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どうやら悪役令嬢の本命は俺のようです  作者: たまにわに
第三章 つぎはお嬢さま自ら攻めてみるようです
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第45話 どうやらまだ帰れないようです

「王子殿下!」

「殿下! これはいったい……」


 俺の思惑(おもわく)通りに王子を問いただし、また俺の代わりに疑いの目を向けてくれる護衛。そのうちの数名がリゼットへの疑いを晴らすように構えを解くと、顔に鼻血の跡をつけた王子が説得を試みるように護衛へと詰め寄り、


「何をやっている! だまされるな! リゼットがやったんだ、リゼットがあ!」


 ある者には肩をつかんで揺さぶり、またある者には大げさに両手を広げて訴えかけた。しかし護衛の反応はにぶい、というかしぶい。口でこそ調子のいい言葉ばかり並べてみせるが、そこに再び剣を構えるといったような行動が伴わない。

 それを見て、王子は無駄だとさとったのか、訴えかける相手を変えるように貴族たちへと向き直り、


「こいつのせいで俺は死にかけたんだ! 俺はこいつに殺されかけたんだ! スミレ座の前で! そう、そうだ! グレイスタイン(こう)!」


 白髪まじりの短い黒髪に丸眼鏡をかけた初老の男性を指さして、


「侯は見ていたはずだ! リゼットが(ぞく)()を差し出そうとしたところを!」


 どこかすがるような視線を送った。ただグレイスタインの心は初めから決まっていたのか、ほとんど間を空けずに首を横に振ると、


「アルフレッド殿下、それは違います」


 毅然(きぜん)とした態度で真っ向から否定した。それどころか直後に食ってかかろうとする王子を恐れしらずにもほどがあるだろうに手で制して、


「リゼット様は確かに殿下を守ろうとはしていませんでした。しかし私と私の従者をお救いになられた。それどころかその場に居合わせ応戦した騎士も、スミレ座の警備も、運悪く通りがかっただけの平民たちの命も賊から守られたのです」


 グレイスタインは人差し指を立てて眼鏡の位置を直し、


「アルフレッド殿下、リゼット様を疑うあまり貴族たちを外に出したのは失敗でしたね。おそらくこのような事態をまねいた愚か者はその中にいたことでしょう。私はスミレ座でのリゼット様の行動を支持します。そしてこの場でのリゼット様の無罪を主張し、そのために尽力することを宣言いたします」

「はっ、ははっ……ハハハハハハハ!」


 王子は突然(くる)ったかのように笑い出したかと思うと、


「うわあああああああ!」


 直後に両手で頭を抱えてひざから崩れ落ちた。その原因というか、きっかけは俺にあるのだが、王子にはできれば一生気づかないでいてもらいたいところだ。それに王子は何やら絶望しているようだが、本来ならひざから崩れ落ちはしなくても、頭を抱えなければならないのは俺やリゼットのほうだ。

 そう、俺が証明したのは白湯に何も入っていなかったということだけで、ソフィアが倒れたことにリゼットが無関係だと証明したわけではない。かけられた嫌疑(けんぎ)を晴らすためには、真犯人を捕まえる以外にないのだ。要するにしばらく苦しい状況が続くことが予想される。

 それでも今だけは、今だけは急場をしのげたことを喜びたいところだ。

 王子が注目を集めているのをいいことにリゼットにチラと視線を送ると、ぷいとそっぽを向くように窓の外へと目を向けられて、俺はまだ帰れなさそうだなと肩をもみながら、ふわとあくびをひとつ浮かべた。

 口直しにタルト、いや景気づけにミートパイでも食うかあ。



 ♦



 それからもう一度服を着替えて、騎士と入れ替わりで王子と護衛が会場をあとにした、その後。

 事情聴取という名目でまた騎士に拘束されそうになったところをコンに助けられて、ようやく会場をあとにした俺は、つけられていないよなと何度も背後を確認しながら、中央講堂の横に位置する薔薇(ばら)(えん)へと足を踏み入れた。

 しかし騎士のお前がやったんだろというような、決めつけから入るやり方は本当にどうにかならないものか。ゴールドシュタインの一件で好感度を下げたのも一因だろうが、いくら騎士に貴族が多く、俺が平民だからそうしやすいのだとしても、何かと理由をつけて身分や権力を振りかざすのはやめてほしい。まあ今回に限って言えば、毒入りとされた白湯を飲んだのは俺とソフィアだけなので、よく話を聞いておきたいという騎士の気持ちもわからないでもないのだが。

 にしても常闇(とこやみ)の薔薇園か。貴族たちからしてみれば、あくまでも舞踏の間を彩る一つの要素に過ぎないのだろうが、俺のような花にあまり興味のない人間でもついつい足を止めてじっくり見たくなってしまうのだから、たとえ薔薇園単体で見たとしても、ここは十分に魅力的な場所だといえるだろう。それこそ常闇のと呼ばれる所以を確かめるためだけに、また日中に足を運んでもいいくらいだ。ただソフィアの件がなかったとしても平民の俺は会場には入れないだろうから、そのときは普通に夜とは違う薔薇園の顔を楽しむだけになるだろうが。

 まあそれはそれで悪くはないか。なんてことを考えながら、しばらく月明りだけを頼りにバラとバラの間の道を歩いていると、不意に背後から声をかけられた。


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