表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらギルドの調査員 ~冒険者じゃない俺の方がよっぽど大変なんだが?~  作者: 月城 葵
冒険者じゃない俺の方がよっぽど大変なんだが?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/18

第13話  その鐘の音は残業のお知らせ


 三日以内に何かが起きる――らしい。

 課長のありがた~いお言葉を頭の片隅に突っ込んだまま、俺は酒場を出て教会へ向かっていた。


 ペテルの朝は今日も元気だ。


 通りではテッタが「おまけするよー!」と声を張り上げている。

 あれ、毎回聞くけど本当におまけしてんのか?

 どうせ大盛りって名目で鍋の底の焦げ付きを足してるだけだろ。


 で、その脇を、昨夜の倉庫街から帰ってきた冒険者どもがゾンビみたいな顔で歩いてる。

 目の下の隈が深すぎて、アンデッドに混ざってても違和感ゼロ。


 鎧を脱ぐ気力もなく地べたにへたり込んでるやつもいるしな。徹夜で荷物をひっくり返した結果がこれってわけだ。


 表面上は、いつものペテル。


 でもな、裏では確実に何かが蠢いてやがる。

 俺がそう思うってことは、たぶんそうなんだろう。


 それにしても、コレル神父の件は臭ってしょうがない。

 死んでたはずなのに、ついこの前まで普通に会ってた。しかもジョナスが言ってた可能性まで頭をよぎる。


 まずはそれを確かめなくちゃならない。――ってわけで、今から教会行きだ。


 ……そろそろ、ギルドの人員増やしませんかね? 課長。




 ◇ ◆ ◇



 中央通りの石畳を抜けると、聖堂の尖塔が見えてきた。

 俺は聖堂を横目に教会へ向かう。


 いつもなら、朝の祈りを終えた信者がぞろぞろ出てくる時間帯……のはずなんだが、今日は妙に静かだ。


 扉の前にいるのは修道士がひとりだけ。

 サボりか? それとも人手不足?


「……おかしいな」


 つい口から漏れた。

 神父が死んでたなんて話、知ってるのは一部の人間だけのはずだ。街に広まったら大騒ぎになるから隠してる――課長はそう言ってた。


 でもこの沈んだ空気、隠しきれてない感がプンプンしてるんだよな。


 そんな違和感の中、教会へ到着。

 修道士に軽く会釈して扉を押す。

 中はひんやりしてて、祭壇前では修道女たちが静かに祈ってる。


 うん、絵面だけならいつも通りだ。……ただ、視線は勝手に祭壇の奥へ行く。

 そこにいるはずの人物が――やっぱり、いない。


「……さて。誰に話を聞くべきか」


 祭壇前で祈ってる修道女たちを横目に、奥で仕切ってそうな修道士に声をかける。


 いかにも「現場監督」って顔つきだ。

  こういう相手にはストレートに聞くと角が立つから、まずはやんわりと。


「…… ちょっと伺いたいんですが、コレル神父の件で」


 修道士の肩が一瞬だけピクリと動いた。

 あぁ、やっぱ知ってるな。

  知らなかったら「神父様がどうかしましたか?」って返すところだろ。


「…… ご存知でしたか」

「ええ。関係者には伝えられています」


 どうやらシラを切られる心配はなさそうだ。

 よかったな、こっちも回りくどい探り入れなくて済む。


「十日以上前の神父と、最近の神父で…… 何か変わった様子はありませんでしたか?」


 修道士は眉間にしわを寄せ、少し考えてから答えた。


「ここ最近は…… 神父様は、何かを探しておられたようです。 ただ……我々には何も…… 分かりませんでした。 祈りも説教も、他はいつも通りでしたので」


 探し物以外は、怪しいところはない、か。


「神父の部屋を確認させてもらうことは可能ですか?」


 俺がそう切り出すと、修道士は一瞬ためらった顔をした。まあ当然だ。部外者に聖職者の部屋を見せるなんて、普通ならありえない。


 けど今回は特例中の特例だ。

 相手もそれは分かっているらしく、やがて小さく頷いた。


「……承知しました。ご案内します」


 ありがたい。拒まれたら無理やり忍び込む羽目になるところだった。


 修道士に先導されて奥の廊下を進み、神父の部屋へと入る。

 中は質素そのもの。机、書棚、ベッド。それと祈り用の小さな祭壇。――見事に「聖職者の部屋」のテンプレート。


 おかしいな、もっと分かりやすく怪しいもんが転がっててくれてもいいんだが。


 机の上には書類の束が整然と積まれている。

 引き出しを開けても、羊皮紙とインク壺が並んでるだけ。


 ……ああ、はいはい、きっちり整理整頓派ってやつか。俺とは真逆だな。


 机や棚をざっと見回したが、目に見える怪しいもんは出てこない。まあ、そんな都合よく「はい証拠です」なんて転がってるわけないか。


 ……となれば、次は別の手。


 神父の持ち物に、かすかに残ってる魔力の痕跡を拾ってみる。


 指先に意識を集中し、周囲の空気をなぞるように探ると――確かにある。

 机やベッドじゃなく、もっと強く残ってるのは……本棚だな。


「……本棚、っと」


 近づいてみると、やっぱり妙な反応が返ってくる。

 本が一度どけられて、戻された痕跡。

 こりゃ、ただの几帳面さじゃ説明できねぇな。


 本を数冊抜いてみると、奥に小さな箱が隠されていた。

 ほら出たよ。やっぱりこういうの仕込んでたか。

 にしても、もうちょっと隠し方を工夫してくれないと、こっちの立場がないんだが?


「開けてみても?」


 俺が念のため確認すると、横にいた修道士がこくりとうなずいた。


 ……おお、意外とノリがいい。


 てっきり「聖職者の持ち物に勝手に触れるな」とか説教が飛んでくるかと思ったんだが。


 蓋をそっと開ける。

 中に入っていたのは――首飾り。

 ただの装飾品かと思いきや、トップに刻まれているのは見覚えのある紋様だった。


「……マジかよ」


 異教徒の印。

 正教会にとっちゃ、これを持ってるだけで破門確定のシロモノだ。


 修道士も横から覗き込み、目を疑うように後ずさった。


「こ、これは……!」


 だろうな。お前の反応が一番普通だ。俺だって信じたくねぇ。

 けど現実に、この部屋の奥から出てきちまったんだから、言い訳の余地はない


 ネックレスを見下ろしながら、修道士は口を開きかけた。……が、その前に俺が手で制した。



「余計な混乱は招きたくないんです。これは、黙っててもらえますか」


 真剣な目で言うと、修道士は一瞬ためらったものの、やがて静かにうなずいた。


「……しかし」

「分かってます。でも、まだ決まったわけじゃないんで」


 箱を閉じながら言葉を続ける。


「全て解決したら、必ず知らせます。それまでは、どうか」


 修道士は深く息を吐き、そしてもう一度うなずいた。


「……お願いします」


 よし、話が分かる人で助かった。

 ここで大声でも上げられたら、俺の仕事が一気に倍増するとこだったからな。


「この部屋、徹底的に調べてもいいですか」


 俺が確認すると、修道士は迷いを押し込めるように一度だけ頷いた。よし、公式許可。あとで怒られても「案内人の同意があった」と言い張れる。


 もう一度、指先に意識を集めて魔力の痕跡をなぞる。

 薄い、けど残ってる。机の縁、引き出しの取っ手、本棚の脇の木目……点が線になるまで辿っていくと、最後にまた机へ戻ってきた。


 引き出しを手前まで引き、底板の角を軽く叩く。――コツ、と音が違う。


 ……いいね、この手の造りは嫌いじゃない。


 内側の仕切りを指でなぞると、爪が小さな段差を捉えた。埃の積もり方も不自然だ。

 外周だけ綺麗、真ん中は薄い――最近、誰かが触ってる。


「……もう一回、失礼」


 引き出しを奥まで押し込み直し、今度は左右にわずかに揺すって歪みを作る。木がきしむ感触と一緒に、仕切りの角がふっと浮いた。

 

 そこを掴んで――引っこ抜く。


「これか」


 奥の空間に、布紐で括られた薄い書類束がひとつ。

 丁寧すぎるくらい丁寧に包まれている。

 取り出して紐を解くと、羊皮紙に細かい書き付け。インクは褪せ、ところどころ滲んでいる。


 だいぶかすれて上手く読めないが……日付、地名、そして見覚えのある記号。異教徒とは似て非なる別の印が、余白に小さく重ねられている。


 修道士が息を呑む気配。

 俺は手短にページを繰り、欠けた文字を頭の中で補完していく。


 ――倉庫街、荷の検分、偽名の寄進者、そして……祭壇。


 視線が自然と部屋の隅の小さな祭壇へ滑った。

 まだ終わりじゃないらしい。


 祭壇をえいやっと横倒しにした瞬間、修道士の顔が青ざめた。

 そりゃそうだろ、信仰の対象を転がされたら腰も抜かす。

 けどな、調査していいって了承したのはあんただ。後で「やっぱりダメでした」って言われても困るんだよ。


 像を裏返すと、底に不自然な溝が刻まれているのが見えた。こういう細工は、だいたい「どうぞ開けてください」と言ってるようなもんだ。


 爪を引っかけてみると、案の定パカリと像が真っ二つ。


 ……はい出ました、隠しギミック。ミステリー小説の定番展開だな。


 中から出てきたのは、小さな布包み。

 その中身は――冷たい鉄の感触。小ぶりな鍵が一本と、折り畳まれた紙片が一枚。


 鍵はただの金属の塊に見えるが、手に取った瞬間、じわっと嫌な冷気が伝わってきた。

 紙片の端には、例の「異教徒の印」に似た、いや別物っぽい刻印が押されている。


 隣で修道士が息を呑んだ。まあ、そうなるよな。

 祭壇の中から出てきたのがこんな代物だ。

 信仰心が厚いほど、信じたくない光景だろう。


 俺? まあ、驚きはしたが……もう慣れた。ペテルじゃ、こういう胃に悪い発見が日常茶飯事なんだよ。


 鍵に紙片。


 ……いかにも「怪しいセットです」って顔をしてやがる。


 こういうのを見つけちまった時点で、余計に厄介ごとの匂いしかしないんだよな。


「手がかりは……」


 小声でつぶやきつつ、さっき引っ張り出した書類束をもう一度開く。インクはかすれて読みにくいし、余白に走り書きされてる記号も意味不明。


 ページを繰って、印を睨んで、頭をひねって――全然、分かりません。


 結局、この鍵がどこの扉を開けるのかは、さっぱり見当もつかなかった。

 宝箱か、地下倉庫か、それともただの机の引き出しか。

 どっちにしろ、こっちの生活が楽になる類のもんじゃないだろうな。


 ……ただ、一つだけはっきりしたことがある。


 書類に残っていた記録――日付、地名、そして消しきれなかった印。

 どうやら異教徒の村の「異端認定」を握り潰してたのは、コレル神父だったらしい。


 つまり、ラスが告発するまであの村がひっそり隠れていられたのは……ここにいるご立派な神父様のおかげ、ってわけだ。


 善意か悪意か? 本当に守ろうとしたのか、それとも別の理由か。

 どっちにしろ、ただの「信心深い爺さん」ってイメージは吹き飛んだな。


 紙片の端に押された、この「異教徒の印とは別の印」。

 見覚えがねぇ。そこで、隣の修道士に振ってみる。


「この印、あんた見覚えあります?」


 修道士は顔を寄せ、しばし目を凝らしたあと、はっとしたように言った。


「……それは、正教会の承認の印です。今の内容からしても……その文書は正教会から下されたものでしょう」


 つまり、この書類はれっきとした本物。

 異端認定を握り潰した、っていうより「握り潰した正教会の文書をわざわざ保管してた」って話になるわけか。


 ……いや、待て。なんでそんなことする? 隠すにしても焼却すりゃいいだろ。わざわざ残しておく意味が分からん。


「なあ、これってさ……正教会の文書って、捨てたり燃やしたりしちゃいけない決まりでもあるんですか?」


 俺の質問に、修道士は真剣な顔つきでうなずいた。


「はい。教会の文書は、たとえ不要になっても処分してはならない規則です。必ず保管することになっています」


 なるほど、そういうことか。……ってことはつまり、神父様は規則通りに隠してたってわけか。

 あーあ、ますますタチが悪い。


 神父は異教徒だった。

 となりゃ、倉庫街で暴れてた狂信者どもに狙われる理由はゼロだ。


 じゃあ――誰に殺された?


 答えは単純だ。

 倉庫街の悪魔たち。


 ……そういうことに、したかったんだろうな。


 つまり、シナリオはこうだ。

 偽のコレル神父を仕立て上げて、異教徒の文書もろとも全部なすりつける。で、最後に「悪魔に食われました、はいおしまい」って幕を引く予定。


 だが、倉庫街で暴れるはずだった悪魔は――親分に阻まれた。


 おかげで話はひっくり返ったわけだ。

 脚本書いたやつ、今ごろ頭抱えてるんじゃないか?


 偽コレルはもう殺しちまったんだから、そりゃ偽装工作を急ぐよな。バレたら元も子もない。


 ……ただ、理由はそれだけじゃない。



 考えたくもねぇが――もう隠す必要がなくなったからだ。


 偽物で取り繕う段階は終わり。

 今も本物のコレルは、どこかで最終準備を進めてるってわけだ。


 異教徒でありながら、正教会の皮をかぶってきた男。

 その目的がいよいよ表に出ると……。

 

 ……あ~、やだやだ。



 ◇ ◆ ◇



 教会を出ると、外の光がやけに眩しく感じた。

 中で見つけたもんを考えりゃ、当たり前か。


 修道士は、事件が片付くまで口外しないと約束してくれた。

 それは素直にありがたかった。余計な混乱は避けたいからな。


 けど、問題はそこじゃない。

 異教徒が絡んでる時点で、これは正教会にとっちゃ致命的な落ち度だ。


 神父が握り潰してきた文書、隠していた鍵、そして異端の証拠。どれも「はい見なかったことにしましょう」じゃ済まされない。


 ……つまり、この件は俺たち調査員の手を離れた瞬間から、でかい火種になるってことだ。


 まずは報告だな。神父の件は伝えねぇとマズイ。

 黙って持ち帰るにはデカすぎるネタだ。


 ってわけで、足を早めてギルドへ急ぐ。


 扉をくぐった瞬間、案の定というか……なんか揉めてやがる。


 依頼の取り合いか、報酬の分配か、あるいは酒場のツケの押し付け合いか。

 大声が飛び交ってて、場末の芝居より安っぽい騒ぎだ。


 ……関わってる暇はない。


 顔も向けず、まっすぐカウンターの奥へ。

 報告は後回しにできねぇ案件だ。


 課長は……まだ戻ってないか。


「カエデ、課長戻ってないのか?」


 帳簿をめくってたカエデが顔を上げて、首をかしげる。


「いいえ、ついさっき戻ってきましたよ。でも、すぐにまた出て行かれました」

「なんか言ってなかった?」


 カエデは顎に指をあてて、思い出すように目を細める。


「う~ん……確か、『クソッタレ』って」

「……なるほど、元気そうで何よりだ」


 議会で何があったかは知らんが、課長がご機嫌ナナメなのだけは確かだな。

 いないものはしょうがない。


 課長がどこで文句を言ってようが、ここで待ってたら日が暮れる。


 やるべきことは……そうだ、鍵だ。


 像の中からコンニチハした、この冷たい一本。

 なんなんだ? どこの鍵か、見当もつかない。扉か、箱か、それとも地下室の蓋か。


 ……いや、さすがに最後は嫌だな。


 ウィザーズに持ち込む手もあるか? 解析魔法で「これは〇〇の鍵です」なんて便利に判定してくれれば助かるんだが。


 ……けどな。課長に報告してからの方がいい。


 遺体の件もあるし、偽装に加担したやつがウィザーズに潜り込んでたら、この鍵を奪われる可能性だってある。

 そうなったら「調査員が証拠を横流ししました」なんて笑えない落ちが待ってる。


 やだねぇ。ますます荷が重くなってきやがった。


 なら、行くところはおのずと定まる。


 この鍵を見せて、ツッコミどころ満載の顔芸なしで真面目に考えてくれるやつ――ゼットのイケメンしかいねぇだろって。


 課長がいない以上、判断を仰げる相手は限られてる。

 だったら一番マシな選択肢に頼るしかない。


 俺はギルドを後にして、ゼットの店へ足を向けた。


「お~い、ゼット、生きてるかぁ?」

「……ああ、何不自由なく」


 冗談にも真面目に返してくるんだよな、こいつは。

 まあ、それがゼットらしいっちゃらしい。



「ゼット、これ見てくれ。なんだかわかるか? ああ、鑑定な」

「ふむ……」


 差し出した鍵を手に取ったゼットが、じっと目を細める。光の加減まで計算してるみたいな真剣な顔。こういう時だけは頼りになるんだよな。


 ゼットは鍵を手に取ると、角度を変えたり、手をかざしたりと――俺にはさっぱり意味の分からん動きを始めた。


 まあ、それで分かるんなら別にいいんだけどな。

 俺が真似したところで「ただの怪しい人」になるだけだし。


 やがてゼットは懐から、ごそごそとくず魔石を取り出した。大きさも色もバラバラで、どう見てもハズレ石。


 俺が「それ、鑑定に使うのか?」と聞く間もなく、ゼットは鍵に近付ける。


 ――パキンッ!


 乾いた音とともに、魔石がひび割れ、あっさり砕け散った。


「……どういうこった」


 俺が目を丸くする横で、ゼットはいつもの無表情。

 こっちは肝が冷えたってのに、当たり前みたいな顔しやがって。


「これは……鍵のようで、鍵ではない」

「つまり?」

「魔道具だ。使用する物ではない。ただ、そこにあるものだ」


 ……はい?


 つまりどういうことだ。

 そこにあるだけって、それ鍵として一番やっちゃいけないポジションじゃないのか。


「おい、ゼット。もうちょい分かりやすく頼む」


 俺が眉をひそめると、ゼットはわからないのかとでも言いたげな顔で、わずかに息を吐いた。無言の圧がすげぇ。


「……存在そのものが術式だ。鍵の形をしているが、開けるためではなく、示すための道具だ」


 なるほど。

 つまり「ドアを開ける」んじゃなくて、「存在を知らせる」ってことか。


 ……いやいや、ますますややこしいじゃねぇか。


「……誰に示すかが重要だ」


 ゼットが静かに言った。


「誰に? 狂信者たちが誰に知らせるかってことか?」


 俺は思わず声を潜める。

 そんな……アイツらが「ここで~す!」なんて合図を送るとしたら、そりゃ仲間連中しかいねぇだろ。


 ゼットは首を横に振った。


「アル。知らせる対象は、人とは限らない……例えば、魔物とかな」


 背筋に冷たいもんが走った。


 ……おいおい、冗談だろ。いや、こいつが冗談なんか言うわけないか。


「つまりなにか。これを目指して化け物どもが集まって来るってことか?」

「そうだ」


 ゼットの短い返事。簡潔すぎる説明。

 こっちとしてはもうちょい肉付けしてほしいんだが、まあ仕方ない。


 なるほどな。

 狂信者どもは――何がなんでも、シンボルである聖堂をぶっ壊すつもりってことか。

 いかにもあいつらの考えそうなこった。


 ペテルを潰すついでってわけだな。


 ……クソッタレ、課長の口癖も移りそうだ。


「こりゃ、やべぇな……」


 思わず口に出た。

 だが、自覚した時にはもう遅い。

 言葉にした分だけ、現実味が増す。


 代金を渡して店を出ようとしたら、背後から声が飛んだ。


「代金はいらん」


 ……そうかい。その代わり、何とかしろってことね。分かりやすい圧だな。


「やれるだけ、やってみるさ」


 ゼットはそれ以上何も言わなかった。

 けど無言で背中を押された気がして、やれやれと肩をすくめる。


 焦る気持ちを抑え、俺はギルドへ戻ることにした。


 受付を通り過ぎると、課長の姿が机にあった。


 ここからでもわかる。非常に不機嫌モードだ。

 空気がピリついてて、数少ない職員たちも、黙々と書類作業に勤しんでる。


「課長、戻りました」


 机の上で手を組んだまま、課長が顔を上げる。

 

 ……目が怖ぇ。


「アルか。……何かわかったか?」


 その声色も低い。ますます機嫌悪そうだ。

 まあいい、こっちはやるべきことをやるだけだ。


 俺は教会で見つけたこと、神父の書類、隠されていた鍵とその鑑定結果。全部そのまま報告した。

 隠す必要もないし、下手に誤魔化して余計に怒られるのはゴメンだからな。


「やっぱりな。俺もお前たちの話を聞いた後、もう一度ウィザーズに掛け合った」

「で、どうでした?」

「再照合の結果……遺体はコレル本人じゃなかった」


 ……ですよねぇ~。


「まんまと、出し抜かれたってことだ」


 課長は机の上の鍵を手に取り、しばし睨みつけるように見つめた。


「……これを目印に化け物が集まる、か」


 重い声に思わず背筋が冷える。

 だが聞かずにはいられない。


「議会はどうだったんです?」

「――あのクソッタレども。『まだ、そうと決まったわけじゃない』とかほざきやがった」


 あ~、それはクソッタレも出るわ。

 俺だって同じ場にいたら、三回は口にしてる。


「だが、打てる手は尽くした。ガーはペテル全区域の警備体制に入ってる」


 さすが親分だな。動きが早ぇ。

 俺ならまだ作戦会議の議事録まとめてる段階だ。


「冒険者どもにも警備依頼を出した。人手が足りないからな。手の空いたウォリアーズにも同様だ」


 傭兵団までか……。こりゃ金がかかりそうだな。


 本来なら議会が出すべき経費だろ。

 けどアイツら、さっきの課長の話からしても「まだ決まったわけじゃない」とか言って財布の紐締めてるに決まってる。


 ……ほんとにクソッタレだな。


「クソどもめ。……はぁ、ギルマスがいればな」


 そういえば、ギルマスって何してんだ?

 顔すらまともに見たことねぇぞ。


「課長、ギルマスってどこにいるんですか? てっきり本部に詰めてるもんだと」

「今は聖王国の式典だ。敵の狙い通りだよ……」

「ああ~、タイミングばっちりですね」


 よりによってこんな時に式典。皮肉効きすぎだろ。

 ほんと、神様のスケジュール管理はどうなってんだ。


 どの程度、化け物が集まるかは予測不能だな。

 問題は――守りきれんのかって話だ。


 戦力は、警備隊。下級冒険者たち。ランクの低い傭兵団……で、俺たち調査員。


 ……厳しくねぇか?


 冒険者なんか、ゴブリンに出し抜かれるやつらだぞ。

 傭兵団は未知数だが、金のためにしか動かねぇ連中だ。魔物専門じゃねぇし。ヤバくなったら、ペテルを捨てて逃げ出す可能性もある。


 まともなのは警備隊ぐらいか――そう思ったところで、脳裏に浮かんだのはマルマルのドヤ顔。


 ……いや、そうとも限らねぇな。


 親分がいねぇと、尻尾巻いて逃げるお巡りさんが在籍してる時点で、警備隊の信頼度もたかが知れてる。


 まぁ、警備だもんな。戦いを生業にしてるわけじゃねぇしな。

 親分が規格外なだけだ。


 ああ、もう。頼みの綱すら怪しくなってきたじゃねぇか。

 頭が痛いと思った矢先、ギルドの扉が勢いよく開いた音がした。


 ……嫌な予感がするぜ。


 入口が勢いよく開いて、ナックが飛び込んできた。

 額には玉のような汗、肩で荒く息をしている。走ってきたってのが一目でわかる。


「課長ぉ~! ……お、アルもいたのか」


 ぜぇぜぇ言いながらも、俺を見つけて口の端だけはいつもの調子で吊り上げた。こいつの顔芸は呼吸と連動してるのか?


「どうした?」


 課長の声は低く、目つきはさらに鋭い。

 ナックはその視線に肩をビクリとさせながらも、慌てて言葉を繋いだ。


「御者を探しに東の街道を張ってたんですけど……その、南からすげ~数の鳥? みたいのが」

「鳥?」


 俺と課長は顔を見合わせる。

 課長の眉間には深いしわ、俺の頬は引きつった笑い。どっちも同じ考えだ――嫌な予感しかしない。



「アル、南門を見てこい」


 課長は机に組んでいた手を解き、顎で扉をしゃくった。

 その目は冗談を許さない真剣そのもの。


「……了解」


 ため息交じりに返事をしながらも、内心はもう走り出していた。やれやれ、また厄介ごとの予感だ。


 ギルドを飛び出して、一気に南門まで駆け抜けた。

 悠長に歩いてる暇なんてない。

 何か起きてるときにのんびり散歩なんてしてたら、今度こそ課長に首を絞められる。


 門の階段を駆け上がり、城壁に飛び乗る。

 目の前に広がる南の空。


「……鳥、か?」



 遠目には、ただの黒い群れにしか見えない。


「お? アルディンか。どうした?」


 見張りがのんきに声をかけてきたが、今は相手してる余裕はない。悪いな兄ちゃん、雑談はまた後日だ。


 深呼吸一つ。

 魔力を全身に巡らせ、視覚に集中――身体強化で視界を押し広げる。


 黒く、大きな羽根。

 羽ばたきはゆったりだが、その分一振りの力が重い。速度は出てないが、確実にこちらに迫っている。


 一瞬、大蝙蝠かと思った。だが、違う。

 輪郭は――人型だ。


 ……おいおい。俺の見間違いならいいんだがな。


 鳥でも蝙蝠でもねぇ。

 下級の悪魔の群れだ。それも、とんでもねぇ数の。



「おい、すぐに鐘を鳴らせ! 魔物の襲撃だ!」

「え? ど、どこだよ?」


 この平和ボケが。

 おれは南の空を指さした。


「南の空見ろ! 蝙蝠じゃねぇぞ、下級の悪魔の群れだ!」

「は? え、え~っと……」

「早くしろ!」


 怒鳴りつけると同時に、俺は城壁から飛び降りて再びギルドへ走った。


 冗談じゃねぇ。

 三日以内って言ったら、普通は三日目に来るのがお約束だろうが……よりによって、一日目にご登場かよ。


 ……ふざけやがって。


 ギルドの扉を開け、俺は大声で課長に告げる。


「課長! 下級悪魔の群れ。数は不明。大群です!」


 声を張り上げ報告すると、課長の目がさらに鋭さを増した。まるで刃物だ。


「……各ギルドに通達しろ。これよりペテルは戦闘に突入する。各員、戦闘準備!」

「了解!」


 号令にナックが飛び出し、カエデが慌ただしくギルド内へ通達していく。

 受付嬢が机を叩きながら怒鳴ってる姿なんて、そうそう見られるもんじゃない。


 その時――けたたましい音が街全体を震わせた。



 緊急の鐘。

 北でも南でも、全ての鐘楼から一斉に鳴り響く。


 ペテル全域に、戦いの幕が上がった瞬間だった。


 ……今日も残業確定だな。

















ここまで拙い文を読んでいただきありがとうございます!


「面白かったなぁ」

「続きはどうなるんだろう?」

「次も読みたい」

「つまらない」


と思いましたら

下部の☆☆☆☆☆から、作品への応援、評価をお願いいたします。


面白かったら星5つ。つまらなかったら星1つ。正直な気持ちでかまいません。

参考にし、作品に生かそうと思っております。


ブックマークで応援いただけると励みになります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ