幕間3
『レディース&ジェントルメン! 今宵、私達は伝説を見ようとしている! 白狂が謎の引退をし、我々の前から姿を消して早二ヶ月、狂人は一体何を悩み何を考えていたのかは闇の中……しかし、私達にはまだ彼が居る! 二ヶ月前のあの日、白狂との一時間に渡る激闘の末にドローに持ち越した彼が! 長き療養を経て再び場内に舞い戻るのです!』
周囲は異様なまでの熱狂に包まれていた。直径百メートルは下らないグラウンド、観客総立ちの客席に外壁を含めばその倍にはなる円形の建物にて司会者らしき濃いサングラスを掛けた金髪中年のマイクパフォーマンスが冴えに冴える。
此処はガリーマルー共和国の西の外れ、都市ワグーン中心部にある大闘技場。夜であるにも関わらず照明で闇は払われており、夜空は隅へ隅へと追い遣られていた。
『ではぁ、今夜の哀れな生贄となってしまうのか、将又期待を裏切る大勝利を収めるのかが見物な青コーナーから紹介致しましょう! その昔は殺菌士協会の魔獣両断者として畏怖を集め、今や殺菌士協会の生温い方針に嫌気が差し、闘技場でその手腕に物を言わせファイトマネーを貪る闘人……重砕剣のゾディグ=マグリガァァ!』
司会の男が天高らかに声を張り上げると同時に閉ざされていた南側の鉄柵が上部へ跳ね上がった。
「うおおおおぉぉおぉぉおおおおぉぉぉぉおおおおお!!」
獣の如き雄叫びと共に場内に現れたのは、総重量七〇キロを超すのが一般的な本来岩を砕く為の工具として使われていた工具を改良した重剣を堅い地面に砂埃を巻き上げて引き摺る大男であった。観客の中の何人かは彼のファンが居るらしく応援の声が向けられているものの、他九割は野次や嘲笑の類である。
『続きましては本日の主役! その戦闘スタイルは白狂に勝らずとも劣らない純粋な格闘術! 魔術を一切使わない事から恐らく今は希少である非魔含者……しかし強い! しかし優雅!! 彼を止めれる存在はこの闘技場に居るのだろうか!?』
ゾディグなる男への野次を完全に忘れ、観客達の間で最強コールが沸き起こる。
『では登場して頂きましょう!! 赤コーナー……』
司会者が一旦息を溜め、空気を焦らす。同時に闘技場の周りから何本もの白い煙が尾を引いて撃ち上がる。
『笑う核地雷ぃぃぃ! 歩振錆花ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
連続して無数の丸い色取り取りの花火が夜空に咲き誇り、せっかく撃ち上がったそれを掻き消さんかばかりに空気が踊る、躍動する。人々は狂い、最強に代わって歩振コールが巻き起こり、いざ鉄柵が上げられるも、なかなか其れらしき人物は現れない。焦らす、焦らす。
鉄柵が上げられて一分後、まだ熱は冷めずに人々は発狂総立ち。五分後、流石に冷静になった何人かが気付き始める。十分後、すぐに闘技場で暴動が始まった。
その日を境に、笑う核地雷は闘技場から姿を消した。
かくして、予定通り今回の就職希望者が揃ったのだった。




