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どうやら悪役令嬢の本命は俺のようです  作者: たまにわに
第二章 つぎは妹を攻めてみるようです
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第31話 どうやら今度は俺が見つけてもらう番のようです

「ノクティ、しっかりしてください。国に帰りたいと言ったのは他でもないアナタでしょう? 今を逃せば、もう二度と帰れないかもしれませんよ?」

「うぅん……それはこまる……」


 目をこすりながらゆっくりと上体を起こすノクティ。見た目こそ人間でいえば妙齢(みょうれい)の女性そのものだが、当たり前のように手を貸せと片手を差し出されたところでつかむわけにはいかず、見えていないと分かっていながら助けを求めるように壁越しにアメリアへと目を向けると、


「仕方のないヴァンパイアですね。カイル、手を貸してあげてください」


 まるでこちらが見えているかのように間髪(かんぱつ)入れず声が返ってきて、俺はラミアってのはすごいんだなと普通に感心しながら、気だるげなノクティの手をつかんで引き上げた。

 ただどういうわけか、ノクティは立ち上がったあとも俺の手をにぎったまま離そうとしない。それどころか、そのまま俺の手を引いて檻の外へと出ていく。そして次はお前だと言わんばかりにコンの手を取り、


「じゃあいくから。またね、アメリア」


 ノクティがアメリアに目を向けることもなく歩き始めたところで、俺は後ろ髪を引かれるようにつかまれた手を振り払った。


「悪いが俺はここに置いて行ってくれ」

「そう」


 ノクティはそっけない。ただコンとアメリアは違うようで。


「え? どういうこと?」

「カイル、アナタは間違っています。ノクティ、無理やりにでも連れて行ってください」

「間違っているのはお前の方だ。アメリア」


 俺はろうそくを手にアメリアの檻の前に引き返して、血の付いた髪飾りを鍵穴に差し込んだ。


「ノクティ、悪いがその子を頼む。コン、説明はしない。ただ外に出たら助けを呼んできてくれ。それ以外にこいつを助ける方法がない」

「バカ! なんで私にそんなこと、アンタってやつは、アンタってやつは!」

「ノクティ、行ってくれ」

「えー、べつにいいけど」


 その前にとノクティが背後から近づいてきて、俺の手をつかんだかと思うと、


「ノクティ! そのまま連れて行きなさい!」


 アメリアの言う通り、一瞬強引(ごういん)に連れていかれるのかと思いきや、血にまみれた傷口を不意になめられた。


「アメリア、おもいけどがんばってね」

「あ、ああ」


 よく分からない。ただ痛みが引いていることに気づいてふと手のひらに目を向けると、どういうわけか、あったはずの傷がウソのように無くなっていた。


「じゃ、またね、へんなにんげん」

「できればカイルと呼んでやってくれ」

「またあったらね」


 ノクティは最後に俺の肩をポンと叩いて、わめくコンを脇に抱え上げるや否や、(またた)く間に目の前から消えていなくなった。


「あ、礼を言うのを忘れたな」

「……ノクティはそんなこと気にしませんよ」


 アメリアが俺の独り言に同じく独り言のようにつぶやいた。


「アナタは間違っている」

「言ってろ」


 俺はさすがに四度目ともなると早いなと扉を開けて鉄格子をくぐった。


「立てるか?」

「無理です。私は他の二人に比べて、特に従順ではありませんでしたから」

「心配するな。今日一日で気が強いやつの扱いにはずいぶん慣れた」


 俺は包帯だらけのアメリアの体を両手で持ち上げようとして、そのあまりの重さに苦笑した。ノクティががんばれと言うわけだ。しかしこの体のどこにこれほどまでの重さが残されているというのか。アメリアの体はラミアを初めて見た俺にも分かるくらい、あちこちそぎ落とされ、切り落とされているというのに、背負って歩くどころか、一人では引きずるのすら難しそうだった。


「今からでも後を追いかければ助かるかもしれませんよ?」

「言ったろ、心配するな。いざとなったらお前をもうすこし小さくしてでも、ここから連れ出してやる」

「なぜ私のためにそこまでするのか理解できませんね。まったく、それでも私の片腕と両目を奪った人間のすることですか?」

「アメリアには亜人にもいろんなやつがいるって教えてもらったからな。せっかくだからアメリアにもいろんな人間がいるって、知ってもらおうと思ってな」


 俺は言いながら上着を脱いで、アメリアの体の下に敷く。それから胸の上でそで同士を結んで持ち手を作り、ゴツゴツとした地面を滑らせるようにしてアメリアを引きずることたった五歩。あともう少しで檻から出られるというところで、服が悲鳴を上げるようにビリビリと裂けてしまう。

 くそ、こうなったら意地でも連れだしてやる。俺がベルトに手をかけると、


「変態」


 とまさかラミアの口から聞くことになるとは思わなかった言葉が、アメリアの落ち着いた口調で飛び出してきて、思わず腹に手を当てて笑った。


「カイル、証人が欲しければ上にいくらでもいるでしょうに」

「お前じゃなきゃダメなんだよ。相手はコンに結婚を迫るくらいだからな。同じ貴族でも位が高ければ、仮に誘拐を立証できたとしてもバッカス個人にまで罪を問えるかどうか分からない。コンの今後を考えるなら、ここは確実にお前でとどめを刺しておきたいんだよ」


 俺が下着姿でアメリアをまた引きずり始めると、


「あきらめの悪い人ですね」


 盛大なため息が足元から聞こえてきた。


「もういいです。分かりました。コンに逃げられたとバッカスが知れば、余計な詮索(せんさく)が及ぶ前に私を消しにかかる。私を証人として保護したいというのなら今しかない。私の負けです。だから無駄なことはやめてください」

「無駄なもんか」


 見ろ、もう檻の外だぜ? と俺が勝ち誇ったようにアメリアへと笑いかけると、


「いいから私が寝ていた床を調べてください。私がまだここに来たばかりのころに掘った穴があります。このまま上を目指すより、そこに隠れていたほうがいくらか助かる確率も上がるでしょう」

「……そういうのは早く言ってくれない?」


 俺が檻から半分ほど体を出したアメリアを見下ろして、その代償として破れてしまったズボンを手に立ち尽くしていると、


「まあ、そう気を落とさないでください。物事というのはそうそう悪い方にばかり転がるものでもない。ですよね?」

「今度は俺がコンに見つけてもらう番か。バッカスに先を越されたらどうする?」

「そのときはアナタを盾に、アナタより数秒ほど長生きしますよ」


 俺は頭をかいてひざを折り、ニヤニヤと笑うアメリアの額をえいっと小突いた。


「ホント、お前とはいい友達になれそうだよ」


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