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第70話 イゾウたちの帰還

「ふむ。なるほどの。魔力で猿の体を作ったと思ったら、内なる魔物に乗っ取られたとな。これは予想外だったわ」

「俺たちも意外だったぜ。まさか他にも外国人が集う塔が他に6つもあるなんてよ。しかも時間が来たら塔から魔物が押し寄せてくるって? 情報過多でパンクしそうだぜ」


 帰ってくるなり魔物のことを報告すると、さすがのイゾウも渋い顔になった。街での出来事を聞くと、アオたちも同じような顔になったが。


 エンコウが現れた翌日、イゾウたちはやっと帰ってきた。お互いの無事を喜び合い、買ってきたものを確認するというやり取りもあったが、今までのことについて会議室で報告し合っていた。


「まあともかく、リクはようやった! ようオリジンを作り上げた! その力は創造とでも言おうか。何せ魔物が力を発揮できるほどの身体を作り上げたのだからの! お主のおかげで、ワシらは憑りついた・・・魔物に接触した初めての探索者になったやも知れぬ! これでワシらの謎に一歩近づけたな」

「は、はい。その、なんかすみません」


 みんなに悪いことじゃないと言われてもリクは不安だったのだろう。実際にイゾウに褒められて明らかにほっとしたようだ。


「で、その『嫉妬』からきた連中は魔線組が受け持つことになったわけだ? 100人くらいって結構大人数だよな」

「まあ、リーダーもリヴィアさんは女優みたいにすんごい美人だったし、あの人の力になるのは当然じゃないか? タクミなんか見とれちゃってたし」

「そう言うんじゃないって! ただ、あの人に気になることがあって。外国でもあれが人気なの、ちょっとうれしくてさ」


 ヤマジとタクミがじゃれ合う姿を、アオは笑みを浮かべながら眺めていた。ユートパーティーにとって、「嫉妬」の人たちの印象はそれほど悪くはなかったようだ。 


「そうさな。そこは源の奴に頼るほかない。ワシらもある程度は協力せねばならんが・・・」

「ん? 嫉妬の人たちになんかあったの?」


 珍しいことに言い淀んだイゾウにアキミガいぶかし気に眉を顰めた。そしてイゾウは、アオに向かって深々と頭を下げた。


「が、がう?」

「お、おい爺さん! なんだよいきなり! 頭を上げてくれ!」


 アオとシュウがたしなめるが、イゾウは頭を下げたままだった。


「源の奴に頼まれたのだ。話を聞いて、ワシもそうしてくれたらと思うてしまった。魔線組と街の連中の、望む者たちだけでいい。お主のオリジンを教えてやってはくれぬか」


 アオとシュウは顔を見合わせた。


「魔線組にもいろいろあるってことみたいです。あそこも中で割れちゃってたりして。どうやらミナトがかなり力をつけているらしく、彼に影響される人が出てきて。スラムの住民なんか、みんなミナトの言う『スキルを高める技術』を真似したりしてるんです」


 顔を青ざめさせたのはアイカだった。


「あの方法が広まっている? だ、駄目だよ! だってあの方法は!」

「そうだな。ワシらの中に魔物がいて、アビリティやスキルがそれらの力を利用しているとしたらあれは危険なものとなる。ミナトと言う小僧のやり方は、スキルを使う際にあえて力を抜き、スキルに身を任せるというものだ。それによってスキルの効果を十二分に発揮できるというが、それはすべてを魔物にゆだねるということになるのではないか?」


 イゾウの説明にアイカが泣きそうだった。


「すぐに知らせないと! 私たちが魔物に憑りつかれていて、アビリティやスキルがその魔物の力を強制的に使っているって! そうすれば!」

「どうかな。やめるのはごく一部なんじゃねえか? アビリティとスキルのおかげで塔が攻略できているのは事実だし。案外、『魔物の力を利用してやっている』って得意気になる奴も出てくることも考えられる。塔を攻略しねえとやべえって情報も広がってるだろうしな」


 シュウに即座に否定され、アイカは涙目になってしまう。


「救いになるかはわかりませんが、頑なにミナトのやり方を試さない人たちもたくさんいます。特に初めからうまく戦えた人やアビリティがすごい人なんかは今までのやり方を変えず、アビリティを磨いたりして」

「でも! 魔物の力を使ってるのは変わんないじゃない! このまま魔物の力を使い続けるなんてダメだよ!」


 アイカが必死になって叫ぶが、アビリティやスキルを使い続ける人たちは止められないだろう。


 そこでアオははっとした。そうか、それでオリジンか。


「アオは気づいたようだな。そうだ。オリジンは魔物の力を利用したわけではない。おそらく純粋に、我らの力なのだ。同時に魂を鍛えられるというのも強い。魔物に憑りつかれたとされるワシらに与えられた、ワシらだけの力。それを使うことは魔物の力を活性化することにはつながらぬ」

「ありがたいことに、アビリティやスキルの危険性を誰よりも懸念しているのは魔線組の棟梁の源一郎さんなんです。源一郎さんは表面上は両者をたしなめているけど、本当はどちらにも否定的らしく、アオさんのオリジンに興味を持ったみたいなんです」


 イゾウはもう一度頭を下げた。


「だから、頼む。街の連中で臨む者にオリジンを授けてやってくれ。このままではあいつらは、生きるために魔物の力を利用し続けることになる。それが続けば、どうなることか。もしかしたら完全に魔物に乗っ取られることにもなりかねんのだ」

「が、がう!」


 アオはイゾウをたしなめると、力強くうなずいた。


「ま、しょうがねえやな。アビリティやスキルが魔物の力を利用するんなら使い続けるとやべえのは納得できる話だ。ん? それで使い続けるとどうなるんだ?」

「わからん。嫉妬の連中は何か知っているようだが、頑として教えてくれなんだ。奴らにとっても攻略をやめてしまうような情報は伏せておきたいのかもしれんからな」


 イゾウはどこかほっとしたようだった。


「向こうにも準備があるから、決行は1週間後くらいだろう。希望する人を集め、日程を決めるにはそれくらいの時間が必要だと思う。その時はすまぬが、お主の力を貸してほしい」

「がう! がう!」


 アオは自分の胸を叩いた。大恩あるイゾウにイゾウに頼まれたのだ。ここで奮起しなければどうする、とアオは思うのだ。


 みんなにほっとしたような空気が流れていた。街の人たちは心配だけど、できることなんてない。そう思っていたところだったから。オリジンを覚えさせれば、少しはみんなも安心できるのではないだろうか。


「順調に見えた魔線組も騒動の火種があるってことね。ところで、正同命会はどうなってるの? 一応古巣だから気になるんだけど」

「正同命会の連中は、塔の攻略にかなりの力を割いているようですね。強力な連中のほとんどが第4階層の攻略に乗り出しているそうですが、一部を除いてあんまり進んでいないらしいんですよね。まあ一部はガンガン進んでいるそうなんですけど」


 少し意外だった。街やスラムの住民からの評価を下げた正同命会だが、第3階層を初攻略したという実績がある。その勢いで第4階層も攻略を進めていると思ったが、どうやらそうではないらしい。


「イゾウさんとコロさんがいないことが影響しています。お二人は攻略情報をすべて回してくれましたし。魔物の特徴とか弱点とか、やばい攻撃とかそう言った情報は攻略には欠かせなかったんですよね。俺たちもあれにはお世話になりました」

「そうか。初めての階層にいくってことは、初めて目にする魔物も多いってことだな。つまり奴らは攻略を進められず四苦八苦しているわけだ」


 イゾウたちは魔物の生態や罠の有無、MAPで気づいたことなどすべての情報をオープンにしていた。その情報がなくなったせいで順調だった攻略もうまくいかないことが多くなったそうだ。


「イゾウさんたちが初攻略しなっかった影響は大きいですよ。攻略組も魔線組も正同命会もけが人続出らしいですし。イゾウさんが街に戻ったら安心した人も多かったです。中には『なんで攻略しないんだ』と詰め寄る人なんかもいて」


 一通りぼやきが始まってしまった。街に行った人たちはそれでかなり嫌な思いをしたらしい。


「それで、リクが作り出した魔物はどこにおる? ワシも少し、話をしてみたい」

「今はアキラ君とアシェリが見張っています。イゾウさんも見てみますか?」


 イゾウたちが行くとなるとアオも話を聞いてみたかった。だけど、立ち上がろうとしたアオをイゾウが手で制した。


「すまぬ。まずはその魔物とすこしだけ話をさせてくれ。かといって、一人きりで話すのは良くないかもしれぬの。ケイ。すまぬが案内を頼めるか?」

「え? 私ですか? それは構いませんが・・・」


 イゾウは立ち上がると、静かにアオたち一人一人を見ていった。


「お前たちは、積もる話もあるだろう。いろいろ買ってきたぞ。ユートたちはワシが気づかぬことにも気を配っていたようだしな。今日は、ゆっくり休むとしよう。ワシも、久しぶりにコロの料理を口にしたいからの」

「は、はい。それはもちろんですけど・・・」


 コロの言うことを聞いてかいないのか。イゾウは言うや否や、ケイを伴って地下へと降りていった。

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