表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/63

第57話 どうやら言い逃れはできないようです

 俺とリゼットが友達になってから数日後の午後。

 いや、友達というよりかは今のところ剣の師弟関係(していかんけい)といったほうがしっくりくるような気がするのだが、とにもかくにも連日の鍛錬(たんれん)でいつの間にやらおなじみの場所になってしまった、ベンチが一つあるだけの小さな庭園にて。

 もう何度目かもわからない敗戦の末に、尻もちを地面についていると、リゼットが上から俺を見下ろしてきて、


「わたくしの指南(しなん)は完璧であるはずですのに、一向に上達なさいませんのね。正直、時間の無駄でしかありませんわ」


 あきれたというより、少し困ったように剣を収めると、


「見捨てるわけではありませんけれど、しばらく鍛錬は休止にいたしましょう。わたくしも教え方を見直しますから、貴方もなぜここまで停滞しているのか、ご自身の胸に問いかけてみることですわね」


 言い捨てるように監視を引き連れ、優雅な足取りで去っていった。


「……胸に問いかける、ね」


 リゼットと監視の姿が見えなくなったところで、俺はついていた尻を地面から浮かせて、ベンチにどかっと腰を下ろした。そうして言われた通り、胸に問いかけるように(ふところ)に手を突っ込むと出てきたのは、一振りの短剣と折りたたまれた可愛らしい便箋(びんせん)、乗船許可証という自然と旅を予感させる三点だった。

 まったく、あいつも器用なことをするもんだ。俺に剣を教えながら、監視の目を盗んで俺の懐にこれだけのモノを忍ばせるだなんて。

 しかしリゼットは俺に何をやらせるつもりなんだ? しばらく休止と言っていたからには、それなりに時間がかかることなんだろうが……。

 短剣と乗船許可証をとりあえず脇に置いて、俺は答えを確かめるように折りたたまれた便箋を開いた。


・本日(午後)、連邦の首都エリュシオン行きの船に乗る。

・明日から明後日、海の上。

・三日後、首都に到着。アストラル・ヴィラにて、アルマ・リリアンに会う。

・四日後、アルマ・リリアンと共に王都行きの船に乗る。

・五日後から六日後、海の上。

・遅くとも七日後(朝)、王都に到着。アルマ・リリアンを王城に送り届ける。

・追伸、乗船許可証と短剣は身分証です。


 それは手紙というよりかは旅行の手引書だった。



 ♦



 庭園から寄宿舎(きしゅくしゃ)に戻り、旅具一式(りょぐいっしき)を革の背嚢(はいのう)に詰め込んで、学園を飛び出した俺は、船に乗る前に一言挨拶しておくかと、ガナッシュの入院している病院に顔を出した。


「なんだ、また来たのか」


 場所を聞くまでもないといつものように扉の開け放たれた大部屋を訪れると、ガナッシュはすぐに俺に気づいて、あからさまに嫌そうな顔を見せる。まあそれも当然だ。一日や二日ならまだしも、リゼットに教えてもらってからもう何日も連続で顔を出しているのだ。それも学園を抜け出すための口実に自分が利用されているとわかってしまえば、いい加減うっとうしくもなってくるだろう。


「だが、それも今日までだ」


 ガナッシュはニヤリと笑い、元気そうにベッドから足を下ろして立ち上がると、


「明日の朝には退院だ。残念だったな」


 絶好調とばかりに床に両手をついて、どうだと見せつけるように腕立て伏せをし始めた。そのバカっぽい姿に、こいつこんなんだったっけか? と本当にどこか悪いところでも打ったんじゃないかと心配になるも、腕立て伏せをやめて腹筋をし始めたところで俺は考えるのをやめた。

 しかし明日の朝に退院か。ないだろうが、急に来なくなったら心配するかと思ってしばらく顔を出せないと伝えるつもりだったが、そういうことならこのまま何も言わずに帰っても問題はなさそうだ。

 俺は都合のいい展開に愛想笑いを浮かべて、


「まあ元気そうでよかったですよ」


 じゃ、今日はこれで、とガナッシュに背を向けるとすかさず肩をつかまれて、


「待て、貸していた服はどうした。昨日は預けてるとか言っていたが、アポロニア家に取りにはいかなかったのか」


 すごむように顔をずいっと近づけられて、そういえばと頭をかいた。


「すみません。忘れてました」

「まあいいさ」


 ガナッシュは初めから期待していなかったかのように簡単に許してから、


「明日は絶対にもってくるように」


 俺がほっと胸をなでおろしたところで予想を裏切るようにくぎを刺した。

 まずい、そう思ったのが顔に出てしまったのか、ガナッシュが怪訝(けげん)な顔で俺を見据えてきて、


「なんだ、明日は都合が悪いのか? なら別に明後日でもいいぞ」

「いや、その、明後日どころか、しばらく留守にするといいますか」

「しばらく留守に? なんだ、故郷にでも帰るのか?」


 しめた、と俺は転がり込んできた理由をそのまま利用させてもらうことして、


「そうです。帰ってくるのは七日後になると思います」

「七日後?」


 ガナッシュが眉間にしわを寄せる。そして何やら人目を気にするように俺を大部屋の外へと連れ出したかと思うと、


「お前、また厄介(やっかい)なことに巻き込まれてるんじゃないだろうな」


 空いていた個室に俺をぐいぐいと押し込んで、扉を閉めた。


「本当のことを話してみろ。貴族ならまだしも平民のお前が学園を七日も連続で休めるわけがないんだからな」

「いや、本当に故郷に帰るだけで、学園も特別に許してくれたといいますか……」


 俺は下からのぞき込むように、ガナッシュの顔色をうかがい見て、


「信じました?」

「まったく」


 どうやら言い逃れはできないようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ