第39話 大興奮のイゾウとアキミの能力
「またあそこにいくの? あたしはあんまり気が乗らないなぁ。聖川先生が通りかからなかったらマジやばかったんだから」
もう一度あのアパートに行きたいアオたちに対し、やはりアキミは気が乗らないだ。アオはもう少しであそこで命を落とすかもしれなかったのだから、その意見も仕方のないことかもしれないけど。
「がう!」
「ええー。まあ、あたしもお宝ってやつには興味があるけど」
やる気のアオたちにしぶしぶ頷くアキミだった。
あれは、もしかしたらナイフだったと思う。他にも何かが見えた。特殊な武器ならシュウも使えるし、オリジンを鍛えるのに役立つかもしれない。
「この大剣を扱うときの魔力、どうやらオリジンの者を使っているようなんです。シユウさんはうまく魔力を練れないと言っていましたよね? でも魔道具に魔力を注ぐことでオリジンを鍛えられるかもしれない」
「と、まあこんな感じでな。大将の勧めもあってぜひ俺用の魔道具は回収しておきたいんだよ。というわけで、あの宝の中身だけは回収したいのさ」
あの宝を回収することはシュウにとって既定路線らしかった。
「がう! がうがう!」
「まあ、夢の女の子の話が本当なら今行けば取れそうだけどね。確かにお宝とかワクワクするけど、それで命を取られたら目も当てられないじゃない!」
アキミはあくまで反対のようだった。
「なにをいう! 隠し部屋だぞ! こんなにロマンがある話はないではないか!」
「ええー? イゾウさんって、もっと大人なイメージがあったんだけど」
アキミが若干引き気味に言ったが、イゾウは意に介さない。
「すみません。先生はいつもこんな感じです。じゃなかったら、いい年なのに画像をアップするわけがないでしょう?」
「あ・・・。そっか。イゾウさんの試合動画、結構有名だもんね。あたしの同級生にもファンがいるよ」
言葉とは反対に、あきらめ気味に肩を落としたアキミだった。
「一回アキミにあそこをみてほしいのは本当なんだ。あそこだけなんか雰囲気が違ったからよ。なんか塔にあって塔出ない場所のような・・・。あんまりうまく言えねえけどよ」
「が、がう! がうがう!」
アオも思わずシュウに加勢した。案の定アキミは、興味深そうにアオの話を聞いてくれた。
「そっか。アオたちが逃げられたのはシュウさんのアビリティがあったからか。あれ、すごいらしいよね。どんな場所でも一瞬にして移動できるらしいじゃない?」
「脚が馬の蹄に変わっちまうのは慣れないけどな。その分だけ効果はすげえもんさ。戦闘にはあんまり活用できないからあれだけどよ」
あれはすごかったと、アオは思い出していた。みるみる景色が変わっていて、まるでバイクに乗っているようだった。その分だけ、嫌な気配は止まらなかったけど。
姦しく話すアオたちを目を丸くして見ていたのはコロだった。
「ん? 大将? どした?」
「い、いえ・・・。その・・・。アキミさん。本当にアオさんの言葉が分かるんですね」
何かと言えばそのことだった。アオにとっては当たり前の後継だけど、確かにコロにしたら珍しいことかもしれない。
「え? えっと、これはその」
「まあいいではないか。それよりも隠し部屋ぞ? もしかしたらワシが見落としていた部屋がまだあるかもしれん。これは再調査の必要があるの」
「そうですね。まあ、僕らには見つけることもできないかもしれませんが。でもあると思って探すのと、どうせないだろうと探すのでは結果は違ってくると思いますよ」
コロが頭を掻くと、シュウもしょうがなしにと笑った。
「ごめんなさい。ちょっと気味悪かったかな。まるで人の心を読んだかのようだよね。あたし」
アキミらしくない心細そうな声に、優しく話しかけたのはコロだった。
「いえいえ。とんでもない。アオさんも助かっているみたいだし、気にすることはありませんよ。アキミさんにはそう言うところがある。みんな、それでいいと思ってます。少なくともここには、アキミさんを気味悪いだなんて思う人はいませんよ」
「まあ、アキミがアオの言葉を翻訳してくれて助かってるよ。いつもありがとな。ついでに俺のフォローももっとしてくれると助かる!」
シュウがおどけて言うと、「いや無理だし」と即座に断るアキミ。その声はどこかほっとしたようにアオには感じられた。
「まあ、ここには嬢ちゃんのことを悪く思うヤツはおらんの。それよりも隠し部屋だ! やはり誰も見つけていない場所に行くのは興奮するの!」
「いやオレとアオは行ったことがあるんだが。まったくこの爺さんはよ」
あきれたようなシュウの言葉に、あたりは笑いに包まれたのだった。
◆◆◆◆
「はっ! 甘いわ!」
襲い掛かってきたゾンビが一瞬にして粒子に変わる。イゾウの剣で簡単に両断されたのだ。
いつも以上に襲撃を受けたにもかかわらず、こちらは無傷だった。敵が出るたびにイゾウがあっという間に倒してしまったのだ。それも、出合頭の一撃で、すべてを。アオもシュウもアキミも、出番などない。アオたちが行動する前にイゾウがすべてを切り捨てていた。
「さすがんだな。ここまで出番がないとは思わなかったよ」
「が、がう」
やはりイゾウは圧倒的だった。あまりの強さにアオも唖然としていまう。もしもアオたち3人だけなら、ここまで簡単に進むことはできなかったと思う。
「いいのう。まさかこれほどの数の魔物と死合えるとは! いやあ、愉快愉快! しかも隠し部屋にまで行けるとは!」
「ついていく僕は平生ではいられないですけどね。先生、本当に強引なんだから」
つぶやくと同時に、コロは声を潜めてアキミに話しかけた。
「サナさんはお元気ですか? ちょっと相談したいことがあるんですけど」
「え? サナ姉? う~ん。今はオリジンの構築に夢中で、よくわかんないなぁ」
アキミが首を傾げた。
「サナさんは魔線組でも指折りのアビリティの使い手と聞きまして。土魔法に憑いて聞いてみたいんですけど。メッセージ、交換しておけばよかったなぁ」
「サナ姉、無駄に詳しいからね。自分は氷魔法しか使えないのに、魔法のことならなんでも知ってるイメージがあるよね」
コロは背中の大剣を引き抜いた。
「実はこれ、かなりの土魔法を使える魔道具らしいんですよ。これの使い方について相談したかったのですが」
大剣を見つめながらコロはさらに言葉を続けていく。
「僕は先生みたいにうまくオリジンを使えないんですけど、これの使い方は多少分かってきました。魔道具に魔力を通すのも効率的になってきたようで、今では戦闘の要所要所で相手を石化できるようになってきたんです。さらにうまく使うために、サナさんにご助言いただきたいんですよね」
「ああ。そう言うことね。うん。それならあたしからもサナ姉に聞いてみるよ」
なんだかあからさまにほっとしたアキミだった。その様子をシュウが苦笑しながら見ていた。
「もしかしたら大将がサナに言い寄っているように思ったかもしんねえな。大将、あれでいて日本にいたころはすっげえモテてたからな。腕はすげえし頭も切れる。男っぷりもよくて独身だったから、女がほおっておかないのなんのって・・・。俺に少し分けてほしかったぜ」
勝手なことを言うシュウを尻目に、あの行き止まりにたどり着いた。
「ここだろう? なあ? ここに隠し通路があるんだろう? うむむ。全然分からんの」
「爺さん! 興奮しすぎだろ! 血圧が上がんぞ! ったく、本当に落ち着きがねえな。誰が年上かわかりゃしねえ」
うんざりしたように言うシュウは、アキミに合図を送る。心得たもで、アキミは通路の壁を調べ出した。
「えっと、ここがこうなってこうだから・・・」
アキミが壁を調べている。どうやっているのかは全然わからないけど、どうやらアキミは本当にファンタジー世界の盗賊みたいなことができるらしい。アオの言葉が分かることといい、彼女には何かの能力が備わっていると言って間違いない。
しばらく周りを触っていたアキミは、地面を見ながら少しずつ移動していく。そして行き止まりのちょうど真ん中に到達したとき、とびっきりの笑顔でみんなの顔を見回した。
「よし! 準備できた! みんな、いい?」
「おお! いつでもよいぞ!すぐに案内せい!」
アキミの発破に、即座に応えるイゾウ。コロは苦笑していたが落ち着いていたが、シュウも慌てた様子だった。でもイゾウの言葉を全員の意志ととらえたのか、アキミが不敵な笑顔で地面の真ん中に腕を突っ込んだ。
「おわっ! なんだ?」
「行くよ! みんな! あんまりあたしから離れちゃだめだからね!」
アキミの言葉に、彼女のそばに慌てて駆け寄るシュウたち。イゾウだけは悠然とした足取りでアキミに近づいていた。
「せーえ、のう!」
アキミが思いっきり腕を引き抜くと、地面に魔法陣のような模様が現れた。描かれた文字のようなものが白く輝くと、上に向かってまばゆいばかりの光が沸き起こった。
「な、なんだ!? こんなの、前はなかったぞ!」
「ししし! 全員で移動できるように魔法陣をいじったんだよ! どうやったのか自分でも分かんないけどね!」
不敵に笑いだすアキミに文句を言う間もなく、魔法陣が発動した。そしてアオたちはまばゆいばかりの光に包まれてーー。
一瞬にして消えて行ってしまったのだった。




