第27話 どうやら俺は変態のようです
「それで? 期待はしてもいいのか?」
「うん。まず前提として馬車の重量だけど、ごまかすなんて絶対無理。だから馬車に乗ってる限り、王都からは出られない。じゃあ徒歩は? 私が協力的ならできるかもね。つまり現実的じゃない。それに誘拐には交渉がつきものでしょ? その材料としても、身の安全を保障する人質としても近くに置いておきたいって気持ちを考えれば、やっぱり馬車はほしいわよね。隠して連れまわすのにも困らないし」
あってる? とコンが目を向けて来たので俺はうなずく。それから目の前で徐々に湾曲し始めた壁に、おや? と疑問符を浮かべる。
どうやら地下室だと思っていた空間は、細長い道だったようだ。何なら地下道という可能性もあるかもしれない。もしそうなら素直に階段を上らずとも、この先に地上へと続く出口があるのでは?
俺ははやる気持ちを抑えきれずに、歩く速度を上げた。
「あとはアンタの言う通り、逆方向に行きたがる人の習性? が本当なら、馬車を処分したり隠したりする場所とは別に、逆方向に逃げ込む場所が必要になってくるから……ってあれ?」
コンが不意に首をかしげて足を止めたかと思うと、
「そもそも逆方向には本店くらいしかないじゃない!」
叫んでから自分の行動が信じられないとばかりに口をおさえた。まあ勢いで叫んでしまった気持ちは分からないでもない。それは純粋な驚きとも怒りとも違う、ここまで長いこと理屈をこねたがゆえの拍子抜け、言ってしまえばそんなところだろう。
俺はキョロキョロと不安そうに周囲を見回しながら、そんなつもりじゃなかったのにとトコトコと駆け寄ってきたコンの頭を分かってるよとなでて、さすがにこの暗さでは走れないなと、さらに歩く速度を上げた。
「昼間ならまだ悩みようもあったんだが、夜間となるとな。大商館、中央市場の倉庫、ゴールド・アンカーの支店。その三か所の真逆に位置し、あの時間に馬車の出入りがあってもおかしくない場所。それは本店しかなかった。どうだ? 分かってしまえば、別に難しい話でもなかっただろ?」
「で、でもっ、アンタが本店にいた理由は分かったけど、なんで私があの馬車の床下にいるって、それも二重底の下に押し込まれてたのに、まるで初めからそこにいるって知ってたみたいに、すぐ見つけられたのよ」
コンがまくし立てる。その目には単なる好奇心とは少し違う、いぶかしげな色が浮かんでいた。ははーん、俺は期待に応えるように、偽悪的な笑みを浮かべた。
「それはだな」
「あ、そういうのいいから」
「ほーん」
どうやら期待されていると思ったのは勘違いだったらしい。俺は浮かべた笑みを引っ込めて、真顔に戻った。
「一言でいえば釘だな」
「釘?」
「ああ」
俺はうなずく。
「まっ、これは俺の偏見だろうが、ゴールドシュタインのようないかにもな権力者が、釘が見えるような位置に打ち込まれた馬車に乗るわけがない。馬車に乗り込んですぐ、床に釘の頭が見えて、おや? と思ったわけだ」
「釘の頭かあ……偏見、でもないのかなあ?」
コンは考えるようにあごに手を当て、
「うん、日頃から馬車に乗り慣れてる私が思い出そうとしても思い出せないもの。それってつまり、そういうことでしょ?」
「さあな、ただ自分でいかにもな権力者って言っちゃうのね」
「だって本当だもの」
俺は思わず笑みをこぼした。はっきりとした物言いもそうだが、心なしか得意げに張られた胸も含めて、悪びれない姿は見ていて清々しい。
「さすがは伯爵家のお嬢様。俺が二重底を見破った理由についても、もう見当がついていたりして?」
「え? それは、その、ええと、あの、あれよ。あれじゃないの?」
わかった、とコンは音を立てずに手を叩く。
「アンタは怪しいと思ってたところに私がいなくて、余計に怪しんだのよ。アンタのことだから、いないって思わされてる、思いこまされてるって、どうせそんな風にひねくれたことを考えて、周りの板をはがしたんだわ。そうでしょ?」
「うーん、惜しい」
ほぼ正解だがと、俺はコンの頭へと手を乗せ、
「正確に言うと底の板に手を当てたとき、かすかに温かかったからだ」
正解を発表すると、不意に乗せた手を振り払われた。
「へ、変態……」




