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第91話 幕間3

「くふふふふ。順調だ。やっと普通に戻った。この分なら・・・」

「おっ。珍しく上機嫌だね。こっちは考えなきゃいけないことが山積みなのに」


 珍しく上機嫌なサングラスにLがぼやいた。


「報告書ですよ。〈暴食の塔〉のね。探索者の浸食率がどんどん上がっているんです。やはり、第4階層の難易度を上げたことが功を奏しています」

「ああ。第3階層まではチュートリアルみたいな感じだからね。第4階層に到達するまでにアビリティやスキルの基本は身に着けられるよな」


 納得するように答えたLにサングラスは頷いた。


「探索者は今まで以上に能力に頼るようになりました。彼らの浸食率はうなぎのぼりですよ。どうやらスキルの浸食率を上げやすい個体がいるらしく、それに影響されて他の探索者の浸食率も上がっているんです。しかも! 物価を上げたおかげで、塔に行く探索者が増えたんですよ。この調子で引きこもっている奴らも何とかしないと」

「うれしそうだね。でもやっと他の塔に追いついただけじゃないか。まあ、ある程度浸食率を上げたらこっちのものだけど」


 Lはため息交じりにだらしなく座り込んだ。手に持った書類を憂鬱そうに眺めている。


「どうしました? 上からの指示ですか?」

「それなら無視すればいいんだけどね。あの人から直接の連絡さ。これはさすがに無視するわけにはいかないよね。でも、もうやっちゃったんだよなぁ」


 Lの言葉に、姿勢を正すサングラスだった。


「あの人は何と」

「あの人が転移する方法を探っているのは知っているよね。ここや無魔の世界とは違い、あの世界では自由に転移することができない。戻ろうとしたら夢魔の魂も悪魔どもの魂も捨てる必要があるし、ある程度馴染むと体から出ることもできなくなるそうだからね。かなり距離が近い〈嫉妬〉と〈暴食〉をつなげるのでやっとさ。それだって、何度もできないって話だろう?」


 サングラスはバツの悪そうな顔になった。


「ええ。そうですね。あと数回も移動すればゲートは壊れるでしょう。でもそのおかげで、〈嫉妬〉の魔物が〈暴食〉に向かうのを多少は防げるかもしれませんよ」

「いやそれはどうでもいいんだけど。あの人がね。欲しているんだよ。次元を超える能力ってやつをね。だからそれができそうな囚人を送ってほしいという要請があったんだけど」


 Lは溜息を吐いた。サングラスも何か考え込んでいる。


「次元を超える能力・・・。そんな者、いましたかね?」

「僕が知る限りでもいないねぇ。でも、候補者はいる。それを呼びつけるって感じなんだけど、そうもいかなくてさぁ」


 いやな予感がしてサングラスは思わず上目遣いになる。


「まさか、その候補者と言うのは」

「そう。ケルベロスさ」


 名を聞いてサングラスは顔を青ざめさせた。


「ケルベロス・・・。あの魔王ですか?」

「そう。どこからかアイツが僕を傷つけたって話が漏れてね。あいつは次元の違う場所にいた僕にダメージを与えた。最後の戦いでも空間を飛び回るケルベロスを見ただろう? 空間に壁を作るのは空間魔法の基礎さ。つまり、あの能力があるってことは、彼女には次元を超える能力も持っているんじゃないかって」


 疲れたように言うLにサングラスは食って掛かった。


「しかし! あいつの能力はほとんど解明したはずじゃないですか! あの戦いのとき、ほかならぬあいつの手によって!」

「でもさ。あの戦いに、次元を超える力を使う余地なんてなかったと思わない? ケルベロスも必死だったし、あの人にも余裕なんてなかった。だから、有効な能力しか使わなかったって線もある」


 サングラスは顔を青ざめさせた。


「2つの強力な能力を持つだけでレアなのに、3つも特別な能力を持っているなんて・・・。し、しかしケルベロスはイオフィル様の命令で〈暴食の塔〉に行かされてしまった・・・」

「そう。いくら僕らでも塔から塔への転移はできない。こっちから向こうへの転移は比較的簡単なんだけどね。これを報告するのはさすがに億劫だよ。ケルベロスを捕らえたのはあの人で、本来の所有権はあの人にあるはずなのにさ」


 気安い様子でぼやくLに、思わずサングラスを外して覗き込んでしまった。


「ど、どうするつもりです? あいつに、なんていうつもりですか」

「いや獣眼まで見せて僕を睨んでもしょうがないだろう? 本当のことを言うしかないでしょ。ケルベロスはイオフィル様の指示ですでに〈暴食の塔〉に送りましたってね。さすがのあの人でもきっと怒るよぉ。もしかしたら僕らの中で争いが起こっちゃうかもしれない。ま、僕の責任じゃないけどね」


 書類を投げ出すLに、サングラスは慌ててしまう。


「大方、あの人が帰ってこられないからって理由だけどさ。浅はかだよね。さすがのあの人でも自分のものを勝手に手を出されて怒らないはずはない。普段おとなしい人ほど怒らせるととんでもないっていうだろ? あの人の怒りがこっちに飛び火しないようにしないとなぁ。君も立ち位置を考えないとやばいよ。僕に擦り付けようったってすぐにばれると思うし」

「そそそそ、そんなことするわけがないじゃないですか」


 動揺するサングラスを気にも止めず、Lは一人ごちだった。


「さて。この計画はどうなるかねぇ。イオフィル様のせいで、こっちが割れることは決定的になった。こっちに被害が来ないようにしないとなぁ。アクリス。お前も態度を決めるんだね。イオフィル様に着くか、あの人に着くかをね」


 Lはつぶやいて、だらしなく椅子に体を預けるのだった。

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