第4話 どうやら俺の味方は一人しかいないようです
「さっきから何をチラチラ……ああ、声援が羨ましいのかい?」
「よくお分かりで」
俺は羨望と嫉妬混じりの視線をガナッシュに向け、ついでに構えた剣の角度を調節して頭上から降り注ぐ太陽光もその目元に向けてやった。
「うなっ!?」
ガナッシュはたじろぐ。だが、それも一瞬のこと。こちらが踏み込む素振りを見せるや否や、即座に鋭い横薙ぎが飛んでくる。それは近づかせまいとする、正騎士らしい見事な対応だった。
やはりというべきか、不意を突いたところで埋まる力量差ではない。
――しかし、そこまでは織り込み済み。
一度打ち合いこちらを格下と認識したガナッシュなら、素直に引くことなく、意地になって迎え撃つ。そう信じて間合いの外で足を止めていた俺は、ガナッシュの『見事な対応』が虚しくも空を切ったところで、待ってましたとばかりに下段に構えた剣で故意に大地ごと切り上げた。
言うなれば、二段構えの目つぶし。
振るった刃こそガナッシュに届かないが、豪快に巻き上げ、勢いよく飛ばした細かな砂と石の破片が真正面からガナッシュに襲い掛かる。
「うななっ!?」
見っとも無い声を上げて、視界と共に冷静さも失ってしまうガナッシュ。もはやこうなってしまっては実力差などあってないようなものだ。
さて、どう調理したものか。そんな風に逡巡する余裕すら持ちながら、俺はガナッシュの剣をぶっ叩き、その後方へと弾き飛ばした。
「イャー!」
闘技場の黄色い声援が悲鳴に変わった瞬間だった。
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「両者、前へ!」
別に敗北が死を意味するわけでもなし。リゼットには悪いが勝てなければそれはそれで仕方がない、そう思っていたのだが。実際に蓋を開けてみれば一回戦で格上の正騎士相手に俺は勝利し、二回戦は対戦相手が一回戦で受けたケガを理由に棄権し、気が付けばあれよあれよという間に三回戦へと進んでいた。
そしてまた俺はガナッシュの三倍はあろうかという体躯に重そうな鎧をまとった対戦相手の戦士、王都の門番を任されているというハンス・ガイストールなる筋肉の塊のような男と向き合っていた。
いや、本当に同じ人間か? 剣盾祭も三回戦となればその実力も内容もぐっと上がってくるであろうことは分かっていたが、これはもう打ち合うとか以前の問題のような気さえしてくる。というかまともに打ち合ったら殺されるのでは?
剣盾祭は貴族も参加するため剣の刃は落とされているが、このハンスとかいう男が振るえばどんな鈍らでもスパッとはいかないまでも、グシャっと叩き切るぐらいは簡単にやってのけそうな気がする。
「カイルとか言ったな。降参するなら今の内だぜ? まっ、お前が俺と平民同士仲良くしたいっていうんなら別だがな」
「仲良く?」
あんたと肩を組んだら、その拍子に俺の首が折れそうだけどな。チラと目だけでリゼットを探すも、その姿は一回戦で見た場所には見つからなかった。
「そんなつもりはこちらには毛頭ありませんよ。ただ俺はよくても周りがそれを許してはくれそうにないですし。このまま素直に引き下がったら、夜道どころか、普通に街を歩くことすらできなくなりそうで、今からビクビクしてますよ」
耳を澄ませなくても聞こえてくる罵詈雑言。そのほとんどが一回戦の試合内容に関する批判や野次だが、その中には度を越えて物騒なものもある。このまま何もせず棄権したならば、日常生活に支障をきたすこと間違いなしだろう。
「まっ、それもそうか。死んでも恨むなよ?」
「死なせないでくださいよ。失格になりますよ?」
「どうかな」
ハンスが観客席を一瞥し、ニヤリと笑う。どうやら観客はそれを望んでいる、ハンスは暗にそう言いたいらしい。
しかし一度勝っただけでこれか。確かに正々堂々とは言えない勝ち方だったが、まるでこの場のすべてを味方につけたかのようなハンスの振る舞いに、俺は力なく苦笑するしかなかった。
早く帰ってこいリゼット。どうやら俺の味方はお前しかいないらしいぞ。




