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阿鼻叫喚

 昼食の時間となり、なんとか半ば衝撃から抜けて食堂へ向かった。

 しかし未だにその胸を占めるのは絶望と落胆……。

 ああ、私の知らないマジックよ……あなたは一体どこにいるの?



「どうしたんだいシエル。何かあったのかい?」

「料理が口に合わなかったのかしら……はっ!! もしかして、事故の後遺症で味覚障害にっ!?」

「なんだと!? 急いで医者を呼べェ!!」

「あああああ違います違います考え事をしていただけです!」



 おっとパパンとママンを心配させてしまった。二人は心配性なのだ。申し訳なく思いつつ慌てて弁明する。

 心配性だがいつも優しくて穏やかな父と母は、『シエル』だけでなく『詩重瑠しえる』の自慢でもある。

 その上超美形。これで自慢じゃなかったら理想高すぎるね!



「あら、そうだったの。考え事を……はっ!! もしかして好きな男の子のことを考えていて!?」

「ななななんだとぉ!? 私の娘を誑かしたのはどこのどいつだァ!」

(違いますけど!?)



 たまに母はちょっと妄想逞しかったりするし、父は毎回それを間に受けるところがあるけども、それでも私の自慢なのである。


 というか前世の親がちょっとアレな感じだったんだよね。まあ、いわゆる毒親の類。

 母親は愛の代わりに罵詈雑言を吐き散らすし、父親は私と母に暴力を振るった。

 十五で両親は刑務所行きになって、私は祖父母に引き取られた。

 それまでは本当にヤバかった。何度も死にかけたし、もうあんな思いはマジでゴメン。


 まあそんな感じだったから、他所よその親なら誰でも輝いて見えちゃうんだよね。

『シエル』の両親は人一倍輝いておられますが。たまに眩しすぎてクラっと逝ってしまう。

 その度にお手を煩わせているメイドたちには申し訳ない。ごめん、なるべく早く耐性つけるね……。




 さて話は変わりますが、この超美形の両親の間に生まれた私……というか『シエル』の容姿、そりゃあ気になるよね?

 少なくとも私は気になる。いや気になった。気になりすぎて転生初日に確認済みです。

 だってあの両親の娘だよ? あの顔面偏差値バクってる両親の娘だよ? そりゃあ気になるし期待するじゃんね? ね??(圧)


 というわけで、お母様のご趣味のデザインかやたらキラキラした鏡を覗いた二日前の私。

 この時の私のミスといえば、心の準備をせずに見てしまったことだろう。



 妖精がいた。



 もちろん比喩ではある。が、そうとしか表せないお姿だった。


 わずかな引っ掛かりもないもちスベお肌に、ちょこんとついた桜色の唇は見るからにしっとりしている。

 大きな空色スカイブルーの瞳は透き通っていて、縁取る長い睫毛は上を向いており、見る者に晴れやかな青空を思わせる。

 さらりと流れる髪は晴天の空のような水色。所々に黄色のメッシュが入っていて、まるで夏の空に咲き狂うひまわりのよう。


『可愛い』というよりも『綺麗』というこの容姿に、一瞬本当に妖精様かと思った。

 あと髪の色コレ、遺伝子どうなってるの? メッシュとかコレほんとに天然モノ??

 もしかして異世界人はみんなこうなの? そうなの妖精様(自分)ー!?

 無論文句なんて無い。ないがツッコミはある。五、六箇所ほど突っ込ませていただきたい所存です。



「シエル、なにか欲しい物はある? ベッドの上は退屈でしょう?」



 荒ぶっている内心をおくびもださず粛々と食事を進めていると、すでにデザートを待っている母が優しく聞いてくれる。



「いえ、大丈夫です。ずっとマジックの練習をしているので」

「あら、マジックの?」

「ほお、私たちの娘は勉強熱心だなあ!」



 正直に答えちゃって一瞬慌てたけど、そっかこの世界では勉強の部類に入っちゃうのか。

 本当はどちらかというと趣味だが、勘違いはそのままにしておく。



「なら、一流の家庭教師を呼びましょうよ。ほら、イリーネさんなんてどうかしら」

「いいかもしれんな。彼女なら、すぐにシエルに親指マジックを伝授してくれるだろう」

「あー……それなら、もう習得しました」

「はっ?」

「えっ?」



 このまま低レベルの授業が始まるのもちょっと困るので正直に言うと、父と母は穏やかな微笑みのまま目をかっ開いて硬直した。

 え、怖い。

 ついでに給仕のメイドたちもガチッと固まり、時間が停止したかのよう。

 メルルなんて私のカップにお代わりを注ぐ直前の体勢で微動だにしない。二重の意味で怖い。

 ……これ、突っ込んだ方がいいんだろうか。


 おろおろ視線をさまよわせていると、唐突に両親が解凍。

 直後に怒涛の勢いで言葉をかけられる。



「まあ、まあまあまあまあ! すごいわ、すごいわよシエル! いつの間にできるようになったの?」

「え、っと……療養中は暇だったので、練習していたらいつの間にか……」

「すごいじゃないかシエル! 大人にもできない者がいるほどなのに、それをたった十歳でマスターするとは! うちの娘は天才天使だなぁ!」

「まあアナタ、何を言っているの? シエルは天才妖精でしょう?」

「さすがで御座いますお嬢様。このメルル、感服致しました。この首命全てお嬢様に捧げますゆえ、一生付いて参ることをお許しいただきたく」



 わぁ…………。

 想像していた以上の阿鼻叫喚ぶりに私呆然。

 それでも表情は崩さない。いついかなる時でも平常心を装えるように訓練した甲斐があったね! こんな時のためではないけども。


 お父様、あのマジック大人でもできない人がいるってマジですか。今日は本当に驚愕の連続です。

 お母様も妖精て。いや私も思ったけども。

 あと何気に私のメイドが怖いこと言ってる。無表情であんな物騒なことを大真面目に言えるのは、世界中探してもメルルだけだと思う。



 うん…………うん。もっと高レベルのマジックが出来るっていうのは、もうちょい内緒にしとこうかな。

 でないときっと地獄絵図になるから。真面目に。

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