第6話 どうやら王子は真の騎士ではないようです
アルトリア王国の第一王子、アルフレッド・リリアンは騎士である。
それは今や、この剣盾祭においてはっきりと証明された事実だった。
そう、『だった』というのも王都にある巨大な教育機関、王立セント・グロリアス総合学園の騎士科に籍を置くアルフレッドは、王子であるということを加味してもあまりにも学園に顔を見せないため、そこで学んでいるとは言い難い存在だったのだ。
だからこそアルフレッドは騎士にはなれない、仮に卒業しても騎士ではないという見方が正騎士や学園関係者の間での共通認識だったのだが、そんな空気をアルフレッドはたった一日で覆した。
それも都合三度、剣盾祭の間に剣を握っただけでだ。
「すげえ……」
アルフレッドの試合を見た者たちは口をそろえて、そう称賛の言葉をつぶやく。どの試合も盛り上がりを見せた剣盾祭だったが、アルフレッドの試合は一際ド派手で分かりやすく見ている人々の心をつかんだからだった。
そしてつかんだ観客の中にはそれまでアルフレッドの実力に懐疑的なものたちも多く含まれていた。そのため噂が広まるのも早かった。
アルフレッドが騎士科に籍を置いているのは、道楽からではない。顔を出さないのは、学園とは別の場所で鍛錬に励んでいるからだ。それまで合わなかったつじつまを合わせるようにそれぞれが思い思いのストーリーを流布していった。まるでそれが疑ったことへの罪滅ぼしであるかのように。
それが三回戦終了時点での話。では今は?
一夜明け、優勝候補どころか、確実視されるまでになっていたアルフレッドの前に立たされた俺は、生まれて初めて昼食を後回しにするほど委縮しまくっていた。
「おいカエル! いや、カルイだったか! まあどちらでもよい! 小物の名は覚えぬのが余の流儀だからな! しかし砂をかけると聞いて、わざわざ汚れてもよいボロを着てきてやったのだ! 策でもなんでも弄してみるがよい! そんなに縮こまっておらずにな! ナハハハハハ!」
アルフレッドは豪快に笑う。それに俺はひきつった愛想笑いを返すしかない。アルフレッドはボロなどと言っているが、素人目に見てもそれは式典で着るような格式高い服だ。何ならあえてそういう服を選んで着て来たまである。おそらく俺の前評判を聞いて、汚せるものなら汚してみろと、挑発でもしているつもりなのだろうが、仮にこれなら躊躇させられる、あるいは封じられると考えた上で目つぶし対策として着てきたのだとしたら、案外策略家なのかもしれない。
だとすると外見との乖離が激しいな。まあ、あいつはそれ以上だろうが。ふと頭に浮かんだリゼットの顔に、俺はつい今朝のことを、闘技場入りした直後、控室の扉越しに交わした会話を自然と思い出していた。
『彼は強い、なんてことはありません――見てくれだけです。当然のようにここまでの勝敗は仕組まれたもの。見栄えのいい剣舞を見せられて、舞い上がっている者たちも中にはいるようですが……ボコボコにしてください。容赦なく。確実に。そして無様に地を這いつく――」
待てまて、そんなことして俺は大丈夫なんだろうな?
『剣術大会にケガはつきものですよ?』
……本当に大丈夫なんだろうか。
ただ試合前にも関わらず、俺に勝てという言葉を一度もリゼットが使わなかったのは、あいつなりの優しさ、気を遣っていたからなのかもしれない。
まあ、俺が負けるとも思っていない、というより王子が勝つわけがない、そう確信している自分をただ信じているだけなのかもしれないが。
――ああ、そういうことか。
俺はそこでようやく自分自身の置かれた状況を理解する。リゼットが俺を選んだ理由。リゼットが負けない程度にと言った理由。
どうやらアルフレッド戦での俺の勝利はすでに確定しているらしい。




