ぼし、同族であるドラゴンを食らう個体がいる。同じ個体が存在しない龍種の中でも異端だが、その強さは“ドラゴンの中”では上位」


 ドラゴンの中では、ということを強調。


「へぇー、悪そう」


 ソラは内心、王道だなー、と。

 邪悪なドラゴンの大半がドラゴンの中でも最強クラスだよねなんて思いながら。



 居場所が判らない、というのは困る。



「情報部に聞いてみて、それからグリモワールで噂を集めるのもありかな?」


 そう結論付けたソラを邪魔するように、ツィーバが思い出してしまう。 



「そういえば、勇者に倒されたという話を聞いたことが……」



「駄目じゃん!」


 ツィーバ、痛恨のミス。

 死のループが一歩、近付いてきた。

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