やって来ましたパーティー
やって来ましたパーティー当日。
そしてやって来ました公爵家。
……いや、時間経つの早くね? もう会場なの? 心の準備まだなんだけど。
すんごい手間暇かけた身支度で午前中を費やして、本番は午後からってね。ははっ、正直もう白旗上げたい気分。
でもまあ、朝っぱらから湯浴みさせられて、肌やら髪やら身だしなみやら整えられた甲斐があり、今の私はとんでもない美少女になっている。
私専用に調整されたドレスは軽やかな羽のようで、どこか掴みどころのない雰囲気。
ツヤツヤさらさらな髪はゆるい三つ編みにして片肩から流した柔らかい髪型で、白いリボンで結んである。
いつもの五割り増しぐらいでぱっちりきゅるんな目元は、綺麗というより可愛らしく。
元々しっとりしていた唇には艶やかな濃い桃色の口紅を挿し、可愛いというより綺麗にされた。
つまりは可愛くて綺麗な妖精様の降臨である。
我がことながらしばし見惚れてしまった。ぼけっと口半開きにしてたから、絶対魂出てたと思う。
まあすぐにお母様の「あらシエル。淑女たる者、そんな間の抜けた顔をしてはダメよ? うふふふふふっ」という地を這うようなお声が聞こえて我に返ったが。
そんな母も今日は絶世の美女に仕上がっている。
大人っぽいメイクに紺色のドレス。まるで夜の女王様みたいだ。
正直母の隣に立つのがツライ。だって私が子供っぽく思えるんだもの。
そして美しすぎてナンパされないか心配だったけどそんなのすぐ霧散。
なぜなら母の隣に座っているパパンが「ああ、今日の君はとびきり美しいよフィオナ」とか「美しすぎて誰にも見せたくないな。……見たやつの目玉抉るか」とかって愛妻家と魔王の間を行き来してるからだ。怖い。
そして母は照れたように笑うばかりで止めやしない。ちょっとは突っ込もうよお母様。
馬車から降りると、会場となる公爵家の奥様――リリアン・セラフィン夫人が、御子息を連れて出迎えて下さった。
「まあまあ! もしかしてそちらの可愛いお嬢さんが、噂のシエルさんかしら?」
目があった途端夫人に話しかけられてびっくりした。
ていうか噂とは? 噂出回ってんの? 何それ私知らない。
しかし隣から感じた鋭い視線に、すぐさま表情を取り繕って、厳格家庭教師と母仕込みのカーテシーを披露した。
「初めまして、セラフィン夫人。ジュリエール家が娘、シエルと申します」
「あらあらあらぁ! さすがはフィオナの娘ねぇ。この歳で礼儀作法が完璧だなんて」
ええ、そりゃあもうスパルタ授業でしごかれまくってましたから! とは言わずに「いえ、そんな。私なんてまだまだで……」と謙遜する。
謙遜って大事だよね! ね、お母様!
こっそり横目で伺うと、合格とでもいうようにうんうん頷くお母様が。よかった。
「でもリリアン様、何もわざわざお出迎えしてくださらなくても……」
「いいのよフィオナ。わたくしがやりたかっただけだから、遠慮なんてしないで。今日は来てくれてありがとう」
「ふふふ。こちらこそ、お招きいただきありがとう」
和やかに挨拶を交わす母と夫人は、はたから見ても仲良しだ。
ああいうのをきっと、親友って呼ぶんだろうなぁ。
いいな、いいな。私も親友ほしい。
前世じゃ一生ボッチだったからね。今世ではベストフレンド作るぞー!
……まあ、その前に普通のフレンドからだね。
ということで友人第一候補、連れてこられたはいいものの、母親に放置されてしまった御子息様に意識を向ける。
視線を合わせてニッコリすると、今日のパーティーの主役でもある御子息――アイヴァン様(本日めでたく12歳)の頬がポッと赤くなった。
うん、そうだよね。こんな可愛い子に笑いかけられて平常心とか無理だよね。
上機嫌になった私は、惚れてもよくってよ! と叫ぶ……ことはなく、お淑やかにカーテシーを披露した。
「お初にお目にかかれますわ、アイヴァン様。シエル・ジュリエールと申します。本日はお誕生日、おめでとう御座います」
「初めまして、シエル嬢。本日はわざわざありがとう。どうか堅くならないで、楽しんで行ってくれ」
ヤダ、この子イケメン?
ちょっと12歳児が言えるようなセリフじゃないんだけど。ヤバいめっちゃカッコいいわ。うっかりときめいちゃったじゃないの。
というか顔面イケメンだ。短い白金色の髪に蒼の瞳。幼いながらに精悍な顔つき。グレーのスーツが似合う、紛れもないイケメンである。
将来は視線だけでご令嬢のハートを射止める悩殺系イケメンになることだろう。成長が楽しみだ。
まあ私の好みではないけどね!
「ありがとうございます、アイヴァン様。でも難しいかもしれないですわ。だってアイヴァン様、とても格好いいんですもの」
「なん……っ! そ、そうか。まあ、無理せず楽しんでくれ」
おっと将来のイケメン君、今声がブレましたね? 顔も真っ赤ですよ。
アレか、美少女な私が「格好いい」とか言っちゃったせいか。
すまんな少年。私が美少女すぎるあまりに、こんな未来ある少年の心を掴んでしまうなんて。可愛いって罪だね、フッ。
……うん? 元々その体は『シエル』のものだろうって? 聞こえなーい。
「……し、シエル嬢。もしよかったら、マジックショーの後のファーストダンスを、私と踊って頂けないだろうか」
その時アイヴァン様に予想外のお誘いをされて、思わず目を瞬かせた。
――――マジックの需要が高いこの世界の貴族の子供には、一つのルールがある。
それは、一年に一度城で開かれるパーティー――通称『運命の披露宴』で、その年12歳になる令息令嬢が渾身のマジックを披露する、というものだ。
パーティーには国中の王族貴族が出席するため、まさに運命の披露宴だろう。
上手くいけば良縁が繋げて、失敗すれば社交界の笑い話にされる。
当人の今後を左右する大舞台というわけだ。
そのパーティーに出るまでは社交の場でマジックを披露することは絶対禁止。
つまり、12歳になるまでは、社交界でマジックは披露できないのだ。
これを知った時私は文字通り膝から崩れ落ちた。辛い、辛すぎる。
だって12歳って、12歳ってさあ! いくらなんでも遅いと思うのよ!
私はね! なるべく早く世界最高のマジシャンになりたいわけよ!
はやく成長できればできるだけ良い。なんならこの『シエル』の体に慣れてきたら、すぐにでもなるつもりだった。
なのに、なのにぃ……っ!
12歳まではお預けって、どんな拷問だよ!!
神様サイテー! なんっでこの世界に私を転生させたんだよふざけんな!
そりゃあもう荒れに荒れた。お気に入りのティーカップを割り、まさか反抗期かとお父様を泣かせるレベルで荒れた。ごめんねパパン。
しかしながら泣いても喚いてもどうすることもできないので、仕方なく現実を受け入れて、マジックの腕を磨くことにした。
(今に見てろよ社交界……一夜でシエル・ジュリエールの名を轟かせてやるからなァ!)
鼻息荒く啖呵を切る。心の中でだけど。
と、完全に意識の外だったアイヴァン様が、何もリアクションを返さない私に訝しけな表情をした。いけない。
「っと、あー……ファーストダンス、でしたよね」
とりあえず曖昧に笑ってみせるけど、どうすっかなー。
ええと、そうそう。今年の『運命の披露宴』はもう終わってるんだよね。
それでここからが問題なんだけど、『運命の披露宴』が終わった後の貴族の子供は、誕生日パーティーでもう一度マジックを披露する必要があるんだ。
そしてその直後にあるダンスで踊る相手が超重要。
なんと、ファーストダンスを踊った相手は、ほぼ確実に婚約者候補となるのだ。
さらに言えば、ファーストダンスを踊った相手は『その気がある』と認識されるという。
つまり私がこの誘いに乗った場合、冗談じゃなくアイヴァン様の婚約者候補としてみられるわけだ。
あははははははは……笑えねぇっすわ。
幼心を掻き乱してしまったのはスマンと思うが、婚約者にはなれん。スマンな少年。
「頼む。君だから踊りたいんだ」
「んぐぅっ」
決意を固めたところで聞こえたイケメン台詞に、思わず変な声が出た。
イケメンにしか似合わん台詞だ。どこで覚えたのそんな口説き文句。
しかし期待に満ちた目で見つめられても、私は君と踊る気はない。どうしたもんかね。
うんうん考えていると、痺れを切らしたらしいアイヴァン様にスッと手を取られる。
そのまま彼の口元に持っていかれ――え、待って待って待って! やめようちょっと待とう少年! 冷静になれ君ならできるやってくれ頼む!! あわわわわっ!
しかし相手は公爵家の令息。対してこちらは侯爵家。
とてもじゃないが拒絶できない。
でも、でもっ! このままき、ききっ、キス……されるのも、ちょっとダメだと思う!
どうする私、考えろ! どうすれば円満に断れる!?
唸れ私の頭脳!!
いよいよアイヴァン様の唇が手の甲に触れるという直前、私は意を決して決断を下した。
(悪いな少年、私はまだフリーでいたいのだ!)
ここは、魔王召喚の一択!!
直後、アイヴァン様の唇に触れかけていた手が我が父によって取られた。
突然の妨害に呆気に取られるアイヴァン様。
こっそり我が子を見守っていたらしく、まさかの展開に目を見開く夫人。
満面の笑みでグッと親指をサムズアップするママン。
そして娘を素早く背に回して、アイヴァン様に作り笑顔を向ける魔王こと父。
「申し訳ありませんなぁ、アイヴァン殿。娘はこの手の話に経験不足でして。ダンスでしたら、他のご令嬢とお楽しみくださいませ」
「い、いえ、侯爵殿。ですが私は、シエル嬢と――」
「おっとシエル、そろそろ行ったほうがいいんじゃないか? 時間にゆとりは必要だよ」
「そうですわねお父様! 申し訳ありませんがアイヴァン様、私はここで失礼させて頂きますわ。それではご機嫌よう!」
「えっ、あ、えっ? し、シエル嬢っ」
何か言われる前に父と共にさっさと退散した。後ろから引き留める声が聞こえた気がしたが知らん。
公爵邸に入って、いかにもデキそうな執事さんに案内されながらほっと息を吐く。
いやぁパパンやっぱすげぇわ。だいしゅき。
改めて思いつつ上目遣いで父を見てにっこりする。
そう、父はすごい。普段の様子からはそうとは思ないが、父はこの国の宰相であり、騎士であり、英雄なのだ。
公爵家の令息から娘を救い出せる、素晴らしき人なのだ!
尊敬の意を込めてお礼を口にした。
「ありがとうございましたお父様。大好きです!」
「シエル……っ!! パパも大好きだぞ!!」
うん、最後の一言いらなかったね。
大好きな父にぎゅうぎゅうと抱きしめられながら、私はちょっぴり後悔した。お父様髪型崩れる、離して。
執事さんの生暖かい目が恥ずかしい。ううぅん。
バシバシ背中を叩くと、ようやく離してくれた。こら、名残惜しそうな顔すんな。
そういうのは母とやってくださいな親バカ。
呼んでくださって、ありがとうございます!
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