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自サバ令嬢と天然令嬢

作者: 睦月
掲載日:2026/07/09

自称サバサバ令嬢と、善良な天然令嬢。

待ち合わせをしていたカフェに、婚約者が見知らぬ女性と連れ立ってやって来た。


「ご機嫌よう、バーニー様」

「やあ、遅くなってすまない」

申し訳なさそうな顔で席に着くバーニー様。そして連れの女性も当然のように座った。


「ケイトリン、こちらカーラという。私の又従姉妹だ」

「初めまして! カーラです。

どうしてもバーニーの婚約者を見てみたくて、連れてきてもらったの! 親戚としての純粋な好奇心だから、変に気にしないでね?」

「そうですか」

にっこり笑って返事をしたが、「気にしないで」とは?


「わたしの家、地方の子爵家で、滅多に王都なんて来ないから、お綺麗なご令嬢の中で浮いちゃってさぁ。居心地悪い夜会で、たまたま警備してたバーニーが助けてくれてね。会うのは久し振りだったけど、すっかり昔みたいに意気投合しちゃって!」

「そうなんですか。バーニー様に助けていただいてよかったですね」

社交慣れしていないって、貴族令嬢として大丈夫なのだろうか……。でも子爵令嬢なら下位貴族だし、いいのかしら?


「わたし、男兄弟に囲まれてたからか、どうしても同性よりも男友達の方が合うんだよね。バーニーとも小さい頃、よく遊んだし。

今回こっち来てみて、ますます女の子とは合わないなーって」

「え、同性のお友達がいらっしゃらないの? それはお可哀想に……」

思わず憐れみの目で見てしまった。

ご令嬢方に馴染めないのならば、やはり貴族として社交をするのは難しいのでは? この方、将来大丈夫なのかしら……。


「ねえ、バーニーの周りって、こんな気取った女の子ばっかりなの? 確かに綺麗でかわいいけど、一緒にいて疲れない?」

カーラ様は先程から一方的に話をしていて、バーニー様は無言だ。

「まぁ。綺麗でかわいいだなんて、褒めていただいて嬉しいわ。

カーラ様もそこそこ……いえ、あの、素朴でかわいらしいと、わたくしは思いますよ?」

がんばって褒めたのに、カーラ様の口元が一瞬引き攣ったように見えた。


「あなた、今日は街歩きでカフェに来てるのに、そんなお上品なワンピースって合ってないんじゃない? もう少し場の雰囲気を考えたら?」

「お目が高いですね! このワンピースは、今売り出し中のデザイナーの最新作ですの! 品がありながらも動きやすいデザインなので、とても評判がいいのですよ。

もしよかったら、取り扱っている店をご紹介しますわ」

我が家も支援しているデザイナーなので、評価されるにはとても嬉しい。

笑顔でお店をおすすめしたのに、カーラ様の口元は引き攣ったままだ。


「遠慮しておくわ! わたし男っぽいところがあって、無駄にヒラヒラしたドレスとか苦手なの! 乗馬服とかの方が動きやすくていいんだよねー。

あ、バーニーの騎士服もカッコよかったなぁ。ああいうの着てみたい!」

「カーラ様は騎士を目指していらっしゃるのですか? 女性騎士はまだ数が少ないから、重宝されるそうですよ。素晴らしいですね」

わたくしにはとても無理だけれど、女性で騎士なんて憧れてしまう。


「……そのネックレス、ちょっと趣味が悪いんじゃない? ワンピースにも合ってないし。

あ、ごめん、悪気はないのよ。わたしって思ったことすぐ言っちゃうからさ」

「あら。でも、これは──」

「わたしだったら、もっと良いのを選ぶのに。あなたバーニーの婚約者なのに、センスないのね」

「そのネックレスは、私がケイトリンに贈ったものだ」

「え……」

今まで口出ししてこなかったバーニー様が不機嫌そうな声音で告げ、カーラ様は真っ青な顔で固まってしまった。

「バーニー様、わたくしはとても気に入っておりますわ。確かに今日のワンピースとは合わなかったかもしれませんが、バーニー様の瞳の色をいつも身に付けていたいという、わたくしの我が儘ですもの。お気になさらないで」

慌ててフォローする。本当にこのネックレスは気に入っているのだ。


バーニー様は深い溜息を吐いた。

「もういいか? カーラ。

婚約者とのせっかくのデートなんだから、部外者は遠慮してくれ」

「部外者って……!」

「部外者だろう? 勝手に着いてきて割り込むなんて、非常識だ。

君の家の馬車は待機しているから」

バーニー様が手を払う仕草をすると、カーラ様は大きな音を立てて席を離れた。足音がすごいわ……。


「すまない、ケイトリン。

社交シーズンだから叔父が一家で王都に来ているのだが、久し振りに会ったら付きまとわれて困っていたんだ」

「え、付きまといですか? 仲がよろしいのではなく?」

「まさか! 本当に幼い時に、二、三回会ったことがあるだけだ。王家主催の夜会に参加できる年齢になったから、今年はご両親と兄君と一緒に王都へ来たそうだが、私は幼少期のことはあまり覚えていないし。

夜会で会ったというか、私は警備に就いていて、周囲に無礼を働きそうで追い出そうとしただけなんだがな」

「まぁ……」

バーニー様が溜息を吐くなんて珍しい。よっぽどお疲れなのね。


「今日も出かけようと思ったら待ち伏せされていてね。振り払って来たんだが、馬車で追ってきた。

すぐ帰らせるからと御者を待たせているから、あとは心配ないよ」

「あの、カーラ様は騎士になられるのですか? だとしたら、ご令嬢方の不興を買うのはあまりよろしくないのでは……」

心配になって尋ねると、バーニー様は首を横に振った。

「その予定は全くない。男性騎士にすり寄る為の方便だから、君は気にしなくていいよ」

「あら……。そんな動機で近衛の騎士服を着てみたいだなんて……」

「そうだな。騎士爵を賜っている身としては、許せる発言ではない。

大丈夫だ。引っかかる者はいないだろう」

「貴族の方と婚姻を結ぶのは難しそうですね……」

「私もそう思う。叔父にも伝えておくよ。

ケイトリン、本当に申し訳ない。せっかくのデートなのに、親族とはいえ君の知らない女性を連れてきてしまって……」

「そんな、バーニー様はお気になさらないで下さい。

その、カーラ様にもご友人ができるといいですね。そうすればきっと彼女も変わりますわ」


    ◇


私を励ますように微笑むケイトリンを見て、心が和む。

最初から最後まで、カーラの悪意には気付かなかったのだろう。本当によかった。

愛する婚約者に悪意を持つ者は、なるべく近寄らせたくない。今回は不可抗力だったが……。

今日の埋め合わせに、新しいネックレスを贈ろう。今度は自分の瞳の色に、彼女の瞳の色も加えて。

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