第24話 どうやら少女には当てがあるようです
なるほど、と俺は人知れず納得する。俺が生きている理由はそういうことだったか。しかし最初の二人組は計画的なものではなく、衝動的なものだとばかり思っていたが、今になって老紳士が出てきたことで、そうも言えなくなってきた。
仮に老紳士が故意にコンを置き去りにしたとするならば。たとえばだが、二人組と共謀していたとするなら、兄貴が剣を持っていたことにも簡単に説明がつく。貴族の関係者なら、剣の一本ぐらい屋敷から持ち出すか、個人的に用意できる当てがあってもおかしくはないからだ。
しかしいまさらそんな関係性が見えてきても仕方ない。このどうしようもない現状にあの二人組が関わっているとしても、過去に戻って二対一でも関係あるか! かかってこい! などと戦いを挑むことはできないのだから。
俺が人知れず後悔していると、コンはついさっきまで泣いていたというのに、まるでおくびにも出さずに堂々とした態度で、
「ラットボーン、私の意思は変わらないわ。それにこの男がどうなろうと私の知ったことじゃない。私の性格を知っている貴方なら、そのくらい分かるでしょ?」
ラットボーン相手にあとから思いだして恥ずかしくなりそうなくらいの不敵な笑みを浮かべた。どうやらコンには不屈の魂が宿っているらしい。にしてもどうなろうと知ったことじゃない、か。
俺はコンの意をくむように守るに値しない男を演じることにして、
「なら結婚ぐらいしてやれよ」
他人事のように言った。
「事情は知らないが、それで俺もお前も助かるんだろ? そのバッカスとかいうのがどんなのかは知らないが、意外と気のいい奴かもしれないぞ?」
「へー? 意外と気のいい奴が人を誘拐して檻に入れて、結婚を申し込んだりするんだ? 貴方、バカなの?」
コンは本気で心配そうに俺をにらみつけてくる。まあ、他人行儀な貴方呼びも聞けたことだし、即興にしては関係性の薄さを強調できたほうだろう。ただ肝心なのは、ラットボーンがどう思うかだ。とりあえず俺がコンに対しての人質にはならなそうだなと、そう思ってくれればそれでよしという感じだが、あまりにも使えないとみなされると、それはそれで俺の身が危なくなる。
ラットボーンの言葉を信じるなら、俺は誘拐犯に仕立て上げられるわけだが、何も生きたままそうなるとは限らないのだ。
しかしコンの強気は今に始まったことではないが、ますます強気になっているのはどういうことだろうか。実際問題、こうなってしまった以上、大人しく首を縦に振るしかないのは、コンも分かっているはずだが、それでもそうしないのは、俺が寝ている間にそうしなかったのは、なぜだろうか?
普通に考えれば時間稼ぎなのだが、そうして稼いだ先に何かあるとでも言うのだろうか? 思えば先ほどラットボーンに見せた過度な不敵さを見るに、コンには何か当てが、この状況から助かる手立てがあるのかもしれない。
賭ける価値はあるか? 考えるまでもないなと俺はラットボーンに向き直った。
「ラットボーンさん、俺に少し時間をくれませんか。このわがままなクソガキを納得させて見せますから」
「誰がクソガキよ!」
「どう見てもクソガキだろ!」
俺はコンを指さして、声を大にした。
「公衆の面前で恥ずかしげもなくラットボーンさんを怒鳴りつけ、馬車を蹴り、俺を殴り、また俺を殴り、また俺を蹴り飛ばし、いい加減にしろってんだ!」
「そ、そこまで言わなくても……」
「ラットボーンさん、俺も死にたくないんですよ。貴族の誘拐犯になんか仕立て上げられたら、まず間違いなく首が飛ぶでしょ? 違うって言ったって、平民の言葉なんか信じてもらえないでしょうし、助かろうと思ったら今しかないんですよ。だから二時間、いや、一時間くれたら必ずこのクソガキを説得して見せます。どうですか? 俺に任せてもらえませんか?」
俺はラットボーンにこびる。みっともなくこびる。目で、顔で、姿勢で、全身でこびる。そして最後には鉄格子を挟んで土下座する。我ながら情けないことこの上ない。が、それで時間が稼げるなら靴だってなめてもいいと、俺は本気でそう思っていた。
どうだ? 額を床にこすりつけ、俺は後頭部に感じる視線に期待する。
「いいでしょう」
そう聞こえてきたのは土下座から実に、四秒後のことだった。




