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第92話 気づけば時は流れ

 パメラを助けてから、半年が経過した。


 本当はもう少し早く探索に戻るつもりだった。でも修行をすればするほど課題も見えてきて、もっと研鑽を積まなければという気になった。ここでの生活も順調で自分の部屋を持つメンバーも増えたのも、出ていくことのない要因になってしまった。


「そういえば、俺たちはこの塔を攻略しているんだったな。快適だからすっかり忘れていたぜ」

「もう。シュウさんは本当にね。まあここが快適なのは分かるよ? 気づいたら2階もできてたし」


 今まで1階しかなかったはずのこのアパートは、いつの間にか2階建てに増築されているのだ。使用人もナナイだけだったはずが、ナナニ、ナナダンと2人も増えている。ナナイにそっくりなこの2人はナナイ以上に忠実で、洗濯や掃除などを笑顔でやってくれている。


「そうだよな。そろそろ動かないと。俺たちも第3階層に行けるようになりたいしな」

「うん。俺も、エンコウとフィルムスがようやくいうことを聞いてくれるようになったし」


 フィルムスと言うのは、リクが作り出したアヒルの魔物だった。どうやら彼女はリクと合成された天族らしく、すぐにアヒルを乗っ取って挨拶してくれた。エンコウとは相当に仲が悪く、ことあるごとに張り合っている。


「第2階層を守っておるのはミノタウロスだな。半年前に襲ってきた固体よりは弱いが、例外と言うこともある。挑むのであれば十分に注意するのだぞ」

「「「はい! 先生」」」


 イゾウの言葉に元気よく返事をする一同だった。



◆◆◆◆



 その日の夜のことだった。修行を終えたアオは、食堂でお茶を飲んでいた。正面に座っているのはケイで、彼女は微笑みながらアオの日記を確認している。


「今日もたくさん書いてくれてありがとうね」

「がう?」

「ううん、大丈夫。私もなんだかんだで楽しんでいるから。こうしてアオのことを知れるのは楽しいんだ。ふふっ。医者としては、治療なんかそっちのけで何してるんだとか言われちゃうかもだけどね」


 交換日記を始めてしばらく経つと、話さなくても意思疎通できるようになってきた。医学を卒業したケイは、やっぱり相当に頭がいい。日記を通じてお互いのことを知るうちに、最低限の相づちだけでコミュニケーションを取れるようになっていった。


 一方で、ちょっと離れたところにいるシュウは苦笑を漏らしていた。


「にししし。シュウさん、ちょっと気にしているでしょう? 相棒を自称しているのに、アオが言っていること、いまだにわかんないんだし」

「いいんだよ。ハンドサインとかで最低限の意思疎通はできるし。メモがあればあいつの言いたいことは分かるからよ」


 そう言いつつも、シュウは悔しそうだ。


「分かんないのが普通っすよね。俺もわかんないし。あ、でも妹の言いたいこととかはなんとなく察せられたかな? 家族のことだから当たり前か。ということは、アオとケイ先生は」

「交換日記で毎日話しているみたいだからね。書くことがなくなりそうなものだけど、いまだにいろいろ書いているみたいだし。2人はずいぶんと打ち解けたんじゃないかな」


 ユートチームのタクミに、さらりと答えたサナだった。サナは近寄りがたい雰囲気がある美人だったが、女兄妹がいたせいか、タクミとは自然と話せるようになっている。


「ま、いいことだよ。あたしとしか話せないのはアオ的にもつらかったんじゃないかな」

「そういや、お前がいろいろできた理由が分かったんだったな。罠を解除したり隠し扉を見つけたりよ。ま、無理に話す必要はないけどよ」


 鼻をすするシュウを見て、アキミは何かを決心したようだった。


「実はさ。エス子に聞いてみたんだ。あたしが、隠し扉を見つけたり、罠を解除したりできる理由をさ。やっぱエス子は天族の中でも有能らしくてね。いろいろ知ってた。その理由にも心当たりがあったってわけ」

「アキミ! あなた!」


 心配そうに手を伸ばすサナに、アキミは静かに笑いかけた。


「おそらくね。あたしの中の魔族のおかげだってさ。あたしの中にいるピクシーってね。向こうの世界で有名な盗賊みたいで。罠とかを見つけてあたしに知らせようとして、その言葉を拾っていろいろできるようになったみたい」

「なるほどな。いや、こっちは納得だけどよ。いいのか? お前の秘密みたいなもんだろ?」


 心配そうに尋ねるシュウに、アキミはさみしそうに笑った。


「いいの。やっぱり変なことができて、それで気味悪がられちゃうよりは、さ。自分で説明したほうが、ずいぶんましかなと思って」

「アキミ・・・。私たちは、あなたを変だなんて思わないのに」


 悲しげに言うサナに、アキミは微笑むだけだった。


「アキミさん。ありがとう。参考になったよ。てか、中の魔族がアドバイスを送ることなんてあるんだな」

「一概に俺たちに否定的ってわけじゃないんだな。エンコウの奴ばっかりだと思って誤解していたよ。あいつ、いまだに俺たちにアビリティを使わせようとしているからさ」


 アキラが肩をすくめると、みんなくすくすと笑っていた。


「さて。そろそろ寝るとしようや。明日はいよいよ第2階層のボス戦だ。夜更かしして体調悪くしたら元も子もないぜ」

「はは。俺たちだって負けてらんねえしね。シュウさんたちより絶対に早く着けるからさ。何だったら賭けてもいい」


 ヤマジの冗談を最後に、その場は解散となったのだった。

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