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第46話 翌日の朝

 目を開けたら見知らぬ部屋だった。


 寝ぼけ眼をこすりながら、ぼりぼりと体を掻いた。やはりベッドで寝るのは最高だった。久しぶりの日本人らしい睡眠に、アオは元気よく背伸びをしてしまう。


 昨日の戦いと見た夢を思い出していると、身支度を整えていたコロと目が合った。


「アオさん。まだ寝ててもいいのに。僕は朝の支度もあるからあれですけど、昨日は大活躍だったじゃないですか。先生やシュウさんもまだ寝てますし」


 コロに頷くと、そっと他のベッドに目を向けた。


 布団を蹴飛ばしていびきをかいているシュウに、静かな寝息のイゾウ。油断しきったように眠っている彼らに、思わず笑みがこぼれてしまう。


 イゾウの宣言通り、昨夜は4号室にみんなで泊まった。2つある部屋には簡易的なベッドもあって、5人もいるのに全員がゆっくりと休めたのだ。


 アオに一礼していそいそと出ていくコロ。朝食の準備があるらしく出ていく姿に頭が下がる思いがした。手伝おうとしても断られるし、何かこだわりがあるのだろう。その分だけ、味には期待できるのだけど。


 アオも何となくリビングに行くと、コロがキッチンで作業し始めたところだった。キッチンは3人ほどが作業できるだけの十分な広さがあった。


「しかしこの部屋はやっぱり便利ですね。電気だけでなく水道も通っているなんて。スマホでぽんと決済できるし。今までは水汲みとか結構苦労したんですよ」

「がう」


 そう。驚いたことにこの部屋では蛇口をひねれば水が出てくるのだ。キッチンだけでなくトイレやお風呂も使えて、アキミなんてかなり長時間お風呂に籠っていたくらいだ。


「・・・。おお、そうか。ワシらはダンジョンの中で泊ったのだったな。すっかり眠ってしまったわい」


 次に顔を出したのはイゾウだった。鞘にしまわれた刀を抱きしめたまま、アオに微笑みかけた。


「おはよう。アオ。昨日はぐっすりだったな。シュウがいびきをかき始めた時はどうなるかと思ったが、気が付いたらワシも寝入ってしまったわい」

「がう」


 おはようの意味を込めて吠えたが、イゾウには伝わったようだ。微笑んで頷くと、静かにアオに語り掛けた。


「よく眠れたな。お前は久しぶりに休めたのではないか」

「がう! がうがう!」


 本当に久しぶりだった。何しろこれまではキャンプ暮らしだったのだから。シュウが用意してくれた寝袋は丈夫なものだったけど、それでもちゃんとした寝床で休むのはやっぱり回復度が違う。

 

 イゾウはスマホを確認した。そして顔をしかめて溜息を吐いた。


「もうこんな時間か。昨夜は寝ずの番をしたいと思うておったのに、意外と疲れていたようだ。年を取ったときの癖が抜けておらんのかもな。それとも・・・」

「がう。がう?」


 イゾウの問いに、なんとなく生返事をする。久々にゆっくり眠れた製で頭がぼんやりとする。ごまかすように頭を掻いたアオに、静かな声が掛けられた。


「なあ。昨日考えてみたのだが」

「おわっ! ここはどこだっ! って、そうか俺たちはアパートに泊まったんだった!」


 隣の部屋からシュウの大声が聞こえてきた。それに伴って女子部屋からも何か物音がしたのは気のせいだろうか。


 イゾウは苦笑しながら扉のほうを見た。


「なんでもない。ワシらはコロの邪魔をせんようにしないとのぅ。お嬢ちゃんも目覚めたようだしな」



◆◆◆◆



「うおおおお! 和食だ~~~! こんなおいしい朝食にありつけるなんて!」


 がっついているのは案の定アキミだった。シュウやアオにも負けないくらいの大食いを披露している。コロはなんだかうれしそうだ。


「魔線組にいたころは朝食にありつけなんだか?」

「えっとね。前のパーティでは当番制だったんだ。オミさんの時なんて本当に適当に済ましてたからさ。サトシもなんだか味気ないし、レンジさんはなんだかんだでサトシやテツオに押し付けてた。テツオは論外。で、サナ姉の時だけおいしいものが食べられたんだけど」


 自分のことは一切言わないのが彼女らしい。


「おお。サナさんはお料理もできるんですね」

「それよりも、ちょっといいか」


 コロの言葉を遮ったのはイゾウだった。コロは目を丸くして驚いていた。


「コロ。すまんな。今後のことを少し話しておきたくてな」

「いえ先生。どうしたんです?」


 姿勢を正したコロに軽く頭を下げながらイゾウが話してくれた。


「お主らはこれからどうするつもりだ? 第3階層を目指すのか?」

「え、その・・・」


 アキミがちらりとシュウに視線を向けた。シュウはアオを覗くと、代わりに説明してくれた。


「これはアキミにも話そうかと思ったが、ちょうどいいか。俺は、しばらく訓練につぎ込みたいと思っている。この拠点も手に入れたことだしな。連携もうまくできるようになりたいし、あの棒もうまく使えるようになりたいからよ。まあ、もう第3階層まで到達しているアキミには悪いけどよ」

「え? あ、いいよ。あたしも、あの銃の使い方を調べなきゃなんないし。アオともいろいろ話をしておきたいしね」


 どこかほっとしたようなアキミだった。


 宝箱から手に入れたはずの銃は、アキミが使うことになった。マガジンのないあの銃は、驚いたことに魔法を打ち出せる仕組みになっているらしい。原理はよく分からないけど、どうやらアキミはあの銃を使えるようになりたいらしかった。


「爺さんたちは、やっぱり第4階層を目指すのか?」

「いや、お前たちには悪いが、しばらくワシらもここで修行させてもらえないかと思うてな。無論、お前やコロが頷いてくれればの話だが」

「い、いえ! 僕は構いませんけど? てっきり先生は第4階層を目指すのだと思っていました」


 ちらりとシュウを見るコロだったが、イゾウは改めて説明してくれた。


「いやの。ワシもまだまだだと思ってな。今まで以上に魔力を使いこなさねばこの先は苦しいだろう」

「なんだよ。爺さんはシュテンも簡単に倒しちまったじゃねえか。あいつをなんとかできるんだから、第3階層のボスも楽勝なんじゃねえか?」


 困惑したようなシュウに対し、イゾウの目はどこまでも真剣だった。


「簡単ではない。かなり限界だったよ。あの戦いは。どちらが倒れてもおかしくはなかった」


 そう回想するイゾウに絶句してしまう。傍から見ていたらイゾウはシュテンを圧倒してしまったと思ったがそうではないのか。


「それにアオを見て思ったのよ。前の戦いのとき、お前は暴走してLに向かっていったな。あの時、修行の必要性を実感したのだ」

「が、がう?」


 暴走したときのことを言われて、アオはあからさまに動揺した。まさかイゾウは、アオの危険性を感じて修行の必要性を実感したとでもいうのか。


「じ、爺さん! アオは好きで暴走したんじゃねえ! 本人も暴走しないように気を付けている! だから」

「素晴らしかった」


 シュウの言葉を遮って、イゾウが意外なことを言い出した。


「へ? 何を言い出すんだ?」

「素晴らしかった、と言っておる。体の身のこなしも、攻撃に入るその連携も、魔力の纏い方すべてにおいても。あの時のお主は達人と言っていい。目に焼き付いたぞ。お前がLを攻撃する、そのすべてがまさにワシの理想と言うべきものだった」


 予想外の言葉に、アオは目を瞬かせてしまう。


「あの戦いぶりを見て、ワシがどのように魔力を扱えばいいかが見えたように思えたのだ。実戦で試す前に、とりあえずは修行だ。意識せずともあの動きができるように、今はいろいろ試したい」

「お、おおう。おう?」


 シュウも困惑しているようだった。アオの中であの少女が笑ったように思った。


「えっと・・・。その」

「なあ! ワシらに機会をくれ! この場で修行したいのだ! ついでにシュウに棒の使い方を教えるから! 頼む!」


 頭まで下げられて困惑してしまう。シュウのことをついでだと言われたのはちょっとあれだったが、イゾウが修行したいのは本気みたいだった。


「が、がう」

「ん? なんだ?」


 アオは慌てて周りを見渡した。アキミがすぐに気づいて、ノートとペンを渡してくれた。一礼して書き込み、文字を記した。


「ん? なんだ? 『知っていることは教えます。でもよかったら素手での戦い方を教えてください』? そうか! お主も修行の必要性を見出しておったのか!」

「がう!」


 神妙な顔をして頷くアオに、笑いだすイゾウ。いきなり理解しあった2人を、シュウやコロが呆然と見つめていた。


「よし! ではさっそく!」

「ま、待ってください!」


 意気込むイゾウを止めたのは、意外なことにコロだった。


「む。コロ。何かあるか?」

「え、ええ。修行することには異存はないんです。僕も、アビリティを使わない戦い方を開発したいし。この剣の使い方を試したいんです。けど、しばらくここに滞在するとなると、その、食糧が心もとなくて」


 申し訳なさそうに言うコロ。彼を援護するようにアキミも同意した。


「はーい。あたしも一度街に行きたい! ここに泊まるなら必要なものを一度買い足したいし。お風呂まで入れるなら、いろいろ必要だと思うんだよね。一度オミさんたちにも話しておきたいし」


 パーティを追い出されそうだといった彼女はもうどこにもいない。あくまで前向きに話してくれたアキミに少しだけ安心しつつ、アオはイゾウの顔色を探った。


「そうだな。拠点を手に入れれば生活スタイルも変わる。一度街で必要なものを揃えることも大事か」


 そう言うと、イゾウはにやりと笑って一人一人の顔を見つめた。


「ではこうしようか。ここで落ち着いたら、ワシらは一度街に戻る。それから正式にこちらで修行を続けることにしよう。お嬢ちゃんもよいな!」

「おおー! 燃えてきたー!!」


 当然のごとくやる気を出すアキミに、思わず笑みが浮かぶのだった。

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