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第9話 アビリティとスキルと魔物の襲撃と

『探索者の皆様、おめでとうございます。


 皆様は新たな人類として選ばれました。


 皆様にはアビリティとスキルと言う2つの能力が備わっています。


 アビリティは、皆様の個性に合わせた能力です。一人一人違っていますが、それぞれ特殊な奇跡を起こすことができます。


 スキルは汎用性の高い能力です。ポイントと引き換えに特殊能力を習得できます。皆様の携帯端末から対応するスキルを選んでください。いくつかのスキルを取得することで新たなスキルが項目に増えることもあります。


 どちらも使い続けることで熟練度が上がり、熟練度が一定以上になるとポイントを追加してレベルを上げることができます。


 ぜひ、2つの能力を高めることで魔物が跋扈する『暴食の塔』を攻略してください。見事最上階を制覇した探索者には自由と素晴らしい景品をご用意しております。


 塔を攻略することで移動にかかる制限も解除されます。皆様の素敵な異世界ライフのために、奮ってご参加ください』


 アキミが見せてくれた、メールの文面だった。どうやらスマホに届いていたらしく、転移した全員がこの文面を目にすることができたらしい。


 街に言ったシュウたちを待つ間、アキミが「これ、気になってるんでしょう?」と急に見せてくれたのだ。ちょうどメールについて思いを馳せていたタイミングだったからおどろいた。内容には興味津々だったのだけど。


 シュウたちは魔物を倒してお金を稼ぐためにここに来たのかと思ったが、どうやら事情はそればかりではないらしい。


「結局のところ景品っていうのはよく分からないんです。このメールは最初から全員のスマホに送られていたものですが、なんだか怪しくないですか? アビリティやスキルにしても、『何かに憑りつかれたみたい』って頑なに使わない人もいますし」

「でも外貨を稼ぐには魔物を狩る必要があるし、お金を稼ぐために塔に来るのは効率が良い。ここは大きな島みたいな場所だけど、移動制限とやらのせいであんまり遠くに行けないしね。だからみんな、お金稼ぎのついでに塔を攻略しようとしているんだ。あの怪しいアビリティやスキルを使ってさ。俺たちとしても、攻略組や正同命会に先を越されるのはちょっと情けないからね」


 サナとサトシがアキミの言葉を引き継いだ。


「このメールを開く前は結構焦ったんだけどね。ほら! 映画とかであるじゃん? 最初の1人しか景品をもらえないとかでデスゲームっぽくなったりするやつ。まあそれよりはましって感じかな」

「探索者同士の戦いがないわけじゃないんですけどね。でも、景品ってのが日本に帰れるってことかもしれないって躍起になっている人もいます。ポイントでスマホを強化することもできるから、みんな必死になって魔物と戦ってる感じで」


 アオは少しだけ安心した。探索者同士の誰か一人しか景品がもらえないのなら不安だったけど、どうやらそれはないらしい。


 シュウたちを待っている間、アオたち5人は門のそばで待っていることにした。その際に、アキミがこの世界について説明してくれたのだ。


 それにしても、アビリティとスキルか。


 アオはちょっとだけうらやましくなった。どちらも得られないアオにとって、冒険に役立つその能力は欲しくてたまらないものだ。


「便利なんだよ。スキルってさ。剣術や槍術なんかもあって、魔法まであるの! 攻撃も回復も思いのままで、しかも補助だってできるんだから!」

「が、がう?」


 魔法と聞いて思わず顔を上げたアオだった。シュウのスマホを見せてもらったときから聞いてみたいと思っていたのだ。聞いたところによると、スキルは探索者の誰もが扱える能力らしい。と言うことは、探索者ならだれでも覚えられるということではないか。


「あ、やっぱり魔法が気になる? いしし。やっぱ魔法って、異世界の醍醐味だよね」

「特にスキルはポイントさえ貯めれば魔法を使えるんだよね。相性の良しあしはあるけどさ」


 相性という言葉にアオが疑問符を浮かべていると、サナが説明してくれた。


「人によってスキル取得のポイントに違いがあったりするんですよ。特に魔法は属性によっては扱うのはすごく大変で。私の場合も、土魔法と氷魔法以外は全然です。あ、氷魔法は、水魔法と風魔法、それに減速の3つのスキルを取得すると現れるスキルなんですけど」

「そうなのよね。誰でも取れるけど、条件を満たさないとでてこないスキルとかあるし。狙ってたスキルの必要ポイントが高いとちょっとへこむ。あたしも雷魔法以外はダメでさー。水魔法、必要ポイントがめっちゃ高かったんだよね。取ったけど」


 アキミが肩を落とした。万能かと思われたスキルにもいろいろあるらしい。アキミの言うように、欲しかったスキルの取得難易度が高いとへこむよなと、何ともなしに思った。まあ、アオはスマホが壊れているからどの魔法も習得できないみたいだけど。


「はっ! これだから弱い奴は! 俺にはスキルなんぞ必要ない。 アビリティさえあれば十分なんだよ!」


 自慢げに言い放ったのはレンジだった。確かに、彼の力はすごかった。腕がトカゲの頭になったかと思ったら、火炎放射器もかくやと言うほどの炎を吐き出した。おそらくはあれが彼のアビリティなのだろう。


「俺にかかればこの層の魔物などちょろいもんよ! 何せ俺の『獄炎』は、まれにみる強力さなんだからな! それに身体強化だってできる! どこぞの使えねえアビリティとは違うってもんさ」

「レンジさん!」


 サナが警告するが、レンジは聞いているのかいないのか・・・。にやにやと笑いながらサナの目を覗き込んだ。


「おまえもそうだろう? せっかくアビリティに恵まれた同志、仲良くしようぜ。俺たちは他の奴らとは違うんだ。俺たちは選ばれた人間として、他の奴らを導いてやってもいいんじゃねえか」

「結構です!」


 なれなれしく肩を抱こうとするレンジを、サナはあっさりと避けていく。つれない態度を取られたにもかかわらず、レンジはにやにや笑いをやめない。


「俺たちは特別なんだ。他の連中とは違う。そうだろう? 俺たちは他の奴にはない能力に目覚めた。なにしろ、アビリティだけで奇跡を起こせる力を与えられたんだからよ。これはオミの奴にもない能力なんだからな!」

「何をわけのわからないことを! 第一、あなたも私も、討伐数ではオミさんに敵わないではないですか!」


 むきになって言い返すサナを、レンジが小ばかにしたような目で見下している。


「今だけだ! オミがすげえのはよ! あのアビリティじゃ、すぐに頭打ちさ! 奇跡を起こせる俺たちのほうが強いんだよ!」


 オミがいないから調子に乗っているのか。レンジは高らかと宣言し続けている。


「俺たちは他のやつらとは違う! 拳を固くするだけのオミや、体を固くしなけりゃろくに動けないその眼鏡とはな! 焼き尽くし、凍り付かせる俺たちは、まさに選ばれた存在なんだ! こんな奇跡を使える俺たちこそ、特別な人間なんだよ!」


 興奮したように言い募るレンジは、サナに強引に近づこうとする。そんな彼らの間にアキミが慌てて割って入った。


「ちょ、ちょっとやめてよ! サナ姉、困ってるじゃない!」

「ああ!? てめえ! 調子に乗んじゃねえ! 戦闘では役立たずなくせに! オミにお情けでおいてもらっているくせによぉ!」


 いきなりの剣幕に、さすがのアキミも口ごもった。


「何を言うのです! アキミさんがいち早く敵の情報を探ってくれるからこそ戦えるんじゃないですか! スマホの強化もしてくれていますし、罠だってすぐに見つけてくれる。役に立たないなんてそんなことはない! 彼女は十分に私たちの力になってくれます!」

「はっ! その女が役立たずなのにはかわりねえだろ! スマホをポチポチやってる間に攻撃すりゃあもっと戦いが楽になるんだよ! 今の俺らにお前は必要ねえんだよ!」


 勝手なことを言い出すレンジに、アオさえも不快な思いになる。確かに不良のようなレンジに食って掛かるのは恐ろしいが、それでもアキミを悪く言われるのは我慢ができない!


「が、がう・・・」

「きゃあああああああああああ!」


 耳をつんざくような悲鳴が響き渡ったのはそんな時だった。慌てて声がしたほうを見ると、何人かの探索者が、泣きそうな、切羽詰まったような顔で走り寄ってきていた。

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