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幕間6+?

 そして、試験は混ざり合い、加速する。



「は?」「ん?」「えっ?」「あっはぁ?」

 突如、降り注ぐ鋭利な氷刃。純粋な殺意に反応した彼の者は返す両剣を回転させ全て弾いた。

 軽鎧を纏う宗兎は自身の魔術を途中で切り上げ、念の為鞘から刀を抜き出しつつ着地した。

 軽装を着た十十は目の前に立つ彼の者を見た瞬間、一瞬だけ目を見開くもすぐに平時の微笑みを浮かべて突如現れた二人から距離を取る。

 巫女服の少女も何が何だか分からないといった様子だが、意識が自分から逸れたのを好機に展開していた護符を回収して後退。

 狂気迸る彼の者は、ただ邪悪な笑みでその場に佇む。

「おい、これは何だ? こいつ等は一体誰なんだ?」

 至極当然の発言に至った宗兎は十十に向かって声を張る。

「何だかんだと聞かれても俺も分からないなぁ、答えてあげたいのは山々だけど。でも」

 彼の者が笑いながら両剣を頭上に掲げると同時に、その鉄板へ踵が叩き込まれた。

「獲物が増えたってだけだと思うよ? 僕はただ、殺したいだけだから」

 十十の清々しいまでの笑いと、息を短く吐くような彼の者の笑いが交差した。

 目にも止まらぬ速さで十十は両剣の縁を指で掴んで重心移動、即座に蹴り上げて両剣を遥か彼方に飛ばすと同時に、わざと両剣を手放して攻撃姿勢に入っていた彼の者の拳を受け止め、それを掴んで顔面に蹴りを入れるが腕で受け止められその足を掴まれて地面に叩き付けられた。と思いきや十十は空いた足で即座に彼の者の両足を掬い取り、体勢を崩した彼の者の鳩尾へ踵を叩き込む。笑いながら吹き飛ぶ彼の者は途中で地面に突き刺さる両剣を回収し、木をステップに反撃を繰り出す。

 そんな迅速且つ隙の無い肉薄戦闘が目の前で繰り広げられる中、刀を手持無沙汰に宗兎は同じく暇そうに木の幹にもたれ掛かる少女に問い掛けた。

「僕は子供を相手にする趣味は無いんだが?」

「アタシも剣士なんて前世代的低俗職を苛める趣味は無いわ」

「僕こそ符術師なんて魔術師劣化職を苛めたくは無いし、そもそも僕は魔術剣士だ」

「そうなの? それは御免なさい、アンタみたいなアホそうなナッポー頭がまさか魔術を使えるなんて思わなかったから」

「変な格好してる奴に言われたくないんだが?」

 宗兎と少女の間に爆発が起こった。後頭部にゴムで縛り付けられた宗兎の髪束が爆風に揺れた。勿論の原因は宗兎の魔術と少女の符術の衝突であり爆煙で相手が見えないのも構わず、互いの技を放ち続ける。氷の刃を花が遮り、電流を電光が阻害し、また火炎と火炎が衝突し爆ぜる。意図せず起こる同属性の力比べからの異属性の衝突、蒸発。暫くその威力は同等に競い合っていたが、先に均衡を圧し破ったのは少女であった。護符を周囲に展開し、宗兎の魔術を防ぎながら数枚の札を取り出し、発動した。

「戟符拾枚、霊符壱枚……怪鳥〝サブロー〟!」

 宗兎の物量的な下級魔術の猛攻によって巻き上げられた砂埃を一旦押し退け、再びその数倍もの砂煙を立てた巨影が宗兎の眼前に姿を現した。

「何だ、魔獣の方が強そうじゃないか」

 宗兎は魔術を出し続けていた左手を柄に戻し、握り締めた。



「彼等四人、皆十分に合格ラインに達していると思われます」

 片方には十十と彼の者、片方には宗兎と少女の激化する戦闘が眼鏡のレンズに映し出されていた。

「へー、そう」

 ナポリタンの麺がフォークで綺麗に絡め取られ、薄く小さな唇に運ばれていく。

「お嬢様……前々から一言申したかったのですが、何故自分の事にも関わらず客観的な発言をするのですか? 月蝕は今少しイラッと来ました」

「だって月蝕、今は食事中よ? 食事は感謝の意を込めて粛々と行うべきだわ」

「このタイミングで『ご飯食べたいお腹空いた』と言って駄々を捏ね始めたお嬢様に責任があると思いますが、それは飽くまで使用人的に水に流すとしましょう。では、彼等を合格にして良いのですね?」

「本当なら飛び回って喜びたいのだけれど食事に対する示しが付かないから敢えてこう言うわ。良いんじゃない?」

「……分かりました、では早速回収します」

「あ、ちょっと待って月蝕」

「何でしょうかお嬢様」

 職務全う中のフォークが皿の縁に添え置かれる。

「料理長に伝えなくちゃ、今夜は大人数の宴会になりそうよって」

「料理長も掃除長も洗濯長も全て私ですが」

「ふふふっ。そのシルクハット、良く似合ってるわよ?」

 女性の深い溜息が、長方形の大きな食卓を中心に持つ広い部屋に染み渡る。

「空間消去、指定四名転送先、朧気館」



 作戦期間一〇ノ九~一〇ノ二三、敵国兵撃破数九八。

『――――君と言ったかね? 二等兵である筈の君は非常に優秀な兵として我が騎士団に貢献してくれた。因って極めて異例だが三階級特進だ。以降兵長として存分に鬼才を発揮してくれたまえ』

 作戦期間一〇ノ二八~一一ノ一、敵国兵撃破数一七八、敵指揮官一名撃破。

『――――兵長、君の才能は本物だ。兵長にしておくには勿体無い事この上無い。明日から君は中尉として我等がバルソープ帝国の繁栄の為に尽力して貰おう』

 作戦期間一一ノ二~一二ノ二五、敵国兵撃破数二、敵指揮官五名撃破。

『――――少尉、君は本当に鬼の子という噂が出始めているぞ。ハハ、なに気にする事はない。若いんだ、存分に働きたまえ。年明けからは君には准佐として作戦の全指揮を取って貰おう、今まで以上に特殊且つ広い視野と思考が必要だが君ならやれる。頑張ってくれ』

 作戦期間一ノ一~二ノ二九、自軍兵殉職数一九〇、敵国兵撃破数〇、敵将一名撃破。

『どうした――――准佐? 今回はやけに手古摺った様だが、まぁ誰にでも失敗は有る。――働きが――られ、君は今日から中佐だ。私の階級を後一つで追い越され――うなハハハハ。頑張ってくれたまえ、我等――者様? ハハハハハ』

 作戦期間三ノ五~四ノ一、戦果無し。

『おいおい、どうした? 体調でも悪かったか隊長? ――すまない。少し寒かったか、許せ。少し君にも息抜き――らしい。今度――新たな――村――――勤務――』

 作戦期間五ノ二八~。

『――――が裏切り――? そんな馬鹿――! ――――は、私の数少ない友人と心得て――有る訳が――そん――現地に――』



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