第79話 消えてしまったパメラ
イゾウの衝撃的な告白を聞いた、その翌日のことだった。その日の早朝に、男子部屋の扉が乱暴に開かれた。
「ごめん! みんな! 力を貸してほしいの?」
息も絶え絶えに駆け込んできたのはアシェリだった。いつもはどちらかというと冷静なイメージのある彼女が、今は完全に取り乱している。
「おいおい、どうしたんだ? 朝っぱらからよ」
「パメラがいないんです。気が付いた女子部屋から出ていったようで・・・」
説明するアシェリから焦りが見え隠れする。
「昨日の話で一番衝撃を受けていたのはあの子だった。思いつめて、それで出ていったのかもしれない。第2階層といっても、一人で戦えるばかりの相手じゃないだろうに! これから探しに行くわ! イゾウさんたちにはケイが知らせている。もう! 心配かけて! ひっぱたいても連れ戻してやる!」
アオはシュウと顔を見合わせると、すぐに準備に取り掛かった。
そしてアオたちはパメラ探索のために動き出すのだった。
◆◆◆◆
4号室のリビングで、アイカたちはうつ伏していた。
朝食の時間が終わってすぐに、他のメンバーはパメラを探しに外へ行くことになった。ケイとアシェリは身を隠さなければならなかったが、彼女たちのパメラを探したいという意思は固かった。結果、イゾウとコロとアオが同行することを条件に出かける許可を得られたのだけど・・・。
まだ未熟なアイカたちは、アパートでみんなの帰りを待つことになったのだ。パメラの不在と昨日の話の影響からか、さすがのアイカも口数が少なくなっている。
「カイトくん。あんまり焦っていないね。昨日の話は結構衝撃的だったと思うけど」
「え? ああ。イゾウ先生の話? 僕は半分あきらめていたからね。実力的に塔を攻略できるはずないと思ってた。それよりも今は、コロさんから一つでも多くを教わりたいんだ」
そう言って、カイトは夕食の仕込みを始めた。彼の隣ではフジノが鍋でお湯を沸かしている。
食事の用意など、すべてを自分でやりたがったコロだけどカイトとフジノが熱烈に頼み込むことで何とか彼の手伝いをする権利を勝ち取った。祖母が旅館を営んでいたフジノだけでなく趣味で料理するだけのカイトが認められたのはその熱意があってこそだろう。
「ちょっとアイカ! いつまでも食べていないでシャキッとしなさい! まったく! 大人の目がないとすぐにだらけるんだから」
「ええー。いいじゃん。ちょっとくらい。イゾウさんもコロさんも多めに見てくれるよぉ」
だらしなくテーブルにへたりこむアイカにフジノが文句を言うけど、本人はまるで気にしていない。後片付けを手伝ってはいるが、基本はだらしないアイカだった。
「3人とも! しばらくこっちは頼むぞ! リクと一緒にここを守ってくれ!」
いそいそと準備をしているのはユートたちだった。彼ら5人が最後の組で、全員がパメラを探しに行くことになった。
「は、はい! ここは任せてください! ユートさんたちも気を付けて」
「任せとけ! しっかりパメラさんを連れて帰るからな!」
出ていこうとする5人を、リクは所在なさげにちらちらと見つめていた。
「あの・・・。えっと・・・。俺・・・」
「リクも頼むぞ。大丈夫だと思うけど、万が一と言うこともある。この場所を、俺たちが帰る場所を守ってくれ」
ユートたち5人がパメラの探索を任されたのに対し、リクだけはここで待機することになった。
「ごめん。俺が、うまくエンコウを操れないせいで」
「気にすんなって。協力的に思えるエスタリスだってイゾウさんとコロさんとアオの3人がかりで見ることになったんだ。あの反抗的なエンコウを使えないのはしょうがないべ。いずれはお前にも働いてもらうからさ」
そう言って、エイタは笑いながらリクの肩を叩いた。慌ただしく走る彼らを、リクが不安そうに見送っていた。
「パメラさん。無事だといいけど。えっと、ここを出ていったのは間違いがないんですよね?」
「うん。ナナイが見かけたときはなんか夢遊病みたいに放心してたようだけど。念のためにアキミさんがこのアパートの中を調べたけどやっぱりどこにもいなかったらしくて」
リクがしどろもどろになりながら説明してくれた。
ちなみにそのアキミは、魔線組の2人にシュウを加えてパメラを探しに出ていった。勘の鋭い斥候役の彼女なら、パメラが近くにいたらきっと気づくだろうから。
「ユートさんたちはヤマジさんが、イゾウさんたちはアオさんが、そしてサナ先輩たちはアキミさんが、それぞれ探索役になるんですよね? 私の猫がもっと使えたら、今回も役立てるんだけどなぁ」
「うん。でも、探索役を任された人たちってみんなすごいからね。アキミさんは言うに及ばず、アオさんの鼻もすごい。ヤマジさんだって、魔術師として探索に優れている」
「ヤマジは他の2人より少し劣るけどね。でも、他の4人も協力するんだから、パメラさんがいたらすぐに気づけると思うけど・・・」
リクが心配そうに扉を見つめている。
「大丈夫ですよ。うん。きっと大丈夫。パメラさんはきっと戻ってきますって。私の勘がそう言っています。私たちは私たちに任された仕事をしないと。みんなが帰ってくるまで、しっかりこの場所を守りましょう?」
「うん。そうだよね」
そう答えると、リクは扉を何度も振り返りながら、部屋の中に戻っていった。




