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「私と結婚して王子と妹の仲を引き裂いてほしいんです」――どうやら悪役令嬢の本命は俺のようです。  作者: たまにわに
第三章 つぎはお嬢さま自ら攻めてみるようです
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第55話 どうやら安心していいようです

 まあ無事かどうかは今のリゼットを見ればわかるのだが。と俺が深刻でも何でもない気持ちで聞くと、リゼットはしみじみとうなずき、


「王子とルミエ家を中心とした貴族がクレア・ヴォルテールに助力を()い、共和国から呼び寄せた医術師団(いじゅつしだん)がその日のうちに到着したこともあって、順調に快方に向かっているそうです。どうやらクレア・ヴォルテールは初めからそのつもりで人員を動かしていたようですね。あの子が無事だということ以外は、私もつい先日知ったことですが」

「そうですか。ま、とにもかくにも、助かったことがわかってよかったですよ。確かめようにも機会がなくて困ってたものですから」

 

 にしても王子に頼まれた、か。マリーが俺と接触した時点でそこまで見越していたかはわからないが、おそらく王子もルミエ家も、それ以外の貴族もソフィアを助けるにあたって、それ相応の対価をマリーに支払っているか、これから支払うことになっているであろう。つまるところがマリーは見返りを二重取り、俺は不正の証拠をただ渡しただけになるのかもしれないが……まあ、結果良ければすべてよしということに今はしておこう。

 マリーが食わせ物だとしても別に構わない。助けてはくれたのだから。


「しかし俺にはマリーって名乗ってましたけど、そんな名前だったんですね」

「やはり医術師団の到着が早かったのは、貴方のおかげでしたか」


 リゼットにとっては俺がマリーにソフィアを助けるよう頼んだことも、あらかじめ想定していた可能性の一つだったのか。俺の一言から事の全容を察したように穏やかに目尻を下げると、


「クレア・ヴォルテールに渡しましたね? 対価として」

「渡しましたけど、あいつはこれじゃ足りないみたいに言ってましたよ」

「そうなんですか?」


 リゼットはめずらしく驚いたように目を見張り、


「クレア・ヴォルテールは情で動いたり、動かされたりするような人間ではないと思っていたのですが」

「よくわからないですけど、俺には甘えるのが下手なただの子供に見えましたけどね。ま、ちょっぴり大人びてはいましたが。何なら俺のほうからかなり強引にですけど、友達にだってなれましたよ?」

「ともだち?」


 リゼットは信じられないと先ほどにも増して驚いたように目を見張り、やがてもう笑うしかないといった様子で肩を揺らし始めたかと思うと、


「クレア・ヴォルテールは共和国の目、観察するのが役割だからこそ、積極的にはかかわってこない。そんな分析も見解も貴方の前では意味をなさないのかもしれませんね。思えば夜会で貴方に助け舟を出したことからして変でした。もしかしたら気に入られたのかもしれませんね。共和国が不正の証拠を盾に、要求を迫ってこなかったことにもそれで説明がつきますし」

「あの、いまさらこんなことを言うのもアレなんですけど、渡してもよかったですよね?」

「はい。と言いますか」


 リゼットは座ったまま俺の顔をのぞきこむように首をかしげると、


「必要なら貴方の判断で使ってくださいって私、言いましたよね?」


 私が怒るとでも思ったんですか? と鋭い視線で射抜いてきて、


「いや、」


 と気づいたときにはもう、俺は早口で弁明するように口を開いていた。


「俺としてもマリーが共和国人で、騎士も簡単には手出しできない立場にあるってことぐらいは承知の上で渡したので、それなりに悪いというか、国のことを思えばかなりやばいことをした自覚があったと言いますか……」

「たとえ貴方の選択で国が滅んだとしても貴方が気にする必要はありませんよ。そうなったときに責めを負うべきは、貴方を信じて判断をゆだねた私ですから」


 リゼットは俺の抱いていた罪悪感が勘違いだとでも言うように、あっけらかんと言った。そして俺は耳を疑った。たとえ国が滅んでも気にするな? そうなったら私のせい? リゼットは自分の能力に自信があるからそう言えるのだろうが、いや実際にそう言えるだけの能力はあるのだろうが、常に正解を選び続けられる人間などいないのだ。

 というかいくら気にするなと言われても、自分のせいで国が滅んだらさすがに気にするわ!


「それに先ほどは共和国が要求してこなかったと言いましたが、なぜか醜聞(しゅうぶん)は流してくれました。王家は出所(でどころ)を探していますが、もし突き止めることができたとしても、相手がクレア・ヴォルテールでは何もできないでしょう。つまり渡した相手が王国の人間であれば一波乱(ひとはらん)起きていたところを、貴方はクレア・ヴォルテールに渡すことで未然に防ぎ、その上で不正を暴露するという見事な立ち回りをやってのけたというわけです」


 リゼットはそこで一呼吸おいて、


「安心してください。貴方はとてもいい選択をしました。むしろあの子を救っておいて、まだ悪いことをしたのではないかと気にし続けるようなら、私は貴方を本当に叱らなければならなくなります」


 困ったように眉間に少しだけしわを寄せて、眉尻を下げた。そのまるで俺がわからずやだとでも言いたげな表情に、どうしてこうなった? と一瞬わけがわからなくなったものの、『あの子を救っておいて』という部分には確かにと思わされたため、もういいかと俺は面倒になって納得してしまうことにした。

 そもそも悪いことをしたとは思っていたが、間違ったことをしたとは思っていなかったしな。


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