第7話 どうやら世の中には不可思議なことが多いようです
あらためてここまでの流れをリゼット目線で整理すれば分かることだが、今回の剣盾祭、頼む相手が強すぎればアルフレッドに当たる確率が上がり、合わせてアルフレッド陣営の八百長に加担しなければならなくなる可能性も高くなる。仮にそれを拒むか、土壇場で裏切るような形で勝利を拾ったとしても、アルフレッドやその周囲からしてみれば、相手が強かったねで済む話だ。
そう、『アルフレッドと(どこの誰かは知らないが)妹の仲を引き裂く』というリゼットの目的を考えれば、結果に結びつかない勝利には意味がない。
そもそもアルフレッドは八百長までするような、勝ちたがり。事前に負けると分かっている試合には出てこないだろうし、たとえ試合中でも負けると分かれば、何だかんだ理由をつけて試合を放棄することも考えられる。
つまり試合そのものをまず成立させるために、アルフレッドには決着がつくその瞬間まで勝てると思わせておく必要があり、そのためには俺が最後まで格下でいる必要があるのだが――うるさいな。
俺は長いこと浮かべたままだった愛想笑いをそのまま微苦笑に変えて、正面のアルフレッドから闘技場へと目を向けた。
試合の相手がアルフレッドなら多少は静かになるかと思ったが……昨日のハンス戦が響いたのか、俺に対する観客の風当たりは依然として強いままだ。
しかし今日もいないのか。いかんせん人が多すぎるので、俺が単に見つけることが出来ていないだけかもしれないが、今朝話したばかりだというのにリゼットの姿は闘技場にはないようだった。
「 余を前にしてよそ見だと……? おい、お前、まさかとは思うがこの余を舐めているのか? だとしたら、とんでもない大物だ!」
そういえば、と。思い出したようにアルフレッドへと目を向けると、その顔は笑っているものの、目はあきらかに笑っていなかった。
「いえ、そんな、ええ……策を、いかにして殿下にお楽しみいただけるか、その策を練り上げていたところにございます」
「ほう? 随分と長く考え込んでいるから何かと思えば、そういうことか。しかしいくら頭を使ったところで、たかが騎士見習いのお前に、余の相手が務まるはずがない。そうだろう?」
いやいや、お前も同じ学園の同じ騎士科なんだから騎士見習いというか、同じ騎士候補生だろ。そう思ったが、相手は王族。声に出して訂正する勇気は俺の中にないようだった。
というか、暗に負けろって言ってるよな? こいつ。
「正にその通りでございます」
「ならばさっさとカタをつけてしまおうじゃないか。さあ! 遠慮せず、どこからでもかかってこい!」
アルフレッドは豪快に、そして勇ましく両手を広げる。遅れてビリビリと揺れ始める闘技場の空気。観客たちがバカみたいに湧きたっているからだが、たとえそれが見せかけの剣舞で得られた人気だとしても、不人気、不評、嫌われ者な俺からしてみれば偽物でもいいから分けてほしいくらいだ。なんなら自分で集めるから、その剣舞とやらを教えてほしいまである。
しかし頭を使えと言ったり、使っても無駄だと言ったり、どこからでもと言いながら正面からかかってこいと両手を広げて挑発してみたり、忙しい奴だ。
俺はすでに確定している勝ちをすぐに拾いにいってもよかったが、アルフレッドに最後まで格上でいてもらうために、小細工なしで、それも手加減して少しだけ打ち合うことにした。
さて、精々、自信をつけてくれ?
「では、参ります」
「こいッ!」
アルフレッドの威勢のいい声を合図に、俺は分かりやすくまずは上から行きますよと、頭上に剣を振り上げた。そうしてアルフレッドへと向けて大きく踏み込んだ俺は、ほんの数秒後、気が付くと地面に背中を預けて天を仰いでいた。
「え?」




