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どうやら悪役令嬢の本命は俺のようです  作者: たまにわに
第三章 つぎはお嬢さま自ら攻めてみるようです
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第41話 どうやらタルトのように甘かったようです

 まったく、なんて世の中だ。ラミアの演技の良さは人間に伝わるというのにその逆はだめなのか。不公平だなと俺が内心で悪態をついていると、


「か、カイル、シュヴァリエ……?」


 目の端で王子の表情が狙い通りとはいかずに険しくなり始める。まずい。これはもしかしなくても、俺が許したんだからお前も許せよ作戦は失敗かもしれない。

 アメリアも無言で同意するように、どうするつもりだと俺の手を強くにぎってきたところで、

 

「さすがはカイル・シュヴァリエ、うわさ通りの男だね。顔を出すつもりはなかったけど、のぞいてみて正解だったよ」


 聞き覚えのない声で背後から助け舟が入った。それがあるならコンかリゼットからだとばかり思っていたが、奇特(きとく)な奴もいたもんだ。少しだけ驚きながらも背後へと振り返ると、そこには少年とも少女とも見分けがつかない、とにかく中性的な子供が子供らしくないうす笑いを浮かべて立っていた。

 それも素足を出してはならないという、俺でも知っている正装の常識を真っ向から否定するような短パンをはいてだ。


「どうでしょう、アルフレッド第一王子殿下。平民のシュヴァリエがこうして許したのですから、王家が許さないというわけには――」

「もういい」


 王子は目に見えて不服そうにしながらも、なぜか矛をおさめ、


「着替えてくる。ソフィアはここにいろ」


 その鋭い視線で道を開けさせるや否や、護衛とリゼットを連れて、逃げるように会場を出て行った。

 なんてこった。別に困りもしないのだが、むしろ喜ぶべきことなのだが、まさかこんなにもあっさりと事態に収拾(しゅうしゅう)がついてしまうとは。

 あっけにとられていると、アメリアが(ふところ)からハンカチを取り出して、


「やれやれ、うまくいってよかったですね?」


 俺の服をトントンと軽く叩くようにしてふき始めた。人命を優先するばかりに忘れていたが、そういえばこの服は借り物だった。まあガナッシュはなんだかんだ言いながらも俺に服を貸してくれるようなお人よしだ。正直に話せば許してくれるだろう。

 ……許してくれるよね?


「もう少しでお嬢様を守るために、貴方に命令されたと白状するところでしたよ」

「おい、事実をねじ曲げるな。俺はお前に頼んでない。そんなことより……」


 助かった。そう一言お礼を言おうと思って正面のアメリアから背後に目を向けるも、短パンの子供はいつの間にやらいなくなっていた。



 ♦



 それから貴族たちが何曲か踊り、いよいよ夜も更けてきたころ。

 コンとアメリアと俺の三人で十分すぎるほど食事を楽しみ、そろそろお開きにしてくれないかなと会場の隅でひとり思っていると、王子がまた護衛に囲まれて会場に戻ってきた。

 にしても金の次は銀か。相変わらず輝いているなと思っただけでそれ以上の感想も浮かんでこなかったので、俺はすぐに興味を失ったように、王子からそっとその背後へと視線をずらした。

 リゼットは深い青のままだ。しかし校舎裏で見るリゼットが緩んでいるとまでは言わないが、引き締まった顔つきとすきのない雰囲気は、なんというか遠くから見ていても迫力がある。そのせいかはわからないが、話しかけられてもあまり会話は弾んでいないようだった。

 まあこれがいわゆるリゼット本来の姿で、校舎裏で俺に見せている姿は、俺が話しやすいようにいろいろと工夫してくれた結果なのだろう。

 だとしても芝生(しばふ)に寝るか? という疑問が浮かばないでもないが、それもまた俺に程度を合わせてくれた結果なのだ。うん、そうに違いない。

 あまりじろじろと見ていて目が合っても気まずいのでリゼットから横に目をそらすと、コンとアメリアがちょうどグラスを手に帰ってきたところだった。


「あ、戻られたのね」


 会場の中央に出来上がった人だかりをチラとみて、コンはグラスをかたむける。まさか酒じゃないだろうなとその無色透明な液体を見ていると、


「ただの香りづけされた水よ。アンタも飲む?」


 コンが飲みかけのグラスを差し出してきたので、俺ははしたないぞと丁重に押し返し、代わりにアメリアのグラスを奪って、一口飲んでなんだ水じゃないかとすぐに突き返した。


「あの、お嬢様はお気になさらないとしても、私は気にするんですけど」


 アメリアはそう言いながらもグラスをくいっとかたむけ、


「カイル、あれほどもう食べるのはやめておきなさいと言ったのに、またタルトを食べましたね?」


 一気にすべて飲み干してから口角を下げ、俺がそうしたように空のグラスを突き返してきた。どうやら返してこいということらしい。


「俺は給仕じゃないんだぞ」

「給仕服を着ているのに?」


 やれやれ、と俺は頭をかいてグラスを受け取る。コンの(はか)らいで着替えさせてもらった給仕服だが、会場の異物としてずっと目立っているのもあって、誰一人として俺を給仕扱いしないというのに、こいつは相変わらずだな。

 アメリアをあきれたように見ていると、コンも何やら面白がるように空のグラスを突き出してきたので、計二本のグラスを手に、ついでに俺も飲ませてもらうかと水を求めて会場を歩き出した。

 まあ俺が給仕服を着ていてからかうのはコンとアメリアぐらいだ。招待状をくれたぶんくらいは、遊びに付き合ってやってもいいか。

 そんな考えを甘いと嘲笑するように、


「おいそこの給仕! 違う! お前だ! カイル・シュヴァリエ!」


 俺はこの場でもっとも絡まれてはならない人間に声をかけられて、前言撤回と天を(あお)いだ。否、そんなことはしてはいけないので、ぐっとこらえて不本意ながら足を止めた。

 そういえば俺をおもちゃにしそうなやつが、この場にはもう一人いるんだった。


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