第12話 どうやら友情にはほど遠いようです
「剣盾祭後、あくまでも非公式にですが、選んだのは現役騎士とそこに近い学園、並びに剣盾祭の関係者ですから、公式と言っても過言ではないでしょう」
「いやいや、どうしてこうなった?」
俺とアルフレッドの試合は自分でいうのもなんだが、人に褒められるような内容ではなかったはずだぞ?
「一言でいえば、アルフレッドの評価が高すぎたから、でしょうね」
リゼットはそう言って苦笑を浮かべ、
「そして貴方の評価が低すぎたから」
なんてことを本人を前にして平然と言ってのける。いやホント、こいつは事実なら何を言ってもいいと思っているんじゃないだろうか。もしそうだとしたら、俺はあと何回こいつに傷つけられればいいのやら。傷が多すぎて、いまさら一つ二つ傷が増えたところでどこに増えたのかも分からないような俺でなければ、とうに泣き出しているところだぞ。
そんな風にリゼットを横から目だけで非難していると、今にも「事実ですから」なんて言い出しそうな顔になって、俺は慌てて口を開いた。
リゼットさん! 俺は慣れているだけで平気なわけじゃないんですよ!
「それで? 評価の高い低いが、結局どう剣盾祭で最高の試合に選ばれることにつながるんですか?」
「保身ですよ。誰がそこまで評価を吊り上げたか、誰がそこまで貴方の評価を落としたか。後者は貴方自身でもありますし、観客でもありますが……」
「ああ」
そういうことかと俺は頭をかく。なぜ気づかなかったのだろう。わざわざ答え合わせするまでもなく、リゼットは初めから答えを言っているも同然だった。
「現役騎士とその関係者か」
「そうです。アルフレッドが貴方に負けて、その評価が間違いだったことに気づいた、あるいはそうではないかと疑念を抱いた者がほとんどだったことでしょうが、一度盛大に手の平を返した手前、すぐに手のひらを返したのでは自分たちの立場を危うくする。そう考えた者たちが中心となって、現状を作り上げたのでしょう」
しかし、とリゼットは一度そこで言葉を区切ることで、次の言葉を強調する。
「そのお陰で貴方は助かった。アルフレッドは強かったが、貴方も実は強かったということにしてね」
「実は、か。勝手に巻き込みやがって。はた迷惑以外のなにものでもないな」
物は言いようというが、ここまでいいように解釈されるとそれはそれで居心地が悪い。リゼットはアルフレッドのことを狩りやすい相手だとか言っていたが、靴の件含め、そんなことはなかった。実際、王族というだけあって最高の指導を受けているのであろう、しっかり打ち合ったわけではないので推測の域を出ないが、おそらくアルフレッドは俺よりも剣の扱いが上手い。それでも勝てたのは、アルフレッドが決定的な機会を得ながら、俺を仕留めそこなったからに他ならない。
そう、俺はたまたま勝っただけ。もっと言えば勝ちを譲ってもらっただけ。後から強かったなどと言われても嬉しくはないし、何なら恥ずかしいまである。
「いまごろ街じゃ、俺は実力を隠して勝ち進んだ強者ということにでもなってるのかね。まったく、どうしてこうなったのやら」
「下地は整っていましたからね。貴方がその場で棄権したこともそうですし、試合後に入院したこともそうです。選ばれた直後は何だかんだ言われていましたが、アルフレッドが優勝者を差し置いて最優秀剣士に選ばれていたことも、結果だけ見れば、アルフレッドの強さを裏付ける証拠になりましたから」
「うん? 優勝者を差し置いて? とんでもない忖度があったもんだな」
もはや笑うしかない。剣術の一番を決めると言いながら、結局はアルフレッドのための大会だったわけだ。
俺が口をとがらせて不満を表明していると、
「本当に、その通りだと思います」
なぜかリゼットが顔を俯かせ、表情を曇らせた。
「ですが大多数の人間はそれで納得した。結果的に欲しかった名声を得ることに成功したアルフレッドは、貴方の挑発も勝つために仕方のなかったこととして受け入れたというわけです。気持ちよくなりたいだけの、彼ならではの納得の理由ですよね。その、本当に、同じ貴族として恥じ入るばかりと言いますか……」
リゼットは放っておいたらアルフレッドの代わりに謝りそうな勢いだった。それを短い付き合いながら、らしくないと、そう思った。同時に少しだけ申し訳ない気持ちになった。リゼットが心苦しそうにしている原因というか発端は、軽はずみな俺の言動にある。ただその申し訳なさをどう消化したらいいか分からない。
これが付き合いの長い友人が相手なら――そこまで考えたところで俺は考えるのをやめた。
そう、俺とリゼットの間にあるのは友情じゃない、目的だ。落ち込んでいるからといって、元気づけるのは俺の役目ではないのだ。だから。
「次はどうしますか?」
俺は俺たちに相応しい話をすることにした。気持ち、明るい声で。




