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こちらギルドの調査員 ~冒険者じゃない俺の方がよっぽど大変なんだが?~  作者: 月城 葵
冒険者じゃない俺の方がよっぽど大変なんだが?

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第15話  徹夜明け、即座に決まる、スケジュール



 夜は静かに眠るもの――なんてのは、昔の平和な話だ。



 今のペテルじゃ、鐘が鳴るたびに心臓が跳ね上がる。南だの西だの、あっちこっちで魔物が散発的に突っ込んでくるせいで、休まる暇が一切ない。


 ……ああ、はいはい。わかってますよ。


 でもな、俺だって人間なんだ。眠いときは眠い。


 魔物の死体は積み上がり、片っ端から焼却。人間の遺体には聖水をかけて回る。


 神父でもシスターでもないのに、すっかり神聖業務に就任だ。バイト代ぐらい上乗せしてくれてもいいと思うんだが。


 道端ではテッタが大鍋を抱えて「はいはい! 肉団子スープ追加ね!」と声を張り上げている。あの元気、どこから湧いてくるんだ。


 少し離れた広場じゃ、ハクユウをはじめとした治癒士たちが治療に追われている。次から次へと傷だらけの兵士が担ぎ込まれてきて、まるで割引セールの行列だ。



 で、俺はといえば――はい、ご想像のとおり、ぐったりだ。

 腰を下ろすたびに「アル、こっち手伝え」だの「アル、補充はまだか」だの呼ばれる始末。


 俺は警備隊でも、冒険者でもないっての。

 もしかして俺、街で一番便利に使われてないか?



 ◇ ◆ ◇ 



 やれやれ、ようやく腰を下ろせた。

 激務明けの足腰ってのは、石のベンチでもふかふかの羽毛布団に思えるから不思議だ。


 隣ではナックがちゃっかりスープ二杯目に突入している。どんだけ図太い胃袋してんだ、お前。


「アル、肉団子うめぇぞ。食っとけ食っとけ」

「……お前、ついさっきまで死にかけてなかったか?」


 フォークで肉団子を転がしながら、ナックが言う。


「腹が減ったら死ぬだろ?」

「そういう問題じゃねぇ」


 疲れ知らずのテッタが大鍋を抱えて、あっちこっちへと元気に配給している。

 まるで戦場の女神か、いや、うるさい屋台の姉ちゃんだな。


 だが、その元気に釣られて、みんなの顔にちょっとだけ生気が戻ってるんだから侮れない。


 スープは塩気が効いていて、疲れ切った体にいやに染みわたる。こういうのを食うと、人間ってまだやれるんじゃないかと錯覚するんだよな。


 俺はスープをすすりながら、頭の中で事件を整理していた。


「……なぁナック。これ、やっぱ鍵が目印だと思うか?」

「うん? あの鍵か? 目印まで来たとして、何がしたいんだ?」

「さぁな。あれ目指して魔物を引っ張り出してるなら、この先いつまで来ることやら……」


 つまり――このまま放置すれば、やつらは何度でも押し寄せてくる。


 なら発想は単純だ。

 目印が鍵なら、こいつをどっか遠くに持っていけばいい。


「移動させちまえば、ここへの集中攻撃は防げる……だがな」

「……だが?」


 ナックが首を傾げた。


「その任務を誰がやるんだって話だ」


 鍵を抱えて街の外を走り抜ける。

 つまり、敵のど真ん中に飛び込むのと同じ意味だ。


 そんな危険な仕事、誰が進んでやるんだろうな――少なくとも俺じゃねぇ。


 ナックがスープの底をすくいながら、ふと顔を上げる。


「傭兵にな、やらせるってのは?」


 軽い案だが、さすがに今の状況でそれはない。

 俺は眉をひそめながら吹き出すのを抑えた。


「傭兵に任せたら、多分『あ、もう任務完了したから』って言って酒場で酒盛りして終わりだぞ」

「おお、それ名案じゃね? 任務完了のタイミングで俺たちも酒盛りすりゃいい」


 お前は課長に殺されたいのか。


「課長の目を見て、それ言えるのか?」

「あっ……無理だな」


 ……ほんと、思いつきだけだなお前は。


 少し離れたところで、テッタが鍋を差し出しながら「おっちゃん、もっと食べな!」と大声を出す。ハクユウは包帯を巻き直す手を止めず、ちらりと俺たちを見やるだけだ。


 現場は動いている、だが会話に割り込んでくる余裕はないらしい。



「じゃあ、川に流すって案は?」


 ナックが続ける。


「川に投げるって、それ下流の村が大パニックだ。下手すりゃ、海の魔物まで集まって来るぞ」


 そうなりゃ、交易路として使っている海路も封鎖。

 慌てて回収しようにも、川の底。問題だらけだ。


「難しいもんだなぁ。じゃあ、いっそのこと壊しちまうか?」


 その瞬間、ハクユウが手を止めてこっちを見た。目が鋭い。


 壊すのは一見合理的だが、魔道具の性質次第で炸裂したり反動を起こす恐れがある。


 俺もそれは考えていた。

 スープの湯気の向こうで、ハクユウの口元が小さく「駄目だ」と動くのが見える。


「そりゃ、危険すぎる。何が起こるかわからん爆弾を、壊す気にはなれねぇよ」

「駄目かぁ……」


 ぶっちゃけ、結界で封印って手もある。

 だが、だれが責任持って維持すんのかって話になる。

 今の議会じゃ、責任のなすり合いが関の山だな。


 ナックが黙りこくってスープをすする。

 ふたりで沈黙が続くと、時計のように遠くで鐘が鳴った。体が小さく跳ねる――やることは尽きない。


 って、ことは結局壊すか、どこに移すかってことだな。

 俺は腰を上げると、辺りを見渡し課長を探す。



「アル、どっか行くのか?」

「あぁ、ちょっと課長のとこ」

「はいよ、行っといで。課長によろしく~」


 ナックがスプーンを置きながら言う。

 悪びれもない他力本願さ。さすがはナック。


 俺はそれを無視して立ち上がる。

 腰がギシッと鳴ったけど、気のせいだ。多分。



 広場を抜けてギルドのへ向かう。人影はまばらだ。


 治療で走り回ってる連中以外は、皆それぞれの仕事で忙しい。誰も俺の「お使い」を止めやしないのが、ありがたい。



 ギルドの扉を押すと、中は書類の山と使い古された地図、そして使いかけのインク壺。マルセル課長の椅子は空っぽだ。


 机にはコップが倒れ、ペンで走り書きされたメモが一枚、紙縁に挟んである。


 ――ウィザーズギルド。緊急。鑑定急行。移送ルート案は二案。会議は夜明け前。


「……課長、どっか行ったのか」


 机の上のメモを指でトントン叩く。

 インクはまだ乾ききってない。ついさっきまで課長がここにいた証拠だ。



 ふと、課長が線を描いたであろうペテルの地図が目に入った。机の上に広げられ、インクの匂いもまだ残っている。


「……なんだこれ?」


 近づいて覗き込むと、地図にはいくつか赤い印が付けられていた。


 壊れた魔道具が見つかった倉庫街。

 廃村に、魔獣の異常発生地点。

 点と点が、インクの細い線で繋がれている。


 ただの印じゃない。

 課長が考えをまとめながら引いた線だ。


 ……ってことは、これが何かを示してる。


 俺はしばらく地図とにらめっこして、背中をゾワリと寒気が走った。



「おいおい……これはまた……」


 線で結ばれた図形。

 それは、街が丸ごと入る大きさの魔法陣によく似ていた。


 冗談半分でそう思っただけ……のはずが、どう見てもそうとしか思えない。


「……ってことは、課長も気付いたってわけか」


 だから椅子を蹴って飛び出した。

 ウィザーズに話を持って行く。まぁ、妥当な線だ。課長らしい。



「で、俺はどうするか……」


 溜息をひとつ。

 スープで温まったはずの胃が、また冷えていく気がする。


 選択肢はシンプルだ。

 ゼットのところに行って、魔法陣についてはっきりさせるしかない。


「はぁ……ゼットの超絶イケメンに頼るか」


 口に出した瞬間、自分でちょっと情けなくなった。

 だが、仕方ないだろ? 俺じゃわからねぇんだ。


 これがわかりそうな奴、魔道具屋の変人……じゃなくて、ゼットなら、この線が何を意味するのか解き明かせるかもしれない。



 ◇ ◆ ◇



 ギルドを飛び出し、夜の街を駆け抜ける。

 鐘の余韻がまだ耳に残っているのに、足は勝手にゼットの店へ向かっていた。


 扉を乱暴に押し開けると、中からは油と鉄の匂い。


 ……作業中で助かったぜ。


 並んだ魔道具の山の奥、ゼットが振り返った。


「ゼット! この地図に描かれた魔法陣を見てくれ!」

「……急だな」


 返事は冷静。まぁ、いつものことだ。


 俺は課長の机から拝借してきた地図を広げる。

 作業の手を止めたゼットが、ランプの光をかざしてじっと地図を見つめた。


「地図の縮尺が正しいかは別として……確かに魔法陣に見えるな」


 背中に嫌な汗が滲む。

 やっぱり、そう見えるのか。


「効果はわかるか?」


 思わず声が少し荒くなる。

 ゼットは顎に手を当て、真剣な顔で地図を眺めていた。



「……禁忌の系統だな。あくまで可能性だ」


 ゼットの低い声が店の奥に響く。


「禁忌……つうことは……悪魔召喚か?」


「何かまではわからん」と、ゼットは首を横に振る。


「だが、こういった儀式的な魔法陣は、何か鍵となるものと、大きな贄が必要だ」

「鍵と贄……」


 思わず息を呑む。


 ……あるじゃねぇか。


 街に積み上がった大量の死体。

 そして、意味不明な鍵。条件は揃ってやがる。


「なぁ、魔法陣の外に鍵を出したらどうなる?」



 俺の問いに、ゼットはしばし沈黙してから答える。


「目的のものを召喚するのは、高確率で失敗するだろうが……」

「だろうが?」


「何かしらは、余波があるだろう」


 店のランプの灯りが、やけに心許なく揺れて見えた。


「なぁ、ゼット。鍵を壊したらどうなる?」


 俺の問いに、ゼットは首を振る。

 ランプの光が顎の陰を撫でる。


「鍵に何が込められているか分からん。刺激すれば反発するか、起動するか、別の何かを呼ぶかもしれん。推奨はしない」


「やっぱそうだよな」


 俺が肩を落とすと、素直に頷くゼット。

 沈黙が流れる。紙の上を虫が這うような音だけが聞こえた。



「もし、鍵を捨てるとしたら……魔法陣から外に出すとしたら、お前ならどこを選ぶ?」


 ゼットは一瞬だけ目を細め、店の奥の棚をちらりと見る。


「責任は持てん」

「じゃぁ、俺が捨ててくっから、どこが適切だ?」


 俺が押し出すように言うと、ゼットは無言で手を伸ばし、課長の地図の一角を指差した。


 ゼットが黙って指したのは、地図の南。

 ペテルからもっとも近い、あの霧の森の一部だった。



「……霧の森、か」


 確かに、霧の森なら理屈は通る。

 魔物が集まったところで、中に入っちまえば弱い魔物しか出てこない。


 どうしてかって?


 ――あの森には、昔、魔女が張った結界が残っている。

 強い魔物は、結界の内側から外に出られない。

 だから森からは、弱い魔物だけが逃げ出してきて、街道沿いに溢れてくるんだ。


 その弱い魔物だって、森の中じゃ結局、強いのに食われる。

 だから溢れてくるのはいつも通り――生き延びた数だけ。


 そう思えば、一番いい場所ってわけだ。


 ……理屈ではな。俺の胃袋はまったく納得してねぇけど。


「……サンキュー、ゼット」



 俺が地図を畳みながら言うと、ゼットは片眉をわずかに上げた。


「行くのか?」

「鍵は課長が今持ってんだ。誰が行くかは、わかんね」

「……そうか。健闘を祈る」

「ああ、祈っててくれよ。俺が行かない未来に」


 軽口を残して背を向ける。

 店を出ると、夜の空気はやけに冷えて感じた。

 遠くでまた、魔物襲来の鐘が鳴っていたが、今はそれどころじゃない。


 俺は肩に地図を抱え、課長を探すために街の通りへと足を踏み出した。



 ◇ ◆ ◇



 課長を探して、俺はウィザーズギルドへ向かっていた。

 こうしている間にも、狂信者たちは悪魔召喚の儀式を着々と進行中かもしれない。そう思うと、自然と足早になる。


 ……ほんと、ロクなことしないよなアイツら。


 中央通りから東に進めば、遠目にもいやに目立つ塔が見えた。

 空に突き刺さるようにそびえてて、窓は少なく、壁面はやたらに黒光り。まさに「魔術師が住んでます」って自己主張してる建物。


 こういうの、普通の人間からしたら威圧感バッチリなんだろうが……俺からすると、趣味悪い石細工にしか見えねぇ。


 入り口には、装飾過剰な鉄扉。両脇に立つ魔術師崩れの見張りは、ローブに袖を通しただけの青白い男どもで、目つきだけはやたらと鋭い。


 中に入れば入ったで、怪しい薬草と古紙の匂いが鼻をつくんだろうな、と想像できる。


 ……いかにも魔術師が居そうな塔だよな。いや、居るんだけどさ。



 俺は深く息を吐き、鉄扉の前に立った。

 さて、課長は居るだろうか。


 鉄扉を押して中に入ると、すぐに空気が変わった。

 埃と古紙の匂い、湿った石の冷たさ。

 いかにも魔術師が集まってますって雰囲気だ。


 で、次の瞬間――。


「だから言ってるだろ! 研究なんてしてる場合じゃない! すぐに移送しなければ大変なことになると!」


 廊下の奥から、課長の怒声が響いてきた。


 ……ああ、なんかやってんなぁ。


「しかし、これは貴重な研究対象に……」

「この研究馬鹿どもが! 街を死の都にしてぇのか!」


 言葉の応酬が壁を震わせて届いてくる。

 俺は柱の陰に立ち止まり、頭をかきながらため息をついた。


 ……うん、間違いない。ウィザーズどもは今日も通常営業だ。


 奥から声がさらに荒ぶって聞こえてきた。


「鍵を渡せ。すぐにだ」

「で、ですが……」


 バンッと、机を叩く乾いた音が廊下まで響く。


「おい、俺は今ギルドマスターの代理権限がある。この場で、叩き切ってもいいんだぞ?」


 この声色はマジだ。

 課長が本気でキレてるときのやつ。


 こっちまで背筋に冷たいものが走る。


「だ、だが、まだそうと決まったわけじゃ……」

「同じこと言わせんな! 決まってからじゃ遅いんだよ!」


 廊下にまで怒鳴り声が突き刺さる。

 俺は柱の陰で肩をすくめ、息を潜める。


 ……うん、今は口を挟むタイミングじゃねぇな。


 柱の陰で様子を伺いながら、思わず心の中で毒づく。


 ……誰だよ、「仏のマルセル・キールトン」とか言ったやつ。ただの鬼だろ、これ。


 まぁ、普段は丸眼鏡かけて、のほほんとしてるんだけどな。笑ってる顔なんか見ると、近所の穏やかなオッサンにしか見えない。


 けど、ギルド職員で課長を舐めてる奴なんか一人もいない。理由は今の怒鳴り声を聞けばよく分かる。


「おい! アル、出てこい。報告あんだろうが」


 ……バレて~ら~。柱の陰からのぞいてたの、しっかり見られてたらしい。


「課長、魔法陣のことは知ってますよね?」

「当たり前だ。だから急いでんだよ」


 短く返される。声は鋭いが、理屈は通ってる。

 俺は黙って頷き、持ってきた地図を机の上に広げた。ゼットが予測した内容を簡潔に伝える。


 ――鍵と贄が揃っている。魔法陣の外に鍵を出せば失敗はするだろうが、余波は残る。


 言葉を重ねるたびに、ウィザーズの職員たちの顔色がみるみる青ざめていく。さっきまで「研究対象」だの「貴重な資料」だのと言っていた口は、ぴたりと閉じられた。


 室内を包むのは、嫌な静寂だけだった。

 そのとき、後ろの扉がギィと開く音がした。



「禁忌の術だと理解していながら、それを研究すると言い張るのはいかがかと……」


 静かな声。

 振り返れば、そこに立っていたのはハクユウだった。


「私も魔術師の端くれですが、街の危機と研究。どちらを取るべきかは、わかっているつもりです」

「ハ、ハクユウ殿……」


 ウィザーズの職員が、青ざめて声を失う。

 さっきまで強情を張ってたのが嘘みたいだ。


 ……さすがに、先生まで出てきちゃぁ、お手上げだろう。


 俺は心の中で肩をすくめた。

 これで研究バカ連中も、観念するしかない。


 奥から、職員の一人がご丁寧に布にくるまれた鍵を差し出した。


 課長はそれを受け取り、短く頷く。


「よし。アル、戻るぞ」


 課長の声が飛ぶ。

 俺も頷いて踵を返そうとしたとき、後ろから呼び止められた。


「アル。気を付けるんだよ」


 ……おいおい先生。それって、俺が行くこと前提みたいに言わないでくれ。


 振り返れば、ハクユウがにこりと笑って送り出していた。あの穏やかな笑顔が逆にプレッシャーだ。


 俺はため息をひとつつき、課長とともにウィザーズギルドをあとにした。



 広場へ足早に戻ると、そこには食事を受け取る警備隊に混じって、ガーの親分の姿もあった。


「おう、マルセル。どうだった?」

「ったく、最後まで強情に渡そうとしなかったぞ」


 心底呆れた顔で、課長が肩をすくめる。


「そりゃあな。あいつらはほんと、魔術にしか興味ねぇからな」


 親分が鼻を鳴らした。


 ……ああ、全く同感だ。


 そう考えると、ゼットって元ウィザーズなのに柔軟な方だよな。変人だけど、話が通じるぶん、ずいぶんマシに見える。


「さて、どうするか?」


 親分が、あぐらをかいて課長に尋ねる。


「アルの話だと、霧の森に置いてくるのが一番らしい」

「ほんとか? アル」


 全員の視線が俺に向く。逃げ場はない。


「壊せないなら、それが最善手らしいですよ」


 苦笑いしながら答えると、親分が顎をさすって唸った。


「霧の森か……生きて帰っちゃこれねぇぞ?」


 その言葉に、広場にいた連中が一斉に黙り込む。

 親分の発言は何も間違っちゃいない。誰でも同じ反応をするだろう。


 それだけ――霧の森ってのは危険なんだ。

 この世界の住人にとって、霧の森は最悪の地ってわけだ。


 じゃあ、なんでいつも焦り散らかす俺が、今は平然としてるかって?



 ――そりゃぁ、俺の実家だからな。


 十四の時に街へ出てきて、十七で一度だけ帰省もしてる。俺にとっちゃ、あの森は庭みたいなもんだ。みんなには秘密だけどな。


 俺が霧の魔女の知り合いだなんてバレた日には、世界中から指名手配される未来しか浮かばねぇ。



 重苦しい空気の中、親分が口を開いた。


「……誰が行く?」


 その声に、周囲が一斉に固まる。

 課長がすぐさま首を振った。


「ガー、お前は駄目だ。守りがある」

「……ちっ、そうかよ」


 親分が口をへの字に曲げ、黙る。


「俺も無理! 行く前に死ぬ自信があるぜ!」


 ……ナック。お前は元気だな、こういうときだけ。


「親分が守りにつくなら、吾輩も守りであります!」


 ……マルマル。お前は初めから行く気ないだろ、それ。


 広場の空気はますます重く、誰も目を合わせようとしなかった。


 まあ、しょうがない。俺だってみんなに死んでほしいわけじゃないからな。どっちかって言えば、生きててほしい。ていうか、俺も生きて帰りたい。


 俺は溜息とともに両手を上げて、降参ポーズを決める。


「……はいはい、降参。俺が行くよ」


 ナックが顔を眉尻を下げ一言。


「アル〜……」


 ……まるで俺が、死にに行くような顔をするなよ。


 俺は軽く肩をすくめる。

 課長がこっちをじっと見つめ、目を細めた。


「いいのか?」


 視線の重さで一瞬たじろぐが、声は落ち着いて出す。


「俺しかいないでしょう?」


 その言葉に、全員が黙り俯く。

 耳障りな鐘の音だけが遠くで鳴っている。


 ためらいは一瞬で振り払って、思わず付け足す。


「あ、課長。戻ったら休みください」


 課長が一呼吸置いてから、ぽつりと言った。



「好きなだけやる」


 ……よし! 言質は取った。


 胸の中で小さくガッツポーズする。

 約束は約束だ、後で寝倒してやる。


 俺は地図をしまい、装備を整え始めた。

 夜は長いし、やることは山ほどある。だが今は、行くしかねぇ。



 ……徹夜明けで森に命懸けのピクニックなんて、世界中探しても俺ぐらいだろ。






ここまで拙い文を読んでいただきありがとうございます!


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「つまらない」


と思いましたら

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面白かったら星5つ。つまらなかったら星1つ。正直な気持ちでかまいません。

参考にし、作品に生かそうと思っております。


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