フルストーリー
『マトーイル』
1・・・契約
2・・・占い師
3・・・母の死
4・・・監禁
5・・・死神の小話
・契約
その男は職を失った。彼が勤めていた会社が経営難になり倒産した。元々その会社はブラック企業だった為、ほとほと疲れていた。貯金もそこそこあったので暫くのんびりニート生活でもしようと思って実家に帰っていた。実家でダラダラしていると、母親が部屋に入ってきた。
「ちょっと由実也。いつまでそうやってここでダラダラしているの?」
「良いだろ。金はあるんだし、暫く休ませてくれよ」
「はぁ……早く次の就職先、探しなさいよね?」
「分かったって」
「そうだ。どうせ暇ならお祖父ちゃんの物置の掃除してくれる?」
「あぁ、分かったよ」
「じゃあ宜しくね」
そう言って母親は由実也の部屋を出て行った。由実也は祖父が遺した物置に向かい、掃除した。その最中、とある冊子を見付けた。そこには「射手座之悪魔契約方法」と書かれていた。何の事だろうと思い中を開いてみると、どうやら悪魔契約の方法が書かれていた。それは射手座の悪魔と言い、何かしら良い事が起こると言う。眉唾物だろうとは思いつつ、どうせ暇だしと思い、試してみる事にした。まず部屋を暗くし、半径一メートルの古代ギリシャ文字で魔法陣を書き、射手座のマークを中に書き、自分の血を一リットル抜き取って小瓶に分け、それを射手座の星の部分に置いて古代ギリシャ語で呪文を唱える。実際にそれを自室でやってみると、部屋は光に包まれ、魔法陣から大きな弓矢を持った大柄な男が現れた。
「ほ、本当に出てきた……!」
男は由実也に聞いた。
「我は射手座の悪魔。サジタリウス。我を呼び出したのはお前か?」
「は、はい……!」
「我と契約する。それで良いのか?」
「ちょ、ちょっと待って下さい。貴方と契約すると何が起こるんですか?」
「それも知らずに我を呼び出したのか?」
「すみません……この冊子にはそれが書かれてなかったもので……」
「……まぁ良いだろう。我時契約すると、発した言葉が現実のものになる、というものだ」
「言葉が、現実になる……?」
「誰かに発した言葉が現実になる。それが例え、不可能な事であっても。この世の理に反する事であっても」
「……どんな事でも、現実になるんですか?」
「そうだ」
「代償は、あるんですか?」
「強いて言うなら、お前は真実しか言葉に出来なくなる。それだけだ」
「何だ。それだけですか。じゃあ契約します」
「良かろう」
射手座の悪魔は弓を構え、由実也に向けた。
「な、何を……!?」
射手座の悪魔は矢を由実也の喉に放った。喉に刺さったが、痛みは無かった。
「これでお前の喉は我の契約によって真実しか語れなくなった」
「ほ、本当に……?」
「だが忘れるな。お前はもう、普通の人間ではない。放った言葉が全て現実、真実となるのだ。それを決して忘れるな」
「は、はい……」
「お前が雨が降るといえば雨が降り、死ねと言ったら死ぬ。その運命を背負っていけ」
「わ、分かりました……」
「言葉とは本来、ただの音に過ぎない。だが我の力を得た者は、その音が世界を動かす力となる。その呪縛から逃れる事が出来なくなるのだ。もし契約を解除したければ、また我を呼び出すと良い」
そう言って射手座の悪魔は消滅した。由実也はすぐに宝くじを買いに行った。そして宝くじを購入し「俺は宝くじ一等が当たる」と呟いた。それから半月間、特に何かする訳でも無くダラダラと過ごした。宝くじの当選日、購入した売り場に向かい換金すると、当たりは無く、三百円が返ってくるだけだった。
「何だ。嘘じゃん……」
そう思い、射手座の悪魔が出てきたのは白昼夢か何かだったんだと思い、忘れる事にした。それから学生時代の先輩から連絡が入った。内容は「借りてた金を返したい」というものだった。それに対して由実也は怒りが込み上げてきた。今更何を、と。学生時代、踏み倒してた癖に、と思いながらも、返してくれる、覚えていてくれた、という事に少し嬉しさも感じていた。由実也は「明日は雪ですね」と返した。すると翌日、本当に雪が降った。季節は冬。天気予報は晴れだったのだが、突如、寒波に見舞われ雪が降ったのだった。たまたまだろうと思い、由実也は先輩から金を受け取り、帰った。後日、元職場の元同僚から連絡が入った。内容は「起業するから着いてきてくれないか」というものだった。丁度、仕事もしていなかったし暇潰しになるかもしれないし、運が良ければ仕事に就けるかもしれないと思い、これを了承した。そしていざ仕事が始まった時、二人だけの会社でプログラミングの仕事をしている最中、社長となった同僚が「これから俺達、やっていけるかな?」と言った。由実也は「大丈夫だよ。お前の会社は成長する。すぐに大きな仕事がやってくるよ」と言った。後日、本当に大きな仕事が入った。すぐに社員を増やし、見る見る内に会社は成長していった。「まさか……」そう思い、ふととある逃亡中の指名手配犯の名前を探し「自首して、ちゃんとした裁きを受ける」と呟いた。数日後、ニュースでその指名手配犯の名前が出され、突如、自首してきたかと思えば心臓麻痺で死亡したと報道された。これを見て由実也は思った。
「俺は、殺人者か……?」
由実也はあくまで「裁きを受けてほしい」と言っただけで「死ね」とまでは言っていない。しかしふと射手座の悪魔の言葉を思い出した。「我の力を得た者は、その音が世界を動かす力となる」「お前が雨が降るといえば雨が降り、死ねと言ったら死ぬ。その運命を背負っていけ」この二つの言葉だった。これで由実也は確信した。あの射手座の悪魔は本物だったと。そして自分の事は現実にはならないが、他者の為に放った言葉が現実になるのだと。
そう思った。しかし相手は凶悪犯。死んで当然の人間。そう自分に言い聞かせて、無理矢理自分の発した言葉を正当化しようとした。だがやはり一人の人間を殺してしまった事実はずっと自分の中に残ると思った。そしてその死亡した犯人にも家族が居るとテレビで報道され、一つの家庭を壊してしまった。ただ反省してほしかった。罪を償ってほしかった。それだけのに……と発狂しかけた。
その後、由実也は「自分がここにいたら、友人が不幸になるかもしれない」と思い会社を去り、独立した。占い師として仕事をする事にしたのだ。殺してしまった指名手配犯への罪を償う為にも、他人の役に立つ仕事は何かを考えた時、他人の悩みを聞いてそれをアドヴァイスするのが一番だと思ったからだ。
最初こそ上手くいかなかったが、師匠の下で修業をし、客からの悩みを真剣に聞いて真っ向から受け止め、的確なアドヴァイスという名の未来確定事項を言って、徐々に信頼を得ていった。由実也が言った事は確実に当たると評判になって客足は師匠から遠のき、師匠からは「お前がやってるのは占いじゃない。ただの未来予知だ。超能力だ」と怖がられ、破門されてしまった。しかし由実也は占い師としては大成功し、億万長者になった。ここから由実也の人生が狂い始めるのだった。
・占い師
匙田由実也は占い業で億万長者になった。今では本業だけでなく、雑誌やメディアの取材、テレビ出演に引っ張りだこである。師匠からも「そろそろ独立しても良いだろう」と言われ、開業した。師匠を超えた由実也は個人で占い館を設立し、社長兼占い師として活動し、税務関係と事務と秘書と受付を雇って経営していた。契約した射手座の悪魔に敬意を表してサジタリウスと名乗っていた。そんなある日、とある老人が訪れた。その老人は会社を経営しているらしく、その未来を見てほしいと言ってきた。勿論、由実也は修業はしていたが占いの事なんてさっぱり分からないので当てずっぽうで適当に「こういった商品を作れば売れれるんじゃないか」といった内容を言い、ついでに壺等を買わせた。その後、その会社は由実也の言った通りの商品を開発し、それがヒットした。後日、その会社の社長はお礼を言いに来た。
「あの時はありがとうございました」
「いえいえ。仕事をしただけですから」
「突然で申し合訳ありませんが、一つ相談に乗ってもらいたいのです」
「また何か占ってもらいたいんですか?」
「いえ。貴方を我が社の専属アドバイザーとして雇用したいのです」
「はぁ?」
突拍子もない提案に、由実也は素っ頓狂な声が出た。正直、占い業でもう既に事は足りているし、アドバイザーになるには資格が必要だと大学で習った。これ以上、新しい事を覚えるのは嫌だと思った。戸惑っていると、その社長は一枚の紙を差し出してきた。
「アドバイザーの資格はお持ちで?」
「いえ」
「ではこちらのスクールに通うと良いでしょう。そうすれば、今よりももっとお金が貯まると思いますよ。勿論、費用は私が出します。何度、試験に落ちても構いません。それに、専属でなくても構いません。そういう道もあるという事を覚えていてほしいと思って今回、伺ったんです」
「は、はぁ……」
「来月また来ますのでその時にお返事を聞かせて下さい」
「分かりました」
「では私はこれで」
そう言って社長は帰っていった。今からスクールに通うのは面倒だなとは思いつつ、不安定な職業で両親を不安にさせたままにしておくよりは、定職に就いて安心させるのもアリかと思った。それから由実也は社長に連絡を取り、スクールに通って資格を取った。そして社長のアドバイザーとして就職した。そこでは今までの占い師としての仕事とあまり変わらず、社員からの悩みを聞き、それをどう乗り越えられるか答えるというものだった。その日から由実也の人生は安定するかのように見えたが……?
・母の死
由実也が就職して数年が経った。それまでは無遅刻無欠勤でカウンセラーの仕事もしつつ過ごしていた。そんなある日、由実也は珍しく寝坊をしてしまった。起きた時ににはもう始業時間を過ぎていた。やってしまったと落ち込んで言い訳を考えていると、その時スマートフォンの電話が鳴った。社長からだった。電話に出ると、社長はとても心配した様子で話し掛けてきた。
「あぁ、良かった。出てくれなかったらどうしようかと思いましたよ」
「申し訳ありません、社長……今日はちょっと行けそうにありません……」
「どうしましたか?体調でも悪いのですか?」
由実也はその時ある事を咄嗟に言ってしまった。
「実は母が亡くなりまして……」
「何ですって!?」
嘘だ。忌引きにしてもらおうとして出た苦し紛れの噓だった。
「それはご愁傷様です……いつお亡くなりになられたんですか?」
「あー、えーっと……つい昨晩です。心不全で倒れてそのまま病院で……」
「それは急でしたね……分かりました。暫く忌引き休暇を差し上げます。お母様と最後の時をゆっくりお過ごし下さい」
「すみません。ありがとうございます」
そう言って由実也は電話を切った。就職してからまともな休暇が出ていなかった為、暫く休暇が出たという事で由実也はゆっくりしようとしていた。すると由実也の部屋に姉の美暮詩がやってきた。
「兄さーん?ちょっと良いー?」
「何?美暮詩」
「お母さんの葬儀の事だけど……」
由実也は驚いた。真面目な妹がこんなブラックジョークを言ってくるなんて思ってもいなかった。
「何だよ、美暮詩。何の冗談だよ?」
「何が?」
「母さんが死んだって言うのか?」
「だからそうでしょ。兄さんこそ何、言ってんの?」
「死んだって、いつ?」
「兄さん大丈夫?昨晩、倒れて病院で亡くなったじゃない」
「はぁ!?」
由実也は理解が追い付かなかった。まさかと思った。
「死因は!?」
「原因不明の心不全だったでしょ」
由実也は頭を抱えてその場に蹲った。それを見て美暮詩は由実也の側に歩み寄った。
「ねぇ、兄さん、本当に大丈夫?お母さんの死を受け入れられない感じ?」
「そういう美暮詩はどうなんだよ……」
「私だって受け入れられないわよ。突然だったし。でも今はやるべき事が沢山あるから悠長な事は言ってられないわよ」
「……そう、か……」
「本気で心配になるんだけど……心療内科の病院、行く?」
「……いい。大丈夫」
「そう?まぁ少し気持ちの整理が必要か。お昼になったらまた話するから降りてきてね?」
「うん……」
美暮詩は由実也の部屋を出て行った。由実也は衝撃のあまり現実を受け入れられずにいた。驚き過ぎて涙が出ないどころか悲しみという感情が出なかった。代わりに後悔に苛まれた。自分の発言の重みにここまでの影響力がある事に恐怖した。それから二週間後、母の葬儀をした。そして父と美暮詩と一緒に遺品整理をしたり遺産相続の手続きや年金の停止等の諸々の手続きを一ヶ月掛けて行った。それらが終わった後、由実也は自室で後悔の念に襲われていた。そこへ美暮詩の息子、由実也からすると甥の南斗がやってきた。
「おいちゃん」
「おぉ、どうした?南斗」
「ばぁば、もう帰ってこないの?」
由実也は言葉に詰まった。死んだと言って良いのだろうか。しかし落ち込んでいる様子の南斗を見て由実也は南斗を励ます事にした。
「ばぁばはちょっと病気になって入院してるんだ。すぐ元気になって帰ってくるさ」
「本当?」
「あぁ。本当だとも」
そう言って二人は笑いあった。するとそこへ由実也の部屋の扉をノックする音が聞こえた。美暮詩かと思い「何?」と由実也が答えると、驚く声が聞こえてきた。
「由実也、南斗、帰って来たよ」
母の声だった。由実也は瞬間に怖くなった。死んだ筈の人間が今ここに居る。それはあり得ない事だったからだ。母の声はずっと聞こえていた。「ここを開けて」と。南斗は嬉しそうに扉を開けようと扉のドアノブに手を掛けた。それを見て由実也は南斗を後ろから抱き抱え、後ろに下がった。
「おいちゃん?」
由実也は腹から声を出して叫んだ。
「母さんは死んだ!死んだ人間が生き返る筈が無い!」
するとそれまで聞こえていた母の声は聞こえなくなり、何か崩れ去る音が聞こえてきた。恐る恐る由実也が扉を開けると、そこには崩れた肉片と骨と服があった。服を見て母の物だと分かった。
「ばぁば、死んだの?」
南斗が聞いた。由実也は力無くその場に崩れ落ち、近寄ってきた南斗を抱き締めた。
「そうだよ……ばぁばは死んだ……もう、戻ってこないんだよ……俺のせいで……」
南斗は意味が分かっていない様子で涙を流す由実也を抱き締めた。母は死んだのだった。
・監禁
母の死から一年が経った。由実也はなるべく失言をしないように過ごし、今、所属している会社を大きくしていった。その界隈では由実也が言った事は実現する、不思議な魔力があると有名になっていった。占い師時代からそれは言われていたが、一つの弱小の会社が只の占い如きで一大マーケットにまで飛躍していったのを見て、裏社会から狙われるようになった。由実也はある日、いつものように会社から帰宅しようとした時、突然、後頭部に衝撃を受け、気絶した。目を覚ますと、後頭部に痛みを感じた。どうやら殴られたらしい。手で後頭部をなぞると血も出ていたようだった。周りを見渡すと、扉があり、開けようとしたが鍵が掛かっているようだった。後ろを見ると窓があり、覗いてみるとどこか山の奥で、夜だった。スマートフォンで現在位置と時間を確認しようとしたが、ポケットに無かった。暫く戸惑いながら只、時間が流れるのを過ごしていると、やがて扉が開いた。そこから何人かの男達が現れ、扉の前を塞ぎ、一人のいかつい男が鉄パイプを持って現れ、その鉄パイプで由実也の右脚を叩き、骨を折った。
「ガッ……!?」
由実也が痛みに悶えていると、その男は言った。
「お前、匙田由実也だな?」
「……が、あっ……!」
「もう一本の脚を折られたくなかったら、俺達の言う事を聞くんだな」
「な……にを……!?」
「俺達の組に有利な事を言え」
「組……!?」
それは裏社会の人間達のようだった。自分は拉致されたのだと察した。
「何をすれば良いんだ……!?」
「そうだなぁ……まずは、占ってもらおうか?」
「占い……!?」
「そうだ。これからの俺達の未来を占ってもらおうか」
「……分かった」
男は占い道具一式とテーブルと椅子を部下と思わしき男達に持ってこさせ、由実也の前に置いた。由実也は立たせられ、椅子に座らされた。
「さぁ、占ってもらおうか」
「ちょ、ちょっと待ったっ」
由実也はある事を思い出した。自分の能力は当てずっぽうで言った事が実現する。しかし相手の事を知らなければ何も言えず、実現出来ない。そこで問診をして相手の事を探ろうとした。
「占いと言っても適当な事は言えない。問診をさせてほしい」
「問診?まるでカウンセラーだな」
「似たようなものだ。そもそも、適当な事を言って、それが叶わなかったらどうする?俺を殺すのか?」
「……それもそうだな。良いだろう。おい」
男は部下に紙とペンを持って来させ、由実也に渡した。由実也は問診をした。そこで分かった事は、やはりこの連中は裏社会の人間で、今、他の組と抗争をしている最中だと言う。由実也はとりあえず今この構想に勝つ算段を言い、連中は去っていった。そして由実也は治療を受け、ベッドに横たわった。その間、由実也は「自分は救出される」と呟いてみた。しかし何日経っても自分は救出される事は無かった。やはり自分の為になる事に関しては能力が発揮されないようだった。由実也は絶望した。きっと、いずれ殺される。そう思った。数日後、男は更に上の立場の男を連れてきた。
「どうも。匙田由実也さん。貴方のお陰で我々の組は抗争に勝てたよ」
「は、はぁ……」
「これからも宜しく頼むよ。君のその千里眼はとても役に立つ」
「これからとは……?」
「勿論、これからも我々の組織の拡大に貢献してもらう」
「それを断ったら?」
「殺す。それだけだ」
「しかし、俺を殺したら貴方達の組織は大きくならない。違うか?」
「ははは。それもそうだな。だが、痛い目に遭ってもらう事になる」
男は指をパチンと鳴らし、後ろから部下の男達が鉄パイプを持って現れた。
「ヒッ……!」
「痛いのは、嫌だろう?」
「わ、分かった!貴方達の言う通りにする!だから殴らないでくれ!」
「物分かりが良くて助かるよ。ではまた後で」
男達は去っていった。由実也はもう自分は飼い殺しにされるのだと悟った。
男達は「チャカよりも、ドスよりも凶悪で最凶の武器を手に入れた」と喜んでいた。
そんな飼い殺しの恐怖心がある中、由実也はある事を思い付いた。自分が助かる方法を。
「俺を探している人が、俺を探し当てる」
そう呟いた。それは会社の人間と家族が自分を探し当てる事を予言した内容を言ったのだった。すぐにはそれは実現しなかったが、数日間、この組の占いをして過ごした。具体的に「どこの会社の株を買えば良いか」「どうすれば他の組を潰せるか」「どうやって自分の組を大きくさせるか」を言って行った。苦しい発言だったが、自分が助かる為には仕方がない事だと思って数日間過ごした。
数日後、会社の人間と警察がこの建物に押し入った。防犯カメラの映像と、由実也のスマートフォンのGPS信号を頼りに探し当てたのだ。そして無事、由実也は救出され、病院に入院した。
病院では「自分のせいで多くの人を不幸にしてしまった。それも、善人だけでなく、悪人をも。あの最初の指名手配犯の時と一緒じゃないか。自分は被害者なんかじゃない。共犯者だ」と心を病んでいった。その葛藤が合った後、由実也は警察に協力した。その組が不利に働くように、内側から潰す為に内部摘発者を生み出し、警察が有利になる証拠を次々と言い当てていき、やがてその組を壊滅させた。
・死神の小話
人の為にしか言葉を発せなくなった由実也は鬱病になった。軽る弾みな事を口にしたら自分が不幸になり、そしてこの言葉の力おw悪用されて誰かを不幸にする。由実也は会社を退職した。最初は引き止めた社長だったが、由実也の病気を理解して退職はさせず、会社が経営している多額の支出をしている大学病院、渋井大学附属病院に入院させた。投薬治療で暫く過ごしていたが、他の患者や医者、看護師や見舞いに来る会社の人達と接しても何も話せず、やがて失語症扱いになった。ある日、院外外出の日に実家に戻り、由実也は悪魔契約の書物を探した。書物を読み進めていくと、最後のページに悪魔契約の解約方法が載っていた。最初は興味が無く読み飛ばしていたが、この悪夢から醒める為には契約を破棄しなければならないと由実也は思った。また魔法陣を用意し、呪文を唱えると、射手座の悪魔が出現した。
「我を呼んだのは貴様か?あ?何だ、貴様か」
「今回はお願いがあってお呼びしました」
「何だ?申してみよ」
「契約を破棄したいのです」
「何故だ?」
「言わないといけないのですか?」
「いや、単純に興味だ」
「そうですか……この力のせいで自分や周りの人が不幸になるんです……もうこんな人生、嫌なんです!」
「そうか。分かった。契約を解除しよう」
「え?良いんですか?」
「何がだ?」
「いや、こんなあっさりしてるんだなって思って」
「解除したいのか、そうでないのかハッキリしろ」
「解除したいです!」
「それで良い。ちょっと痛いぞ」
射手座の悪魔は由実也の喉に手をやった。すると以前に喉に刺さった矢が現れた。射手座の悪魔はその矢を抜き取った。瞬間、由実也は激痛が走り、悶えた。痛みが引いた頃、射手座の悪魔は言った。
「これで真実を言えなくなった。だが代償として、声を失う」
「…………!?」
由実也は喋ってみたが、声が出ない事に気が付いた。
「それでは我は帰る。達者でな」
「…………!…………!」
射手座の悪魔は消滅した。由実也は言葉が話せないまま一生を送る事になった。しかし絶望する事は無かった。喉の病気という事で病院に通って入院した先で女性看護師と出会い、結婚した。年齢的に子供は出来ず、二人で余生を過ごした。由実也は姉と甥、妻に看取られながら亡くなった。
由実也が目を覚ました時、そこは暗い場所で、辺りには何も無く、先も見えない。だが地面はあるという不思議な場所だった。ボーッとする頭を抑えながら立ち上がると、自分にスポットライトが当たるように光が差し込んだ。そして向こう側にもスポットライトが差し込み、そこには大きな鎌を持ち、黒いフードを被った少年が立っていた。
「やぁ、君を迎えに来たよ」
「君は……?」
由実也は声が出る事に気が付いた。
「しゃ、喋れる!?」
「ここでは悪魔契約が終わり、元の体の状態に戻っているんだよ」
「そうなのか……君は?」
「死神さ」
「死神?」
「そう。死神」
「悪魔がいるんだもんな。死神がいたって不思議じゃないな」
「話が早くて助かるよ。それで、僕は仕事をしに来たんだ」
「仕事?何の?」
「ここでは君の願いを一つだけ叶えてあげる事が出来る」
「願いを、叶える……?」
「そう。生き返らせてくれ、なんていうのは無理だけど、可能な範囲でなら何でも叶えてあげる」
「そうか……少し時間をくれないか?」
「良いとも」
由実也は暫く考え込んだ。その間、死神は煙草を吹かしながら返事を待った。由実也はとある事を思い付いて死神に言った。
「母さんに会いたい」
「君の?」
「あぁ」
「そんなの向こうに逝ったらいくらでも会えるよ。別のにしたら?」
「そ、そうか?」
「そうとも。向こうも君に会いたがっていたし、すぐに会えると思うよ」
「そうなのか……じゃあもう少し考えさせてくれ」
「良いとも」
由実也はまた考え込んだ。死神もまた煙草を取り出し、吸って待った。由実也は思い付いた。
「あの書物って、どうなってる?」
「書物?」
「射手座の悪魔と契約出来るって書かれた書物だよ」
「ちょっと待ってて」
死神は鎌を一振りし、光の球を出現させた。そこには由実也の部屋が映っていた。金庫の方にズームアップすると、中に厳重に保管されている射手座の悪魔との契約の書物が映し出された。
「これかい?」
「そうだ。これを消してくれ」
「消すって、燃やすとか?」
「そんな事をしたら家が焼けちまうだろ。存在を消してくれ」
「何故?」
「あんなの現世にあっちゃいけない。存在が無かった事になれば、もう俺みたいに苦しむ人が居なくなるだろ?」
「成程ね。分かった。やってみよう」
死神は少し離れ「でぇえええええええええええやぁああああああああああ!」と叫びながら鎌を大きく振った。その瞬間、光の球に映っていたあの書物が消滅した。
「はぁ……!はぁ……!」
「だ、大丈夫か……?」
「あぁ……因果律をちょっと調整したからね……でもこれでもうあっちでは射手座の悪魔の書物は歴史から全て消したから大丈夫だよ……」
「そうか……ありがとう」
「これが仕事だからね……」
死神は息を整え、鎌を一振りした。すると光の階段と光の扉が出現した。
「さぁ、君の願いは叶えた。あの世に逝ってもらうよ」
「あぁ。世話になった」
由実也は光の階段を上っていった。すると光の扉から一人の女性が現れた。
「由実也」
「か、母さん……!?」
その女性は由実也の母親だった。かつて、自分の口で殺した母親だった。
「母さん!」
由実也は階段を駆け上り、母親の前まで行った。
「母さん……」
「由実也。どうだった?」
「な、何が……?」
「現世。私がいなくても、幸せだった?」
「……辛い事もあったけど、幸せだったよ」
「そう。なら良かった」
「あの……怒ってないの?」
「何に?」
「俺、母さんを殺したんだよ?許してくれるのか……?」
「あぁ、その事ね。苦しんで死んだ訳じゃないし、気付いたらあの世に逝ってたから別に何とも思ってないわ。それより……」
「それより?」
「貴方が自分を責め続けてないか心配だった」
「…………!」
由実也は泣き出した。
「何、泣いてんのよ?大の大人が。怒ってしてほしかったの?」
「そうだな……いっぱい、怒ってほしい……!」
「そう。じゃあ向こうでいっぱいお説教してあげる。覚悟しなさい?」
「あぁ……ありがとう……!」
由実也は死神の方を見た。
「死神。ありがとう」
死神はそっぽを向き、シッシッ、と手を振った。
「さぁ、逝きましょう」
「あぁ!」
由実也と母親は光の扉をくぐり、消滅した。一人、残された死神は「ふぅ」と溜め息を吐いた。するとそこへ射手座の悪魔が現れた。
「ふぅ、じゃない。何て事をしてくれたんだ?」
「あ、これはこれは射手座の悪魔、サジタリウス様。ご機嫌麗しゅう御座います」
「そんな挨拶はよい。どうしてくれるんだ?」
「何がです?」
「貴様が我の書物を消した事で我と契約する者が皆、いなくなった。契約が無ければ地位が下がってしまうではないか」
「あぁ、その事ですか。では今から元に戻します」
「出来るのか?」
「腹の底から力を出します」
「そうか。ではやれ」
死神はまたも「でぇえええええええええええやぁああああああああああ!」と叫びながら鎌を一振りした。すると由実也が変えた世界から元の世界に戻り、再び射手座の悪魔の書物と伝説が現世に溢れた。
「はぁ……!はぁ……!」
「……元に戻ったようだな。ご苦労」
「いえいえ……!勝手をして申し訳ありませんでした……!」
「次は無いと思え」
そう言って射手座の悪魔は消滅した。
「……流石に疲れたな……有給取るか……」
死神は鎌を一振りし、その場から消滅した。




