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第83話 天族のスクトゥム1

 扉を開けると、そこはひたすら暗い部屋だった。多分照明のせいだろうけど、それだけじゃない暗さがある。リビングのようで、テーブルの上にはゲーム雑誌やファッション雑誌が乱雑に置かれていた。


「なんつーか・・・。あんまりあの人のイメージじゃないですね」

「パメラ、私たちには言っていたんだ。自分は本当は根暗だって。いつもは嫌われないよう明るくふるまってるって。冗談っぽい言い方だったけど、この部屋を見れば本音だったのが分かるね」


 アシェリは何でもないようにふるまいながら、その部屋を確認した。ケイは真剣な顔であたりを見渡している。


『お前たちは何者だ』


 声がして、アオたちは同時に声がしたほうを振り向いた。暗い部屋の奥のほう。この部屋の隅に人が入れるほどの大きな檻があって、そこに小柄な人影があった。真面目そうな青年だが、特徴的なのは背中に生えた緑っぽい翼だった。まるで鳥のような翼は小さくても存在感があった。天使のような姿に、アオは目を見開いてしまう。


「あ、あなたは? 檻に、閉じ込められている? 監禁されているの?」

『こんなところにはいるが、私は囚人と言うわけではない。故あって囚われているように見えるが、すべてを奪われたわけではないのだ』


 取り繕うように言われ、アシェリは戸惑ってしまう。


「まあそうだよな。あんたたちが3体で一人だとすると、一つの魂がどうにかなると、どんな影響があるかかわかんないか。もう一体の悪魔としては安易なことはできないってことだな」


 アオが言うと、男はあからさまにうろたえた。


『な、何を言う! 私は偉大なる天族の一人だ! 宿主やあの忌々しい鎧がどうなったところで何の影響もないのだぞ!』

「ああ。そうか。一体になったってことは、安易に消すことはできないわけね。だから、リビングメイルは天族のあなたを殺すことはもちろん、安易に追い詰めることもできないということ」


 ケイも思案顔で頷いている。


『な、なにを! この私が! この私が魔物を恐れるなど!』

「アンタって意外と若いよね。若いっていうか、幼い? さすがにあの子ほどいろいろ知っているわけではなさそうだけど。ねえ、スクトゥムさん」


 アシェリが悪い顔をしながら名前を言うと、青年――天族のスクトゥムは絶句したような顔になったのだった。



◆◆◆◆



『な、なんで、僕の名を・・・』

「あの子が言っていたのよね。パメラの中にいるのはスクトゥムって子だろうって。そうか。あんたがスクトゥムなのね。思ってたのとちょっと違うかな。虚勢を張っているだけだと思うけど」


 アシェリがにやりと笑うと、スクトゥムは顔を青ざめさせた。


『う、うるさい! 魔力を持たぬ下等生物のくせに! 私はお前らが触れられないくらい高貴な存在なのだぞ! それを!』

「当面は放っておこうか。まずはパメラよ。速くあの子を助けないと」


 存在を無視するかのようにケイは動き出した。


『お、おい・・・。ちょっと話を』

「ああ。そういうのいいから。今は何よりパメラのことだし。私たち、ちょっと忙しいの。あんたよりもリビングメイルのほうが厄介そうだしね」


 すげなく言われ、ちょっとかわいそうになった。


「えっと。でもなんか知ってるかもしれないし。一応、パメラさんと合成された魔物ですから」

『そ、そうだぞ! 私はお前たちが及びもつかないくらい優れた存在なのだ! だからこんなにぞんざいに扱われていい存在ではない!』

「ええー。でも知らないこと多そうじゃん。なんかろくでもない男の気配がするし。あの子よりいろいろ知っているとは思えないのよね」


 アシェリにすげなく言われ、焦りだすスクトゥム。アオはなんだかいたたまれなくて、少しだけかまってあげることにした。


「えっと。その。リビングメイルのこと知ってるの?」

『!! おお! そうだ! あいつに会ったことがあるのは私だけだ! だから、いろいろ教えてやらんでもない!』


 構われたのがうれしかったのか、スクトゥムはすごい笑顔になった。


『リビングメイルは通称動く鎧だ! 鎧の中をガスで満たし、身体を自在に操るんだ! それだけではない! 鎧の一部を高質化したり巨大化させたりもできる能力もある!』

「ああ。それ知っているから。あの子の情報通りだし、パメラもアビリティでそんなことしていたし。それに、リビングメイルってもっとやばい能力があるんでしょ? やっぱあんた、全然情報持ってないじゃない」


 アシェリにすげなく言われ、スクトゥムは目を見開いた。


『そ、その・・・。あの子というのは・・・』

「アンタに教えるわけないでしょ? 有益な情報も渡さないくせに自分だけ知りたいこと知りたいなんて、そんな虫のいいことがあるわけないじゃない」


 絶望的な顔になったスクトゥムがちょっとかわいそうで、アオはちょっとだけ話してあげることにした。


「えっと・・・。スクトゥムさんは、こっちの状況は知らないんですか?」

『・・・。うん。あんまり。僕たちは宿主の目を通して周りを見ることもできるけど、僕は力が強くないし。遠見の魔法は苦手で魔力をかなり消費するから一日30分くらいしか外の様子は見られないんだ』


 どうやら合成された魔物が外の様子を見るのにも限りがあるらしい。エスタリスやエンコウがこっちの事情を知っているのはそれだけ魔力の扱いがうまいからだろうか。


「で、でもさ。実際に合成された人からしか聞けない情報もあるんじゃないかな。ある程度は話を聞いておきたいんだけど」

『・・・。どうせ僕は新兵で大したことはできないですよ。技術も戦闘も、エスタリスさんと比べて全然だし。ましてや、〈高慢〉を攻略したあの人なんて、足元にも及ばないし・・・』


 隅っこで体育座りし始めたスクトゥムは、なんか哀れだった。


「エスタリスって人は、上官か何か?」

『!!! 情報をただで与えるなんて・・・もういいいか。君は他の2人より優しそうだし。人と話すチャンスなんてもうないかもしれないし。そうだよ。エスタリスさんは僕の直接の上司なんだ。僕は魔族討伐第7師団に配属された軍人なんだ。まあ、任務に失敗した敗残兵っていう情けない状況だったし。あげく、この世界で無茶しろって言われたけどね』


 ますます落ち込むスクトゥムを、アオは思わず慰めてしまう。


「いや、作戦は時の運っつーか、俺たちには及ばない領域にあるよね。特に新人だったっていうスクトゥムさんがどんなに頑張ったって結果は変わらないっつーか」

『そう、なんだけどね。そもそもあの作戦に無理があったのは僕だってわかっていた。隊長がまだ若いからって押し付けられてさー。元王族のくせにって目の敵にされて。挙句失敗も僕らにせいにされて! ホント、なんだかなぁって思うよ』


 スクトゥムは暗い顔で吐き捨てた。


「えっと。スクトゥムさんは状況を把握してる?」

『正直、何が起きたかよくわかってない。一応、僕の魂があのリビングメイルとパメラさんの体の中にいるのは分かったけど・・・。気づいたらここにいて、あの魔物に騙されるような形で閉じ込められたし。遠見の魔法で外を見ようにも見れる時間も少ないし、外を見ても見当違いなことが多いからさぁ。えっと、君は何か知っているの?』


 反対に聞き返されて、アオは思わず口ごもった。


「えっと・・・。分かったことはいろいろあるけど、さすがに言うわけには・・・。そのね。仲間たちの意見も聞かなきゃだし」

『じゃ、じゃあさ! 僕が知っていることを教えたら言今の状況を教えてくれる? こうなる前のことなら、いろいろ知っているからさ!』


 前のめりにしゃべりだすスクトゥムに、アオはたじたじになってしまう。困ってついケイとアシェリを盗み見ると、そっとうなずいてスクトゥムを指さした。2人はこのままパメラを助ける手がかりを探すようだが、アオにはスクトゥムから情報を得ろと言うことらしい。


「えっとぉ。君の情報が有効なら分かったことを教えてもいいかな」

『任せてよ! 多分、この情報は君たちも知らないと思う! 他の塔のことなんて知る方法はないだろう? あのリビングメイルや今の状況のことは分かんないけどね!』

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