第63話 オリジンの成功
「えっと、これをこうしてああすれば・・・」
「相変わらず真面目だねぇ。イゾウさんがいないときくらいゆっくりすればいいのに」
考え込むリクを、アキラはあきれたように見つめていた。
イゾウたちは買い出しで街へと向かっていった。残ったアオたちは修行を続けていたのだけど・・・。意外なことに、アキラとリクはここに残った。ユートパーティーが全員参加とはいかず、修行することを選択したのだ。
「そう言うアキラも結構真面目じゃん。さっきまで必死で魔力操作を練習してたみたいだし」
「ま、最低限ってやつさ。街に行った連中って、結構順調なんだよね。ユートは言うに及ばず、ヤマジは火魔法をうまく再現している。エイタはオリジンで障壁を作れるようになったし、タクミの身体強化もすごい。あいつ、回復のスキルまで再現できるようになったからな。俺はあんまりうまくいってないから焦ってるんだよね」
そうはいうが、アキラに焦った様子は感じられない。どこか飄々としていて修行も力を抜いている気がする。
「がお?」
「ん? ああ、俺の障壁? 自分に張るのは結構簡単だけど、他人に張るのはちょっと難しくてね。どうすっかな。アキミさんみたいにスマホを使うのも面白いよな」
なんだかんだで真面目に考えているアキラだった。
「それにしてもサトシも頑張てんじゃん? 身体強化を鍛えているんだっけ?」
「俺はそこまで器用なタイプじゃないからね。まずは槍スキルの『一閃』をオリジンで再現できるようにして、そこから他の技を学ぼうかなと。植草先生の技とスキルはかなり食い違うところがあるから、結構難しいんだよな」
サトシが槍を振りながら答えた。
器用なタイプじゃないと聞いて、思わずアイカを盗み見た。サトシが器用なタイプじゃないといったのは、おそらくアイカを見ての感想だろう。アイカは身体強化を実現しながらオリジンで水魔法を模倣しているのだ。器用に2種類のオリジンを扱う彼女は、もしかしたらシュウたちが使おうとする生物の模倣も成し遂げてしまうかもしれない。
「あれ? なんかいい感じかも?」
不意にそんな声が聞こえてきた。驚いてそちらを見ると、リクの両手の間に、猿が顔を傾けて現れたのだ。
「ま、まじかよ? すげえな! 成功じゃねえか!」
「へ? ああ。ホントにできた! やった!!」
思わずガッツポーズをとるリクを、微笑ましく見つめてしまう。猿は動かないようだが、首をかしげるその様子はちょっと愛らしい。
「すげえな。でもなんで猿?」
「じいちゃん家で昔猿を飼ってたんだ。結構かわいくて、よく遊んでたんだ。だからそれを再現できないかなって。じいちゃん家の近所ではアヒルを飼っていたからそれも作れるようになりたいんだよね。ま、これをどう戦闘に生かすかは考えなきゃいけないけど」
リクは説明しながらも、猿から目を離さない。
「ああ。やっぱりそんな感じだよな。いや俺もよ。昔カラスのヒナを保護したことがあってな。まあ飼えないからすぐに逃がすことになったけどよ。動物を作れるって聞いて真っ先に思い出したんだよなぁ」
感慨深げに語っていると、アシェリとケイもこっちの様子に気づいたようだ。
「え? リクくんすごいじゃん! 本当に動物を作ることができたんだね」
「ええ。イゾウさんやアオくんができると言ってたからたぶん大丈夫だと思ってたけど、やっぱり目にすると感動するね」
「いや自分でもびっくりでした。あ、あの人形とかもすげえ参考になりましたよ。へへっ。本当にできるんだなぁ」
2人にも褒められて照れたように頭を掻くリクだった。ちなみに人形とはケイがオリジンで作ったもので、動物を作ろうとするみんなが参考にしているようだった。
でも、そんな喜びは長くは続かなかった。
「え? あ、あああ!」
「あー。なんか透明になって・・・。消えちゃった」
残念そうにリクが言ったその通りだった。リクが作り出した猿は、たった数秒で消えてしまった。
「えっと。しょうがないよね。アオくんが初めてトンボを見た時もすぐに消えてしまったそうだし」
「でも、ちょっとコツを掴めたかも。ちゃんとすれば、俺でもオリジンを構築できるのは朗報ですよ!」
「ちきしょう。いいなぁ。俺も負けてらんねえぜ! 俺もカラスを作れるようになってやるからな!」
「私も! 見てなさい! 何処かの魔法使いみたいに白いハトを出してあげるから!」
リクの成功を見て、2人はやる気を出したようだ。自分のオリジンを作るべく、集中して取り組み始めた。
「がう・・・」
しかし、アオは不安だった。あの猿が消える瞬間、笑ったような気がしたのだ。それはなぜか邪悪で、見逃せないものを見たように感じていた。
「なんかやる気でてきた! アオ! こっちも修行しようぜ。ちょっと立ち合いで魔を使ってみたいんだ」
「がう」
サトシの依頼に返事をしながら、それでもリクの猿から目を離せない。リクはやる気を出したのか、また猿を作り出そうと奮闘している。その行為が、アオにはなぜか不吉なものに思えたのだった。




