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こちらギルドの調査員 ~冒険者じゃない俺の方がよっぽど大変なんだが?~  作者: 月城 葵
ギルドの調査員? はい、地味です。

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第4話   クソッタレの趣味


 先行した冒険者たちは、どうやら誘い込まれてることに気付いてねぇ。

 足音の方向からして、まっすぐゴブリンの尻を追ってる。


「……しゃーねぇ、俺は先回りだ」


 音を頼りに森を抜けていく。地面を叩く靴音と甲高い叫びが、木々に反響して方向を教えてくれる。


 しばらく進むと──カンッ、ガギンッ!

 金属がぶつかる明らかな剣戟の音が届いた。


「……囮に追いついたか」


 まあ、ここまで来りゃさすがに冒険者どもも「罠っぽいな」って気付くだろう。

 これ以上は、わざわざ誘い込まれに行く必要もねぇ。


 だから、俺は冒険者には近寄らない。

 その先を見に行くことにした。


 草木をかき分けながら、慎重に進む。

 鼻をつくあの独特な匂い……ゴブリン特有の獣臭さだ。


 ……近い。


 身体強化で聴覚をさらに研ぎ澄ます。

 聞こえる。短く荒い息遣い。


 ……十体はいるな。


 囮を追ってる冒険者どもに対して、十匹。

 数が合わねぇ。少なすぎる。


 じゃあ、残りはどこにいるんだ?


 待ち伏せてるってことは、やっぱりさっきのは囮だな。

 偶然の遭遇戦じゃねぇ。意図的に仕掛けてやがる。


「となると──指揮してる野郎がいるはずだ」


 普通のゴブリンにゃ無理な芸当だ。

 群れを動かして罠を張れる奴……せいぜいホブか、最悪ならシャーマンか。


 嫌な予感しかしねぇ。



 ◇ ◆ ◇



 俺はとりあえず、痺れ草をひとつ取り出して火で炙った。

 小さく煙が上がる。匂いはきつめで、鼻の奥がチクリと痛む。いい兆候だ。


 この煙を吸い込むと、感覚が鈍る。生物相手には結構有効だ。

 特に二足歩行のゴブリンなんてのは、正座したあとみたいに足が痺れる。

 地面に足をついた瞬間、むずがゆくてびりびりする感じ――完全に動けなくなるわけじゃないが、素早い機動が落ちる。

 待ち伏せてる奴らを追い出すなら、これで十分役に立つだろう。


 ……よしよし、食らいやがれ。


 使い方は簡単だ。風上に煙を流して、森の通り道に沿わせる。

 奴らの穴や藪に溜まってるやつらに、直接居心地の悪さを味わわせてやるって寸法だ。

 もちろん風向き読みは重要。読みを間違えりゃ自分が先にやられる。ああ、そういう詰めの甘さは俺も昔から苦手だ。


 袋の小瓶に残った消臭粉と石も確認する。ゼットの石はまだ無傷だ。壊れたら近くに仕掛けがある合図になる……ってのを、頭の片隅に入れておく。


 火を消し、煙をゆっくり流し込む。葉の隙間を這うように白い線が延びていく。

 やがて、向こうからかすかなざわめき――足がもつれる音が、いつもより少し緩やかに聞こえた。効いてる。


「よし……これでちょっとは賑やかになるか」


 待ち伏せしてる奴らを追い出せば、あとは冒険者たちでなんとかなる。

 ゴブリン同士で乱戦になりゃ、さすがに下級パーティー二ついるんだ。勝てるだろう。


 問題は、こいつらを仕切ってる指揮役だ。

 そいつを見つけりゃ、群れ全体が崩れる。


 煙の中で足をもつれさせたゴブリンたちのざわめきを横目に、俺はさらに森の奥へと視線を走らせる。

 音、匂い、気配。どれかに違和感があるはずだ。


 普通のゴブリンとは違う、落ち着いた呼吸。

 仲間に合図を送るような、短く低い声。


「……いたな」


 一見すればただのゴブリンだ。

 だが手には錆びついた鉈みたいな得物を握ってる。他の連中が棒切れや石ころ抱えてるのに比べりゃ、十分殺傷能力が高い代物だな。


「……いいもん持ってるじゃねぇか」


 目に魔力を流して強化する。焦点が合った瞬間、確信する。


「……ビンゴ」


 目が血走ってやがる。ぎらぎらと獲物を探す視線。

 この前の馬鹿猪と違うのは、指示を出せる頭があるってことか。


 ただのゴブリンじゃねぇ。群れを誘導できる異常個体だ。


 ホブでもシャーマンでもない。ただのゴブリン。……そう考えると安堵するんだが、同時に不気味でもある。

 なんでただの一匹が、あんな血走った目で群れを仕切れてるんだか。世界七不思議にでもノミネートされてんのかよ。


 さて、どうするか。

 あいつをぶっ殺すのは簡単だ。だがここで派手にやっちまえば、周りの連中は蜘蛛の子散らして逃げてくだろう。


 散らばったゴブリンを片っ端から回収するのは、俺じゃなくてあの下級パーティーの仕事だが……まあ、あいつらの実力じゃお察しだ。


 つまり、俺が今やるべきは静かに首を刈るってやつだ。

 痺れ草をもうひと炙りして煙を流し込む。ゴブリンのざわめきがちょっと鈍る。いい感じに効いてる。


 よし、あとは回り込むだけだ。

 風魔法で自分の足音を抑えつつ、藪を抜ける。剣は抜いてあるが、使うのは一瞬。派手な演出はお断りだ。


 目の前のゴブリン、錆び鉈を肩に担いで、仲間に何やら合図を送ろうとしている。

 おいおい、いいタイミングじゃねぇか。


「……行くか」


 俺は一歩、静かに踏み出した。


 狙いは首筋。テッタの唐揚げでチャージした胃袋のパワーじゃないが、腕は鈍ってねぇ。

 刃を走らせ──首を掻っ切る。血の匂いがぱっと鼻を突く。


 間髪入れずに身体強化を極限まで引き上げ、そいつの腕をがっちり掴む。

 力を込めて──遠くへ放り投げる。ゴブリンの身体が空中を舞い、木にぶつかってころがる音がする。


 ついでに自分も一歩で跳躍。藪の陰へ飛び込んで、気配を殺す。


 土気を吸い込みながら息を整え、隠れたまま様子を見る。

 ゴブリンたちは一瞬そっちを振り返ったが、煙のせいか痺れのせいか、完全には気付いていない。ざわつきはあるが、隊列は崩れてない。


 胸のあたりがじんわり熱い──仕事は終わった、とはまだ言えないな。だが第一手は成功だ。

 小さく舌打ちしてから、そっと湾曲した枝越しに前へ出る。


「よし。じゃ、検分しますか」


 放り投げたゴブリンに近づく。


 ……死んでるな。


 目は血走って真っ赤、血は黒ずんで気味が悪い。

 牙がちょっと大きいが、他は見慣れたゴブリンのまんま。派手な変異でもしてりゃ話も早いんだが、そう簡単に行かねぇか。


 とりあえず結界を描いて火をつける。黒い煙がもわっと上がって、鼻がツンとする。

 はいはい、お前はこの世からログアウト。


 燃え尽きた腹のあたりから、コロンと小石みたいなのが出てきた。

 拾い上げると、ずしりと重い魔石。うっすら青白く光ってやがる。臭いは……まあ、気分の悪くなる系だな。


「お土産ひとつ、ゲットだぜ」


 布に包んで袋へ突っ込む。火を消して、残りカスも土で埋めておく。

 ついでに辺りを調べてみると……あれだ。ゴブリンの足跡に混じって、人の踏み跡がある。誰かが仕込んでる予感しかしねぇ。


 ……まだ、新しいな。


 俺が近づいた、その瞬間だった。

 懐にしまっていたゼットの石が──パキン、と小さく割れた。


「……見つけたぞ、クソッタレ」


 吐き捨てる声が、自分でも低くなるのがわかる。


「どっちだ……」


 息を押し殺して、魔力感知を発動する。


 ……あっちの弱い反応は、群れてるゴブリンたち。なら、本命は逆だな。


 森の奥をにらむ。ぞわりと寒気が走る。


「……あっちか」


 一気に駆け出す。枝を避け、土を蹴る。

 その瞬間、頭の奥にガンッと衝撃。

 強烈な頭痛で視界が一瞬にじんだ。


「……こりゃ、相当つえぇな」


 奥に差し込む光の中──地面に突き刺さった金属片。

 見慣れた嫌な気配、魔道具だ。


 剣を構え、一気に踏み込む。

 刃先で魔石を突き砕くと、甲高い音とともに光が弾けた。


 頭痛がすっと引いて、重苦しい空気も消える。


「……ふぅ」


 足元に転がるのは、原型をまだ残した魔道具だった。

 金属の軸に魔石がはめ込まれて、焼け焦げはしてるが、形はわかる。


「……なるほどな」


 今まで見つかったのが、残骸ばっかりだった理由が腑に落ちた。

 暴走させて、ぶっ壊れるまで放置したから、いつも残骸になってたってわけか。


 つまり、意図的に壊れるまで使ってたってことだ。

 誰が仕込んでるかは知らんが、相当手慣れてやがる。


「クソッタレの趣味が悪すぎんだろ」


 剣の先で魔道具をつつきながら、俺は低く吐き捨てた。


 魔物を暴走させてるのはわかった。

 だが、その意図はなんだ?


 考えるまでもねぇ。だいたい、こんな事やらかすのはいつもあいつらだ。

 悪魔崇拝の狂信者ども。


 捕まえても口は割らねぇし、吐くのは意味不明な戯言ばっかり。「闇の意思がどうの」とか「魂の解放がなんとか」とか……要するに、本気で狂ってる。


「……マジでタチが悪い連中だ」


 剣の柄を握り直しながら、俺はぼそっと吐き捨てた。


「……とりあえず、これは回収だな」


 壊れた魔道具を布で包んで、袋に突っ込む。

 これで証拠は押さえた。が、問題はここからだ。


「どうするかね……」


 森の奥を見やりながらぼやく。

 もし狂信者どもが本気で動いてるなら、こいつら問答無用で森に魔道具を突き立てて歩いてるってことになる。


 あっちこっちに暴走した魔物がばらまかれる……想像しただけで頭が痛い。


「あ~、めんどくせぇな」


 肩をぐるりと回してため息をひとつ。

 だが、愚痴を言ったところで状況が楽になるわけじゃない。


 魔力感知を発動してみる。……が、拾えるのは微弱な反応だけだ。

 つまり、ここにはもう仕掛けはねぇか、あるいは巧妙に隠されてるかのどっちか。


「しかもよ、これ……疲れんだよな。長時間は無理だ」


 額を押さえて深く息を吐く。

 ゼットにもらった石を追加でもらってくるか? 結局、確実なのはそれだ。


 小さく笑ってしまう。まったく、面倒くさい世界だ。

 どんな世界にも裏がある、ね。


 あの狂信者どもにも、まだ俺たちが知らない裏があるのか?



「……母ちゃん」


 思わず口をついて出た名前。答えが返ってくるはずもない。

 森の奥で立ち尽くしながら、俺は一瞬だけ目を閉じた。


「……戻るか」


 来た道を引き返す。森のざわめきも、さっきよりは落ち着いて聞こえる。

 途中で視界が開け、冒険者のパーティーがゴブリンたちと格闘しているのが見えた。


 剣と棍棒のぶつかる音、怒号、緑の影が飛び散る。だが、形勢は明らかに冒険者側に傾いている。


「よしよし……もう勝ちだな」


 ふらついているゴブリンどもも、あれなら数で押し切られるだろう。

 あっちは大丈夫そうだ。なら俺が顔を出す必要はない。


「さてと。任務は完了。帰るか」


 俺は肩の力を抜いて、街への道を歩き出した。













ここまで拙い文を読んでいただきありがとうございます!


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