自サバ令嬢と天然令嬢
自称サバサバ令嬢と、善良な天然令嬢。
待ち合わせをしていたカフェに、婚約者が見知らぬ女性と連れ立ってやって来た。
「ご機嫌よう、バーニー様」
「やあ、遅くなってすまない」
申し訳なさそうな顔で席に着くバーニー様。そして連れの女性も当然のように座った。
「ケイトリン、こちらカーラという。私の又従姉妹だ」
「初めまして! カーラです。
どうしてもバーニーの婚約者を見てみたくて、連れてきてもらったの! 親戚としての純粋な好奇心だから、変に気にしないでね?」
「そうですか」
にっこり笑って返事をしたが、「気にしないで」とは?
「わたしの家、地方の子爵家で、滅多に王都なんて来ないから、お綺麗なご令嬢の中で浮いちゃってさぁ。居心地悪い夜会で、たまたま警備してたバーニーが助けてくれてね。会うのは久し振りだったけど、すっかり昔みたいに意気投合しちゃって!」
「そうなんですか。バーニー様に助けていただいてよかったですね」
社交慣れしていないって、貴族令嬢として大丈夫なのだろうか……。でも子爵令嬢なら下位貴族だし、いいのかしら?
「わたし、男兄弟に囲まれてたからか、どうしても同性よりも男友達の方が合うんだよね。バーニーとも小さい頃、よく遊んだし。
今回こっち来てみて、ますます女の子とは合わないなーって」
「え、同性のお友達がいらっしゃらないの? それはお可哀想に……」
思わず憐れみの目で見てしまった。
ご令嬢方に馴染めないのならば、やはり貴族として社交をするのは難しいのでは? この方、将来大丈夫なのかしら……。
「ねえ、バーニーの周りって、こんな気取った女の子ばっかりなの? 確かに綺麗でかわいいけど、一緒にいて疲れない?」
カーラ様は先程から一方的に話をしていて、バーニー様は無言だ。
「まぁ。綺麗でかわいいだなんて、褒めていただいて嬉しいわ。
カーラ様もそこそこ……いえ、あの、素朴でかわいらしいと、わたくしは思いますよ?」
がんばって褒めたのに、カーラ様の口元が一瞬引き攣ったように見えた。
「あなた、今日は街歩きでカフェに来てるのに、そんなお上品なワンピースって合ってないんじゃない? もう少し場の雰囲気を考えたら?」
「お目が高いですね! このワンピースは、今売り出し中のデザイナーの最新作ですの! 品がありながらも動きやすいデザインなので、とても評判がいいのですよ。
もしよかったら、取り扱っている店をご紹介しますわ」
我が家も支援しているデザイナーなので、評価されるにはとても嬉しい。
笑顔でお店をおすすめしたのに、カーラ様の口元は引き攣ったままだ。
「遠慮しておくわ! わたし男っぽいところがあって、無駄にヒラヒラしたドレスとか苦手なの! 乗馬服とかの方が動きやすくていいんだよねー。
あ、バーニーの騎士服もカッコよかったなぁ。ああいうの着てみたい!」
「カーラ様は騎士を目指していらっしゃるのですか? 女性騎士はまだ数が少ないから、重宝されるそうですよ。素晴らしいですね」
わたくしにはとても無理だけれど、女性で騎士なんて憧れてしまう。
「……そのネックレス、ちょっと趣味が悪いんじゃない? ワンピースにも合ってないし。
あ、ごめん、悪気はないのよ。わたしって思ったことすぐ言っちゃうからさ」
「あら。でも、これは──」
「わたしだったら、もっと良いのを選ぶのに。あなたバーニーの婚約者なのに、センスないのね」
「そのネックレスは、私がケイトリンに贈ったものだ」
「え……」
今まで口出ししてこなかったバーニー様が不機嫌そうな声音で告げ、カーラ様は真っ青な顔で固まってしまった。
「バーニー様、わたくしはとても気に入っておりますわ。確かに今日のワンピースとは合わなかったかもしれませんが、バーニー様の瞳の色をいつも身に付けていたいという、わたくしの我が儘ですもの。お気になさらないで」
慌ててフォローする。本当にこのネックレスは気に入っているのだ。
バーニー様は深い溜息を吐いた。
「もういいか? カーラ。
婚約者とのせっかくのデートなんだから、部外者は遠慮してくれ」
「部外者って……!」
「部外者だろう? 勝手に着いてきて割り込むなんて、非常識だ。
君の家の馬車は待機しているから」
バーニー様が手を払う仕草をすると、カーラ様は大きな音を立てて席を離れた。足音がすごいわ……。
「すまない、ケイトリン。
社交シーズンだから叔父が一家で王都に来ているのだが、久し振りに会ったら付きまとわれて困っていたんだ」
「え、付きまといですか? 仲がよろしいのではなく?」
「まさか! 本当に幼い時に、二、三回会ったことがあるだけだ。王家主催の夜会に参加できる年齢になったから、今年はご両親と兄君と一緒に王都へ来たそうだが、私は幼少期のことはあまり覚えていないし。
夜会で会ったというか、私は警備に就いていて、周囲に無礼を働きそうで追い出そうとしただけなんだがな」
「まぁ……」
バーニー様が溜息を吐くなんて珍しい。よっぽどお疲れなのね。
「今日も出かけようと思ったら待ち伏せされていてね。振り払って来たんだが、馬車で追ってきた。
すぐ帰らせるからと御者を待たせているから、あとは心配ないよ」
「あの、カーラ様は騎士になられるのですか? だとしたら、ご令嬢方の不興を買うのはあまりよろしくないのでは……」
心配になって尋ねると、バーニー様は首を横に振った。
「その予定は全くない。男性騎士にすり寄る為の方便だから、君は気にしなくていいよ」
「あら……。そんな動機で近衛の騎士服を着てみたいだなんて……」
「そうだな。騎士爵を賜っている身としては、許せる発言ではない。
大丈夫だ。引っかかる者はいないだろう」
「貴族の方と婚姻を結ぶのは難しそうですね……」
「私もそう思う。叔父にも伝えておくよ。
ケイトリン、本当に申し訳ない。せっかくのデートなのに、親族とはいえ君の知らない女性を連れてきてしまって……」
「そんな、バーニー様はお気になさらないで下さい。
その、カーラ様にもご友人ができるといいですね。そうすればきっと彼女も変わりますわ」
◇
私を励ますように微笑むケイトリンを見て、心が和む。
最初から最後まで、カーラの悪意には気付かなかったのだろう。本当によかった。
愛する婚約者に悪意を持つ者は、なるべく近寄らせたくない。今回は不可抗力だったが……。
今日の埋め合わせに、新しいネックレスを贈ろう。今度は自分の瞳の色に、彼女の瞳の色も加えて。




