第47話 どうやら俺は一言多いようです
「少なくとも、らしくないと言った俺に、らしさとは何かと聞き返すような人ではなかったと思いますけど」
「ほかにありますか?」
「こんな風に俺に甘えるような人でもなかったですね」
「まだありますか?」
「そもそも相手にやりたい放題やらせすぎといいますか」
「話したいこと、いっぱいあるじゃないですか……」
確かに、と俺は肩をすくめた。
「ソフィア様が倒れたときに本当だと信じて、演技の可能性を疑わなかったこともそうですね」
「気が動転していたんです。そんなことをするような子じゃなかったので余計に」
「誤解を解こうともせずに、最初から力ずくで押しとおろうとしたのもいま思えばそうですね。王子殿下が気の毒でしたよ」
「だから気が動転していたんですっ。それにあの子が血を流したのは事実ですし」
リゼットはそう言ってふと黙り込んだかと思うと、
「もしあの子に何かあるようなら……」
俺の腕をつかんだまま、その手にじわじわと力を入れ始め、
「いててててっ」
俺が音を上げても手を離そうとしないので振り返ると、そこにはただならぬ雰囲気で視線を落とし、珍しく我を失っているかのようなリゼットがいた。
まったく、今日のお前は本当にどうしちまったんだ?
おーい、帰ってこーいとちょっぴりからかうようにそのほおを指先でつつくと、
「……」
リゼットが無言で俺をにらみつけてきた。どうやららしさを取り戻すにはあとひと押し必要なようだ。やれやれ、仕方のやつだなと追加で二回つつき、楽しくなってまだまだあ! と三回目に入ろうとしたところでリゼットに指をつかまれた。
あ、折られる? 調子に乗りすぎたなと俺が反省していると、リゼットが唇をかすかにとがらせて、
「らしくないのは貴方のほうです」
わかりやすく目をそらし、視線をさまよわせた。
「確かに」
俺はまた気まずくなって、それをごまかすように夜空を見上げた。
「コンが相手でもあるまいし」
「なるほど」
リゼットは俺から手を離して、
「もしあの子に何かあったときは、まず貴方の一言多い口をふさいでから割ることにします」
「それ意味なくね?」
いいえ、とリゼットは首を横に振り、ニッコリと笑って、
「すっきりします」
一方的に告げると、くるりと踵を返し、俺の前から足早に去っていった。
♦
次の日の午後。騎士候補生としてのその日の予定がすべて終わった俺は、学園の中央講堂――ではなく、その横の薔薇園へと足を向けた。
理由は単純にして明快、夜の薔薇園の記憶が新しいうちに、明るいうちの薔薇園を見ておきたかったのと、ついでに何か進展がないものか、会場の様子を軽くうかがっておこうと思ったからだった。
ただまさか道を歩いているだけで騎士に囲まれることになるとは思わなかった。いや、昨日の今日で会場近くを俺がうろついていたらそうしたくもなるだろう。たまたま知り合いの騎士が現れて難を逃れたものの、危ないところだった。
そう、ガナッシュが間に入って、騎士を追い払ってくれなければ、昨夜のコンの労力を無駄にした挙句、また何日も拘束されていたかもしれない。
「いやー、助かった」
「そこは助かりました、だろ」
「へいへい、助かりました」
じゃ、俺はこれで。と追い払った騎士たちの遠ざかる背中に何やら熱視線を送るガナッシュをその場に残して歩き始めると、すかさず肩をがっしりとつかまれた。
「で? カイルくんは昨晩の夜会でいったい何をやらかしてくれたんだ?」
ガナッシュは不敵な笑みを浮かべて、顔を近づけてくる。どうやら初めからそのつもりだったらしい。まあ何もなしに助けたりはしないだろう。そもそも俺は夜会に参加するため、ガナッシュに服を借りたのだ。そのときに日時と場所も当然のように話している。また騎士としてここにいる以上、昨夜なにがあったか、その詳細についても知っていることだろう。
要するに言い逃れなどできない。ただすでに知っていることを改めて俺の口から聞きたいというのがよくわからないが、助けられた手前、聞きたいというのなら話すのが筋だろう。
下手に隠す意味もないしな。俺はやれやれと頭をかいて、
「リゼット様が用意した白湯をソフィア様が飲んで倒れた。その白湯を俺がちゅーちゅー吸って毒入りじゃないと証明した。知ってると思いますけど、それ以上でもそれ以下でもありませんよ」
「そうか、中ではそんなことがあったのか」
ガナッシュは俺の肩から手を離して、考え込むようにあごに手を当てる。そのまるで初耳であるかのような反応に、まさか知らなかったのか? と俺が眉間にしわを寄せていぶかしんでいると、ガナッシュが苦笑を浮かべて、
「さっきの連中は知ってたみたいだけどな。僕みたいに後から合流した組には何も知らせるな、だ。それに会場に騎士を入れるなともお達しがあったみたいでね。どうもおかしなことになっているなと思っていたんだが……」
そういうことかと勝手に一人で納得したようにうなずくと、
「なるほど、リゼット様が関係していたのか。どおりで上がもめているわけだ」




