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第95話 探索メンバー

 ミノタウロスを撃破したアオたちは拠点の食堂に集まっていた。


「うむ。これで全員が第3階層に行けるようになったのだな」

「ええ。おかげさまで、オリジンだけで魔物を倒せるようになりました」


 ヤマジがとびっきりの笑顔で答えた。彼のパーティーメンバーも嬉しそうにしている。


「にししし。これでこの塔の謎に一歩近づいた!」

「え? 第3階層の探索? アキミはそう言うの、気にしないんじゃなかったっけ?」


 アキミの言葉に、ユートは不思議そうだった。


 ちなみにこの2人はアパートでよくしゃべる友人のような関係だった。同年代でスキルの再現を目指す2人は時に喧嘩したりしながらもいろいろ相談し合ったりしている。


「第3階層は火山エリアなんだけどね。ちょっと気になることがあるというか、まあ探索が必要なわけ」

「ふむ。やはりお前たちも気になっておったか。あのエリアはどうにもおかしいのだ。火山エリアなのに、ボスは火と関係のないゴーレム。しかも道中に、ゴーレムに関連する魔物は出てこない」

「気になるところは他にもあります。第3階層はそれまでに比べて狭いんですよ。森林エリアも迷宮も、広さだけなら相当なものがありましたから」


 アキミばかりかイゾウとコロにも言われ、アオは彼らの顔をきょとんと見回した。


 確かに、これまでの階層はかなり広かった。アオが目覚めた第1階層はものすごく広い森林が広がっていたし、第2階層の迷宮も巨大だった。合宿までの2か月間、アオたちも散々探索したが、それでも底は見えなかった。スマホに登録されたマップがなければ遭難していたに違いない。


「ボスエリアは簡単に見つかったがな。どうにも気になっての。だがヒントを見つけられず、あきらめてゴーレムとの戦いを繰り返しておったときにアオと再会したわけだ。あの犬に誘われてな」

「なるほど。オリジンを身に着けた今なら異変を見つけられるかもしれないわけですね。アキミも力をつけていることですし」


 サナに褒められてアキミはにししと笑った。


「私たちも第3階層を探索してたけど、異変なんて見つからなかったわ。今から探しても何も見つかんないと思うけど?」

「でもアシェリ。アオたちは、見つけているのよ? 私たちやアキミちゃんが見つけていなかった、このアパートを」


 ケイに指摘され、アシェリははっとしてしまう。


「うむ。ワシらには見つからなかった場所も、アオの鼻なら何かを嗅ぎつけられるやもしれぬというわけだ。オリジンを鍛えたことで他の者の探索の腕も上がっておるし、異変を見つけられる可能性が少なくないと考えておる。最初は万全を期しておこうか。ふむ」


 そう言ってイゾウはパメラたちを見回した。


「そうさの。最初は慣れた者たちについていくほうが安全か。ケイ。頼めるか?」

「え? あ、そう言うことですね。了解しました。では今回は私たちがご案内します。アオ。頑張ろうね」


 ケイに微笑まれてちょっと緊張してしまうアオだった。


「ふむ。念を入れておこうか。ユートパーティは、ヤマジと、まあリクがいいかの。それとワシら2人と魔線組の2人とでパーティーを組む。この機会に、この階層の魔物やトラップに慣れておくのだ」

「え? あ、はい!」


 イゾウに指名され、2人は姿勢を正した。他の4人はというと、残念がりながらも納得の様子だった。選ばれなかったことは悔しいだろうが、イゾウが2人を指名した理由を察したのだ。


「しょうがねえべな。ヤマジ! しっかり道順を覚えて俺たちを案内しろよな!」

「リクも、気を付けてな。エンコウもそうだけど、フィルムスってなんか、信用できないんだよな」


 ヤマジと、なぜかフィルムスが胸を張っていた。ちなみにリクは緊張で顔を青くしている。


 2人はユートパーティーの探索役を担っていた。ヤマジの探索の腕はめきめきと力をつけているし、リクのフィルムスは風魔法のかなりの腕で、侵入や潜伏に力を発揮する。タクミも探索の腕はかなりできるが、さすがに2人には及ばない。


「ふむ。ここはアキミさんの出番だね! 腕の見せ所だ」

「本当に気を付けてくれよ。すっかり馴染んだから忘れているようだけど、この塔はただでさえ分かんないことだらけなんだから」


 必死でなだめるユートだが、当のアキミはどこ吹く風だった。


「まあ、ユートがそう言うのも分かるよ。この塔が何なのかわからないことだらけだから。外観から見える姿と中身の容量が全然釣り合っていないし、塔に入ったはずなのに最初に見えるのは森だった」

『それは! それこそが、我ら天族の秘術というものでありますよ!』


 急に叫ばれて振り向くと、フィルムスが胸をさらに張ってアピールしてきた。目を爛爛と輝かせ、アオたちが止める間もなく語りだした。


『塔の空間は、あの素晴らしき秘術によって圧縮されているのであります! 外から見た姿と中の空間が違うのはそのためです! そして中身は実在するダンジョンが取り込まれているであります! 広大な迷宮や、厄介な森林地帯、はては古代の遺跡に至るまで! ワタクシたちの世界を代表するようなダンジョンを実際に取り込んで構成されているのであります!』

『フィルムス! 落ち着きなさい!』

『このおしゃべり害鳥が! その口を閉ざせ!』


 止めようとエスタリスを気にすることもない。捕らえようと伸ばしたエンコウの腕を、あっさりと回避した。


 悔しがる2人を無視するように、フィルムスは言葉を続けた。


『そう! まれにおられるのであります! 我ら天族の中に、2つものスペシャルを持ったお方が! 主に、元王族の方がそう言う特性を持っていらっしゃる! 塔を構築された〇×▲様もそうですし、我らがアーテル様だって!」


 しゃべり続けたフィルムスが、そこで言葉を止めた。彼女はわなわなと震え出すと・・・。


「ふぇふぁああああああ!」


 盛大に血を吐いた。


 ぴくぴくと痙攣するフィルムスを、すかさず介抱したケイ。リクは荒い息を吐きつつも、深呼吸して息を整えていた。


『まったく、このおしゃべりが! 我らが言動を縛られていることすら忘れておる! こ奴と一心同体なぞ、まるで悪夢ではないか』


 エンコウの言葉に、さすがにアオは同意せざるを得ないのだった。



◆◆◆◆



 フィルムスがケイに連れられて行った後だった。


「ほ、本当にすみません。俺のフィルムスが、ちょっとあれなことをしちゃって」

『いえ。こちらこそ申し訳ございませんわ。フィルムスは我ら第7師団の構成員でしたから。あのおしゃべりだけは何度言っても治らなくて・・・』


 リクとエスタリスがお互いに頭を下げ合っていた。


『やれやれだな。本当にやれやれだ! せっかくこの世界に顕現できたというに! まさかこんな下らんことで命を落としかねぬとは!』


 愚痴を言うエンコウに、一同はさすがに何も言えなかった。


「えっと、フィルムスはあんなになっちゃったけど、本当に連れていくの? あんななのに?」

「う、うむ・・・。そうさ、の・・・」


 イゾウも悩んでいた。そして考えこんだ末に、アオたちを見回して、タクミに目を止めた。


「タクミ。今回はお前に頼もうか。お前なら剣の腕も相当なものだし、一応とはいえ回復も行える。探索を行うのに不足はないだろう」

「は、はい・・・。その、仲間がすみません」


 タクミは消え去りそうな声で頭を下げた。


 こうして、第3階層を探索するメンバーが決まったのだった。

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