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どうやら悪役令嬢の本命は俺のようです  作者: たまにわに
第三章 つぎはお嬢さま自ら攻めてみるようです
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第42話 どうやら王子は温かい飲み物をご所望のようです

「酒を持ってこい! おい! 聞いているのか!」


 聞いてるよ。俺は一瞬だけ考えて、はいはいかしこまりましたよ、(おお)せのままにと無言で深く頭を下げた。それは下手に言葉を交わして、礼儀作法を指摘されても面白くないと思ったからだったが、我ながらとっさにしては賢い選択をしたとほめてやりたいところだ。おかげで王子の口を二秒とかからずにふさぐことができた。

 ただうかうかはしていられない。せっかく閉じた口もいつまた開かれるとも限らないのだ。先を急ぐように顔を上げて、キョロキョロと俺のような偽物ではなく本物の給仕を探していると、俺のを僕のを私のを持っていけと集まってきた給仕たちに、それぞれ違う種類の酒が乗ったお盆を差し出された。

 うーん、ありがたい。ありがたいのだが、それはすなわちこの中の誰も王子の正解を知らないということでもあった。

 まいったな。俺が当たりを引くまで、この遊びが終わらないなんてことにならなければいいが。いっそのことこのまま全員で押しかけてみるか? いや、王子は俺をご指名だ。一人で行かなければより面倒なことになるだろう。

 より取り見取りだというのにどのお盆も手に取れずに悩んでいると、周りの給仕たちが俺の苦悩を察したように、一枚のお盆にそれぞれのお盆から一杯ずつ酒を集めてくれた。

 まったく、給仕服に着替えただけでずいぶんと仲間意識を持たれたものだ。俺は全員では押しかけられないが気持ちは全員分のせていきますよと、グラスを乗せすぎてずっしり重たくなったお盆を手に取り、


「ありがとうございます。助かりました」


 無言でうなずく給仕たちのもとを離れて、王子の待つ中央へと向かって歩き出した。そして自然と最短距離を指し示すように左右へと別れていく貴族たち。本来なら道をゆずるのは平民である俺のほうだろうにと内心で苦笑していると、


「うぎゃ!」


 不意に何かにつまづいて盛大にずっこけた。それでも床に打ち付けたのは俺だけで、グラスが割れなかったのは奇跡だろう。冷たい大理石に手をついて足元のほうに振り返ると、アメリアが先ほどまで俺が持っていたはずのお盆を手にたたずんでいた。

 あれ? 俺は自然と自分の手元を確認して、またアメリアに目を向ける。どうやらグラスが割れなかったのは、俺がこける前にアメリアがお盆を回収したからだったようだ。というか足をひっかけたのはこいつだろ。いや、足というかこいつの場合しっぽなのだが。なんにせよ器用なことをするもんだ。

 ただ何のために? とそ知らぬ顔のアメリアを下から見上げていると、コンが顔をこわばらせて、その小さな背中で俺を隠すように歩み出てきた。


「アルフレッド殿下。このカイル・シュヴァリエは給仕ではありません。私の命の恩人にございます。どうか、お(たわむ)れもそのあたりでご容赦を。 私の命を救った者の尊厳が傷つくことは、私自身が傷つくよりも耐え難きことにございます」


 いやそこまでのことか? と思ったが、次の瞬間には俺の頭の中はコンを巻き込んでしまったということでいっぱいになった。こうなってしまった以上、リゼットには今日のところはおとなしくしておいてほしいところだが、それ以前に予測不能な王子の不興をコンが買うようなことにでもなれば、俺がきっかけで王家とアポロニア家の対立にまでつながりかねない。

 いつまでも床で寝てられないなと立ち上がると、王子の舌打ちが聞こえてきて、


「リゼット、お前がもってこい」


 まるで八つ当たりのように、今度はリゼットが指名された。ただ当のリゼットはというと王子の乱暴な物言いも、給仕として扱われることにも表情一つ変えることなく、静かにドレスの左右をつまんで少しだけ持ち上げると、


「かしこまりました」


 その場で片足を引いて両ひざを曲げ、背筋を伸ばしたまま腰を落とした。その一連の動作に周囲から感嘆の声が漏れ聞こえてきたが、リゼットはここからが本番だといわんばかりにまた凛とした立ち姿に戻ると、


「あくまでお戯れを通されると仰せられるのであれば、殿下のそのお戯れ、わたくしが(しつら)える温かい白湯(さゆ)で、穏やかに洗い流して差し上げましょう」

「さ、白湯? 酒が飲みたいと言っておるのに白湯だと? お前は余に恥をかかせたいのか?」

「殿下、わたくしは殿下に酔いに身を任せるよりも、アポロニア家の令嬢が臣下としての務めを果たして捧げた諫言(かんげん)を、じっくりと噛み締めていただきたいのです」


 わかっていただけますね? 殿下、とリゼットは言葉にすることなく、あえて微笑を浮かべた。その瞳が笑っているのに氷のように冷たくて、


「もう白湯でも何でもいいから、とにかく温かいものをもってこい!」


 王子はリゼットに背を向けて、寒さをしのぐように自分自身の肩を抱えた。さすがはリゼットだ。王子のしつけも手慣れたものだなと眺めていると、


「よかったぁ……」


 コンが振り向いてきて、盛大にため息をつき、安堵(あんど)の表情を見せた。


「アメリアが急にやばそうなにおいがするって言うからさ」


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