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第72話 魔線のトップとの出会い

 最初にアオが目覚めた卵のような場所だった。魔線組のトップである真原源一郎に指定された場所がここだ。


「第1階層も久々だよね。さすがに今はゴブリンとかは逃げ出しちゃうけど」

「真原さんは、まだ来ていないのかな? やっぱり来るのが速かったかも」


 ついて来てくれたのはイゾウとコロ、そして魔線組の面々とユートとアキラだった。シュウや元正同命会の3人は一緒にいるのを見られるのがまずいとのことで、今回はお留守番となった。


 しばらく雑談して待っていると、こちらに歩いてくる集団に気づいた。思ったよりも人数が多い。オリジンを習得したい人たちにその護衛もいるようだ。あまりの数に、アオは顔を青くしてしまう。


「数自体は多いが、思ったよりも魔線組の連中は少ないな」

「がう?」


 アオは思わず集まった人たちを見つめてしまう。人数は多いが、確かにベテランを感じる探索者の数は少ないのかもしれない。どこかで見たような少年少女もいて、アオには若い人が多いように感じられた。


 先頭にいた、イノシシのような牙を持つ貫禄のある男が手を振った。アキミが手を振り返す。どうやら彼が、魔線組を率いる真原 源一郎らしい。


「爺さん! あのときぶりな! 大将も! またうまいもん。食わしてくれよ。で、彼が?」

「ああ。小代アオだ。お前らにオリジンを身に着けさせる唯一の存在だ。気を付けて接するよう頼むぞ」


 アオが一礼すると、ゲンイチロウは人好きのする笑みで答えてくれた。


 魔線組のトップと来てアオは緊張していたが、意外なほどに好印象な人だった。確かに貫禄はあるが、気さくに話せる雰囲気がある。


 だけど、彼の護衛に問題があった。オミは分かる。アオにとってもなじみのある人で、魔物から助けてくれたり友好的に話したりしてくれた。問題はその隣の男女だった。


 彼らは、ミナトたちを勧誘していったヨースケとヤヨイだった。


「ヨースケさん・・・。あんたも来るとは思わなかった」

「俺もそのオリジンというヤツには興味があってなぁ。親父の護衛も必要だし、こうして来させてもらったわけだ」


 ニヤつくヨースケから軽薄な雰囲気を感じる。ミナトたちを強引に勧誘する手伝いをしたりアキミたちを邪魔したりしてきた相手だった。なのに、アオは相変わらず彼からあまり悪い印象を受けなかった。


 そしてもう一人、アオもよく見知った人物がいた。彼はオミのパーティーにいたはずのテツオだった。彼はバツの悪そうな顔でうつむいていた。隣のサトシがほっとしたように息を吐いていた。


「今日は本当にありがたい。これは土産だ。うちの料理人は大将ほどの腕はないけどよ」


 そう言ってゲンイチロウが渡してきたのは、黄色い漬物――たくあんだった。アオが思わず見返すと、ゲンイチロウがひょいとたくあんの一つをつまんでいだ。どうやら毒がないことを証明したようだったが、その気さくな様子に唖然としてしまう。


 ゲンイチロウに促され、アオもつられるようにたくあんを口にしてしまう。アオは思わず顔をしかめてしまった。


 はっきり言うととてもまずかった。


「はっはっは! まずいだろ? 日本のと比べると雲泥の差だよな。でもこれ、俺の仲間が作った、この世界の畑で採れた野菜を使っているんだぜ。うちの料理人の腕が悪いわけじゃないんだ」


 思わずゲンイチロウを見返してしまった。ゲンイチロウはしてやったりの顔で笑っている。


「食糧を得る手段は、今のところ街で買って入手するしかない。だがもし、明日から店員が売ってくれなくなったらどうなる? もし店員がいなくなったら? 俺たちはあっという間に干上がっちまう。港で漁をしたり獣を捕まえるにも限界はあるからな」


 そう言って、ゲンイチロウはたくあんをもう一切れ口にした。


「ここに転移させられた奴らにはいろんなのがいてよ。農業を生業にしている奴もいたりする。パソコン関連の仕事をしている奴もいれば大学でモノを教えている学者なんかもいるんだぜ。魔線組ではそう言う奴らを支援しているわけだ。まだ1年も経たないくらいだから日本の野菜には到底及ばないけどな」


 アオは唖然としてしまった。


 考えもしなかったのだ。食糧を手に入れる手段を探すなど。でもゲンイチロウは食料を干される可能性を考え、それに対抗する手段までも用意している。


「塔を攻略するのは確かに大事だがよ。人間、それだけじゃあ生きてはいけねえ。生活を守る様々な奴がいてくれているからこそ、俺たちも戦うことができるってわけだ。幸いなことに、嫉妬からかなりの人間がこっちに来ることになった。戦える奴が少ないことを気にしているが、そんなのは関係ねえ。戦えないやつには生産に言ってもらえばいいんだからよ。むしろ、そっちの人手が多いほうが助かるってもんよ」


 ゲンイチロウはまたたくあんを一つまみすると、改めてアオに一礼した。


「今はまだ、アビリティもスキルも有効だ。だけど、この先のことは分からねえ。対抗する手段を持っておいたほうがいいのは間違いない。疲れるかもしれねえが、ここに来た人間に、オリジンってやつを使えるようにしてくれ」

「が、がう!」


 アオが慌てて吠え、身振り手振りでオリジンを伝えることを言うと、ゲンイチロウは嬉しそうに微笑んでくれた。


「おおそうか! 分かるぜ! あんたも協力してくれるんだな! 恩に着るぜ! この真原 源一郎! この恩は絶対に忘れねえからよ」


 そう言ってゲンイチロウは朗らかに笑った。アオが意外に思うほどの好印象な人物だった。


「よし! それじゃあさっそく!」

「東雲さん。なんであんたがこんなところに!」


 思わず振り返った。集団の後方から誰かが何かを言っていて、オミが慌てて駆け寄っていったのだ。


 髪をオールバックにした、目つきの鋭い男だった。すらっとしたスタイルのいい若い男だったが、なぜか威圧感があってアオは反射的に背筋を伸ばした。彼の後ろに立っているのは、レンジとミナト。魔線組の戦闘を担う2人だ。


「東雲のおやっさんじゃねえか! アンタもオリジンに興味があるのか!」

「そうではない。お前が馬鹿をやるって聞いてな。まったく。魔線組のトップともあろう者が情けない」


 そう言ってアオやイゾウをぎろりと睨んだ。


「ふん。暴走続きの第1形態か。こんな奴の言うことを聞くなど情けない。お前には、魔線組のトップとしての自覚が足りんのではないか」


 そう言うと、東雲はゲンイチロウたちを見下すように腕を組んだ。


「俺の行動に何の問題があるってんだ! 今、街では戦力が求められている! でもアビリティやスキルを使うのは嫌だってやつもいる! そんなやつに、オリジンって技を習得させようってのが何の間違いだってんだ!」

「そのオリジンというヤツが問題だ。聞いたぞ。オリジンとはずいぶんと使い勝手が悪いそうだな。なんでも、効果を発揮するまでに時間がかかるうえ、威力も大したことないとか」


 言い合う2人にイゾウが口をはさんだ。


「最初はとっつきづらいかもしれんが、オリジンは鍛えれば確実に効果を上げられるようになる。何事も使い方次第というヤツよ。そう頭ごなしに否定するものではないだろう」

「ふん。植草以蔵か。確かにお前のような武芸者にならオリジンは魅力的かもしれんな。だが、ここにいる大半は武術の心得などない素人ばかりよ。そんな素人がオリジンを使いこなせると思っているのか? 使えない技術を習得させても魔線組の評判を下げる結果にもなりかねんぞ。ただでさえあの正同命会に先んじられておるのだ。お前がもたもたしている隙に、第3階層の初攻略を取られてしまったではないか」


 そう言って、東雲は鋭い目をさらに鋭くしたのだった。

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