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「私と結婚して王子と妹の仲を引き裂いてほしいんです」――どうやら悪役令嬢の本命は俺のようです。  作者: たまにわに
第三章 つぎはお嬢さま自ら攻めてみるようです
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第56話 どうやら友達になるようです

「ま、気にするのはやめにしますよ。ただ見事な立ち回りってやつには異を(とな)えさせてもらいますけどね。不正の証拠とやらを渡しただけの俺がそう見えるのも、受け取ったマリーが俺のあずかり知らないところでうまくやっただけの話ですし」


 そう、すべてはマリーのおかげ。リゼットの俺に対する評価は明らかに過大なものだ。


「というか出所がマリーだってバレても本当に大丈夫なんですかね?」

「貴方は本当に子どもにやさしいですね」


 リゼットはちょっぴりあきれたように、ただいい加減、俺がそういうやつだと理解し、受け入れたのか、どこかあきらめたように表情を和らげると、


「共和国の機嫌を損ねるような真似をして最も不利益を(こうむ)るのは、共和国と国境を接している北の貴族です。いまの王家を中心となって支えているのが、戦線を抱えていない中央と北の貴族であることを踏まえれば、いたずらに関係を悪化させたくないと考えるのが普通でしょう」

「なるほど、心配しなくてもよさそうですね」


 王子だけならまだしも、王家全体ともなれば、単純な損得勘定(そんとくかんじょう)ぐらいできるだろう。それでももしできなかったときには――マリーの身に何かあったときには、俺はどちらの側につくのだろうか。

 なんとなく予想がついてしまい、いつかのアメリアやマリーではないが、本当に早死にしそうだなと思えてきて。ならばと、自分でも否定できないほどの現実味がそこにあるのなら盛大に裏切ってやろうじゃないかと、俺は剣を振る手に力をこめた。


「力みすぎです」


 俺はそっとこめた力を抜いた。どうやら長生きのコツは脱力らしい。いや、俺をたった一週間でガナッシュや王子と、かろうじてだが打ち合える程度にしたリゼットが言うんだから間違いない。

 自然と剣盾祭(けんじゅんさい)の前まで記憶をさかのぼっていると、


「あの」


 とリゼットが不意に声の調子を下げて、


「ここまでいいことばかり言ってきましたが、一つだけとても残念なことがあります。聞いてもらえますか?」


 今日一番の真面目な顔を見せたので、俺は剣なんか振ってられるかと早々に長生きするための努力をやめて、静かにうなずき返した。


「今回、あの子が倒れたことに端を発した一連の騒動は、騎士が一人の護衛をとらえたことで一応の解決を見ました。しかしその護衛の背後に帝国の影がちらついているらしく、流れている醜聞と合わせて、本来向くべき方向から注目がそれてしまい、結局あの子の演技の件はうやむやになってしまいました」


 リゼットは悔しそうに歯噛みして、


「あの子が進んで演技したとは思えません。誰かがあの子を巻き込んだのです。この機にあの子の周囲から(うみ)を出し切りたかったのですが、それもかなわず、私の疑いも完全には晴れず、いつまでも監視が外れません。こうして理由がなければ、理由を作らなければ貴方に会うこともできない」


 めずらしく怒りをあらわにして、それを見せまいとしてか、顔をうつむけた。

 ただ俺にはよくわからない。確かに護衛がつかまっておきながら、疑いが晴れなかったことは残念だろう。しかしリゼットの言う残念なことというのはそこではなく、理由がなければ会えないというところらしい。

 うん、やっぱりよくわからない。いや俺が間違っているのだろうか。リゼットを疑う気になれず、自分を疑ってみるも、疑えば疑うほど普通に会えるような気がしてきて、


「別に用があるなら会えばいいんじゃないですか?」


 俺はリゼットの後頭部に思ったままを投げかけた。するとリゼットは顔をうつむけたまま深刻そうに、


「私と貴方の関係を監視に知られるわけにはいきません」

「そうじゃなくて」


 俺は頭をかく。いつもの()えがリゼットにない。否、冴えようがないほど俺の考えていることがくだらないだけなのかもしれないが……。


「たとえばですけど、伯爵に伝言を頼まれたことがきっかけで二人は知り合った。とすれば無理なく会えると思いませんか?」

「へ――?」


 リゼットから聞いたことのない間の抜けた声が上がった。それどころか、うつむけていた顔をあげて、口を半開きにして固まっている。なんとなく珍しいものが見れて得した気分だが、このまま放っておくわけにもいかないだろう。

 俺はさすがに長居しすぎたみたいだなと、焦れた様子でこちらへと向かって歩き始めた監視を一瞥(いちべつ)して、結論を急ぐように、


「ま、要するに協力関係とは別に、普通に友達になりましょうってことですよ。なあに、俺は亜人とも共和国人とも友達になれたんです。公爵家の令嬢と仲良くするぐらい余裕ですよ」


 自信満々にドンと胸をたたいて、どこからでもかかってこいとでもいうように不敵に笑うと、


「貴方という人は……」


 まったく、とリゼットはあきれたようにため息を吐き、それから嬉しそうに笑った。


「仕方ないですね。いえ、仕方ありませんわね」


 リゼットは晴れ晴れとした表情でベンチから立ち上がると、自ら迎え入れるように監視のもとへと駆けていく。そのまま帰るのか? と思いきや、監視を引き連れて、それも剣を片手に戻ってきたかと思うと、


「よろしいでしょう。わたくしが特別に手解きをして差し上げますわ。これも何かのえにしですもの」


 口元に微笑をたたえて、リゼットは俺の鼻先ギリギリを振りぬいた剣の先でかすめた。


「のわぁッ!」


 あっぶねえ!


「のわぁ?」


 リゼットはこの人なに言ってるんだろうという顔をしている。見れば後ろの監視もこいつダメだみたいな顔をしていて――。

 へいへい、ここで印象付けておくのね、と俺はリゼットの意を()んで、深く頭を下げた。


「未熟者ではありますが、ご指導よろしくお願いいたします」


 どうやら人目を忍んで、一人さびしく素振(すぶ)りをする必要はなくなったようだ。


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