ヨブ 〜神に直訴した男〜/「奇跡の真実」番外編
この地上におけるすべてのイエス青年とヨブさんに捧げます。
ああ、なぜ、神は
わたしをこの世に生まれさせたのか?
こんな何もないわたしに
どうしてこの世に生きる居場所があるのだろう?
誰もわたしを必要としていないのに、
生まれてきてから今日までただ、
「役立たず」「父なし子」と
罵られるだけなのに・・・。
こんな辛い思いをするだけならば、
いっそ最初から生まれてこなければよかった。
これ以上、どう頑張れば
こんなわたしにも安らぎや幸せが
巡ってくるのだろう?
どうしてこんな世の中に・・・、
人が人を狩って身包みはがそうとする、
こんな果てしない砂漠のど真ん中に
わたしは生まれてきてしまったんだろう?
それが分からず、イエスは泣いた。
悲しくて悲しくて、涙が滝のように溢れてきて
息ができなくなるくらい激しく泣いた。
それでもどこからか声がしたり、
何かが突然、頭上で光ったり、
白い羽をはばたかせた天使らしき人物も
何も現れなかった。
ただ、悲しい、どこまでも悲しい
イエスの惨めな嗚咽だけが
延々と続いていた。
そうして、イエスはどうしても
神に聞きたくなった。
「神は、どうして
わたしにばかりこんな苦しみを与える?
わたしが一体、何をしたと言うんだ?」
その答えが知りたくて、
どうしようもなく神にそれを聞きたくて、
イエスはふと、自分の手元にある律法書(旧約聖書)をそっと開いた・・・。
※
※
※
〜『ヨブ記』より〜
その時、ヨブは言った。
「わたしは何も悪い事なんてしちゃいない。
わたしはもう、自分がどうなったっていい。
ただ、もう自分の人生そのものが嫌だ。
結局、皆、一緒なのだ。
善人も悪人も神にとっては一緒なのだ。
そして、神はどちらの人間も容赦なく滅ぼす。
きっと神は何も悪い事をしていない人間に
災難をもたらして
その人間が絶望するのをあざ笑っているんだ。
だって、そうじゃないか。
だったら、どうして悪事を働く人間の方が
安穏に暮らしていられるのだ?
しかも、長生きして
好き勝手に権力を振り回して?
彼らは自分の子孫をその目で眺め、
その人生も安楽で何の不安もない。
それで一体、いつ
彼らの上に神の怒りが落ちたと言うのだ?
それどころか、彼らはますます富んで
たくさんの人達から持ち上げられ、
それでいい気になっては酒を飲んで踊り明かし、
朝から晩まで笛やタンブリンの音に
酔いしれている。
そうやって人生の大半を思う存分、
笑って謳歌し、そしてその後、
安らかに墓に入る。
だが、そんな彼らのほとんどが
決まって神にこう言うのだ。
『ほっといてくれ。俺達は自由なんだ。
あんたの指図は受けないよ。
神とやらの道なんて知りたくもない』、
『どこに全知全能の神とやらがいる?
その神様に祈ったら
何かいいことでもあるのかい?』、
『神に祈るよりも
自分の知恵で何とかした方がずっと確かだね』
と。
そんな畏れも知らず、
鼻持ちならない驕り高ぶった連中に
今まで神は
どれほどの苦難や困難を与えたのだ?
どれほど悲しみや災難を
彼らの上にもたらしてくれたことはあった?
何も、何もしてくれなかったじゃないか。
ああ、神よ、
わたしは今までそんな連中のようには
なりたくないと思って
今まであなたに従ってきたつもりです。
なのに、どうしてわたしに
こんなひどい仕打ちをなさるのです?
わたしが一体、何をしたとおっしゃるのです?
どうか、教えてください。
わたしが一体、
どんな罪を犯したと言うのでしょう?
あなたはよくご存知でしょう、
わたしの人生が
これまで悩みと苦労の連続だったということを。
一体、わたしの親戚や友人達が
これまで一度でもこのわたしを
助けてくれたことはあったでしょうか?
妻や子がこのわたしを
支えてくれていたでしょうか?
いいえ。
それまで散々、親戚や友人達に
よくしてやっても財産や地位を失ってしまえば
『ほら、見たことか、
きっと裏では悪い事して稼いでいたんだよ』
と盛んにわたしの悪口を言い、
こうして落ちぶれたわたしをあざ笑います。
道を歩けばその噂を聞きつけた
見知らぬ子供がわたしに向かって
唾を吐いてくるのです。
妻も病んだわたしの姿を見ると
情けなくなるのか首を横に振っては
しょっちゅう『甲斐性なし』と
怒鳴りつけてきます。
けれど、わたしはこれまで一生懸命、
彼らに尽くしてきたつもりです。
なのに、こうしてすべてを失った途端、
まるでこれまで何もしてこなかったかのように
彼らはわたしを馬鹿にします。
さらにわたしがこれまで散々、
悪事を働いて
他人に迷惑ばかりかけてきた人間と
同じように扱い、
わたしには身に覚えもない罪を非難して、
何度も懺悔を迫ってくるのです。
ですが、今更、
わたしが申し上げるまでもなく、
こういった事は神であるあなたなら
すべてご存知でしょう?
それにわたしの人生の日々が
どんどん過ぎていき、
もう終わり近くなっていることも
あなたは知っていらっしゃるのに、
それでもあなたはこうやって
わたしに苦難の矢をずっと撃ち続けるのですか?
ああ、神よ、教えてください。
一体、わたしが何をしたと言うのです?
わたしは嘘もついてませんし、
人殺しも盗みもしていません。
それどころか力なき者達の力となれるよう
わたしは日々、努力してきたつもりです。
しかも、わたしはあなたに
いつも感謝の祈りを捧げ、
あなたを心から畏れ敬ってきました。
そうしてわたしは
皆の無事と平穏(平和)を願ってきただけなのに、
どうしてわたしには
“人の悪意”だけが残されるのでしょう?
わたしは光を求めたけれど、
わたしの周りはいつまでたっても
暗闇ばかりです。
わたしはその暗闇に閉ざされたまま
ただ一人、あなたに救いを求めながら
“人々の”
非難と中傷、
そして罵りに囲まれて
暮らしているのです。
だから、わたしは何より人が怖い。
死んだ人間よりも
生きている人間の方が、
互いに群がって同調し、
相手が弱いと見ればいたぶりつつき回して
時には殺そうとさえする
そんな生きた“人間の群れ”の方が
わたしには一番、怖い・・・。
そうして、わたしはどこへも行かず、
もう誰とも話す気にはなれない。
だが、わたしがそう言うと
あなた達はわたしに向かってこう言う。
『世の中、そんな人間ばかりじゃない。
この世界はもっと広いんだ。
お前はまだ世の中をよく分かっちゃいない。
だから、もっと外の世界を見てくるといい』
と。
かつてわたしも若い頃、
いろいろな人からそう言われて
勇気を出して広い世界を見てみようと
外に出た。
きっと地球の果てまで行けば
そんな理想郷が広がっているのだと
わたしも
“人を信じて”
遠い外の世界にまで
わざわざ足を伸ばして行ってみたのだ。
だが、そこには何もなかった。
ただ、互いに使っている
“言葉の音と形が違うだけで”
何もこことは変わらない、
全く同じような
“人間の群れ”が
うじゃうじゃといるだけだった。
だから、もうそんな気休めを
言うのはやめてくれ。
わたしはもう、そんな嘘は聞き飽きたんだ。
あなた達の言う綺麗事や建前を
散々、信じて裏切られ続けてきたわたしには
今ではどれも陳腐で
聞き飽きた言葉でしかない。
だから、今はただ、
全知全能の神の答えが知りたいんだ。
わたしはただ、神からの答えが欲しい。
わたしは死ぬ前にどうしても聞いてみたいのだ。
『あれほど人が非難し、
中傷するほどわたしの人生は
そんなに間違っていたのか?』
と。」
ヨブがそこまで長々と話し終えると、
彼に懺悔を迫って叱咤激励していた友人達は黙りこくってしまった。
しかし、その時、エリフという少年がヨブの言った言葉の矛盾に怒りを感じて
一人、すっくと立ち上がった。
「大変、失礼とは存じますが、
どうかわたしにも一言、言わせてください。
わたしはこのようにまだ若年ですので、
わたしが口を出すのはさぞおこがましいかと思って
今まで黙っておりましたが、
どうにも皆さんのお話には納得いきません。
それに、わたしはこれまで
人は年齢を取っていけば
自然と智恵が出てくるんだろうとか、
たくさん学んだり、働いたりして
経験を積み重ねていけば
その経験から何が正しいのか
よく分かるようになるんだろうと
思っていましたが、
どうやらそうではなくて、
年月や経験が人に智恵を与えるのではなく、
“全知全能の神の息(精神)が
その人の心に宿るからこそ”
人は初めて賢くなれるのだということが
よく分かりました。
ですから、わたしの意見も聞いてください、
皆さん。
今こそ、わたしの心からの意見に
嘘偽りはありません。
お疑いでしたら、どうかその耳で
味を確かめるように
わたしの話をじっくりと考えてみてください。
さて、皆さん。
ヨブさんはさっき、私達に
こうおっしゃいました。
『わたしは何も悪い事なんてしちゃいない。
わたしはもう、自分がどうなったっていい。
ただ、もう自分の人生そのものが嫌だ。
結局、皆、一緒なのだ。
善人も悪人も神にとっては一緒なんだ。
そして、神はどちらの人間も容赦なく滅ぼす。
きっと神は
何も悪い事をしていない人間に
災難をもたらして
その人間が絶望するのを
あざ笑っているんだ』と。
では、ヨブさん、言わせてもらいますが、
あなたはどれほど
ご自分が“正しい”と言い切れるんです?
あなたは神様よりも
“ご自分の方がずっと正しい”
とおっしゃるんですか?
まさか、人間であるあなたの方が、
“神様よりもずっと清く、正しく、美しい”とでも
おっしゃるつもりじゃないでしょうね?
だったら、あなたが
最後におっしゃった事と矛盾しませんか?
『わたしは人が怖い。
死んだ人間よりも互いに群がって同調し、
相手が弱いと見ればいたぶりつつき回し、
時には殺そうとさえする
そんな生きている“人間の群れ”の方が
わたしにはよっぽど怖い』という言葉と?
それに、ヨブさん、
あなたがそれほど苦しむ境遇になったのは
“本当にすべて神様のせいなんですか?”
一体、どこで神様が
あなたを絶望させるよう仕向けたんです?
よく考えてみてください。
あなたを絶望させたのは、
神様ではなくて
あなたや周りにいる“人間達の方”でしょう?
違いますか?
“あなたと同じ人間という生き物”が
あなたを絶望に追いやったんじゃありませんか?
それでもあなたは
人間の方が神様よりも清く、正しく、美しいと
おっしゃるんでしょうか。
神様は、
この天上におわす私達の神様は
地上に住むあらゆる人間や動物なんかとは
比べ物にならないくらい桁外れの智慧を
備えた偉大なお方です。
しかも、簡単に約束や誓いを破って
少しも悪びれもせず誰かをすぐに裏切ったり、
嘘を大げさに言い立てて
事実(真実)を誤魔化すような、
そんな不誠実でいい加減な
私達、人間なんかよりも
遥かに誠実で、
誰よりも愛情深く、
そして最も清純で、
最も聖なるお方だからこそ
私達の祖先は
人間とは区別して
その偉大なお方を
“神”と呼んだのです。
そして、そのお姿はあまりにも壮大で、
宇宙のすべてを
その手で包み込んでいらっしゃるため
宇宙の塵のような
ささやかな存在である私達、人間の目には
決して映りませんが、
それでも神様は
この地上のどんな小さな生き物であろうと、
たとえ人間よりもずっと小さな、
たった一つの微生物の行方さえも
“知らない事など何もないのです”。
だって、この地球の果てに住む
“どんな人やどんな動物であろうと
分け隔てなく”
太陽の光が注ぐよう
この地球を微妙に傾けて
宇宙の星々と一緒に回してくれ、
海や陸、山や丘、木々や花々、
人や動物、昆虫と、
ありとあらゆるものを
すべて創って整えてくださったのは、
他ならぬこの天上にいらっしゃる
神様なのですから。
そうして神様は
水を編み出し、
それを蒸気させ、
雲となるようちゃんと整え、
さらにその雲が雨や雪を降らし、
田畑や木々を潤し、
風が吹けばその雲が移動して、
この地上のどこに住む
どんな人や動物であろうとも
“全く同じ恵み”を
受けられるようにしてくださった。
それほど神様は日々、
私達に様々な恵みを与えてくれているのです。
だから、ヨブさん、
この地上で水もなく
生きられる生き物はいるでしょうか?
空気を吸わずに
生きられる生き物はいますか?
家を作ったり、田畑を耕すだけでなく、
毎日、無事に安全に歩ける土地を
生んでくれたのは一体、誰のおかげなんです?
そうやって私達の目に見えるもの、
目に見えないものが
いろいろと調和し合っていつも働き、
この地上に住む一人一人の人生に、
その他、どんな生き物であろうとも
その一つ一つの生命についてちゃんと考え、
それぞれに智慧を授け、
常に変わりなく、
そして一度として途絶えることなく
恵みを与えてくれている、
それが私達の“神様”ではありませんか。
だからと言って、ヨブさん、
今まで神様が私達に向かって
『おい、人間どもよ。
これだけお前達の為に善い事をして
働いてやったんだから
お礼に何かしてくれよ』と
見返りを要求したことはあったでしょうか?
第一、こんな小さくて
か弱い存在である私達、人間が
どうやって
この宇宙を司っていらっしゃる神様に
お返しなんてできるでしょう?
はっきり言って、
私達、人間が
この地上で何をしようと、
どう生きようと、
何を作ろうと
神様ご自身には
全く何の得にもならないじゃありませんか。
例えば、私達、人間が
お金を稼いで裕福になったからと言って
神様も一緒に裕福になるんでしょうか?
私達、人間が
“神様の創ってくれた木や土砂”を使って
お寺や教会、あるいは神殿を建てたとしても、
さらに金銀を掘って
それで仏像や偶像なんかを飾り立てたとしても
それを見て神様が
「ほう、すごいな。
このわたしでさえ
こんな素晴らしい物は創ったことがない」
なんて言って感心したりするんでしょうか?
また、私達、人間が
勝手に粋がって神様の教えに逆らい、
盗みをしようと
他人を裏切ろうと、
殺そうと、
戦争しようとも、
あるいは一人で悩んで
自殺しようと殉教しようとも、
それが一体、
神様にどう影響すると言うんです?
地上で
誰かが罪を犯したからと言って
あの天に何か届きますか?
地上で
誰かが数万人の人に
施しをしたからと言って
あの雲一つでも動くんですか?
よく考えてみてください。
私達が毎日、悩んで
必死にやっている事は
すべて自分や他の人の為、
つまり“人間の為”ですよね?
裕福になりたいのも人間ならば、
幸せになりたいのも人間、
願いを叶えて“欲しくて”
神殿を建てるのも
偶像を作るのも、
祈りを捧げるのも、
その他いろんな物や商品を作り出すのも、
これすべて自分や他の“人間の為”ですよね?
その上、腹が立つから、
イライラするからと
人を虐めたり、殺したがるのも
単に自分が復讐したい、
あるいはストレスを発散したいという
“人間の我欲”であって、
戦争するのも、
殉教するのも、
自爆テロを起こすのも
これすべて
自分と同じ仲間である
“人間の利害の為”でしょう。
だから、どれも神様の為にしたわけじゃないのに
そんな何もしていないあなたが
どうして神様に向かって
『わたしはこれまで
散々、善い事してきたじゃないか。
それでどうしてあなたは
何もしてくれないんだ?!』と
文句や愚痴が言えるんでしょう?
それじゃ、あなたが途中でおっしゃってた、
『神を信じて祈ったら
何かいい事、起きるんですか?』とか、
『いい子にしてたら僕の欲しい
おもちゃをくれるんですか?』とか、
『この宗教に帰依したら
良縁や金運などに恵まれるんでしょうか?』と
しょっちゅう、
『あれをしてくれ、これをしてくれ』と
我欲ばかりを口にし、
“何でもやってもらって当然と思い上がっている”、
そんな傲慢な人達と
言っていることは同じじゃありませんか。
そうして、神様の為に
一度として働いたわけでもないくせに、
それどころか毎日、
いろいろと恵んでもらっておきながら
どうにも自分が苦しくなったら
『今すぐ天から降りてきて
このわたしを助けろ』と
まぁ、偉そうに
天に向かってわめき散らす人間を、
どうして神様がいちいち出てきて
あれこれと世話をしてあげなければ
いけないんでしょう?
まして『人を殺すな』、
『物を盗むな』、
『弱い立場の人間を虐めるな』、
『お互い仲良く暮らせ』と
何度も何度も
“私達、人間の為を思い、
私達、人間が幸せになるように”と
親切に一人一人の心に良心を授けてやっても
それでもそれに逆らって
好き勝手に悪事を行ってきた人間達の為に
なんでわざわざ神様が手助けしてやったり、
望みを叶えたり、
その人が幸せになるよう
智慧を授けてやる必要があるんですか?
例えば、ヨブさん、
あなたが神様だったら
こんな人達に手を差し伸べますか?
あなたに向かって散々、
悪態をついて唾を吐き、
親切心で持って
何度も根気よく教えてきた話ですら聞きもせず、
『ほっといてよ、
わたしは好きに生きるんだから。
それに武器や爆弾を持ったり、
他人を蹴落としてでも稼がないと
わたしの方が生き残れないのよ』と
嘘八百並べ立てて、
あなたが丹精込めて創り上げ、
大切に育ててきて、
しかもあなたにとても従順な人達を
不当に傷つけたり、
裏切ったり、
殺したりしてきた人達なんですよ。
それでもあなたは
それまでの罪など何もなかったかのように
すべてもみ消し、
不当に傷つけられたり、
苦しんでいる人達などすっかり忘れて
あなたはその意地悪い人達の方を
先に救ってやりますか?
はっきり言って、
真実を知りもせず、
知ろうともせず、
知っていても知らぬ振りをして
そんな意地悪で傲慢な人達を
いつもちやほやしたり、
かばい立てして贔屓しているのは
何より悪意を信じて
善意を蔑ろにしているのは
神様ではなく、
私達、人間の方であって
誰よりも公平で誠実で愛情深い神様が
そんな馬鹿な事を
なさるわけないじゃありませんか。
だからヨブさん、
あなたは大きな勘違いをしてらっしゃるのです。
あなたの絶望をあざ笑ったのは
人間であって、
神様ではありません。
あなたの不幸を何より喜んだのは
人間であって、
決して神様ではないんです。
神様は、
そんな悪(=人間)とは全く正反対の、
そんな悪(=人間)とは
宇宙の果ての果てのそのまた、果てぐらいに
遠くかけ離れた
善そのもの、
愛そのもの、
正義そのもののお方なのです。
ですが、だからと言ってヨブさん、
別に神様はすべての人間を
嫌っているわけではありません。
もし、本気で神様が
私達、すべての人間を嫌ったら、
私達はあっという間に
この地上から“跡形もなく消え去るだけ”です。
もし、神様が
この地上からその息を
全部、引いてしまったら、
本当に
ほんの一瞬で
地球上のすべての生物がただの塵と化し、
地球と呼ばれるこの小さな星が
毎日、爆発して消えていく他の星と同じように
宇宙からそっとなくなるだけです。
何せこの地上の
すべての生き物を守ってくださっている
私達の神様は、
ありとあらゆる全てのものを知り、
ありとあらゆる全ての能力を兼ね備えた
まさに
“全知全能の神”なのですから。
それゆえ、その神様に
できないこと、
知らないこと、
分からないことなど
何一つないのです。
ですからヨブさん、
もちろん神様はあなたの心が今、押しつぶされ、
嘆き悲しんでいることもよくご存知です。
真実を申し上げるなら、
神様は意地悪な人には見向きもしませんが、
その心に愛と正義と真実を持っている人ならば、
誰であろうと
その人から決して
その御目を離したりなどしません。
“そんな心義しき人を
神様は決して見捨てたりしないんです”。
ただし、ヨブさん、
あなたがそれほど苦しむようになったのは
今、申し上げた通り、
まず、あなたご自身が
“神様(=善、正義、公平、真実)よりも
意地悪な人間達(=悪、不正、不公平、嘘)を
信じてしまったから”です。
あなたご自身が、
『お前は間違った生き方をしたから
そんな不幸な目に遭うんだ』と
理由もなく
あなたを不当に非難した意地悪な人達の
言葉に惑わされ、
それをすっかり信じ込んでしまい、
神様が意地悪な人達と一緒になって
あなたを不当に苦しめたと
勝手に“誤解した”からです。
それでは、
意地悪な人達があなたに対してしたように、
あなたご自身も、何一つあなたに対して
悪い事などしていない神様を
不当に非難したことになりませんか?
それにあなたは
勝手にその想像を膨らませ、
物事を“悪く悪く解釈して”、
神様がそれぞれに与えた
あなたご自身の能力を信じず、
また神様が与えてくれる朝をも信じず、
ご自分一人で
『もう未来も希望もない』などと
わめいて絶望していたのです。
だから、あなたはご自分で
ご自分の心をそうやって苦しめ、
神様が約束してくれた希望の言葉を
あなたご自身が信じないのだから
神様も救いようがないではありませんか。
そしてヨブさん、
あなたも気づかないうちに
そうしてつい、意地悪な人達と
同じ過ちを犯しませんでしたか?
それほどあなたもわたしも、
人というのは
過ちや間違い、誤解を犯しやすい生き物
なのではありませんか?
つい、人の言葉に惑わされ、
つい、人がつく嘘に乗せられて、
神様からいつも助けてもらったり、
よくしてもらうのは“当然だ”と
勘違いしていませんか?
自分だけは“特別に”
自分は“神様から選ばれているから”
いつも恵みや助けをもらえるはずだと
知らず知らずいい気になっていませんか?
私達、人間は
そうやって天から目に見えない恵みを
いろいろ与えられると、
すっかり満足しきっていい気になり、
ヨブさんのように心に義を持つ人でさえつい、
意地悪い人達と同じような
誤解や失敗、勘違いを犯してしまいます。
ですが、ヨブさん、
あなたはそうやって“苦しんでみて初めて”
今までどれほど神様から
恵みや守護を受けていたか
身に染みて
“分かった”んじゃありませんか?
あなたの知らないところで、
あなたの目に見えないところで、
実に様々な人や物、事象や気象が動いて
あなた自身を、
あなたの人生そのものを
支えてくれていることを
あなたは神様から
その“試練”を授けてもらって初めて
“気づく”ことができたんじゃありませんか?
どんな生き物でも
楽して何かを得ることなんてできません。
例えば、
教師になるのに
勉強もせず
知識や思考の鍛錬も積まないで
人に正しい知識や技術を説明できますか?
病に苦しんでいる人の立場を
全く考えもせず、
症状をよく診もしないで
いい医者になどなれますか?
皆からちやほやされて
欲しい物やおもちゃを与えられ、
世話を焼いてもらうだけで
世の中を何も知らない赤ん坊が
ある日、突然、何億万もの人々の暮らしを
“責任を持って”
平和に安全に整えてあげられる
賢いリーダーになるでしょうか?
その他、この地上における
どんな職業の人であったとしても、
それに携わる人、一人一人が
どうすれば良い物が作れるんだろう、
どうすれば喜んでもらえるような働きが
できるんだろう、
どうすれば役立てるんだろうと
何度も何度も考え、
試行錯誤を繰り返し、
他人には目に見えない
厳しい練習や勉強を積んで
努力するからこそ
“あなたも周りも幸せになれる”ような、
皆に役立つものや仕事が
できるようになるんじゃないんですか?
だったら、あなたは
そういった目に見えるもの、
見えないものについて
いろいろと“学ばせてもらえる”
いい機会に恵まれた
幸運な人ではありませんか?
神様が
“あなたの為を思い”
“あなたの幸せな将来の為に”
確固たる厳しさを持って
ひたすらあなたが正しい道を進めるよう
与えてくださった
素晴らしい時間ではないでしょうか?
そこであなたが骨の髄まで
とことん苦汁をなめ尽くしたら、
あなたは二度と、
あなたやその他の大勢の人達が
これまでずっと気づかず犯してしまった
同じ過ちを繰り返さないよう努めるはずです。
あなたなら、
何より心から神(=愛と真実と正義)を愛する
あなただからこそ、
与えられた試練や苦難に対して
恨みつらみをその心に宿すのではなく、
そこから何かを学び取り、
そこからあなた自身はもちろん、
あなたの周囲をも
共に幸せになれるような方法を
生み出すはずです。
だから、神様は
あなたを信じて、
あなたなら辛い事も
悲しい事も乗り越えて
“成長(進歩)していってくれる”はずだと信じて
あなたにその試練を与えたのではありませんか?
さぁ、ヨブさん。
これであなたもお分かりになったでしょう。
神様は、
この天上にいらっしゃる私達の御父は
あなたを、
そして私達、人間を
心から愛してくれていることを」
本作品は、旧約聖書のヨブ記と「奇跡の真実 〜The Truth of the Miracle〜」から着想を得て再構成しています。前後に関する詳しいストーリーについては「奇跡の真実」の第99話『人災』をご覧ください。↓
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