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第55話 拠点へ向けて

「どういうこったよ! 街に魔物が現れたのは確かに異常事態だったが、それと俺は関係ないはずだろう!」


 シュウは困惑顔だ。息も絶え絶えとなったユートたちを介抱しているが、アオにも正直何がなんやらわからない。


「街に魔物を呼んだのはシュウさんだって、生同盟会の奴らが認めたんです。昨日、混乱があったときにシュウさんが街にいるのを多くの人が目にしていて、シュウさんが珍しく街に来ていたのは、魔物を呼び出すためだって」


 荒い息を吐きながらヤマジが説明してくれた。


「何を馬鹿なことを・・・。俺、なんか怪しい行動をしてたか? いきなり犯人扱いなんて馬鹿なこと、ありえねえだろう?」

「こ、根拠は、アオさんです」


 リクが顔を青くしながら答えてくれた。この事態をまずいと思っているのか、顔色が悪い。不安そうに汗をかきながら、それでもきちんと説明してくれた。


「シュウさんは、アオさんと一緒に行動していましたよね? アオさんは顔が知られていないから、こんな噂が流れてたんです。もしかしたらシュウさんは、ティムスキルを身に着けて魔物のアオさんを使役しているんじゃないかって」

「ティムって・・・。魔物を操るっていうあれか? てか、そんなのを実現した探索者なんていなかったはずだよな?」


 ヤマジがこくりと頷いた。


「アオさんのこと、一部じゃうわさになっていたんだ。スマホで撮影するとアンノウンって表示される新種の魔物が現れたって。だから、アオさんを引き連れているシュウさんが疑われているんです」

「いやいや。無理があるだろう? 俺たちが魔物なんてよ。確かに、アオを撮影したらアンノウンって表示になるが」


 シュウは渋い顔になっている。


「ええ。僕も無理がある話だと思うし、実際にアオさんと接したことがあるからそれがうわさに過ぎないとはわかります。でも厄介なことに、それに賛同する人がいろんな方面から現れちゃったんです。正同命会だけでなく、中立派や魔線組からもね」

「中立派? !! そうか! ゼンのやろうか! ウスハも賛同しそうなことだよな!」


 シュウには思い当たることがあるようだった。アオもゼンと言う名前に聞き覚えがあった。それはもしかしたら、シュウの元パーティーメンバーの名前ではないだろうか。


「え? それって魔線組からも賛同者が出てるってことだよね? おかしくない? あたしたちの仲間にそんなうわさを信じる人なんていないでしょう!」

「いるでしょう? 私たちのすぐそばに。あいつ、随分とアオさんたちや第1形態の人たちを嫌っているみたいだったから」


 サナが虚空を睨みながら吐き捨てた。整った顔立ちをしていることもあり、こういう時のサナは本当に怖い。怒りの矛先は自分ではないはずなのに、アオは悪寒を止めることができなかった。


「レンジさん、ですね。アオさんが街に入れなかったこと、随分怪しんでいたようですし。あいつを支持する奴は魔線組の上のほうにも何人かいる」

「あいつは考えなしに物事を言うところがあるからね。今は魔線組の中心の一人だし、発言力の重みが違う。言い捨てた言葉を信じる人が格段に増えているのよ」


 サトシはうなずくと、何かに気づいてスマホの画面を確認した。そして厳しい目でサナを見つめた。


「オミさんからの指示です。シュウさんとアオさんを見つけたら、すぐに隠れるようにと。俺たちもほとぼりが冷めるまで身を隠すようにとのことです」

「オミさんからそんな指示があるなんて、本格的にやばいってことじゃない!」


 アキミが顔を青ざめさせた。オミがそう言う判断をしたということは、シュウの冤罪は簡単には晴らせないということかもしれない。


「シュウさんの評判、うちでもそんなに悪くないはずだったのに。でもそう言うことにして、正同命会のパーティーを動きやすくしているのかもしれない。もしかしたら正同命会の狙いは、ケイを捕らえることだったり」

「・・・。そうですね。私がシュウさんと行動しているのは大勢に目撃されていますから」


 アシェリとケイもそんな話をしていた。


 それぞれが深刻な話をしている中、一向に笑い声が響いた。


「くくくくく。シュウがお尋ね者とはな。人相的にはそう言われてもおかしくはないのではないか?」

「爺さん! 笑い事じゃねえんだって! 俺、冤罪を掛けられてんだからよ!」


 抗議されても、イゾウは心底楽しそうに笑ったままだった。


「よいではないか。お主が街に魔物を呼んだというのは無理がある。今信じられているのはいまだ正確な情報が出回っておらんからよ。時が経てばそんな与太話は立ち消えるわ。お主のうわさは、悪いものばかりではないからの」

「そうですよね。僕の周りでは結構評判がいいんですよ。シュウさんのこと。なにしろ中立派とも魔線組とも正同命会とも、大体の勢力で仕事してくれてましたからね。今を乗り切れば、冤罪だと気づく人もふえていくはずです」


 イゾウとコロが擁護するが、シュウは上目づかいでいぶかし気に睨むだけだった。


「爺さん。マジで他人事だな」

「ふふん。だが、事実だろう? うわさに対して我らができることはない。まあ、ワシらはしばらくひきこもる予定だし、それが長引くだけのことだ。食糧は十分に買い込んだのだろう? あまり心配することもないと思うぞ」


 イゾウの言葉におどろいたのはユートたちだった。サトシも目を丸くしている。


「先生は、修行されるのですか? それはどういう? 第3階層の魔物を狩ったり第4階層を目指したりするのではないのすか?」

「魔物と戦う前段階だな。この先、生き残るにはもっと技を磨かねばならぬ。魔物と戦うだけでなく、地道な修行をして力をつけるべきだと考えた。なので、攻略は一休みだ。幸か不幸か、正同命会の連中が頑張っているようだし、無理に攻略を進めんでもよいだろう」


 そう言うと、イゾウはにやりと笑った。


「どういうわけか、この体は技の浸透具合が日本の体より優れておる。だが、すべての技を日本と同様に使えるわけではない。使いたい技を鍛えるのは実戦では限りがある。やはり修行して、技を体に染み込ませねばならんと考えたのよ」

「やっぱり地道な訓練は必要と言うわけですね」


 イゾウはアオに改めて真剣な目を向けてきた。


「アオよ。お主は言うたな。自分もワシから技術を学びたいと。そのことに否応はない。ワシが知る技術なら喜んで教えよう。だが、いかにワシが力を尽くそうとも限度がある。お前と、ともに歩もうとする者の意志無くして、それはなしえない」

「が、がう」


 真剣な目を向けられて、アオは思わず姿勢を正した。


「そこで、提案がある。アオよ。ここにいる面子を、お前のアパートに招待してもよいだろうか。あそこでしばらく腰を据えて修行をするのだ。アビリティやスキルなしで強くなるにはしっかりとした技術を身につけねばならぬ。あそこならば、そう言う修行をすることも可能だと思うての」


 アオはごくりとつばを飲んだ。


 あのアパートに招待するということは、アオの秘密の隠れ家を知られてしまうということだ。多くの人に知られた隠れ家は、その意味をなくしてしまうといえるかもしれない。


 でも――。


「がう! がうがうがう!」

「む! すまんな。ワシにはお主が何を言っているかわからぬ」

「アオはね。強くなるために必要なら、隠れ家をなくすことくらい、なんの問題もないって言ってるよ。まあ、ちょっと面白そうだよね。なんか、部活の合宿みたいでワクワクする!」


 アキミが嬉しそうに言うと、イゾウも苦笑したようだった。


「えっと・・・。急な話でちょっと混乱していますが、シュウさんたちの隠れ家に行かせてもらえるということですか?」

「ああ。急な話で悪いが、今から時間はあるか。問題がないのならぜひお前たちにも参加してほしいが」


 ユートたちは顔を見合わせた。そして何事かを相談すると、全員がイゾウとアオに向かって頭を下げた。リクだけは顔を青くしていたが、他の5人は顔を引き締めている。


「お願いします。僕らは失敗ばかりしていますが、それでも強くなりたいという意思はあるつもりです。少なくともこの世界を見て回れるくらいに」

「うむ。承った。で、魔線組のお前たちはどうする?」


 イゾウがサナとサトシに問うと、サナは余裕の笑みを浮かべ、サトシは神妙な顔で一礼した。


「私の任務はシュウさんとアオを守ること。なら、あなたたちについていかない選択肢はないわ。前にアキミの報告を断った手前、気まずいことこの上ないけどね」

「植草先生の合宿は日本ではすごく人気だったんですよ。それを受けられるのは幸運ですよね」


 一方で、ためらいを見せたのが新人の3人だった。


「えっと、その隠れ家ってどこにあるんですか? あの、私たち、まだ第1階層にしか行ったことがなくて」

「修行には興味がありますが、僕らにはそこに行く許可がないというか・・・。ミナトたちほど強くないですし」

「せっかく強くなれるチャンスだけど」


 アオの拠点はあの袋小路から入る。第2階層に行けない彼らには、足を運ぶことができないかもしれない。


「お主らは3人組だな。ならば、ワシとアオと、サトシでいいか。6人でオーガを倒してしまおう。たしか、一度クリアした者でもボスに挑むことはできたはずだな?」

「え、ええ。でも、敵が相当に強くなるはずですよ?」


 アシェリが心配そうに言うが、イゾウはそっと首を振った。


「強くなるならそれは好都合だ。オリジンを使えばどれだけ強くなるかを示すことができるからの。アオ。短い期間だがワシの技術を試すまたとないチャンスだ。サトシは守り手としての働きを期待している。他の3人をケガさせないように十分に気を付けるのだぞ」

「が、がう!」

「は、はい!」


 アオとサトシは同時に返事を返した。


 お互いをちらりと見る。


 アオとサトシ、一緒に戦うのは久しぶりだった。人間だったころのアオと今のサトシは年も同じくらいで、体型もよく似ていた。偏差値とかはたぶんサトシのほうが相当に上だろうけど、実はちょっと気になる相手だった。


 イゾウはうなずくと、3人の新人たちの顔を見回した。


「お前たちからボスと戦う機会を奪う形となるが、その代償を払う価値は十二分にあるはずだ。ワシらの戦い方をよく見ておくとよい。そして考えるのだ。自分たちに、どのようなオリジンが必要かをな」


 にやりと笑うイゾウに、背筋を伸ばす新人たち。アオには3人のつばを飲み込む音が聞こえたような気がした。

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