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どうやら悪役令嬢の本命は俺のようです  作者: たまにわに
第二章 つぎは妹を攻めてみるようです
22/23

第22話 どうやら少女は暇を持て余していたようです

 俺は別に難しくない話だけどなと前置きして、どこから話したものかと時系列をさかのぼっていく。そうして最終的にたどり着いたのはやはりと言うべきか、コンが俺の前から消えていった光景を思い出して、通りを走り出した瞬間だった。


「そうだな、なんでコンがあの馬車に乗ってると思ったか、なんで俺が銀行にいたかというと、それはもう、馬車の逃げた方向がすべてだろうな」

「逃げた方向?」

「ああ」


 俺はうなずく。


「それこそ普段から馬車に乗り慣れているであろうコンなら実感としてあるだろうが、王都で馬車を使うとなると使える道が限られる、それは分かるな?」

「当然よ。バカにしないで」


 コンはいかにも得意げに胸を張り、


「道に最低でもすれ違えるだけの幅が、馬車二両(にりょう)分の広さが必要だからでしょ?」


 正解? とのぞきこんでくる。それに俺がまたうなずき返すと、


「だからええと、使える道が限られてるわけだから、逃げても馬車の進行方向さえ覚えとけば、だいたいの位置は追えるってことよね?」


 コンはあごに手を当てて当然と推理を始めた。どうやらコンが俺に話題を振ってきたのは答え合わせ、あるいは謎解きを楽しむためだったらしい。それなら、と俺は聞き役に回ることにする。


「つまり逃げる側からしてみればどこに逃げ込んだか、ある程度絞り込まれちゃうわけだから、途中で乗り換えたことにも合点がいくし――ってあれ? でもアンタは黄金錨海運銀行(ゴールド・アンカー)の支店で、私が別の馬車に移ったって知らないわけで……」

「逃走経路が予想しやすく、位置も絞りやすい。それが分かっていて手を打たないと思うか? 今回は途中で乗り換えたわけだが、もっと簡単な方法があるだろ?」

「捨てて路地に入るってこと?」


 俺はうなずく。


「ただその際に馬車を手がかりとして残せばどうなるか。馬車は専門的な分野の集合体だ。そこに蓄積された技術は国の大事な財産でもある」

「たしかに馬車は車輪から手綱(たづな)どころか、釘まで専門店がずらりって感じだけど、それがどうアンタが本店で待ち構えてたことにつながるっていうの?」

「あー……」


 俺はコンのことを甘く見ていたなと、何なら貴族のことを甘く見ていたなと頭をかく。コンがお金をにぎって店頭へ、そんな姿は想像がつかない。


「そもそも馬車の製作が許可制だってのは知ってると思うが、その制度上、生産者は必然的に国の名簿に載ることになるし、販売者は生産者の名簿に載るし、購入者は販売者の名簿に載ることになる。ま、簡単に言えば、馬車を残すと、かなりの高確率でつかまるってわけだ」

「言っとくけど、馬車の職人たちが国に管理されてるってのは知ってたからね?」


 コンはふんっと唇をとがらせる。その暴力を伴わない平和的な不満の表明に、なんだやればできるじゃないかと俺はまたコンの頭をなでた。


「分かってるよ。それに俺は知らなかったが、コンは貴族。下手に手がかりを残せば王都は門を閉ざして、人の出入りを制限するところまでやるかもしれない。コンが三色スミレ座から出てくるのを見てたから、俺はそう思ったわけだが……知ってたら、なおのこと馬車は残せないわな」

「アンタはアポロニアを知らないみたいだけど、私がいなくなれば、絶対に王都はやったわよ。自慢じゃないけどね」


 それに、とコンはまた答え合わせを楽しむように語りだす。


「残せないって話の続きだけど、要するに選択肢は二つ――馬車をどこかで解体するか、どこかに紛れ込ませるか、でしょ?」

「ああ」


 俺がうなずくとコンは満足げに笑う。そのあまりの無邪気さに、思わず誰だこいつとさっきまでのじゃじゃ馬を目で探しそうになるも、もしかしなくてもコンは何かしていれば大人しく、暇を持て余すと悪さをしてしまう、そんな元気を持て余しているだけの少女なのかもしれない。

 そりゃ同年代ならまだしも、あの老紳士が一人で相手するにはきついわな。大通りで見た、老紳士の突き放すような対応の意味が今になって分かったような気がして、俺は内心で苦笑した。

 あれは付き合おうにもついていけないから、()()()()そうしていたのだろう。


「となると、よ。一両、二両並んでいるところに三両目として置くなんて考えづらいし、壊すにせよ隠すにせよ、広さが必要になってくるわよね。それと忘れちゃいけないのが、あの時間に馬車が出入りしてもおかしくない場所ってこと。あとは馬車の逃げた方向から探す範囲を絞って……そうね。大商館か中央市場の倉庫、それから黄金錨海運銀行(ゴールド・アンカー)の支店ってところかしら? でも肝心の本店とは離れすぎてるし、そもそもゴールド・アンカー以外もありうるわけだし……」


 コンが教えろと目で催促してくる。俺はこれで面倒な遊びに付き合わされたわけだが、だからといって、えー? どうしよっかなー? などと俺がやり返しても気持ち悪いだけだ。というかそんなの頼まれてもやりたくはない。


「ま、それはだな」


 俺は素直に話そうとして――首筋にチクリとした痛みを感じた。そして痛みに遅れてどこからともなく現れる黒装束の集団。行く手を阻むように立ち塞がる者たちの足元に足袋(たび)を見た俺は、すぐさま懐に手を突っ込み、取り出した紫の葉の束を口に押し込みながら、コンを片手で抱えて(きびす)を返し、すでに囲まれていることに気づいて、あわてて足を止めた。


「くそっ、助けてーッ! 黒装束、足袋、毒針! アポロニアー!」


 叫ぶと同時に口の端からこぼれていく、乱暴にかじった葉の残骸とその汁。首筋に二度目のチクリとした痛みが走ったのと、脱力感に(あらが)えなくなったのは同時だった。


「くお、くろしょうそくに、クソ! こどもに、よってたかってよお!」


 三度目の首筋への痛み。もはや立っていることもままならなくなり、俺は膝をつく。それでも倒れなかったのは、脇でぐったりとしているコンの行く末が気になって、それどころではなかったからだった。

 四度目。ああ……だめだ。意識が沈んでいく。この黒装束たちの狙いがコンだとするなら、コンが殺されることはないだろうが、俺は――リゼットにもらった解毒用の葉の力を信じて、俺はいやいやながら眠りについた。


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