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第82話 パメラの世界

「なに? なんなの? 意味わかんない! パメラが目覚めないって何なのよ?」


 アシェリが叫ぶが、ケイもエスタリスも、アオも答えられない。ただ、遠くでイゾウたちが戦う音だけが響いていた。


『その女は魂を掴まれた。合成されたリビングメイルにな。リビングメイルのアビリティを使いすぎたのだ。こうなると外から解放することは難しい。こいつが目覚めて戒めを解き、しかるべき処置をしないと意識を取り戻すことはないだろうな』

「あなたは、アオくんと合成された魔物ですね」


 自分がにやりと笑ったのが分かる。一向に体は動かせないけど。それだけはなぜか分かった。


「アオくんがミツと呼んでいる少女がいることは聞いていました。夢でそのこと会っていることも。いまだに信じられないけど」

『さてどうする? 私は別にどちらでもいい。こいつは私の助言を聞き、イゾウに教えを乞うた。そして修練を重ねているのだ。人として戦える術を見つけるためにな。これはその褒美だ。アオが助けたいと思うのならそうしよう。褒美とは本人が一番喜ぶものを与えることだからな』


 ケイは考え込んだ。いきなりアオがしゃべりだして、しかもわけのわからないことを言い出したのだ。混乱しないわけがない。


 それでもケイは、深々と頭を下げていた。


「お願いします。パメラは大事な親友なんです。なんでもしますから、どうか」

「ケイ? ええい! 分かったわ! 私からもお願いします! あんなだけど、パメラは私にとっても大事な親友なのよ」


 アオはさらに笑ったようだった。それを見てエスタリスがさらに震えたが、アオは気にせず言葉を続けた。


『では、私の言うとおりにしてもらおうか。お前たち2人は私の術に抵抗するなよ。繊細な術だからな。万が一失敗してはたまらん。成功したら報酬はもらうぞ。お前たちにやってもらいたいことがある』


 上機嫌のアオは、2人を見下すように見つめた。


「私たちは、なにを・・・」

『なに。簡単なことさ。お前たちはこの女の中に入ってリビングメイルと対決するんだ。この女が、再び主導権を握れるようにな』


 アオは、自分が再びいやらしく笑ったのを感じ取ったのだった。



◆◆◆◆



「きゃあ!」

「のへっ?」

「がふっ!」


 急激な落下とともに、3人がそれぞれの叫び声を上げた。


 ミツの魔法によって、アオたち3人は強制的に転移させられた。どこに飛ばされるかは何も説明されていない。アオが手を振ったら視界が暗くなって、気づいたらここに落ちてしまった。


 気が付けば、アオたち3人は6畳くらいの部屋にいたのだ。


「えっと・・・。ここは?」

「わかんない。どこかに飛ばされたみたいだけど」

「ミツが変なことやるのはいつものことだけど、ほんといきなりですよね」


 アオは四つん這いになって頭を掻いた。


 しばらく沈黙が支配した。いぶかしげに思ったアオが辺りを見渡すと、2つの視線が刺さっていることに気づいた。


「えっと・・・。なんです?」

「「しゃべってる~~~~~!」」


 2人に指を突き付けられ、アオはのけぞってしまう。姿かたちはいつもの虎人間だけど、そう言えば2人の前で話すのは初めてかもしれない。


「え? いや、あの・・・」

「アオくんってしゃべれたのね。がうがうしか言わなかったから驚いたよ。でもさっきとは声が違くない?」

「そう言えばそうよね。ちょっと前まで日本人だったんだし。しゃげれたとしても不思議じゃないわ」


 納得の2人に、思わず頭を掻いたアオだった。


「でも、ここはどこだろう。塔の中じゃないみたいだけど」

「おそらくここは、パメラさんの中にある世界ですよ。ほら。あそこにイゾウさんのポスターが張られているし」


 アオが指さした勉強机には、言葉通りイゾウのポスターが張られていた。


「これってイゾウさんのホームページにある画像よね。パメラが嬉しそうに見せてくれたから覚えてる」

「ああ。あれね。そう言えばあいつ、あの時やたら興奮してたっけ」


 アシェリは部屋の中を何ともなしに歩き回った。おそらく何があるのかを探すつもりだろう。ケイは机の上を見ている。パソコンがあって、何かソフトが起動しているようだ。


「このソフト。ファイナルクエスト21だ」

「あ! 本当だ! パメラ、部屋でやってるって言ってたっけ。うわー。なつかしいな~。この画面を見るのも久しぶりだよね」


 どうやら起動しているソフトは3人の思い出のゲームらしく、2人は感慨深そうにパソコンを見ている。


「で、アオくんはこの場所に思い当たることがあるんだ。パメラの世界って、どういうこと?」

「ああ。俺もまた聞き何でよくは分からないですけど。俺の夢って、どうも俺のなかにある世界での出来事らしいんすよ。俺の世界にはミツって女の子が暮らしてて。彼女が言うには、ここは魂ある者が持つ、理想を詰め込んだような世界と言うことです。俺たちがこっちに来たことで、頭の中にこういうのが構成されたんでしょうね」


 アオはそこにあるものから目を反らしながら説明した。


「でも、ちょっと意外でした。この部屋、結構落ち着いていますよね。もっと騒がしい場所だと思っていました。パメラさんってそう言うイメージがあったから。で、それって昔やったゲームとかですか?」

「ん? 今も続いているよ? 少なくとも、大学卒業して5年くらいの時はまだやってたよ。これ、10年以上続いているオンラインゲームなのよ。懐かしいよね。このゲーム、3人でやってたんだ。パメラがね。ケイにそっくりのキャラを作ったーって」

「3人でいろんなところに行ったよね。週末にみんなで時間合わせて同じタイミングでログインしてさー。モンスターに負けちゃったときは本気で悔しかったし、攻略サイトを見ながら作戦会議とかしたよねー」


 懐かしげに言う2人に、アオまで心があったかくなった。


「どうせだからさ。私たちも現実に即したキャラを使ってみようって。私たちの名前って、ゲームのキャラから取っているんだ。ケイはパメラが作ったキャラをそのまま使い、私はこの釣り目が特徴的なキャラを作って、そしてパメラは鼻の大きなキャラを作って」


 そんな話をしていると、パソコンの画面が変わっていった。そこに現れたキャラは、鼻の形が整った、青く長い髪のきれいな女の子だった。


「えっと、このキャラが、パメラさんが使ってたキャラですか? 顔立ちは、なんだか整っているみたいですが。鼻もなんか普通ですし」

「いや、えっと・・・。パメラが使っていたキャラとはちがうような?」


 アシェリは不思議そうな顔で首を傾げた。ケイは深く考え込んでいる。


「オンラインゲームってさ。キャラに理想の自分を投影するっていうじゃない? だから結構美形なキャラを作る人が多いんだ。パメラが最初に『せっかくだから現実の自分たちの特徴をとらえたキャラにしよう』って言ってくれたから、あのキャラで遊んでいたけど」


 ケイは悔やむような顔で下を向いた。


「本当は、パメラはもっと美形なキャラで遊びたかったのかもしれない。あの鼻、気にしているみたいだったから」


 ケイの言葉に、アオは何も言えなくなってしまう。


「ま、まあここはパメラの世界だし、あんまり長居するわけにはいかないよね。私たちに見られたくないものもあるだろうし。この先の扉から次の部屋に行けるみたい。速めに用を済ませて、ささっと帰っちゃいましょう」


 アシェリの言葉に、なんとなく居心地の悪い思いをしたアオだった。

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