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「いやまったく、どうしてこんな顛末になったのか」


 ジャメリンは両手をもみ合わせながら、グロンロゼへの言い訳に余念がない。


「うちの一番の手練れを派遣しましたのですが、地球のこうるさい邪魔者にまんまとしてやられまして……面目ないといいましょうか、なんといいましょうか……」


「いいのよ、ジャメリン」


 グランロゼはおっとりと微笑んだ。


「あなたの奮闘ぶりは、ちゃんと見せてもらったわ。私に地球で一番綺麗な街をプレゼントしようとしてくれたのよね。その気持ちだけで十分よ」


「おお、グランロゼ様……! なんと、お優しい」


「でも、ジャメリン」


 感激のあまり両手を広げて接近してきたジャメリンを、グランロゼは優雅な手のひとふりで遮った。

 つんのめりそうになるジャメリンに、軽やかな笑声を上げる。


「ぐじゃぐじゃした醜い内臓を持つ有機生物の分際で私を抱きしめたいんだったら、そうねえ。次はもっと私を面白がらせてくれなきゃいけないわ。

 卑怯未練で奇想天外なのがあなたの持ち味でしょう? 楽しみにしているわよ、ジヤメリン」


「ええ、もちろん!」


 勇躍してジャメリンはグランロゼの宮殿から出ていった。


 その後ろ姿を見送って、口元を覆った手の下でくすくす笑ってたグランロゼが、ふと顔を上げる。


「あなたは笑わないのね、坊や」


 柱の向こう側へ声をかける。


 暗いその陰から、にじみ出るようにして現れたのはアイダス・ダナだった。


「綺麗な顔をしているわねえ、あなたは」


 グランロゼがうっそりと笑った。


「どうせ中身はジャメリンと同じ有機生命体なんでしょうけど、あなたみたいに外見が機械仕掛け並みに整っていると、少しは許せるわ。

 綺麗な坊や、あなた最初から、そこでジャメリンの様子をうかがっていたわね? 阿呆なジャメリンはまったく気付かなかったみたいだけど。なぜなの?」


「……ばかばかしい」


 アイザスは吐き捨てた。


「ばか? それはもちろんジャメリンのことよね?」


「あんただよ」


「私?」


「失敗した者を、なぜ褒める」


 アイザスは真っ向からグランロゼを睨みつけた。


 その視線を受けて、グランロゼはうっそりと笑った。

 優雅な身のこなしで、玉座から立ち上がる。


 向かい合うとグロンロゼのほうが頭ひとつぶんは背が高い。

 まとっているのは、金属を細い糸にして織り上げられた、光沢のある美しい衣裳だ。

 背中から長く伸びる裳裾を引いて一歩踏み出すと、金属が床と触れあってチリンと綺麗な音を立てた。


「あたしは、褒めて伸ばす主義なのよ」


「くだらん」


「そんなことはないわ。特に、自己顕示欲の強い者には効き目のある方法なのよ。あなたも見たでしょう? さっきのジャメリンの様子を。あたしの部下でもなんでもないくせに、褒めて励ましてやるだけで、あの張り切りよう」


 くっくっ、とグランロゼは笑った。


「綺麗な坊や、あんたもそうよ」


「なんだと!?」


「だってあんた、いつだって飢えたような顔をしてる。誰かに認めてほしくてたまらないと思ってる。お前はすごい、お前にはとてもかなわない、お前が正しい……そういう言葉がほしいんでしょう?

 ほしいなら、あたしが言ってあげてもいいのよ」


「ふざけるな! 誰が、貴様などに!」


 アイザスは怒りで顔を真っ赤にした。

 一度は刀の束に手をかけ、引き抜く直前でなんとか自分の気持ちを抑え込む。

 顎をそらし、改めてグランロゼを睨み上げた。


 グランロゼは笑っていた。


 何もかも見透かしているといわんばかりのその表情が不愉快で、アイザス・ダナはくるりと彼女へ背を向けた。

 マントをひるがえし、歩き出す。


 ジャメリンがまたぞろ自分を出し抜いて地球へちょっかいを出していると知って、様子をうかがいに来た自分の行動にすら腹が立っていた。


 認めてほしがっているだと? この俺が?


 誰に。


 リューン・ノアに?


「……ふざけるな!」


 アイザスは自分で自分を罵った。


 足音荒く立ち去るアイザスの背中を、グランロゼが冷笑とともに見送っていた。


「ああら、面白い」


 形のよい唇を、小指ですうと撫でて呟く。


「あの坊やも、ステキなおもちゃになりそう……」

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