第28話 どうやら事情を説明する必要はないようです
「いや違うからな?」
俺はコンのジトっとした目に弁明を余儀なくされる。馬車で隠し場所といえば座席の下に床下だが、今の流行りは天井裏で――などと早口で自分の中にある知識を総動員していると、
「ずっと思ってたけどさ。なんでアンタはそんなに誘拐について詳しいの?」
と聞かれて俺は思わず口ごもった。当然だが、リゼットに教えてもらったからなどと言えるわけがない。ついでに騎士なら調べれば誰でもわかることだとリゼットは言っていたが、俺はただの候補生なので、知らないのが普通だ。
まいったな。聞かれるがままに答えていたら、知らないうちに墓穴を掘っていたわけだ。俺は二秒考えて、自身の体験をそれっぽく話すことにした。
「俺が王都に来たばかりのころの話だけどな。誘拐の現場にたまたま出くわして、少し手助けしたら、おしゃべりな騎士が教えてくれた」
「ふーん?」
コンの目が面白いものを見つけたように細くなる。まずい、これはまた俺をおもちゃにして楽しむ気だ。そう思っているとコンは微笑を浮かべて、
「まっ、アンタらしいかもね」
なぜか許してくれた。それからしばしの沈黙。破ったのはコンのねえ、という控えめな声だった。
「アンタはさ、私があの馬車に乗ってなくてもよかったって言ってたけどさ。あれはその、本気でそう思ってたの?」
「思ってなきゃ、そもそも止めようとも思わなかっただろうな。ガナッシュの言う通り、馬車が囮だったときに困るのは俺の方だ。完全にコンがどこにいるのか分からなくなる可能性もあった。乗ってなくても居場所を聞き出せるなら、乗ってるも同然。そう思ってたからこそ、聞き出せる自信があったからこそ――」
たとえ俺には無理だったとしても、後ろにリゼットがいると思えばこそ、
「できたことだな」
「それで騎士っていう将来を棒に振ることになったとしても?」
「え?」
俺は思ってもみなかったことを聞かれて、一瞬あっけにとられた。確かにはたから見ればそうかもしれない。ただここで俺が正直に、何が何でも騎士になろうとは思っていないからだとか、流れでそうなっただけだとか言っても、コンを無駄に幻滅させるか、さもなくば落胆させるだけだろう。
そう、コンはまたしても俺に期待している。いや、一度外れた手前あまり自信はないが、とにかく首を縦に振るカッコイイ俺を期待しているようだった。
なるほど、俺は今度こそ期待に応えるように不敵な笑みを浮かべた。
「それはだな」
「ううん、やっぱり答えなくていい」
「ええ……」
俺が遠い目をすると、コンが笑った。よくは分からないが、満足してくれたらしい。それからしたのは本当に他愛のない話。現状とまったく関係のない学園や故郷のことを話していると、不意に行き止まりを告げる壁が現れた。
「うそでしょ……」
「物事ってのはそうそう悪い方にばかり転がるもんでもない。行くぞ」
それは何の根拠もない口から出まかせだったが、
「そうね」
とコンは笑ってくれた。そう、まだ出口がないと決まったわけではない。行き止まりの壁を左手づたいに進んでいくと、すぐに見覚えのある鉄格子が見えてきた。それもぼんやりとだが、三つ並んでいるのが分かる。
「見て、中に誰かいるみたい」
コンに言われて檻のひとつに近づき、ろうそくの火で中を照らしてみると、そこには何がどうなってそうなったのか、一人の亜人が横たわっていた。
「蛇? でも半分は人に見えるけど……」
「ラミアだ」
俺は興味津々といった様子で中をのぞきこむコンの肩をつかんで、鉄格子の前から引きはがした。
「下半身が蛇で上半身が人。間違いない。学園で習った通りならこいつは人を食う化け物だ」
「えっ? ラミア? え? 食べるの?」
「落ち着け。しかしなんでラミアがこんなところに……」
考えても分からない。ただここが王都でなければ説明がつく。俺はもしかしなくても寝ている間に外に運び出されたのかもしれない。となるとここは南部か? 数時間で目覚めたと思っていたが、実は数日間の間違いだったのか?
つぎつぎと浮かんでくる疑問に終止符を打ったのは、間違いなく目の前のラミアから聞こえてきた、人間であれば女性であろう、優しくもかすれた声だった。
「もうすぐ三十分です。私ではアナタたちの力にはなれませんが、他の二人なら大いに力になってくれることでしょう」




