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第73話 オリジンと魔道具と

 オリジンは習得に時間がかかるのも事実だ。威力や構築スピードも、アビリティやスキルには及ばない。使えるようになるまでかなり修行を重ねる必要があるのも確かなことだった。


「こっちに来てから、お前はいろいろなものに手を出しているな。畑を作ったり猟ができないか試したり。あるいは船でどこまで行けるか出港したりな。それで、どの程度の効果があった? 畑から取れた作物はまずく、獣を取ろうとしてもうまくいかない。確か船で外に出ようにも、ある程度進んだら戻されるんだったか? ふん! 何の成果も上がっておらんではないか」

「よく分かんねえ場所にほっぽり出されたんだ。全部うまくいくわけがねえだろうが! 10に1つでもうまくいけばいい。 こっちはその覚悟でいろいろ試してんだよ!」


 大声を上げるゲンイチロウにアオはびくつくが、東雲はまるでこたえていない。


「ふん。弱気で何の成果もあげられないやつが何をぬかす。そんなだから正同命会とかいう狂信者どもに初制覇をかっさらわれるのだ。私は見つけたぞ。力のないやつが戦えるようになる、英知というヤツをな」


 東雲が顎をしゃくると、レンジの後ろから2人の男が進み出てきた。コロと同じくらい、濃い匂いがした。匂いの強さからして、かなりアビリティを使い込んでいるのだろう。


 男たちはスマホを操作した。すると、目の前に武器の山が出現してきた。ナイフや拳銃、ライフルやマシンガンまである。


「な、なんだそりゃ!? どっから持ってきた!?」

「お前はリヴィアと言う女と交渉していたみたいだがな。海外の奴らはあの女だけではない。剛の者も存在するのだ。あいつらの故郷にはこの国には軍があるらしくてな。元軍人も多数存在している。そいつらに直接交渉すれば、この通りよ。リヴィアと言う女よりずっといろいろな武器を持っているぞ」


 唖然とするゲンイチロウを嘲笑うような東雲だった。それに追従するように後ろのミナトが笑いだした。


「真原さんはレンジさんに言ったそうですね。俺にスキルなしでも戦える手段を見つけるようにしろと。俺をほめたのにそんな命令をしたのはちょっと来ましたが、まあ結果オーライってやつですよ。見てください」


 そう言ってミナトが取り出したのは、身長ほどもある大剣だった。黒いオーラが漂う大剣は、まるで呪われているかのようだ。あれは、コロが使っている大剣と同じくらい高性能なものではないだろうか。


「ミナト。見せてやれ」

「はい。おらあああ!」


 掛け声とともに、ミナトから何かが大剣に流れていく。おそらくは、魔力。


「ちっ! 何を!」

「親父! 迂闊に前に出るな!」


 オミがゲンイチロウをかばうように前に出た。ヨースケも盾になるように移動している。2人の動きはさりげなくも迅速で目を見張るが、驚くべきはそこではなかった。


 ミナトが構えた大剣から黒い稲光が発せられたのだ。それは人には当たらなかったが、地面に大きな音を立てて突き刺さった。


「お、おまえ・・・。それは」

「くくくくく。この大剣、嫉妬の奴らからもらったんです。こうして魔力を込めれば雷を発生させられるんですよ。へへっ! 稲妻を出すなんて、まさに英雄の武器って気がしませんか?」


 得意げに言うミナトだった。誰かの舌打ちが聞えた気がしたが、それも気にしないくらいの威力だ。


 しかしアオは違和感を感じていた。魔法を放てる道具と言えばシュウやコロも使っているが、何か違う。2人とミナトにはどこか決定的に違う点があるように思えたのだ。


「お主・・・。その魔力は」

「いいでしょう! これは習得度がほとんど上がらないのが難点ですが、スキルよりアビリティよりも強力で使い勝手がいい! あなたが言った通り、スキルに頼らない力を手にしましたよ!」


 イゾウの声を遮って、ゲンイチロウに自慢するミナトだった。


「これでわかったろう! ここにおるものはオリジンとやらを習得したいそうだが、そんなものは必要ない! オリジンは習得に時間がかかりすぎる! そんなものに頼らなくとも、これらの武器があれば十分に戦えるようになる! 面倒な修行などなくともな! 望むならこれらの武器を用意してやる! これらを使って、ともに魔物を獲物にしてやろうではないか!」


 自信満々の東雲の言葉に、多くの人が同意の声を上げていた。その様子を、ゲンイチロウが苦々しく睨んでいたのだった。



◆◆◆◆



 ゲンイチロウについてきたはずの街の人が、レンジのところに殺到している。レンジは嫌な笑いを浮かべつつも一人一人に銃器を渡していく。


「ふん。これでわかっただろう。大衆が求めているのは複雑で修行を必要とするオリジンではない。簡単で誰にでも扱える銃のような武器なのだ。見ろ。銃が手に入ると分かったらお前など見向きもせんだろう」


 東雲は冷めた目でレンジの押し寄せる集団を見下している。そしてヨースケのほうを見た。


「お前たちにも私が手に入れた武具を渡さんでもないぞ」

「俺は変わらねえっすよ。ここに来たのはオリジンを取得するためですからね。チャカが手に入ろうがどうしようがそのことに変わりないっす」


 ヨースケはにやにや笑いを止めず、上目遣いで東雲を見つめだした。


「てか、あんた」

「ふん。人の好意を無にしおって。お前が選んだ道だ。後悔しても知らんぞ。では、お前はどうする? 同じ魔線組の誼だ。お前が望めば特別な武具を渡してやらんでもないぞ」


 東雲がそう問いかけたのはテツオだった。


「い、いえ・・。俺は、いや、俺も。ここでオリジンを覚えようかなと・・・。その、オリジンにちょっと興味があって・・・。だから、武器のほうはいいです」


 テツオはしどろもどろになり、汗を流しながら、それでもきっぱりと言ってくれた。


「貴様! 分からんのか!? あっちへ行ったりこっちへ行ったり。コウモリのような貴様に、この俺がチャンスをやろうってんだぞ!」

「す、すいません! でも、俺は先にチャンスをくれたおやっさんの心を無駄にしたくない! こんなフラフラばっかしている俺に、またチャンスをくれたのだから!」


 震えながら何度も頭を下げるテツオを、東雲は苦々しく見つめていた。


 笑い声が聞こえた。ヨースケだ。ヨースケが腹をかかえて笑い出していた。


「東雲さんよぉ。そいつはお前の銃が必要ないとよ。てか、わかってんだろ? 銃があって軍人も多く所属するはずの嫉妬の連中は、どうしてここに来た? 負けたからだろう? この先銃が通じない魔物が現れるってことさ。道具頼りの戦力ばかりにすると痛い目を見るのはこっちだぞ」

「ふん! 根拠のない世迷言を!」


 東雲はヨースケを人睨みすると、集団に大声を上げた。


「聞け! 皆の衆! 銃が欲しい者は魔線組に来い! 私が、お前らにぴったりの武器を用意してやろう! 私たちは数少ない同志だ! ともに魔物と戦う者にできる限りの支援はしようではないか!」


 武器を手にした探索者はうなずき、まだ武器をもらえてない探索者も歓声を上げている。特に若そうな面々は東雲から銃を与えられると知って興奮しているようだ。


「くふふふ。どうだ、源一郎。これだけ多くの探索者が私を支持しているんだ。どちらが正しいかは自ずとしれよう。オリジンなど出来損ないよ。精々、その出来損ないのスキルに縋ると言い」

「東雲ぇ!!」


 憤怒に燃えるゲンイチロウを一顧だにせず、東雲はそのままゆっくりと街に戻っていく。レンジが睨み、ミナトがこちらを嘲笑ってその後に続いていった。


 そしてその後にづづく、人の群れ。ゲンイチロウが集めた探索者のほとんどが、東雲について行ってしまったのだ。

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