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どうやら悪役令嬢の本命は俺のようです  作者: たまにわに
第二章 つぎは妹を攻めてみるようです
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第32話 どうやらお嬢様は恥ずかしいようです

 地下でコンと別れてから六日後の午後。

 久しぶりに学園へと帰ってきた俺を息つく間もなく呼び出し、いつもの校舎裏で待ち構えていたのは、なぜか芝生の上に寝ころんで空を見上げるリゼットだった。


「なにやってんだ? じゃなくて、なにをやっているんですか?」

「いえ、以前に貴方がこうしていたので、その、私も一度してみたくなりまして」


 リゼットはほんのり顔を赤くして立ち上がる。それに恥ずかしいならやらなきゃいいのにとか、お前なら足音で気づきそうなものをいったいどれだけ没頭していたんだとか思わなくもないが、貴族のお嬢様にも気分転換は必要だろうし、何ならもう少し満喫させてやるべきだったか? とか考えて黙っていると、


「こほん」


 とリゼットが口元に手を当て小さくせきばらいして、


「時間が惜しいですし、さっそく本題に入りましょうか」


 (しゅ)に染まったほおを隠すように、俺に背中を向けた。どうやらリゼット的には、とんでもなく恥ずかしいところを見られた、そういうことらしい。ただ、


「そこまでやられると、先にやってた俺の立つ瀬がないんですが」

「と・に・か・く、です」


 リゼットは背中を向けたまま、


「お帰りなさい」


 そう優しく告げた。それはまさしく不意打ちだった。俺は見事なまでにあっけにとられ、ポカンと口を開けたまま固まった。それこそリゼットが背中を向けていなければ、その顔を見られまいと、俺の方こそ背中を向けていたかもしれない。まあそれも仮の話だ。

 見られていないのをいいことに、何事もなかったかのように口を閉じた俺は、


「ただいま戻りました」


 と平然と返した。そうして訪れる変な間、というか沈黙。別に気まずいというわけではないが、立ち尽くしているのもなんだかなと俺がその場に腰を下ろすと、


「何から聞きたいですか?」


 いつもの調子を取り戻したリゼットが振り向いてきて、立ったまま横に並んだ。


「そうですね。ええと……」


 何から聞いたものかと少しだけ考える。リゼットのことだ。俺の事情など説明するまでもなく知っていることだろう。となるとまず聞くべきはコンのことか? いや、あいつのことはむしろ最後でいいだろう。


「俺を騎士から解放してくれたのは誰です? まさかリゼットさん、ってことはないでしょうし」

「貴方を騎士から取り上げたのは、アポロニア伯爵家(はくしゃくけ)です」


 俺は避けたはずの名前が一発目で出てきて内心で笑った。まあ出てきたものは仕方がない。口を挟む理由にはならないので黙って続きを聞くことにする。


「しかしアポロニアもまさか、貴方が騎士からの聴取(ちょうしゅ)に沈黙を貫くとは思っていなかったことでしょう。かく言う私も思っていませんでしたし。だからこそ聞きたいのですが、なぜ自ら拘束を長引かせるような真似を? 誘拐犯の中には貴方がかばいたいと思うような人間はいなさそうでしたが」

「人間に限るならそうですね」


 俺は微苦笑を浮かべた。


「俺がこの場にいることを踏まえればうまくごまかしたんでしょうが、バッカス(てい)にはラミア以外にハーピーとヴァンパイアがいました。過程は省きますが、助かるために逃がしたのは俺です」

「なるほど」


 リゼットはたんたんと告げて、何やら考え込むように歩き出す。その初耳ですよという反応を見て、ようやく自分の中での憶測が確信に変わる。どうやらコンは事前に打ち合わせていたわけでもないのに、俺のために話すべきこととそうでないことを取捨選択してくれたらしい。

 まあそれは人間という種に対してもそうだが、王国に対してももちろん、重大な背信行為(はいしんこうい)ということになるのだが。

 ただコンはハーピーとヴァンパイアのことを信じているのだろう。俺も信じてはいないが、できれば何事もなく国に帰ってくれたらとは思っている。

 そして何かあった際には、その罪を背負う覚悟がある。無論、なければ檻のカギなど開けなかったのだが――学園に帰ってきて早々、騎士のもとに戻らなければならなくなるかもしれないが、やはりここは自分から聞くべきだろう。


「一応、外に出たら人を襲うなとは言い聞かせましたけど、やっぱり被害は出てますか?」


 俺の声に芝生の上を右へ左へと歩いていたリゼットがピタリと足を止めた。ただそれも一瞬のこと。すぐにまた歩き出すと、


「私の知る限りですが、今のところハーピーとヴァンパイアによる被害は出ていません。ついでに言いますと、バッカス邸で暴れたのは、貴方とラミアということになっています。ただそんなことより――」


 リゼットは厳しい眼差しで俺を一瞥して、


「その危うい認識を改めてください。言葉が通じるからといって話が通じる相手だと思い込むのは危険です」


 まるで心情を見透かしたように忠告してきた。なぜそんなことが出来たのかは分からないが、リゼットに被害がなかったと言われて喜び、亜人に対する印象をまた少し変えなければなと思ったのは確かだった。

 というか、印象を変えるにしても、ラミア、ハーピー、ヴァンパイアに限った話ならまだしも、いや、あの三人に限るならまだしも、亜人全体はありえないだろ。

 俺はここ数年でもっとも反省するように、


「おっしゃる通りで」


 自嘲(じちょう)の笑みを浮かべて、


「被害が出ていないか聞いた相手がリゼットさんでよかったですよ、本当に。今日は貴女に呼び出してもらえて、会えてよかった」


 リゼットにそうしみじみと告げた。とりあえずコンに会ったら、礼を言おう。それからもしアメリアに再び会うようなことがあったら、思いっきり喧嘩しよう。ただ二人とも俺とは住む世界が違うので、もう会うこともないかもしれないが。

 そんなことを一人で考えていると、


「あの、ほかに聞きたいことはありますか?」


 リゼットが背中を向けて、日陰だというのに暑いのか、顔を手であおぎながら聞いてきた。もちろん聞きたいことはまだまだある。たとえば、


「誘拐犯は全員つかまりましたか? ラットボーンと再会して、最初の二人組を見逃すんじゃなかったと、かなり後悔したんですが」

「二人組は街中で騎士が確保しました。アポロニア家に仕えていたラットボーンの指示で犯行に及んだとのことですが、未だ真偽は不確かなままです。騎士の見立てでは、バッカス邸に転がっていた()()()ではないかとのことです。それから――」


 リゼットは一呼吸おいてから、


「バッカス侯爵家(こうしゃくけ)の当主ボボ・バッカスですが、貴方の目論見(もくろみ)どおり、爵位(しゃくい)をはく奪されました」

「まじで?」


 俺は小さく(こぶし)をつくって、喜びをかみしめた。どうやら最後の最後でアメリアにこだわったかいがあったようだ。


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