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こちらギルドの調査員 ~冒険者じゃない俺の方がよっぽど大変なんだが?~  作者: 月城 葵
そろそろヒロインの出番じゃない?

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第8話   初めての共同作業


 ナックは、やっぱりいない。


 まあ見つかればラッキー、ぐらいで探してるが……これって同僚の安否確認も業務のうちに入るのか?

  俺は調査員であって保護者じゃないぞ。


 それより、問題は謎の光だ。

 東の街道で目撃された青白い光。

 場所をもう少し絞っておかないと、また無駄足になる。


 腹も減ったし、テッタのところで弁当をひとつ。


「なあテッタ、例の光って、どの辺だったか聞いてないか?」

「山沿いだったって話さ。けどねぇ、そっちの情報は、みんな酔っ払いみたいな顔してたけど」

「……はいはい、ありがと。山沿いね」


 弁当を片手に東門へ向かう。

 門兵にさりげなく声をかけた。


「なあ、金髪で鼻水垂らして、情けない顔したやつ、見なかった?」

「……ナックのことか? 昨日出て行ったきりだな。まだ戻ってないな。おい、お前見たか?」

「いや、あの腰が引けてた奴だろ? 見てないな」


 ……なんだ、ナック。お前って、案外、有名人らしいぞ。


 だが、昨日から? ただの光の調査で野営でもしてんのか。

 いや、ナックのことだ。

 道端で泣きべそかきながら、寝落ちしてる可能性の方が高い。


 それでも――例の光を追ってるとしたら、厄介だ。

 

 仕方ない。

 俺も山沿いを歩くか。




 ◇ ◆ ◇



 街道を歩きながら、すれ違う通行人に声をかけてみた。


「すみません、金髪で、俺みたいな服装した男を見ませんでしたか?」


 相手は首を傾げてから答えた。


「……明け方前に、山道で会った人かな。暗くて髪の色まではわからなかったけど、やけに怯えてましたよ。声をかけたんですが、悲鳴をあげて走り去っていきましたけど……」

「明け方前に……?」

「ええ。私はそのままペテルに向かって来たんで」

「……協力ありがとうございます」


 ……ナックだな。通行人相手にビビるのは、あいつで間違いない。


 ただ、明け方前ってことは……今から追いついたら、どう考えても夜になる。

 

 ……はぁ。なんで俺が、あいつの足跡を追っかけ回してんだか。

 

 急がなきゃならないのは分かってる。分かってるけど――なんでよりによってナックなんだよ。




 山道の分かれ道に差しかかった。

 北へ行けば海沿いの村、南東へ進めば聖王国方面。


 ……通行人の兄ちゃん、どっちから来たんだろうな。聞いておけばよかった。


 まあ、テッタが言ってた目撃者は御者だったはずだ。ってことは、聖王国方面から来た線が濃厚か。


 しばらく進むと、荷馬車を操る商人に出くわした。


「すいませ~ん。俺と同じような服装した金髪の男、見ませんでした?」

「いや、見てないな。……あんた、調査員の人かい?」

「ええ、一応は」

「だったらちょうどいい。最近、この北の村で青白い光を見たって噂が出てるんだ。調査してくれねぇか?」


 ……北の村なんてあったか?


「海沿いの村じゃなくて、北の村? そんなのありましたっけ」

「ああ、何年も前に廃村になったとこだ。海沿いの手前だな。山道の中腹あたりに村への小道があったはずだよ」

「……なるほど。わかりました、ちょっと寄ってみます。ところで、手は大丈夫ですか?」


 手綱を握る手が、真っ赤に腫れ上がっててなんとも痛そうだ。火傷か?


「昼間にね、鍋ひっくり返しちゃって。上薬草がなくてね……」


 うわ~。俺も前にやったわ。

 それを経験してからというもの、テッタの弁当に頼ってるんだ。


「使うかい?」

「おお、助かるよ。ペテルに行ったら、正式に調査依頼は出しておくからなぁ」


 お代を気持ち上乗せして、商人は去って行った。たまには人助けもいいもんだ。

 

 それにしても、廃村ねぇ。

 そんな便利ワードをサラッと出してくるあたり、だいたい嫌な予感しかしない。


 ……北か。


 廃村に行くなら、こっちの山を突っ切る手もあるが――いやいや、夕刻に山はごめんだ。

 さっきの分かれ道まで戻って、海沿いの村方面へ回ることにした。




 日が傾き始めた山道は、木々の影が伸びてきて妙に薄暗い。

 風の音が枝を鳴らすたびに、誰かが歩いてるように聞こえるのは勘弁してほしい。


 しばらく進むと、小道を見つけた。

 道というより、無理やり人が踏み固めた痕みたいな細い獣道。

 奥は鬱蒼として、夕闇に呑まれそうな雰囲気だ。


「……なるほどな。ナックがビビるのも、ちょっとわかる気がする」


 ここが、例の廃村に続く小道らしい。


 ……だいぶ日が落ちてきたな。


 よし、装備チェックだ。テッタの弁当は無事。いつもの道具も揃ってる。

 あとは――聖水と、くず魔石が少々。


「……まあ、何とかなるだろ。行くか」


 しばらく歩くと、人が長らく踏み入れてなかった道に、真新しい痕跡を見つけた。

 足跡だ。数はひとつ。


「ナック、か……? いや、さすがに足のサイズまではわからん」


 さらに進むと、木々の隙間から朽ちた家並みが見えてきた。

 廃村だ。入口には、もう読めない文字が刻まれた立札が半分倒れかかっている。


 足跡は、村の中へ続いていた。

 そして、その傍らには転がる空の瓶。

 袋から聖水の瓶を取り出して見比べる。


 ……同じだ。


「……確定。ナック、お前、ここに来たな」




 ◇ ◆ ◇



 陽が落ちた廃村の全体を、ざっと見回す。


 家はどれも朽ちてはいるが、焼け跡や血痕は見当たらない。

 魔物に襲われて、滅んだ感じじゃなさそうだ。


 ……雰囲気だけは、最高に不気味だな。


 ナックの足跡は、村の奥の小屋へと続いている。


 小屋の前に立ち、呼吸を整える。

 聴覚を強化――息遣いは、ない。


「……おいナック、死んでねぇよな」


 ゆっくりとドアを押し開け、中を覗き込む。


 誰もいない。

 ただ、床一面に積もったほこりに、足跡が刻まれていた。

 行ったり来たり、何かを探してうろついた形跡。


 視線が止まる。ベッドの下に、不自然にこすられた跡。


「……ベッドの下?」


 身をかがめ、覗き込む。

 誰もいないし、何もない。


 ……ナック、お前まさか。


 怖くてベッドの下に隠れてただけか?

 わずかな可能性を想像して、落胆する自分が嫌になる。


 だとしたら、何を見て怯えたんだ?

 立札のところに戻って、足跡を改めて確認する。


 ……さっきの新しいやつは「何かを見た後」の動きだ。


「古い足跡は……あれか」


 少し薄れているが、村の奥へ続く跡がある。

 その先に目を向けると、そこにはいかにもな古井戸がぽつんと残っていた。


 ……なるほど。


 そこで何かを見て、慌てて聖水をぶちまけて、小屋に逃げ込んだ――。

 うん、ナックらしいな。


 古井戸に近づく。

 縁のほこりに、手をかけた跡が残っていた。


 ……ナックだな。間違いない。覗いたんだ、ここを。


「さて……何を見たんだ、ナック」


 俺も身を乗り出して中を覗き込む。

 ――特に、何もない。ただ底にわずかに残った水が、月明かりを反射してきらめいている。

 いや、きらめきの中に……何かが映っているような。


 小石を拾って放り込む。

 チャポン――のはずが。

 カンッ。


「……おい。なんで金属音なんだ」



 目を凝らすが、暗すぎて底は見えない。

 そのときだった。


 一気に、周囲の空気が冷たくなった。

 息が白くなり、全身に鳥肌が立つ。

 振り向きたい。だが――振り向けない。


 音は――ない。

 けど、気配は確かにある。


 ……何の準備もしてねぇ。完全に奇襲じゃねぇか。


 ナックに会った時は、向こうも警戒してたんだろう。

 だから無事だった? くそ、完全にやられた。


 ……どうする……。



 自分の鼓動が、うるさいくらいに聞こえる。

 だめだ、振り向いたら死ぬ。

 背中にまとわりつく、この重たい空気――。


 雰囲気は、ムーンフェイドに近い。

 けれど冷気は微弱。

 だが、襲いかかってくる気配がない。


 ……こいつ、なんだ?


「だれ? あなたはだれ? あの人はどこ?」


 言葉……だと?

 対話できる? おいおい、勘弁してくれ。怪異とおしゃべりする趣味はねぇぞ。


「あなたはだれ? ……村の人間……裏切り者……違う」


 ……さて、どうする。名乗るか、誤魔化すか。


 もしここでナックと鉢合わせして、あいつが俺の名前を大声で呼んだら?

 はい終了。俺の選択肢なんて吹っ飛ぶ……うん、そのパターンは知ってる。


「……俺はアルディン。ペテルの調査員だ」

「アルディン……ペテル……」


 繰り返す声。考えてるのか? それとも味わってるのか?

 どうにも掴めねぇ。


「なぁ、振り向いてもいいか? 危害を加える気はない」


 ――返答は、ない。

 冷気だけが、背中にまとわりついたままだ。


「……アルディン」


 さっきよりも声のトーンが柔らかい。――いけるか?


「手を上げるぞ。危害は加えない。そのまま、振り向くから」

「アルディン……」



 声に背中を押され、俺はゆっくりと振り向いた。


 そこにいたのは――ラヴァナイト。

 ムーンフェイドよりも危険度が高いとされる悪霊。

 恨みを持つ相手以外には無害……のはずだが、目の前に立たれると息が詰まりそうになる。


 青白いガイコツの頭部。

 だが体は、まるでウェディングドレスをまとった花嫁のような輪郭をしている。

 半透明の裾が宙に揺れ、ふわりと浮いたまま、じっと俺を見つめていた。



「どうしたんだ? 困ってるのか?」


 ラヴァナイトは未練の塊だ。

 頼みを聞けば何とかなることもある……簡単なものなら、だが。


「アルディン……ナック殺す。嘘つきナック……逃げた」


 ……あいつぅぅぅ!


 おいおい、よりによってアンデッドに恨まれて逃げるとか、どんな業務だよ。


「……その裏切り者のナックと何か約束したのか?」

「ナック、ウソツキ。アルディン……アイツ、コロス……コロセ」


 やばい。完全に殺意が溢れ出してるじゃねぇか。


「とりあえず、考えておくよ。それより――困ってたから、そのナックとかいう奴に頼んだのか?」


 ラヴァナイトが、じっとこちらを見つめる。

 ガイコツと凝視合戦って、傍から見たら間違いなくやべぇ。


「アルディン……優しい?」


 うーん、返事に困る質問だ。

 どう返しても突っ込まれそうだし、そもそも優しいって何だ。


「受け取り方は人それぞれだな。で、ナックとかいうクソ野郎は何を約束したんだ?」


 ラヴァナイトはしばらく言葉を探すようにして、それからぽつりと言った。


「ナック……腕輪」

「腕輪?」


 聞き返すと、ラヴァナイトは慎重に口を開いた。

 声はあの冷たい調子のままだが、言葉は丁寧だった。


「壊す」


 え、壊すって……。一瞬、意味がわからなかった。


「壊す? 腕輪を壊して欲しいのか?」


 ラヴァナイトは小さく頷いた。

 

 その仕草だけで、こいつが復讐とか怨念の連鎖。

 そんな面倒くさい理由で、動いてるんだと分かる。

 腕輪を壊す——聞こえは単純だが、こいつ相手にそれをやるのは簡単じゃない。


 胸の奥で、どうしようもない予感がざわついた。

 これがラヴァナイトの未練の核なら、放っておけば誰かが傷つく。



「具体的になんだ? その腕輪って、今どこにある?」


 俺は冷静に訊いた。

 ラヴァナイトはまた、少しだけ視線を落としてから答えた。


「井戸の底……」

「……底にあるんだな?」


 ラヴァナイトが、こくりと頷く。


「それはナックの物なのか?」


 問いかけると、ラヴァナイトはゆっくり首を横に振った。


 なるほどな。

 つまり――ナックは腕輪の件を、ただ逃げ延びるためだけに引き受けて、そのまま姿をくらませたわけだ。


 ……筋は見えた。


 あいつ、小屋に隠れてベッドの下で震えてたんだろ。

 けど見つかって、泣きながら「頼みを聞くふり」をして、その隙に逃亡、と。


 おい、ナック。

 お前って奴は……。


「……俺に壊せるかどうか、まだわかんねぇけど、とりあえずやってみるよ」


 ラヴァナイトは、じっとこちらを見つめたまま動かない。

 目が合ってるのかどうかも怪しいが、監視されてる気分には変わりない。


「ロープみたいなの、ないか?」


 問いかけると、ラヴァナイトは無言で崩れかけの納屋を指さした。


「お、あっちか」


 歩き出すと、背後からふわりと冷気がついてくる。


 ……まぁ、一回逃げられてるからな。今度は同行監視ってわけか。ご苦労なこった。


 納屋に入ると、埃とカビの匂いが鼻を突いた。

 朽ちた木材の隙間から月明かりが差し込み、積まれた残骸の陰にロープらしきものが転がっている。

 手に取れば、まだ使えそうだ。


 ――そのすぐ傍らに、擦り切れた革表紙のノートが落ちていた。

 日記、か……?

 埃が払われた跡がある。ナックも読んだのか?


 ロープを拾い上げる前に、傍らの日記をさっとめくってみた。

 名は、リース。

 どうやらエルフの婚約者だったらしい。


 記録は結婚式の数日前で途切れている。

 村人の反対を押し切って、村長の息子と結婚しようとしていたようだ。


 ……うわぁ、ドロドロだな。こういうのが一番、後を引くんだよな。


 俺はパタンと日記を閉じて、肩をすくめる。



「ロープ見つけたぞ」


 背後で、ラヴァナイトの影がふわりと揺れた。

 納屋からロープを抱えて戻り、井戸の縁にしっかりと掛ける。


「……よし」


 背後に漂うラヴァナイトに一言。


「行ってくる」


 袋からくず魔石を一つ取り出し、軽く魔力を流す。

 ぼんやりとした光が辺りを照らし、井戸の内壁に影を落とした。


 ……照明代わりには十分だ。


 ロープに手を掛け、ゆっくりと体を預ける。

 壁面の苔で足を滑らせないよう注意しながら、慎重に降りていく。

 湿った空気が肌にまとわりつき、ひやりとした感覚が背中を這う。



 どこの世界に、アンデッドの花嫁と初の共同作業してる調査員がいるんだよ。


 ……俺はなんなんだ。


 靴底が冷たい石に触れる。

 底に降り立った瞬間、空気がさらに冷えた気がした。


「さて、腕輪はどこだ?」


 光るくず魔石を掲げて底を見回す。

 そこで目に入ったのは、白骨化した遺体だった。


 近づいて確認する。頭蓋骨の形状――細長い耳の痕跡。

 エルフだ。間違いない。


 しかも頭部はひどく陥没していた。

 当時はまだ水が溜まっていただろう。

 殴られたあとに、この井戸へ投げ込まれた。そう考えるのが自然だ。


 ……胸糞悪いぜ


 骨の腕には、腕輪型の魔道具がはめられていた。

 最近よく出回っている禍々しい造り――これも奴らの仕業か。

 こんな形のやつ、倉庫街でも見たばかりだ。


 さらに目を凝らすと、骨ばった指には小さな指輪が残っていた。

 内側には、かすれながらも読める文字。



 ――リースへ、愛を込めて。


 ……恋人には、ちゃんと愛されてたんだろうに。


 それが、こうして朽ち果てた井戸の底で骨になってるなんて、あんまりだよな。


 遺体をそっと結界で覆う。


「……これで崩れないはずだ」


 肩に担ぎ、井戸をよじ登る。

 冷たい石壁を押さえながら上がるのは骨が折れたが、なんとか外へ出られた。


「よ、待ったか?」


 井戸の縁に立つラヴァナイトの瞳――いや、光る眼窩に、憎悪の色が宿っていた。


 ぞわりと背筋を冷たいものが走る。


「で、この腕輪を壊せばいいんだな?」


 問いかけると、ラヴァナイトは深く頷いた。

 その仕草は、まるで早く壊せとせき立てているように見えた。


「……待ってろ。俺もな、この腕輪にはムカついてんだ」


 そう吐き捨て、力いっぱい剣の柄で殴りつけた。


 ――バキリ。

 乾いた音を立てて、腕輪はひしゃげ、真っ二つに折れた。


 砕けた瞬間、腕から外れたそれが、カランと地面に転がる。

 遺体を縛っていた何かが、すっと抜け落ちていくのを肌で感じた。



「アルディン……」



 背後からの声は、さっきまでの冷気とは違う、やわらかい響きだった。


 振り向けば――そこに立っていたのは、生前の姿を取り戻したのだろう、美しいエルフの女性。

 白い衣をまとい、淡い光に包まれて、静かにこちらを見ている。



「おう、大丈夫そうか?」



 問いかけると、彼女――リースは、こくりと頷いた。

 俺はそっと、骨から外した指輪を差し出す。


「少なくとも、恋人だけは……お前をちゃんと愛してたと思うぜ」



 リースの瞳が揺れ、涙のような光が零れ落ちた。



「……ありがとう……精霊の加護があらんことを」

「ああ。お前もな」


 リースの輪郭は月明かりに溶けるように薄れていき、やがて夜空へすうっと消えていった。


 もう、冷気も――なにも感じなかった。



「……さて。もう悪用されるわけにはいかないよな」



 俺は残った遺体を静かに横たえ、火を灯した。



 揺れる炎に照らされながら、口に出すのは我が家に伝わる古い祈りの言葉。



「森に坐す精霊よ、風を運ぶ精霊よ、水を湛ふる精霊よ、火を灯す精霊よ」



 パンッと、柏手を一つ。



「迷いし魂を御身らの懐に抱き、嘆きは大地に鎮め、涙は川へ流し、その魂を光の彼方へと送り給へ。安らかに、還り給へ」



 正しき循環へ戻れ、リース。



 炎はゆっくりと燃え広がり、崩れた骨と衣を包み込んでいく。

 乾いた木の弾ける音と、夜気に溶ける煙の匂い。

 火の粉が舞い上がり、月明かりの中で小さな星のように散って消える。



 俺はその場に腰を下ろし、腕を組んでただ炎を見つめていた。



 どれくらい時間が経ったか分からない。

 けれども、焚き火の明滅に合わせて、確かに彼女の気配は薄れていった。

 恨みも悲しみも、炎と共に天へ昇っていくように。


 夜明けが近づくと、空の色が群青から淡い紫へ変わり、やがて東の稜線に一筋の光が射した。


 俺はその光を見て、ようやく立ち上がる。



 ――リースは還った。



 砕けた腕輪を布に包み、そっと袋にしまった。


「……お前は、この腕輪に負けなかったんだな」


 指先に残る冷たさを感じながら、独りごちる。


 クソ狂信者の精神支配にすら、彼女の愛は打ち勝った。

 だからこそ、最後まで理性を保ち、暴走もしなかった。


 ラヴァナイトに堕ちても、操られることはなかったんだ。



「大したもんだぜ」


 誰にともなく呟いて、布袋を軽く叩いた。



 ふっと、リースの気配に似た何かが頬を優しく撫でた。



「次に会ったら、あいつらぶっ潰すからな。まぁ、見ててくれよな」













ここまで拙い文を読んでいただきありがとうございます!


「面白かったなぁ」

「続きはどうなるんだろう?」

「次も読みたい」

「つまらない」


と思いましたら

下部の☆☆☆☆☆から、作品への応援、評価をお願いいたします。


面白かったら星5つ。つまらなかったら星1つ。正直な気持ちでかまいません。

参考にし、作品に生かそうと思っております。


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