第2話 どうやら俺は剣術大会に出場するようです
「あー、いい天気……」
用がなければ寄り付こうとも思わない校舎裏。と言っても何もないので用など生まれるはずもない校舎裏にて、またしても待っていますなどと細い線で記された恋文もどきに二度目の呼び出しを受けた俺は、その時がくれば抗えない分を先取りするように一人、大地へと手足を投げ出し、曇った眼で雲一つない青空をにらみつけていた。
結局のところ何も分からずじまい。リゼットは俺に首を縦に振らせるだけ振らせて、詳しくは何も話してはくれなかった。それが俺のためでもあると聞こえのいいことをリゼットは言っていたが、それがどこまで本当なのかも分からない。ただ一つだけ言えることがある。
学園での騎士候補生としての生活は捨てがたい。
この校舎裏でリゼットと話し、三日という時間が経過したが、だからこそというべきか。三日前までは何となくで享受していた日常が、首を縦に振ったことで得た恩恵に変わったことで、食事や寝床、風呂にいい服とそのありがたみがトコトン身に染みて仕方がない。
それもそのはず、騎士は兵士と違い、その構成員に貴族が混じってくるがために学園での待遇が単純に貴族を基準にしたものになる。もちろん家の力であからさまに厚遇されている者もいるにはいるが、上を見ればキリがないわけで。平民の俺からしてみれば、学園での生活はこれ以上ないと言っても過言ではないというワケなのだ。
「これで王子に関わらなくてすむならなあ……」
お気楽でいいんだが。ため息交じりにそんなことを考えていると、そいつは音もなく正面の空を遮るように現れ、俺を上から覗き込んできた。そして四つ折りにされた手のひら大の紙をあいさつ代わりにと差し出してくる。
「西は相変わらず膠着状態のようですが、今年の南は激しいみたいですよ?」
「なら人手は一人でも多い方がいいんじゃないですかね? ほら、例えば俺とか」
「本当に送られないと思っているのなら、思い上がりもいいところですね」
リゼットは口元にこそ微笑を浮かべているが、その目元はまったく笑っていなかった。まあ、また怒らせてもいいことはないだろう。
俺はリゼットから差し出された紙を寝そべったまま受け取り、いったいどんな面倒ごとがこの先に待ち受けているのかも分からないまま、ただただげんなりとした気持ちで丁寧に折られた紙を開いた。
「白銀の剣盾祭……?」
「出てください」
「いやいやいやいや」
一週間後だぞ?
「問題ありません。登録はすませておきましたので」
「いやいや、それ以前の問題というかですね」
白銀の剣盾祭といえば、田舎育ちの俺でもその存在を知っているくらい、王国でもかなり権威のある剣術大会だ。ともすれば国中から手練れが集まること間違いなし。俺のような騎士でも兵士でもないようなのとは違って、本物の騎士や剣術の達人たちがその技を競い合うような場だ。
それに今回はここ王都での開催。万が一にも王族が見に来るようなことがあれば、下手な試合を見せただけでどうなるか、分かったものではない。
「何も問題はありません。私がこれから一週間、貴方を――そうですね。その辺の騎士程度が相手なら負けないくらいに鍛え上げますので」
「うん? それはつまり……どういうことです?」
「王族に路地裏でのケンカを見せるわけにはいかないでしょう?」
そう言って寝そべる俺に剣を差し出す用意周到なリゼットは気のせいか、楽しそうに見えた。




