第94話 第2階層のボス攻略
「やっぱ緊張するな。階層のボス戦はよ。まだ2回目だけどな」
「僕らなんてほとんど初めて見たいなもんですよ。前回はイゾウさんとアオさんたちが倒してくれたようなものですし」
アオは思い返していた。拠点に行くために、カイトたちのボス戦はイゾウやアオが同行したのだ。その時はイゾウがあっさりとオーガを倒してくれたおかげで簡単にクリアできた。だから、実質はこれがカイトたちの初めてのボス戦と言ってもいいだろう。
「いいな? アキミが言うには、あの祭壇からミノタウロスが現れるらしい。おつきはスケルトンで、こっちの人数の倍ほどもいるそうだ。今回はお前たちにも出番がある」
「まっかせなさい! あたしたちだって頑張ってオリジンを鍛えてきたんだから! ねっ、フジノちゃん」
「アイカ。黙って。今集中しているところだから」
フジノは不安のようだが、周りはそこまでのことはないようだった。と言うのも、フジノが構築したオリジンが高い効果を出していたのだから。道中も押し寄せる魔物を簡単に倒していた。オリジンといい料理の腕といい、彼女はアオたちにとって欠かせない人材になりつつある。
「じゃあ行くか。準備はいいな」
「がう!」
アオが返事をすると、シュウと連れ立って祭壇へと向かった。
そして、祭壇まで数メートルに近づいた時だった。
「がう!」
「おお! 分かるぜ! 来たな!」
祭壇の前に佇む、大きな影。それは徐々に輪郭を明確にし、3メートルほどの影になった。
「ぶもおおおおおおおおおおおおお!」
力を籠め、叫び声を上げたミノタウロス。筋骨隆々な、牛の頭を持つ魔物は、情報通りの姿だった。
だけど、問題は他にあった。ミノタウロスの周りに現れるスケルトン。こちらも情報通りだが、話に聞いていたよりも明らかに数が多い。おそらく、30体ほどいるのではないか。事前情報よりも多い魔物の数に、シュウは顎を落とした。
「き、聞いてない! 聞いてないぞ! 聞いてた話の3倍以上いるじゃねえか!」
「バステトーーー!」
アイカの叫びとともに一匹の黒猫が現れた。黒猫は溜息を吐くと、スケルトンたちを睨んだ。
『やれやれ。老猫使いが荒いね。でも、あたしたちを襲おうなんて気に入らない。まさかおまえたち、生きて帰れると思ってるんじゃないんだろうね』
言うと同時に、バステトの周りに土の塊が生まれた。3メートルほどのそれは三角錐のような形になり、スケルトンめがけてすごいスピードで向かっていく。
土の大きな槍が、スケルトンを刺し貫き、周りを巻き込んで突進していく。その姿は、まるでダンプカーが暴走したようだった。やはり魔物が使うアビリティの威力はすさまじい。スキルで土魔法を使ってもこうはいかないだろう。バステトの土魔法は、10体ほどのスケルトンを瞬時に倒してしまった。
「ほら! 舞い散りなさい!」
フジノが鉄扇を振るうと花弁がスケルトンに向かっていく、何10、何100と言うピンク色の花びら。それはスケルトンを切り刻み、瞬時にバラバラにしてしまう。
フジノの魔物、アルラウネの力と魔道具の力を合わせたオリジンだった。
「ここは通さないぞ!」
カイトは両手剣を振り回す。一見派手に見えるが、動きは堅実だ。コロから学んだ技術を武器に、押し寄せるスケルトンを確実に足止めしていた。
「へっ。俺たちも負けてられねえぜ! な! アオ!」
「がう!」
アオは頷くと、目の前の敵に向かって駆け出した。
敵は、3メートルほどもある巨大なミノタウロス。筋骨隆々なこの魔物にはバステトの土魔法もフジノの花びらも通じていないのかもしれない。
でも、それでもアオは引くつもりなど微塵もなかった。ミノタウロスが背中の斧を構える前に先制攻撃を仕掛けるのだ。
「があああああああああ!」
「ぐもおおおおおおおお!」
奇襲気味の攻撃にも油断なく迎え撃ってくる。アオとミノタウロス、2体の魔物は同時に腕を繰り出した。
ミノタウロスの拳とアオの拳が激突する。
体格的には大きな差があった。ミノタウロスが3メートルほどに対し、アオは2メートルにも満たない。でも、勝敗は圧倒的だった。アオの拳によってミノタウロスはあっさりと吹き飛ばされていく。
「ぐもおおおおおおおおお!」
ミノタウロスはすぐに態勢を整えた。背中から取り出した斧を振り回し、アオを両断せんとばかりに近づいてくるが・・・。
「がああああああああああ!」
ミノタウロスが斧を当てる前に、アオは素早く接近した。そして砲弾の様なジャブを数発放つ。細かく、強い攻撃にミノタウロスがひるんだ。アオはその隙を逃さず、力いっぱいにこぶしを突き上げた!
「!!!!!!}
アオのアッパーカットがミノタウロスの顎を直撃する。あごの骨を砕いた感触に、アオは勝利を確信していた。
だけどすぐに思い直した。これで、ミノタウロスが死んだわけではない。まだアオが勝ったとは限らないのだ。その証拠に、ミノタウロスの目はまだ輝きを失っていなかった。
「がああああああああ!」
アオは容赦なくミノタウロスの顔を殴りつけていく。目の輝きが消えるまで、何度も。何度でも!
「ぐもおおおお・・・」
何発殴っただろうか。ミノタウロスの身体が倒れていく。力が抜けたように膝をつき、そのままうつぶせに倒れた。
ミノタウロスはピクリとも動かない。ここに来てやっと、アオは勝利を実感した。
「よし! さすが相棒! がははっ! これでこの階層もクリアだぜ!」
喜ぶシュウに、アオは笑って頷き返した。
◆◆◆◆
「おお! お前たちも勝ったんだな」
「ええ。やっぱりスケルトンの数は多かったです。事前に情報を得られて助かりました。こっちはそのつもりで戦いましたし」
第3階層の入り口に現れたユートたちに、シュウはそう声を掛けていた。ユートたちも想定以上のスケルトンに襲われたようだが、無事に魔物たちを殲滅したらしい。
「今回はリクが大活躍だったんだ。なあ」
「へへっ。まあ、フィルムスとエンコウが頑張ってくれたおかげだけどね」
やはり、バステトを召喚したアイカと同様に、リクが作り出した2体の魔物はいい仕事をしたらしい。能力の本来の持ち主だけあって、スキルもアビリティも威力が段違いなのだ。
『ふぇふぇっ。ワタクシももっと活躍してみせますぞ! どこぞの猿なんかとは比べ物にならないくらいに!』
『黙れ害鳥が! 新参のくせにワシをたばかろうなどと!』
リクの2匹の魔物は言い合っている。やはりこの2体は仲が悪い。リクがうまく指揮することで戦闘で同士討ちすることはないものの、戦いを終えるとこうだった。
「この2人、いっつも喧嘩しているね」
「で、でも戦闘では言うことを聞いてくれるようになったし。これくらいは大目に見てあげて」
リクはあわあわしながら必死でアイカをなだめていた。
「羨ましいぜ。お前たちの魔物はちゃんと動いてくれるんだからよ」
「そっか。シュウさんのカラスって、まだうんともすんとも言わないんだよね? えっと、形はすっかりカラスで、飛ばすこともできるんだっけ?」
シュウの目はどこか羨ましそうだった。
「一応、思い通りに動かせるようにはなったんだ。着地とかは結構失敗して消えちまうんだけどな。なんかエスタリスも口を濁していたし。やっぱり俺には才能がないのかな・・・」
落ち込むシュウだが、今回もしっかり仕事をしてくれていた。アオに近づこうとするスケルトンを棒と風魔法で牽制してくれていたのだ。アオがミノタウロスに集中できたのはシュウのおかげだと言っても過言ではない。
「じゃ、とりあえず帰ろうぜ。今日は大将が腕によりをかけてくれるってよ」
「それは楽しみだな。コロさんの料理、本当においしいし」
ユートの喜ぶ声を聞きながら、日記に書くことが増えたと喜ぶアオだった。




