プロローグ 『眷属募集』
「お嬢様、本当にまだ募集される御積もりですか?」
「くどいわよ月蝕。見付からないんだから仕方無いじゃない」
「ですがこれ以上続けては直に女神ノ複尾に勘付かれる危険性が」「はぁ……なら何? 月蝕が一人で囁行者全員を相手にするのかしら? 殺菌士協会と帝国騎士団が総力を以てしても太刀打ち出来ない尻尾、一人で両断出来て?」
「………………申し訳、ありません」
「別に怒ってる訳じゃないのよ月蝕。顔を上げて? 貴方は強い、それこそ尻尾の一本位なら余裕で断ち切る事だって出来るはずよ。でも、一本じゃ駄目なのは分かるわね?」
「……分かります。ですが、ですが言わせて下さい。これ以上は奴等に勘付かれます、最低でも後二・三回で見付けなければいけません! 可能ならば次で!」
「はぁ、だから」「私はお嬢様の忠実な使用人です、お嬢様を危険から遠ざけ守る義務が有ります! 例え募集を打ち切って私一人で戦う事になろうとも、その方が延命出来ます。ですからっ!」「分かった、分かったから……もう、そう興奮しないで頂戴」
「失礼致しました」
「じゃあ話を戻すけど、次は一体どんな人間を招待するのかしら? 危機感を感じているなら月蝕もそれなりに考えたんでしょう?」
「それはもう、読み上げます。昨日塔の管理人、血染めの善人、世界最後の不良巫女、桃源郷異例の番人、笑う核地雷の計五名に求人票を送りました。現実世界ですともう気付いている頃合いだと思われます」
「何時にも増して個性豊かなキャラクターばかりで期待は出来そうだけど、昨日塔の管理人に術が掛かるかしら? そもそも求人に乗るかも怪しいわ」
「恐らく掛からないでしょう、そして乗るかも微妙です。ですが合格ラインに達している事は間違いありません」
「それはそうだけど、ふふ」「どうかなされましたか?」
「いいえ、月蝕もいよいよ必死と思うとついつい笑いが……ふふふ」
「お嬢様、他人事の様に言わないで下さい。私、一昨日から食事が咽を通らないのですから」
「あら、それはいけないわね。コックにもっと美味しい物を作る様に言っておかないと」
「炊事洗濯掃除からお嬢様の身の回りのお世話まで全て私がしている件について、その言葉をどう取れば良いのでしょうか」
「どう取っても良くてよ? 今日は七面鳥の丸焼き檸檬添えを食べたい気分なだけよ」
「…………今から市場に出向いて買って来ましょう」
「そうして頂戴、私はそろそろ寝るわ。昼寝は竜の性質だから」
「お休みなさいませ、お嬢様」「えぇ、行ってらっしゃい月蝕」