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どうやら悪役令嬢の本命は俺のようです  作者: たまにわに
第三章 つぎはお嬢さま自ら攻めてみるようです
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第46話 どうやらお嬢様は重症のようです

「私です。後はつけられていないようですが、念のためそのまま適当に歩き続けてください」


 俺は振り返らずにうなずいた。


「そこ左です」


 適当とは? 俺は微苦笑を浮かべながら道を左に曲がった。すると背後にいたはずのリゼットがなぜか正面に立っていて、あれ? いつの間に? と思わず後ろを振り返り、誰もいないことを確認してから、また正面へと向き直った。


「驚きました?」

「とても」

「ここ、私のお気に入りなんです。今は陰が多くて見づらいですが、道を知っているといろんな回り方ができて楽しいんですよ?」


 リゼットは心なしか楽しそうな背中を向けて、さっそく案内でもするかのようについてこいと歩き始める。どうやら話の続きは歩きながらということらしい。まあ後はつけられていないと言っていたが、用心するに越したことはないだろう。それにせっかく薔薇のよさが少しわかってきたところだ。立ち話はもったいない。

 俺が望むところだとあとを追いかけて横に並ぶと、リゼットが軽く十枚以上はあろうかという紙の束を差し出してきて、


「王家、その中でも特に王子に関わる不正の証拠です。しかるべき時に公表するつもりでしたが、貴方が持っていてください」

「持っていたくないんですけど」

「あの場で公表してもよかったんですよ?」


 リゼットは遠回しに俺の罪悪感を刺激してくる。やはりというべきか、リゼットにはあの場でことを起こす選択肢があったらしい。それが状況の変化によって生まれたものなのか、初めからあったものなのかはわからないが、俺があの場にいなければこの紙の束はすでに用済みになっていたかもしれないわけだ。いや、リゼットならやると決めたらやるだろう。俺がいなければというのは自分でも少し恥ずかしいぐらいに思い上がりもいいところだ。

 しかし公表するつもりがあるのなら自分で持っておくべき、そう思うのだが、これからできなくなる、あるいはしばらくしないほうがいいとでも考えているのだろうか。とりあえずどう転ぶことになったとしても身軽なほうが起き上がりやすいかと、俺はリゼットがこれから背負う重圧に比べれば、軽い荷を引き受けるように不正の証拠とやらを受け取って、チラとも目を通さずに懐へと突っ込んだ。

 リゼットは俺に持っておけといった。別に内容を知らなくてもいいはずだ。まあ持っているだけでも危険な代物。内容を知っていようが知らまいが、持っているのを誰かに見つかった時点でろくなことにはならないだろうが。

 俺がこんな分厚い紙の束、どうやって隠し通すんだ? と遠い目をして問題を先送りにしていると、心中を察したようにリゼットが微笑を浮かべて、


「不正の証拠と言いましても、私のように立場ある人間の言葉が伴って初めて効力を発揮するものです。見られる分には何も問題はありませんよ。もし必要なら貴方の判断で使ってくれてもかまいません。単純にこれから私に入るであろう身辺調査(しんぺんちょうさ)やつくであろう監視の目を考えますと、私が持っているよりも貴方が持っていたほうがいいと思いまして。今の貴方なら使いようもあるでしょうし」

「心配はしていませんが、俺が個人的に奔走(ほんそう)しなくてもいいように、なんとか切り抜けてもらいたいものですけどね」

「アポロニアを巻き込むなと言いたいんですか? 相変わらずコンスタンツェさんに優しいんですね」

「しつけの賜物(たまもの)ですよ。近所の爺さん連中に子供は宝だ、優しくするべきだって、耳が痛くなるほど言い聞かされましたからね」

「子供……ですか」


 リゼットは何やら思うところがあるようだが、それを今この場で問題にする気はないようで、ため息まじりに、


「今はそういうことにしておいてあげます」


 しぶしぶといった様子で納得を示すと、胸に手を当て、静かに息を吐いた。


「そろそろ戻らないとあやしまれますね。しばらく会えなくなると思いますが、今のうちに何か話しておきたいことはありますか?」

「話しておきたいこと、ですか」


 聞いておきたいことならいくつかあるのだが。まあリゼットのことだ。時間がないから、あえてそう言わなかったのだろう。思えばリゼットは早くに会場を出たのに、俺が会場を出るのに手間取って、かなり待たせてしまった。リゼットの立場をこれ以上悪くしないためにも、今は一秒でも早く家に帰してやるべきだろう。

 余計な気を使わせても悪いので、


「特にないですね」


 カラリと言うと、リゼットが不意に足を止めて、


「貴方はさびしいとか思わないんですか?」


 俺の腕をつかんでそっと引き止めた。


「私は思いますけど……」


 リゼットの消え入りそうな声に俺は一瞬振り向くかどうか悩んで、結局振り向かずに、ただ正面を向いたままというのもなんだか気まずくて、その気まずさをごまかすように夜空を見上げた。


「らしくないですね」

「らしさってなんですか」


 これは思ったよりも重症だなと、俺は背中を向けているのをいいことに、遠慮なく苦笑いを浮かべて頭をかいた。


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